「……なんでお前らがいるんだよ」 「それはこっちのセリフだよ」 かち合うのは、視線か火花か。 Act.27 怪しい2人の、秘密の交渉 金曜日。 いよいよ、本番は明日。 今日はみんな、授業なんかほとんどそっちのけで最終準備、最終確認を済ませていた。 私たちの組、白組も、なんとか無事本番を迎えられそうだ。 放課後、衣装さえ手に入れれば全ての準備が終わる。 「明日は7時にLL教室な!」 ういーす、という声が響いて、バラバラと帰り始める人が出てくる。 「……っと……もうこんな時間?」 私は時計を見て、手早く身の回りの物を鞄に詰め込み、最後にベストを着込んだ。さすがに日が暮れると、外は肌寒い。 亮を探すと、幹部組で何やら話し合いをしていた。最後の打ち合わせだろう。 ポリポリ、と頬をかく。……忙しそうだ。 これは、一緒に行こうなんて言えないな……。 鞄を持って、亮に声をかけることにした。 「亮、そんじゃ私、制服受け取ってくるね。忙しそうだし、1人でも大丈夫だよ。みんな、ま〜た明日〜」 ヒラヒラと手を振り、亮たちに背を向ける。 と。 「あ、おい。ちょっと待て!」 背を向けた方向から、声がかかった。 「ん?なんか確認あった?」 「いや、そーじゃなくて……あ、タッキー!これ頼んだ!俺、もう帰るから!」 「あ、オイ!オメーが帰ったら、なんもできねぇだろ!」 「出来る、やれる、お前なら!なんかあったら、メールしろ。俺は大事な仕事が残ってんだ。…………つーわけで。行くぞ」 「…………へ?」 『オイ!』とか『お前、1番厄介な仕事残しやがって!』とか『裏切り者!』とか、色々な声が飛ぶ中、亮は飄々とスポーツバッグを肩にかけ、歩き出す。 「よし、行くぞ」 そこではじめて、私は事態を理解した。 「……亮!?」 「何が何でも、俺は一緒に行くぜ」 「え、でも……いいの!?」 「後はあいつらだけでも出来る。だが、お前を1人で行かせるなんてこたぁ、俺にはできねぇ」 万が一なんかあったら、跡部に殺される―――そう続けた亮の顔は、連日の疲労からくる表情とは別の『疲れた表情』だった。 そんなまさか!と一蹴しようと思ったけど、この表情では笑い飛ばせない。……そして、段々と景吾さんなら『やりかねない』と思えてしまうから……怖い。 「とにかく、俺も行く。第一、学ラン3着って結構荷物になんだろ。手分けして持って帰ろうぜ」 確かに、学ラン3着はかさばるし重い。 今日もって帰るだけならまだしも、明日学校に持っていくときには、他に荷物もあるし、1人では大変かもしれない。そう考えると、亮の申し出は大変ありがたかった。 「確かに、重いかも。助かるよ〜。……ありがとね」 「…………!べ、べべべべつにいーってことよ!ほ、ほら、行くぞ!」 ぷいっ、と顔を背けた亮が、早足で廊下を進んでいく。 「あ、ちょ、亮待って!」 「(くっそ、可愛いじゃねーか!あ〜〜〜、やっぱ付いてって正解だ!あの手塚だろうと、こんな笑顔見せられたら、『万が一』が起こってもおかしくねぇ!)」 「亮ってば、早い早い!!」 「(いや、でも、その前に俺だろ!俺、こんな笑顔見せられて押さえられるか!?手塚と会うまで、会った後はと2人きり!跡部も怖ぇけど、やっぱ家まで送るのが男ってもんだろーし、そーすっと一緒にいる時間も長い!どーするよ、俺!耐えられるのか俺!……イヤ、でも耐えろ俺!跡部が怖いじゃねーか!!耐えろ、俺!!)」 「……な〜に甘酸っぱい青春ドラマやってんねん、宍戸」 薄暗い廊下に響いた、低い声。 パッ、と目線を走らせれば、ヒラヒラと紙を振っている、侑士の姿が。 「侑士!?」 「滝之本に泣きつかれて、最終確認事項、リストアップしてきた。しゃーないから、チェックしながら、手塚んとこ行こ」 「え……でもいいの?侑士、帰るの結構遅くなっちゃうよ?」 「構へん構へん。一緒行く言うてたしな。……ほな、行こか」 ニコ、と笑った侑士が、亮に近づく。 「甘いで。お前と2人きりなんて、手塚と2人きり以上に怖いわ」 「………………忍足」 「残念やったな、宍戸」 「…………いや…………助かった」 「………………は?」 「の笑顔の破壊力をなめてたぜ……激ダサだな」 深い深いため息をついた亮の心の中は、どうにも読めなかった。 かくして、亮に私、それに侑士も加えた3人で、電車の中で最終確認を繰り返しながら青春台へと向かった。 待ち合わせの時間にはちょっと時間があったけど、改札口に目当ての人物を見つけた。 すぐ見つけられたのは、やっぱり手塚くんが目立つ風貌だって事と…… 「やぁ、ちゃん」 「やっほー♪」 目立つ人がさらに2人加わっていたからだ。 「ふ、不二くんに、えーじくん……」 手塚くんの横で手を振っているのは、青学3−6コンビ。 満面の笑みが……!あぁ、キラキラの幻覚が見える……! くらりと眩暈に倒れそうになっていると、ずずい、と私の前に立ちはだかる2人。