…………都大会が終わった直後に待ち受けていたのは、中間考査。
もう、色々と終わったんだけれども(そりゃもう、色々と。だって、コンソレーションの翌日から中間考査だったんだもん……!)まぁ、終わったことを気にしても、仕方がない!

それ(テスト結果)よりも、気になるのは、やっぱり亮のことだ。

中間考査が終わって、部活が再開されたと言うのに、相変わらず亮は部活に姿を現さない。
なんとか、猛特訓をしている場所は突き止めたのだけど、今日はそれを聞き出したチョタも部活に来ていない。
…………あぁぁ、もう、無茶してないかな……!?亮ってば、ただでさえ怪我するのお得意なのに、無茶な特訓で、きっと全身ズタボロなはず……!強くなるのも大事だけど、体を壊したらまったく意味がないのよ―――!

もう気になって仕方がない。

…………………………。

い、行ってみようかな!特訓場所!

やっぱり、1度様子見ておいた方がいいと思うのよね……!取り返しのつかない怪我をされてからじゃ、遅いもん……!差し入れ持って、手当てして……コッソリ励ましてこよう!

そう決心したのはいいのだけれど。

ちらっ、と景吾の方を見る。
景吾は、部員に、新しい練習方法の指示を出していた。

…………今の亮は、部活を無断欠席してる状態。そんな人に、激励しに行ったりしたら……マズい……かな?前に、3日間部活に来なかった1年生に、景吾が『もう部活に来なくていい』って言ったこともあったし……あぁぁ、今の亮は、3日どころじゃないよ……!どうする!?景吾、絶対元レギュラーだろうと、(いい意味でも悪い意味でも)差別しないだろうし……!

えーっと……でも、亮には復活してもらわなきゃいけないし……と、とりあえず無断欠席問題は、後で景吾をなんとか説得させられるような文句を考えることにしよう。今は、亮の様子を見ることが、先決だ。

…………亮が復活しなかったら、うちの黄金コンビが誕生しないもんね……!

拳をぎゅっと握った。
…………それに、なんてったって、亮のあのサラッサラな髪の毛も見納めだ。切られる前にもう1度、亮の髪の毛がなびくところを見たい……!(そこかよ)

色々な目的のためにも、やっぱり行くべきよね……!

さて、景吾にはなんて言おう……やっぱり、堂々と『亮を激励に行ってくる』ってのはダメだよなぁ……うーん。
いい案は浮かばないまま、部活は終わってしまった。
車に乗り込もうとする景吾に、恐る恐る言い出す。

「景吾、私今日、寄る場所あるから……」

ピク、と景吾の眉が少し上がる。

「…………お前、また何かあったのか?誰かに脅されてるんなら、ちゃんと言え」

「いやいやっ!そうじゃなくって!」

「じゃ、なんだよ?お前が行き先告げずにどっか行くって時は、大概、何か問題があるからな」

「えーっと……なんていうか、そのー……」

「……言わねぇなら、このまま連れ帰るぞ」

「あぁぁ……が、頑張ってる人を応援に行くだけです!」

名前は出さなかったけど、それだけで景吾はピンと来たのだろう。勘が鋭いんだよ、景吾ってば……!

「………………アイツか」

「あ、アイツです…………」

はぁ、と景吾が小さくため息をついて、私の手を引っ張り、車に乗り込む。

「えっ、あの、だから景吾……私、行きたいんだけど……」

「どこだ」

「へ?」

「場所。……お前、知ってるんだろ?」

「え、えと……チョタの家の近くにある、テニスコートだって……」

「んな遠いトコまで行ってんのかよ、あのバカは……おい、場所はわかるな?そっちまで回せ」

「承知いたしました」

車がスーッと動き出す。
行動の意味がわからず、景吾の顔をじっと見ていたら。

「……キスして欲しいなら、見つめるだけじゃなくて口で言え」

「ち、違―――!」

ちゅっ、と軽いキスをされた。
ぜ、全然違うんだけど……!

