3月2日、月曜日。
本日は、期末考査の結果が張り出される日です。
……………………あぁ、神様!!!
どうか……どうか、私の答案を景吾とすりかえて!(おい)



Act.24  そして果は、やって来た



わいわい、と騒いでる人垣。
期末考査の結果が張り出されているところだ。
大きく息をついた。

ゆっくりと歩いていって、人垣の後ろから紙を確認する。
……こういう時、背が高いとちょっと便利だ。

100位以内の人間が張り出されている。
どうしても怖くて、100位から自分の名前を探してしまう。
30位くらいになっても私の名前はないので……あぁ、100位にも入れなかったか……と、ちょっと絶望感。
で、でも、何枚か帰ってきた答案の点数は悪くなかった……!
なんとか勇気を奮い起こして、眺めていく。
20位……うわ、ない……マジで100位以内に入ってない……!?
そろそろと隣に視線を移せば。

17位  

あ、あった――――――!!!(心の中で大絶叫)

え、でも17位!微妙!すっごい微妙な順位だけど、でも嬉しい!
10位以内じゃないけど、超嬉しい!

ぽん、と頭の上に手が乗っかり、顔のすぐ横に、さらりと茶色の髪が。

「…………、17位か……」

さー……と嬉しさが音を立てて引いていく。

「け、景吾さん…………」

「お〜、ちゃん、頑張ったやないか!……相変わらず跡部は嫌なやっちゃな〜、また1位か」

「当然だ。忍足も相変わらず10位以内をキープか」

何だこの2人―――!バケモノか―――!
テニスあれだけやって、なんでそんな頭いいの!?ねぇ、なんで!?

「ところで……10位以内じゃねぇな」

ビクリ。
以前に、景吾は『10位以内に入らなかったら、キス10回』というとんでもない爆弾発言をぶちかましてくれちゃいました。

そーっと景吾の顔を盗み見る。

ニヤ。

ギャ――――――!黒い笑顔――――――!!!

「まぁ、頑張ったことは認めるが……約束は約束だよな?」

ブンブンブンッ(約束したつもりはございません!)

「家に帰ったら楽しみだな、あーん?」

「ギャ――――――!!!」

「んでも跡部、どないするねん。ちゃん、本当に副会長にさせる気か?」

「もちろん。…………17位でも、十分だしな」

「それならそれでいいじゃん!別に10位以内じゃなくても……!」

「それとこれとは話が別だ(キッパリ)……、ついて来い。……お前、帰ってきた答案の中で、何が得点良かった?」

「えーっと……文系のがよかった……」

「なら文系の教師中心だな」

景吾はスタスタと歩いて、職員室(かなりデカい)に入っていった。

「植松先生」

景吾が呼びかけたのは、現国の先生。

「なにかね、跡部くん」

「今度の臨時生徒会選挙に、彼女を推薦したいんですが。先生から、推薦をいただけませんか?」

景吾にしては、すごく珍しい丁寧な口調だけど。

笑顔が怖い。

『コイツの推薦、やってくれるよな、あーん?』

っていう感じ。
あわわわわ……景吾、相手は仮にも教師だよ!

「あ、あぁ……彼女は編入生の……さん、だったかな?」

「は、はい……」

「君、現国のテスト頑張っていたね。確か、総合得点でもよかったはずだ。……なにより、跡部くんが推薦すると言うのなら、安心だ。よし、僕は君を推薦しよう」

…………マジですか?
ホントですか!?

「あ、ありがとうございます……」

「推薦状を渡すのは、跡部くんでいいかね?」

「構いません。…………、次行くぞ」

こうして景吾はあっという間に5人分の先生の推薦状をもぎ取ってしまった。
ついでに、と言わんばかりにもう5つ推薦状をもぎ取ったので、計10個の推薦状を獲得したことになる。

