「……とりあえず、今日の練習はここまでだ」

景吾の言葉に、ところどころから「お〜……」という声。

合同合宿1日目、全体練習はこれにて終了。





立ってしゃべっている景吾と、幸村くん、真田くん以外は、みんな、ぐたーっとコートに座り込んでいた。
……まぁ、それだけ練習がきつかったってことなんだけど。
最後には地獄の100本連続ストロークもやったしね……(100本連続でミスせずにストロークし続ける練習)あれはまさに『地獄』という言葉がピッタリくる練習だ。一本でもミスしたら数え直しっていう過酷なもので……それでも、全員やり遂げたところがすごすぎる。……ま、だからこそ、この倒れっぷりなのだけれども。

ちなみに、景吾さんはノーミスで成功なんてことをやってのけた。ノーミスでやってのけたのは、景吾、真田くんの2人だけ。……といっても、他の子たちも2、3回のミスでやり遂げたけどね……みんながどれだけものすごいか、よーくわかったよ……。

「今日はこの後フリーにするから、簡単に明日の練習について言っておく。……おい、そこ。へばってねェでちゃんと聞け」

景吾のお叱りに、赤也くんたちが小さく『うぃーす……』と答えを返す。
微妙な返答に顔をしかめた景吾が、1度さらりと髪の毛をかきあげた。

「ったく……明日は、8時半にここに来て、ウォーミングアップの後、氷帝対立海の交流戦を行う。午前中はめいっぱい試合をやって、1時にはここを引き上げる予定だ。……何か質問のあるヤツは」

「な〜し……」「ありませーん」「特には」

「……なら、今日はこれで解散だ。後は各自、自主練するなりホテルに戻るなり、好きにしろ。……あぁ……どうせお前らは、いつもの通りなんだろ?」

景吾が、ちらり、とがっくんたちに目をやった。
それまではぐたっ、としていたがっくんたちだったんだけど……景吾の言葉に、突然元気を取り戻して、ピョコン、と起き上がった。

「おぅっ!」

「?……いつもの通り、とは一体なんだ?」

「へへへ……!」

「ん?」

後片付けをしようと、立ち上がった私の前にジローちゃんが回り込む。
ニコー、っと覗き込んでくるジローちゃんは、犯罪級の可愛さ。
この子らは、自分の可愛さの使いどころをわかってるんじゃないだろうか……!そして、その上で、さらに上目遣いなんてオプションを使ってるんじゃ……!(被害妄想)
もう、お姉さんは胸がドキドキして破裂してしまいそうだよ……!

もう1度ジロ−ちゃんがニカッと笑ってきたので、わけがわからないけど、私もとりあえず笑顔になってみる。こんな笑顔を見せられて、笑顔にならない人間がいるはずないよ……!

とにかく、ジローちゃんの笑顔につられてへらへら笑っていたら、ニッコリ笑顔のジローちゃんが、ぐいっと手を引っぱってきた。

「ジ、ジローちゃん?」

ニッコリ笑顔全開のジローちゃん(あぁ、可愛すぎる……!)は、次の瞬間、その笑顔でとんでもない発言をぶちかましてくれました。

「テニスしよ、!」

「……はいっ!?」

すすす、とがっくんが寄ってきて、ジローちゃんと反対側の手を引っ張ってくる。
うぎゃー!チビーズに包囲されましたが―――!えっ、ちょっと、逆囚われた宇宙人状態!?

「練習後は、とテニスの時間だろ〜?ほらほら、後片付けは後にして、テニスしようぜ、テニス!」

「……えぇぇぇぇっ!?そ、それはいつもの練習の時の話でしょ……!?合宿来てまで、私とテニスなんかしなくても……!」

「へぇ……やっぱりちゃんもテニスするんだ?球出しの時に、キレイなフォームだな、とは思ってはいたんだけど……ぜひ見て行きたいな」

「ほぅ……確かに面白そうだな、見ていっても構わんか?」

幸村さんと真田さん、問題発言です。
キレイなフォームってナンデスカ……!見ていっても構わんかって、ナニゴトデスカ……!(大混乱)

「うわー!そんな見るほどのものでもないし、キレイなものでもないですよ―――!……そ、それに、みんな疲れてるでしょ!?私とテニスやったり、無駄なものを見るよか、お休みになられたほうが……!」

とやれるんなら、こんな疲れへっちゃらだってーの!」

「ちょ、ちょちょちょ、がっくーん!……あぁぁ、誰かー!」

助けを求めて視線を彷徨わせたら、パチリと亮と目が合う。
亮はまともだ!亮ならきっと助けてくれ……

「そーいや、昨日ライジング教えたばっかだったな。実戦で試してみろよ」

助けてくれなかった―――!!!(絶叫)

「りょ、亮までそんなこと言って……って、あぁぁぁ……」

ぐいーっと引っ張っていくチビーズに連れられ、強引にコートへ。
当然のようにひょこひょことみんながついてきた。なぜだか興味津々の立海メンバーも一緒に。

、1セットだけでもいいから、やろうよ〜」

「……で、でも、ラケットないし……!」

「俺様の貸してやるよ。……樺地」

「ウス」

景吾の指パッチンと共に、樺地くんが景吾のラケットバッグを差し出してくる。
あぁぁ……も、もう言い訳が思いつかない〜〜〜!!