「け、景吾……いいの?一応、その……無断欠席の部員を、応援するコトになっちゃうんだけど……」

「………………お前が、言い出したら聞かねぇのはよく知ってる。……俺様は、『頑張ってるヤツ』に応援しに行くお前を、送ってるだけだ」

「………………へへ、ありがと」

「礼を言われることじゃねぇ」

ぐいっ、と肩を引き寄せられ、景吾の頭と私の頭が、コツンとぶつかり合う。
なんだか、心があったかくなった。





テニスコート近辺のコンビニで、チーズサンドやおにぎり、飲み物を購入した。もちろん、差し入れのためだ。

テニスコートの入り口で下ろしてもらい、私は走って亮たちのところへ行こうとしたら。
スーッと窓が開く音がして、景吾が顔を出した。

「おい、。……そのバカに、今週の木曜は絶対部活に来いって伝えておけ。……チーム内で練習試合をする」

「……了解!」

景吾だって、亮のことを気にしてる。
だからこそ、こんなことを言ってくれるんだ。

パタパタと走って、コートへ。
もう辺りは暗い。ナイター設備もあるけれど、人はいなかった。
だけど、時折聞こえる『バシッ』って音と、人が地面に崩れ落ちる音。
全速力でダッシュする。

「…………亮!チョタ!」

コートの中に、2人がいた。
ビックリして、こっちを見ている。

…………あぁぁ、やっぱり亮ってば、ただでさえ擦り傷多いのに、さらに多くなってる……!

「なっ……、どうしてココに……!?」

「あぁぁ、もうそんなことはいいから!……亮、ちっぽけな怪我だって、甘くみちゃダメだからね!?……って、何その膝―――!血がダラダラ出てるじゃん!」

ズカズカと近寄って行って、私は亮の膝にティッシュを押し当てた。
持ってきた簡易版救急セットの中から、マキロンを取り出す。

「お、おい、……いってぇぇぇぇ!!!」

「痛いだろうさ!ぱっくり膝切れてるじゃん!チョタ!そこのガーゼ取ってくれる!?」

「あ、は、はい!」

マキロンでガシガシ消毒して、チョタに取ってもらったガーゼを押し当てて、テープで止めて、その上からさらにテーピング用テープでぐるぐる巻きにする。

「とりあえず……膝以外は、大きな傷、ないみたいだね……でも、小さい傷だろうと、練習終わったらちゃんと消毒して、バンソーコー貼っておくんだよ?」

「あ、あぁ…………だが、。なんでお前がここにいるんだ?」

「あ、宍戸さん……俺がさんに教えたんです。さんが、宍戸さんが心配だって言うんで……」

「そーだよ!部活、無断欠席1週間以上するんだもん」

「わ、悪い……部活だと、どうしてもコートに入れる時間が限られるんで、ここで……そーだな……無断欠席になってんだよな……ヤベェ、そんなこと忘れてるなんて、激ダサだな……」

苦悩しだした亮に、私は、もう、と小さくため息をついた。
きっと、何も考えずに、負けたことが悔しくて、特訓してたんだろう。……無断欠席なんて気が回らなかったんだろうな。とことんテニス馬鹿だよ、亮ってば……。

「……景吾や監督には、なんとか言っておくから。……その代わり、ちゃんと成果は見せてくれるんだよね?」

私の言葉に、亮が少し笑みを見せる。

「……あぁ。長太郎のおかげで、俺なりのテニスが大分出来上がってきた」

さん、すごいんですよ、宍戸さん!」

「そっか……それなら、良かった」

私は、亮とチョタに、差し入れを渡しながら、景吾からの伝言を思い返した。

「景吾からの伝言。『今週の木曜は、チーム内で練習試合をするから、絶対来い』だって」

「………………跡部のヤロウ、怒ってんじゃねぇのか?」

「……大丈夫、だと思うよ……まぁ、木曜日、成果見せなかったら確実に怒るだろうけど」

「…………だな。……よし、長太郎、もう1セットだ」

「は、はいっ!」

2人がまた、コートに入る。亮の手にラケットが握られてないのを見ると……例の、ラケットを持たない無茶な特訓、ってヤツなんだろう。
これ以上ここにいても、練習の邪魔になっちゃうだろうし。バンソーコーやマキロンを置いて、早々に立ち去ることにした。

「……それじゃ、私、そろそろ帰るから。亮、ちゃんと怪我の手当てするんだよ?チョタも、体冷やさないように!それから、クールダウンも忘れずにやってね、木曜日に筋肉痛でボロボロとかやめてよ?」

「あぁ、わかった。……ありがとよ、

「ありがとうございます、さん!」

「頑張ってね!」

ヒラヒラと手を振って、私はコートの外に急いだ。
すぐ外に止まっている車。
車の扉のところに、景吾が立って待っていた。

「景吾?中で待ってるのかと思ってたのに……」

「お前が来るのが見えたからな。…………で?どうだった、あのバカは」

「……ん、大丈夫だと思う。木曜日、きっとすごい武器を引っさげて帰ってくるよ」

「……そうか。……ご苦労だったな」

ぽん、と景吾が頭に手を乗せてくる。
中に入れ、と促されて、車に乗り込んだ。

さぁ、木曜日が、決戦日だ。




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