その中には太郎ちゃんも入っているけど、それでも10個はすごいと思う……。

………………恐るべし、跡部景吾。






推薦状の目処が立ったので、私はそのまま生徒会室に拉致されました。

「景吾……私をココに連れてきてどうするの……?」

「あーん?お前には早く仕事に慣れてもらわなきゃならねぇからな。生徒会選挙は4月だが、今からお前は俺の補佐だ」

「…………はっ!?え、ちょ、無理〜〜〜!!!」

「もうすぐ今の副会長がここに来る。仕事内容などを教われ」

「えっ、でも、あの……っ……他の子も立候補するかもしれないんでしょ……!?」

「ありえねぇ(キッパリ)」

「はっ!?」

景吾は、生徒会長椅子(社長が座るみたいな、くるくる回る椅子だ)に座ると、書類を見始めた。

「最初に言っただろ?立候補するには、現生徒会役員の推薦と、教師5名からの推薦だって。…………教師5名は取れたとしても、生徒会役員には、誰も推薦するなと言ってある。よって、お前が副会長になる確率は100%だ」

Oh〜………………。
景吾さん、そういうのを権力横暴、職権乱用って言うんですよ。
いや、独裁政治か!?

ガチャ、と扉が開いた。

「会長、来ましたよ〜。お、女の子〜」

「あぁ、神田。そこにいるヤツが、次の副会長だ」

「こんにちは、俺、3年の神田俊明。3年だけど、まだ副会長やってます」

「あ、はじめまして。2年のです……」

にこやかな笑顔のお兄さん。
手を差し出されたので、私も手を差し出すと、ぎゅっと握手された。
……なんだか、景吾の補佐にしては、軽い人な気がする。

「神田!」

「ちぇー……景吾くんったら、そんな怒んなくてもいいじゃん〜」

あ、あれ……?3年生だから、景吾より年上だよね……?
景吾、年上にそんな言葉遣いで……って、いつものことか。
でも、なんかこの人、景吾の扱いに慣れてるって感じだな。

「俺と景吾はね、小さい頃からの付き合いなんだ。もう、あいつったらガキん時から俺様でさー……俺の副会長の任期を勝手に延ばしたのもアイツ。信じらんねぇ横暴だろ?」

「神田……余計なこと言ってると……」

ズオォォォ、と景吾のオーラが増幅している。
け、景吾さん……。

「あー、ハイハイ。それじゃ、ちゃん、こっち来て。会長は溜まった仕事、片付けてくださいね〜」

こ、この人強い!
やばい、尊敬!景吾をここまで扱える人、はじめてみたよ!!!

生徒会室にある、さらに小さい小部屋に連れて行かれる。
ファイルやらなにやら、色々納めてある、資料室みたいだ。

「副会長は、主に会長の補佐。……っていうと、簡単だけどね。実は結構やることがあるんだ。まずは、各委員会から持ち上がってきた意見の選別。会長へと出す前に、1回確認して、その時点でくだらない意見や、非現実的な意見は、却下する。選別した意見だけを、会長に確認してもらうんだ」

「なるほど……」

「で、それからこの部屋。資料室の管理も副会長の仕事。ここには、歴代の生徒会活動の報告書などが納められてる。報告書は書記が書くけど、それを確認して納めるのは副会長の仕事」

「は、はい……」

うっわ、なんだかホントに責任感じてきた……。
どうしよう、私、本当に副会長なんて出来るのかな……?

ふっ、と神田先輩が笑った。

「そんなに気負わなくても大丈夫だよ。……ま、要は会長の雑用係って感じだから」

ガクッ、と力が抜けた。
ざ、雑用係……!
マネージャーと大して変わらない……!

「あー、それとね、1番大事な仕事。……まぁ、君だったら自然体で大丈夫だと思うけど」

「はい?」

「会長の相手。ご機嫌斜めだったりすると、他の人は手がつけられないから。ま、君が隣に居るときは大丈夫だと思うけどね」

「……?は、はぁ……」

「うん、それじゃ、話はこれくらいにして……これからしばらくは、生徒会室に来て、仕事内容を順々に覚えていってね」

「が、頑張ります!」

資料室を出ると、デスクからこちらを見ている景吾。

「あー、会長。こっちが気になって仕事してないんでしょー。……それ、今日中に終わらせないと、ちゃん、俺がもらってっちゃうからねー?」

「ばっ……そんなわけあるか。これくらいの仕事、俺様には造作もないことだぜ」

景吾はそういうと、ものすごい勢いで書類にサインをし始めた。
いつもはあまり見られない姿に、私は思わず笑い出してしまう。

「時々こーやってハッパかけてあげてね?あ、でもちゃんが副会長になったら、ご褒美作戦でいくといいかも」

「ご褒美作戦?」

「書類終わったら、キス、とかvv」

ガクッ……。
こ、この人一体……!?

