さて、交流戦も後半戦。 大分試合も消化していた。 ダブルス1対決は、レーザービームに大分てこずったけれど、以前のチョタとの特訓でスピードに慣れていた亮が、なんとかくらいついて、6−4で勝利。こうして実際に結果が出てるし、ダブルス1は、着実に力をつけている。実質的にはコンビを組み始めてまだ1ヶ月も経ってないんだけど、組んだばかりとは思えないほどのチームワークも見せてるし……この2人は今までどおりの練習で大丈夫だろう。 ダブルスコートでは次に、ダブルス1対ダブルス2対決をやった。がっくんと侑士のペアは、6−4で柳生くんたちに敗れてしまったけど―――まぁ、課題(がっくんの体力向上、侑士の技の精度とか)が見えてきたから、収穫のある試合だった。 うちのゴールデンペアと、ブンちゃん&ジャッカルペアは、6−3でうちの勝ち。チョタのスカッドサーブが気持ちいいくらいに決まったし、丸井くんの妙技・綱渡りも亮が執念で追いついて拾っていた。鉄柱当ての方には反応しきれていなかったけれど―――まぁ、ブンちゃん以外のプレイヤーはそんなこと出来ないから、取れなくても支障はない。綱渡りは、コードボール処理の練習になったと思うし、こちらもいい収穫があった。 シングルスでは、若vs赤也くん。組んでから思ったんだけど、この2人、新人戦ですでに対決してたんだよね……。でも、その時にはまだ未完成だった演舞テニスを見て、赤也くんが赤目になりかけていた(だけど、それに気付いた真田くんが一喝で止めた……怖かった……!) 結局、赤目モードにはならなかったんだけど、この勝負は、6−4で赤也くんの勝ち。若の今後の課題は、もうちょっと緩急をつけられるようになることかな。せっかくの演舞テニスが、攻撃一辺倒になってしまって、効力を発揮しきれてないからね。 次に、景吾vs真田くんをやろうと思ってたんだけど……2人に『最後でいい』と言われてしまった。一応、現在の両校のシングルス1同士。……どうやら、この対決で最後のシメを飾りたいみたいだ。 なので、前倒しで樺地くん対真田くん。最初は、樺地くんのパワーテニスで2−0と先制していたんだけど……ここで真田くんの『風林火山』が発動。コピーしようとしていたのを、するりとかわして、あっという間にゲームを取り、終わってみれば6−2のスピード勝負だった。……樺地くんにコピーすらさせないなんて、やっぱり真田くんはそこらの選手とは一味も二味も違う。 で、シングルス2巡目、ジローちゃんvs赤也くんをやっていた最中。 ひょっこりと太郎ちゃんが顔を出した。 「」 コートの外から聞こえてきた、低い美声に、思わずビクリとしてしまった。 ぽろりと手から離れそうだったシャーペンを、慌てて握りなおして、声の聞こえた方を確認。 そこには、いつものようにダンディー(本日のスカーフは赤紫)な太郎ちゃんが、片手をポケットに突っ込んで、ヒラヒラと空いたもう片方の手を振っていた。……なんて様になるの……!(興奮) 「たろ……か、監督!」 「、ちょっと来い」 「は、はいっ!」 スコアなんてそっちのけで、ダッシュで太郎ちゃんのところへ。 みんなも試合を一時中断して、挨拶をしていた。 「か、監督、おはようございます!」 「あぁ。……様子はどうだ?」 「お互い良い刺激になってるみたいです。タイプの違う選手が多いですし」 「そうか。……メニューはどうなっている?」 「昨日は練習のみで、今日は午前中めいっぱい交流戦を行う予定です。あ、昨日の練習メニューは、これです」 持っていた部活ノートを差し出すと、太郎ちゃんがパラリと捲った。 3秒間じっと見つめた後、スッと返してくる。 「うむ、ご苦労だった。試合が終わった後は、クールダウンを必ずさせろ。それから、練習メニューを見る限り、下半身強化のトレーニングが多い。足のストレッチは入念にするように伝えておけ」 「わかりました」 太郎ちゃんと会話をしていると、タッタッと駆け寄ってくる足音が2つ。 1つは景吾のもの、もう1つは幸村くんのものだ。 「お久しぶりです、榊監督。今回は、このように有意義な合宿を組んでくださってありがとうございました」 「幸村か。……あぁ、こちらこそ、急な申し出で悪かった。顧問の先生にも、そう伝えておいて欲しい」 「はい。あ、うちの顧問の先生から、『お任せしてばかりで申し訳ありません』とお伝えするように、と」 「こちらが申し出たのだ、気にせずに」 太郎ちゃんの声に、幸村くんがペコリ、と頭を下げた。 次に景吾が口を開く。 「おはようございます、監督。