氷帝学園文化祭、最終日。

本日は部活対抗コンテスト。

…………すなわち、劇の本番です。



Act.47  番前の、一呼吸



「アァァ……ついに、この日がやってきてしまったのね……!」

開演前の舞台裏、私は一応周りに気を使って小声でそうつぶやいた。舞台裏、という場所柄、会話をするときは大体がヒソヒソ声になっていた。
すると侑士が、いつも以上に掠れた声で返答してくれた。

「なんや、あっという間やったなぁ……」

「俺はやーっとあの練習地獄から解放されるかと思うとうれしくて仕方ねぇ……」

思いだしたくもない……とがっくんが青白い顔をして遠くを見つめる。
……確かに、毎日毎日昼休みに練習してたもんね……しかも完璧主義者の景吾さんから幾度となくダメだしをくらって……。

「そーゆーことは、きちんと全部終えてから言え」

景吾ががっくんの頭を台本でぽかり、とやった。
開演前、おそらくみんなで集まるのはこの時間で最後。
後は、出演するために下手と上手にバラバラになって位置につかなければならない。

指先がどんどん冷たくなっていくのを感じた。
せっかく覚えたセリフが、頭の中に全然浮かんでこない。
……間違いなく、頭が真っ白になってる!! (涙目)

?」

「け、けーご……」

「……緊張してんだろ」

「し、しししてます、もちろん……」

緊張とかそういう言葉とは全く無縁でいらっしゃる氷の帝王様は、はぁ、と息を吐いた。

「キスでもしてやろうか?」

「もっと頭が真っ白になるからやめてください!(泣)」

私がそう言うのと同時にブー……っと開演5分前の合図が鳴ったのを聞いて、ビクッと体が反応する。
放送委員が、観覧時の注意を読み始めた。
やたらと『開演中の私語、歓声はご遠慮ください』のくだりが強調されている。

―――ざわざわとした雰囲気が、徐々に静寂へと変わる。
会場内は静まり返り、独特の張り詰めた緊張感があたりを支配する。

ぐるりとなんとなく円陣を組んでいる私たち。
ぽん、と景吾の手が背中に当たった。

「…………ほら、主役のかぐや姫。緊張抜くためにも、一言みんなに声かけろ」

「えぇぇ!?」

「…………先輩、早くしないと時間なくなっちゃいますよ」

「ほら、はよ言うて」

「あー……えーっと………………が、がんばるぞー」

「「「「「「「…………おー」」」」」」」

小さく揃った号令。
……ぷっ、と噴出しながら、侑士が「なんやそれ」と笑った。
景吾が「お前、もっと他になかったのかよ」と呆れた顔で頭を小突いた。
がっくんとジローちゃんは、なんだかケラケラ小声で笑っていた。
亮は「……っしゃ」ともう一度自分自身で気合いを入れていた。
若には「相変わらずですね」とシニカルな笑みを返され、
チョタには「がんばりましょーね、さん」とニッコリ笑顔を向けられた。
樺地くんは相変わらず「ウス」とだけ呟いた。
……樺地くんのいつも通りな感じに、ちょっとほっとした。

バラバラとみんなが各々の所定の位置に付く。

手伝いを頼んでいる2年の子が小さな声でこちらへ合図する。

幕が―――上がった。




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