「そ、そんな、まさか……景吾がそんなことで……」

「景吾ー、その書類、昼休み中に終わったら、ちゃんがキスしてくれるって」

ババババババッ。
目に見えて、景吾の作業速度が増した。し、神速……!!!
えっ、ちょっと!

あはははは、と神田先輩がおなかを抱えて笑う。

「神田先輩!」

「いいねー、作業効率増すね〜。ちゃん、これから毎日生徒会室来てくれない?それだけで、君、かなり学校の役に立ってるよ」

そんなことで役に立っても、嬉しくないです!

少し涙目で睨むと、神田先輩はするりとスルーして、

「じゃ、俺、これから違う仕事あるから。……2人とも、頑張って〜」

去ってしまわれた(泣)

え、ちょっとこれからどうしろと!?

とにかくすることがないので、ソファに座って、景吾の作業を見ることにする。
ほんとに早い……ペンを走らせてる手が、残像になってるよ……!
ちゃんと書類見てるのかな……!?

しばらくぼーっと仕事を観察していたら、突然コトン、と景吾がペンを置いた。
ま、まさか…………。

「終わりだ」

早――――――ッ!!!

えっ、ウソ!だって机の上に詰まれた書類、軽くマンガ1冊分くらいあったよ!?
それが、こんな短期間で……。

すっと景吾が椅子から立ち上がる。
私を見る目が……笑ってる!?

こ、怖ッ……。

立ち上がって逃げようとしたら、立った瞬間に景吾が私の手を掴んで、またソファへダーイブ(泣)

瞬間移動でもしたんですか!?会長席から突然現れたように見えたんですけど!

生徒会室にあるまじき、広いソファに押し倒された私。
なんですか、これ!どういうシチュエーションなんですか!?
ニヤ、と景吾が笑った。

……ご褒美は?」

「ご、ご褒美……?(目線をそらす)」

ぐいっ、と顔を強制的に景吾の方に向けられる。
ち、近いっ!顔が近いよ〜〜〜!!(大パニック)

「け、景吾さん……?ここ、生徒会室ですよね……?他の生徒会役員さんが、いらっしゃるのでは……」

「それがどうした」

「どうしたもこうしたもありませんよ!その人たちに、こんなとこ見られたら……んうっ」

言葉をさえぎって、景吾がキスをしてくる。
……なんなんだ、ホントに―――!(泣)
景吾ってキス魔!?ねぇ、キス魔なの!?誰かこの人に酒飲ませてない!?(飲ませてません)

「ふぅっ……んっ」

しかも上手いし―――!!!
あれですか!?おうちが洋風だと、生活まで洋風になり、キスが上手くなるんですか!?
教えてください、欧米の方!(聞くな)

頭の中がぼーっとしてきた。
何も考えられない。

静かな生徒会室の中に、小さな水音だけが響く。

ちゅ……っ……。

最後に少し強めに唇を吸われて、景吾がようやく体を離す。

「…………本当に、お前がいるだけで作業効率がアップするな……」

「そんなアップの仕方、しなくてもいいです……(シクシク)」

なんとか息を整えようと、ソファに座って深呼吸していると。

「ただいまー」

神田先輩が帰ってきた。
……よかった、さっき終わってよかった……!
あんなトコ(キスシーン)なんて見られた日には、私思わず発狂してしまうかもしれないよ……!

「あぁ、神田。終わったぞ」

「げっ……マジで?ホントに終わらせるとは思ってなかった…………あー、で、ちゃんは美味しく頂かれちゃったわけね」

「なっ!」

「ご苦労様。これからも頑張ってvv(ウインク)」

「どんな頑張りをすればいいのか、わからなくなってきましたよ……!」

大丈夫か、副会長でちゃんと仕事できるか、私……!


NEXT