……解散ですが、この後、昼食をここで取って、14時に現地解散ということにしてあるんですが、よろしいですか?」 「わかった。だが、その後もうちの学校はまとまって帰るのだろう?」 「はい。東京駅に着くのが15:30頃になりますので、そこで各自解散にします」 「あぁ。気をつけて帰るように」 「はい。…………それでは失礼します」 景吾と一緒に、私も頭を下げて立ち去ろうとしたら、太郎ちゃんに呼び止められた。 立ち止まっている景吾に、『先に行ってて』の意味を含んで、ヒラヒラと手を振った。 「、私はこれからまたすぐに戻らなくてはならないから、これで失礼する」 「あ、はい!」 「なにかあったら、遠慮なく連絡するように」 「はい、ありがとうございます!」 「……うむ。では、行ってよし!」 氷帝名物(元祖)をビシリと拝んで、私は再度頭を下げて、コートへ戻った。 太郎ちゃんのご登場で1度は中断した試合も、再開され。 順調にゲームがこなされていった。 やっぱり全体的にうちは押され気味だ。だけど、昨年全国優勝とベスト16というほどの格差は見られない。この試合でさらに強化すべき場所も見つけたし……うん、差はつめられるぞ。 「ゲームセットウォンバイ、樺地!ゲームカウント、6−3!」 樺地くんと赤也の試合が終わった。樺地くんのパワーテニスは、まだ成長途中の赤也くんにはキツかったみたいだ。力負けしてネットに引っかかる場面が結構あった。……ま、同じ中学2年生とは思えない体格差だからね……。 「先輩〜……反則ッスよ〜、なんスか、あのロボ!跡部さんがどっかの工場で作らせたんじゃないスか!?」 「……えーと……」 全力で否定できな………… …………イヤイヤ、樺地くんはちゃんと中学2年生のはずよ……! 「そ、そんなことないよ!うん!…………え、えーと!次!最終ゲーム!シングルス、景吾vs真田くん!」 誤魔化すように、大声で対戦を告げる。 ベンチに座っていた景吾がゆっくり立ち上がり、幸村くんと話していた真田くんがこっちへやってくる。 最終ゲームは、満を持しての、シングルス1。 頂上決戦、というやつだ。 「」 「はいはーい」 景吾さんのお呼び出しに、駆け足で近寄る。 バサリとお脱ぎになられたジャージを受け取り、手早く畳む、と。 唐突に顔を近づけてきた。 ヤバイ!と思って、すぐに離れようとしたのに、いつものようにそれはお見通しだったらしく、ガシリと頭を固定される。 なんとかのけぞろうとしたのだけれど、景吾の力は強くて―――耳元に低い囁きが響く。 「……ちゃんと見てろよ。酔わせてやるから」 ちゅ。 ほっぺたに、軽い感触。続いて、唇にも同じ感触。 ―――意識が飛んだ(あまりの衝撃に)。 数泊置いて、叫び声(忍足) ………………ハッ(覚醒) 誰かの叫び声でハッと意識が覚醒した。っていうか、ここ、本来なら私が叫び声上げるとこだよね……!? 「け、けけけけ、景吾……ッ!なっ…こ……っ……!(なにするの、こんなとこで!)」 「あーん?……こんな軽いんじゃ足りねぇか?……続きは家帰ってからな」 「ちっっっが―――う!!!!ってあぁ!聞いてないし―――!!!」 スタスタとコート中央に向かって歩いて行ってしまう景吾さん。つ、都合の悪いことはお聞きにならないお耳をお持ちのようで……!!! シーンと静まり返ったコート。 …………静寂が痛い(泣) あぁ、今すぐここから消え去りたい……っ、と心持ち遠い目をしていたら、バビュンと飛んでくる影が1つ。 その影は、ピタリと私の前で止まると、先ほどの景吾よろしくガシリと肩を掴んできた。 「あぁぁ、ちゃん、どこやっ!?どこやられた!?」 「ゆ、侑士!?」 「安心しぃ、犬に噛まれた思うんや……っ……あぁ、ほな俺が消毒し「忍足、テメェ、クリスティーヌのエサにされてぇか、あぁん?」 バコッ、と景吾が打ってきたボールが侑士の頭に当たって。 かしゃーん、と眼鏡が地面に落ちた。 頭を押さえてうずくまったバカ眼鏡を見て、そろそろ本気でコイツをなんとかしようと心に誓いながらも、目の前でわなわなと震えている真田に目を向けた。 「…………待たせたな、真田」 「…………跡部、お前、神聖なるコート上で、あ、あんな……」 「あーん?……神聖な儀式だ、気にすんな」 ゴツ、ゴツ、と拳をぶつけ合い、真田がラケットを回し始めたのを見て『ラフ』と言い放つ。 真田のラケットマークが反対を向いたのを確認して、サーブを取った。 審判台には幸村。 食えない笑顔で開始を告げた。 「ベストオブワンセットマッチ!跡部 トゥ サーブ!」 NEXT |