亮と侑士だ。 「……なんでお前らがいるんだよ」 「……それはこっちのセリフだよ。どうして邪魔な人間が2人もいるのかな?」 そしてなぜだか、突然バトル勃発(ボーン) 3−6コンビがいるのは嬉しい誤算だけども……だけども、なんかバトル勃発してて怖い!!特に不二様!!! 「付いてくると言って聞かなくてな……」 「あはは……ま、こっちも連れいるしね。……えーっと……3人とも、久しぶり」 とりあえず挨拶をすると、さきほどまで辺りを覆っていた不穏な空気がやっとこさ治まった。 「ひっさしぶり〜!」 「会いたかったよ、ちゃん」 「あぁ、久しぶりだな。元気そうでなによりだ」 えーじはニカッと。不二くんはサラリと恥ずかしいことを。そして、手塚くんはふっ、と口元を緩めてくれた……気がする。 「みんなも元気そうでなにより!……今回はごめんね、急に変なお願いして」 「いや。……これが、そうだ」 手塚くんが大きな紙袋を指し示す。 「一応Mが1つにLが2つということで、そのとおりに揃えた。予備や小さくなって着られないヤツがあったから、返すのは遅くなっても構わない」 「あ〜り〜が〜と〜。助かります〜。……あ、これ、ほんの気持ち」 途中で買ってきたドーナツを差し出す。 甘いものがOKかわからなかったから、カレーパンとか数種類を入れてきたけど、多めに買ってきて正解だったかもしれない。 「別に気にしないでくれてよかったんだが……悪いな。ありがたく頂戴しよう」 紙袋を受け取り、ドーナツを渡す。 「あー、それにしても、氷帝のヤツらがうらやましい〜。ちゃんが学ラン着てるとこ、見たかったにゃー」 「俺らは明日見放題だぜ、いーだろ?」 「むぅっ……宍戸、ムカツクー!」 「ハハハ、英二、大人気ないよ。…………僕たちも見に行けばいいんじゃないかな?」 「なーる!不二あったまいー!!」 「残念やな、不二。明日はうちの学校関係者以外、非公開なんや」 へぇ……と不二様の眼が開かれたー!!!激コワ―――!!!!(ガタガタ) そのまま、くる、と不二様が振り返られる。 「宍戸……僕たち、関係者になるよね?制服貸してるし(ニッコリ)」 その笑顔に、ピキーン、と亮が固まった(私も固まった)。 数秒の後、亮が振り絞るようにして小さな声で告げる。 「ワ、ワリィ……それは、俺にも…………か、関係者以外結構厳しく規制されててよ……受付とかあるし……じゃねぇと、都内の女子が集まるからって……」 「ざーんねんやったな、不二」 追い討ちをかける侑士。 侑士は心を閉じたのか(そんなバカな!)、不二様の笑顔は効いておられない様子。 バチバチと2人の間に冷たい火花が散ってるように見えるので、一般人の私や亮、えーじは震え上がった。……手塚くんは表情を変えないから、よくわからない。 そっ、と不二様が侑士に近づいた。 「…………忍足」 「……なんや?」 「………………ちゃんの学ラン写真、君にお願いしてもいいかな?」 「なして俺が敵さん喜ばすようなことせなあか「この間の焼肉大会のとき」 唯一聞こえた単語が『焼肉大会』…………なんのこっちゃ。 状況がつかめなくて、吹雪の中で身を寄せ合うような姿の私たち(亮・えーじ・私)だけど、あいにく、吹雪の中に突っ込む勇気は持ち合わせていなかった。 「君、進行役で忙しかったよね?そのときの、ちゃんの写真、あるんだけど」 「…………そ、それがなんや。別に、俺らかて普通に焼肉食いに行くし、そないな姿、いくらでも見れるわ」 「これを見ても、まだそんなことが言えるかな?」 不二様が、侑士に何かを見せている。……写真? それが何かはここから判断できなかったけど、それを見た侑士の様子が明らかに変わったのは、すぐわかった。 「こ、これは…………!」 「どう?学ランの写真を撮ってきてくれたら、これの焼き増し、君にあげるよ。手始めに、この中から1枚好きな写真、持ってっていいよ。……中々いい条件だと思うけど?」 「…………しゃーないな、請け負うたるわ」 「交渉成立……だね」 不二様がニッコリ笑った。その笑顔は、さっきとは打って変わって、蕩けるようなの甘い笑顔だけど……悪寒がするのはなんでだろう。 そして、侑士がイソイソと何かを懐にしまってるのも気になる。一体何があった、天才2人。 「……もうこんな時間だ。これ以上遅くなってはまずいだろう」 手塚くんが時計を見ながら言った言葉で、止まっていた会話が動き出した。 「あぁ、ホントだ。楽しい時間は過ぎるのが早いね」 「ちゃん〜、気をつけて帰るんだよ〜?」 「うん、ありがとう。みんなも気をつけて。……今日は本当にありがとね」 「気にするな」 「また学ラン返すときは連絡するね」 「あぁ。……じゃあな」 「じゃあね。……忍足、頼んだよ?」 「わかっとるわ。……ほなな」 バイバ〜イ、と3人に向かって手を振った。 よし、準備は万端。 残すは明日の本番のみだ。 NEXT |