ー……3ゲームマッチでもいいから〜……」

……そして、ジローちゃんの可愛らしいお声に逆らえるわけがない。
心の中の白旗を、パタパタと振ることにした。

「………………さ、3ゲームマッチ、だよ…………?」

小さくつぶやいた言葉に、みんなの顔がやけに輝くのが眩しかった。






「……結局、今日もジャンケンかよ……」

亮の呆れた口調に、侑士がかったるそうに返答する。
ペア決めをするために、みんなでジャンケンをしてるんだけど……なぜだかいつも、私だけは不参加にさせられてしまうのです(泣)

「なんや、メンドイんなら宍戸は参加せんでえーで?」

「んなこと誰も言ってねぇだろうが。……そーいや、忍足、お前こそ昨日と組んだんだから、遠慮しろよ」

「いややな、昨日は昨日、今日は今日やて」

「フン……くだらん屁理屈言うな、バカ眼鏡」

「なっ……本来なら、跡部こそ遠慮するべきやろ!?大体、跡部は協調性ないからダブルスダメやん」

「バーカ、となら出来んだよ。ウダウダ言ってねェで、さっさとやるぞ」

…………どうしましょう……!着々と話が進んでるよ……!私が口を挟む間もなく!

「1ゲームずつ交代制で……先に勝った3人がと組む方な!次に勝った4人が相手で……1番負けたヤツは審判!」

「OK〜。……ほんじゃ、行くよ〜。……ジャーンケーン……ポン!」

氷帝レギュラー陣が何度もジャンケンをしてるのを見ながら、私は所在がなくなってウロウロとコートを動き回る。

あぁ、一体どうしろというの私に……!氷帝メンバーの前でも、こんなヘボテニスを見せるのが憚られるのに、全国1位の立海メンバーにまで、ヘボヘボテニスをさらけ出したくはないよー!

あぁぁ、と1人苦悩している間に、どうやら決着がついたらしい。
がっくんが、ダンッ、ダンッ、と例のみそジャンプ(違)で地団駄を踏んでいた。

「……クソクソ!なんでお前らチョキ出すんだよ!そこはグー出しとけよ!」

「無茶言うなや、岳人」

「……ちっ……忍足さんに負けるなんて……」

「俺、ジャンケン弱ぇ気がする……激ダセェな」

「あーぁ……今日こそはと一緒に並行陣試そうと思ってたのに……くやCー!……でも、と試合出来るだけまだマシかー……」

「すみません宍戸さん。今日はさんと組ませてもらいます」

「フン、俺様が勝つのは当然だろ、なぁ樺地?」

「……ウス」

そんなわけで。
私の仲間は、景吾、侑士、チョタの3人。
対戦相手は、若とジローちゃんのコンビ、そして樺地くんと亮のコンビとなったのでした。
あ、審判は1番負けたがっくんです。……がっくん、1番張り切ってたのにね。






「クソクソッ……日吉!サーブ!」

「向日さん、真面目に審判やってくださいよ。……行きますよ、先輩」

心の中で『来ないで!』と叫びつつも、ぎゅっとラケットを握りしめた。
最初のレシーバーは私。1ゲーム目のパートナーはチョタだ。

若がふわりとトスを上げる。

「…………ふっ……!」

パァン、という音と共に、ザシュッとコート内にボールが飛んでくる。
ヒィィ、手加減なし……!

体を半身にして、なんとかラケットに当てる。……まぁそれでも、もともとのサーブのスピードが速いから、当てるだけでもリターンはまともに返っていった。

2、3度打ち合いをしていると、不意に若が構えを変えた。
……つまり、演舞テニスを始めたってことで。

「ギャー!若!やーめーてー!なんで最初っからそんなん使うのー!」

先輩ですから。……ふ……っ!」

「うーわー!意味わかんないっ!」

キィンッ!とゴルフのインパクト音のような音になって、若がストロークを返してくる。
ダメだ、演舞テニスのストローク戦になったら、若の思うツボ……!元々、アグレッシブベースライナー。ここぞとばかりにストロークで攻めてくるだろう。

だったら……

「……よっ……と……!」

前衛のジローちゃんの頭を超えるロブを上げる。
インドアコートだから、天井がある。いつもより少し低めのロブだけど、小柄なジローちゃんだったら、多分平気だ。……これがチョタだったら、簡単に取られていただろうけど。

、ナイスロブ!」

「岳人、審判は応援しちゃあかんで」

「うっせ、侑士!」

「いや、でも今のはいいロブだね」

「うむ、いい攻めだ」

がっくんと侑士の会話、そして幸村くんと真田くんの会話を聞き流しながら、視線を若に移す。
反対側の若がロブを拾う。それでもどうやら結構無理な体勢だったらしく、少しセンター寄りにボールが返ってきたので―――。

さん、出ますっ!」「任せた、チョタ!」

私とチョタの声が被った。
チョタが言葉の通り、ポーチに出てバシッとジローちゃんがいない方向へボレーを決める。

「0−15!」

「ナイスボレー、チョタ!」

「いえ!さんのロブが良かったんですよ」

パチン、とタッチを交わして、今度はチョタがレシーバーに入った。




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