みんなで色々話していたら、あっという間に時間は経って11:00。 修学旅行とかだったら、こっからが本番なんだろうけど、残念ながら今回は合同合宿。明日は朝から交流戦だし、早く寝ないと体のリズムが狂ってしまう。ただでさえ、スポーツマンにとって睡眠は大事だし、ここらへんでお開き、と言うことになった。 おやすみ〜、と言いながら、各自自分の部屋に帰っていく。 私も部屋に戻って、まずはベッドに飛び込んだ。 さっきはベッドに触れる前に、がっくんたちから呼び出しを頂いたからね、ベッドに触れるのは初なん、だけど……こ、これは……! …………ふ、ふかふか……!(感動) あまりのふかふか具合に感動して、思わず調子に乗ってゴロゴロしてみる。 ……つ、疲れた体を癒してくれるわ、このベッド……! ゴロゴロ状態を辞めて、しばらくぼやーっと倒れこんだ体勢でいたら、とろとろと眠気が。 まだお風呂入ってないから、寝ちゃだめだー、と思いつつも段々と意識がなくなっていき―――。 ……プルルルルルッ……。 意識が闇の中に消える間際、突然の電子音に、意識がハッと覚醒した。 慌てて、ガタガタとベッドサイドのテーブルに手を伸ばして受話器を取る。1回取り損ねて、ガコッ、と落っことしてしまった。 「は、はいっ!すみませんっ!」 『……落ち着け、』 「はいっ!……と、あれ……?景吾……?」 かけてきた相手が景吾だと知って、拍子抜けする。 電話越しに聞こえてくるのは、聞き慣れた声。 だけど、回線を通しているから、いつもとは違うように聞こえた。 『あぁ。…………寝てたか?悪い』 「ううん、大丈夫!お風呂入ってなかったから、助かった」 『まだ風呂入ってねェのか?1度シャワー浴びてんだし、体冷えるぜ。よくあったまっとけよ』 ………………合宿に来ても、景吾は心配性だ。 「うんー。……景吾は入ったの?」 『俺は岳人の部屋に行く前に入った。今は忍足の野郎がシャワー浴びに入ってるところだ。アイツがうるさくて仕方がねぇ』 「そんな……でも結局、景吾と侑士は仲いいじゃん」 『はぁ?お前、どこをどうみたらそう思えるんだよ……』 「だって、よく2人で話してるし」 『あれはだな……ッ……いや、いい。なんでもねぇ』 景吾が何かをいいかけて、途中で会話をやめてしまう。 少しの沈黙。 なんだかおかしくなって、ふ、と笑ってしまった。 『……?』 「ううん……なんか、不思議だなーって」 『何がだ?』 「……電話で会話してるから。こんなこと、あんまりないからさ」 『…………あぁ、そうだな』 「へへ。……あ、それじゃ私、そろそろお風呂入るね。景吾、起こしてくれてありがと」 『いや……あぁ、そうか』 ふと景吾が何かを思いついたような言葉を口にする。 「ん?……景吾、どうかした?」 『…………なんでもねぇ』 また『なんでもねぇ』。 でも、今回の『なんでもねぇ』は……、なんだかちょっと楽しそうな気がするのは……私の思い過ごし??? いつもなら、表情を見てるからわかるんだけど……こーゆー時は、電話だと不便だ。 『気にすんな、早く風呂入れ』 「……うん……じゃあ……」 『あぁ、じゃあな。すぐ風呂入れよ』 やたら『すぐ』を強調する景吾。 不思議に思ったけど―――結局聞き出すことはしないで、そのままカチャ、と受話器を置いた。 ベッドの上で少し考えるけど、景吾の思考は読めない、という結論に至り、そのまま着替えを持ってバスルームへ向かう。 バスルームもバスルームですごかった。ちゃんとシャワーと浴槽が別々になってるの!ホテルでこんなの、はじめて見た……! 感動しながら、置いてあったバスオイルを入れてみて、香りを楽しむ。この香りで、少し疲れが薄らいだ気がする。いや、もしかしたら本当に気のせいかもしれないけど……! とにかくすごかったので、誰もいないのに、1人で、「わー」とか「すごっ」とか言って、お風呂ではしゃいでしまった。本当にすごかったんだよ……! で。 上機嫌でお風呂から出て、ホコホコと湯気を立てながら、ベッドルームへ戻れば。 「よぉ、」 ベッドの上で当然のように待っている景吾さんがいらっしゃいました。 思わず、目が点になって、持っていたタオルを落とした。 「…………えっ、あれっ!?け、景吾―――!?」 景吾さんは本当に寝る前だったらしく、見慣れた黒パジャマにホテル備え付けのガウンを羽織っていた。 その景吾が、立ち上がってこちらに近寄ってくる。 「俺様以外の誰に見えるんだ?あーん?」 「えっ、やっ……えぇっ!?なんでここに……ッ」 「んなこた今はどーでもいい」 「ど、どーでもよくな……ッ……」 途中で反論の言葉が途切れたのは、もちろん。 …………跡部景吾様に、言葉の発信元を塞がれたからです……(泣) 何度かキスをされ―――やっぱりいつものように、クタクタになるところで景吾が止めてくれた。 はぁ…ッ……とお互いの吐息が漏れて、景吾がぎゅ、と腕の力を強くした。 「……ようやく、お前に触れられたぜ……」 コツン、とおでことおでこがぶつかり、また掠めるようなキスをされた。 思わず幸せな気持ちで誤魔化されそうになったけど―――問題は、そう簡単に誤魔化されてしまえるものではない。 再度キスをしてこようとした景吾から、出来る限り身を離して(それでもガッチリ体を拘束されていたから、軽くのけぞる程度だけれども)、目線を合わせる。 キスしようとしていたところを逃げてしまったので、景吾が少し不満そうに眉をひそめた。敢えてそれを見なかったことにして、なにか言われるより先にこちらが先に言う。ふふ、言ったモン勝ちよ……!(なんか違) 「……け、景吾……っ、それよりっ!なんで、ここにいるの……!?私、鍵掛け忘れてたなんてことないよね……!?」 っていうか、ここオートロックだし! わけがわからなくて、頭の中で?マークが飛び交う。 混乱する私を見て、不満そうに眉をひそめていた景吾が、一転してニヤリと笑った。 「……俺様は誰だ?」 「え…………あ、跡部景吾様…………?」 「そうだ。……それで?ここはどこだ?」 「ほ、ホテル……………ん?」 ちょっと待てよ……ここはホテル。 そう…………『跡部財閥経営』のホテルだ。 ニヤ、と景吾の笑みがますます深くなると共に……私の頭の中には、ありえない予想がぽん、と浮かんだ。 「……ま、まままま、まさか……!」 「……お前の考えてることで、おそらく当たりだ」 「あ、当たって欲しくないんですけど……も、もしかして……」 景吾がちゅ、ともう1度キスをしてきて―――耳元に口を寄せてきた。 低い声でつぶやいた言葉は。 「マスターキー」 「あぁぁぁ、やっぱりぃぃぃぃっ!!!」 なんてことを! たかがこの部屋に入るためだけに、マスターキー使うなんて! きっと、ホテルのオーナーとかに頼んだに違いないよ……!あぁぁ、オーナーさん、お手数お掛けして申し訳ありません……!(謝らずにはいられない性分) 「景吾ッ!マスターキーってのは、こーゆー使用目的じゃなくって……!っていうか、マスターキーなんて使うほどのことじゃ……!」 「バーカ。……俺様がお前に会いたかった。だから来たまでだ。マスターキー使おうが使わなかろうが、関係ねぇよ」 「あぁぁ……」 「……なんだよ。お前は、俺に会いたくなかったのかよ?」 む、と不機嫌そうに眉をひそめる景吾。 私は慌ててブンブン、と首を振った。 「違う違う!そ、そりゃ会いたかった、けど……」 「ならいいじゃねぇか。……もう1回」 景吾のキスを受けながら、『これで本当にいいのか!?』と頭の中で自問自答する。 どう考えても、よくないんだけど……! ちゅ、くちゅ、と小さな水音が、大きな部屋の中でやたら響く。 ど、どうしよう……!だけど、ダメだ、思考が……! ピンポーン! チャイムの音に、蕩けそうになっていた思考が、バッチリ復活した。 ドンドンっ、と景吾の背中を叩く。 最初はお構いなしに、キスを続けてきた景吾だけど…… ピンポンピンポンピンポンピンポンピンポン……! 「跡部、ここにいることはわかっとるんや!さっさと出てこんと、幸村んトコに言いつけにいくで……!」 ピンポンピンポンピンポンピンポンピンポン……! 「〜〜〜〜〜〜〜〜ッ」 連続インターホン攻撃に参ったらしく、バッと離れて、早足でドアの方へ向かう景吾。 「……忍足っ!」 バンッ、と大きな音を立てて、ドアが開け放たれた。け、景吾……も、もう夜中だよ……!他の人の迷惑になっちゃうよ……!(慌) 「テメェ、そろそろ三途の川渡らせてやろうか……ッ?」 「自分こそ、合宿中になにしようとしてんねん!……あ、ちゃん、ダメやで?夜はちゃんと気ぃつけなあかんって。ほな、跡部がすまんかったな〜。おやすみな〜」 「あ、う、うん!おやすみ!」 「、こんなヤツに返答しなくていい!」 「跡部、ホンマに幸村に言うで?自分、幸村とは無駄な争い起こしたないやろ?」 「……ちっ……」 「は、はいっ!」 「…………今日はこれくらいにしておいてやる。また明日な」 「へっ!?……え、えと……う、うん……おやすみ、景吾」 パタン、と小さな音を立ててしまるドア。 ドアが閉まる寸前、「これくらいってどないやねん!?」という侑士の声が聞こえた。 …………ふぅ、最後の最後で、慌しくなったけど……とりあえず。 合宿1日目、終了です。 NEXT |