「侑士〜、アッサム3番テーブルによろしく」 「了解」 「、1番で注文だ」 「おっけ!」 氷帝文化祭、初日。 Act.44 盛り上がるのは、初日から 初日は模擬店と生徒会主催のディベート大会。後は交響楽団がやってきて演奏会が行われる。 金曜日なので、この日は一般非公開。 だから、お客さんも生徒だけでまだ少ない。 そんな中で、続々とレギュラーが遊びに来てくれた。 「おーっす!来たぜー!」 「あ〜、ー!可愛Eー!」 ジローちゃんが褒めてくれたのは、ギャルソン風の衣装だ。 女の子はほとんどメイド服(各家で使ってる服なんだって……)を着ているのだけど、残念ながら跡部家のメイド服はサイズが合わなかった。 というわけで、私は執事さんの服を借りて、ちょっとギャルソン風の衣装。 「服くらい作ってやるっていったんだがな……これがいい、って言いやがるんだ」 「絶対ちゃん、メイド服可愛ぇのに〜」 「嫌だ、絶対着たくない!」 可愛いとは思うけど……ちょっぴり着てみたいとも思うけど。 でもそれをこんな美麗な方々の前で晒す勇気は私にはない!!! 「でも、その服も似合ってるよ〜。美人さんだC〜」 ニカッと笑ってくれたジローちゃんにハートを射抜かれる。 「あぁ!すっげカッコいい感じだな!」 さらにがっくんにもど真ん中を撃たれた!! 氷帝チビーズ、バンザーイ!!! 「ジローちゃん、がっくん……うぅ、ありがとう……!そう言ってもらえるとうれしい……!」 「へへ。あ、ここ座っていいか?」 「どうぞどうぞ。お菓子、大目に持ってくるからね」 「よっしゃ〜!やったな、ジロー!」 「マジマジ、ラッキー!超ウレC〜!ありがと、!」 「(なんてかわいすぎるんだ!)どういたしまして!」 さらに輝きを増したチビーズの笑顔にクラッ。 あぁ、この子たちはなんでこんなに可愛いのかしら……!身長の代わりに、可愛さを多分に与えられたのね!むしろこのまま、全ての栄養が可愛さに回ればいい! 「ちょ、なんやねんこの空気」 「これだから岳人とジローは油断なんねぇんだよ……」 「どーする?めっちゃ濃いコーヒーでも淹れてきたろか。そしたらジローの目も覚めるんちゃうか?」 「……?侑士、景吾、ミルクたっぷりのジャーマンブレンドとダージリンミルクティーだって」 ぶつぶつと言い合っている2人にそう告げると、無言の視線に……ため息が返ってきた。 え、どゆこと? 「自分で取りに行け、言いたいわー、俺……」 「……同感」 「何言ってんの?」 「「……なんでもない」」 その後も、亮やチョタ、さらには若や樺地くんも顔を出してくれた。 1時間5人の交代制でシフトが組まれている喫茶店の当番だけど、なかなか忙しい。徐々に景吾と侑士が当番だという噂を聞きつけた女子生徒が押し掛けてきた。 交代直前にはかなり忙しくなったけど、そこは1時間交代制の強み。さっさと次の当番の子にバトンタッチした。 今日はなんとかなったけど……これは明日以降が怖いな、と1人考える。 「?」 「あ、はーい」 更衣室になっている教室の外から景吾の声がした。景吾はもう衣装を着替え終わったのだろう。 手早く荷物をまとめ廊下に出ると、そこにはやっぱり着替え終わった景吾が待っていた。 「これからどうする?いくらなんでもディベート大会までは時間があるだろ」 「そうだねぇ……ちょっと見て回りたいな。明日は当番とエキシビジョンマッチで終わっちゃいそうだし」 「そうだな。……よし、忍足のヤツが来る前にさっさと行くぞ」 「へ?」 「お待たせ、ちゃ「行くぞ!」 ぐいっと景吾に手をつかまれて一気に走り出す。 「コラ、ちょい待ちぃや跡部!!」 「邪魔されてたまるか……!」 「えぇぇ!?」 景吾に半ば引きずられるように走り、どこをどう走り回ったかよくわからなくなってきたころ、景吾が近くの教室に入り込んだ。 「ちょ、景吾……っ……一体、どういう「シッ……」 文句を言おうとしたら、景吾の綺麗な人差し指が、私の唇にトン、と当てられた。 ……ヒィィイィイ!!!(照) その状態で固まっていたら、しばらくして景吾が教室の外を確認した。 「……よし、大丈夫そうだな。……?何固まってるんだ?」 「あ、いえ……」 「後は会わないことを祈るだけだ。さて……行くか。どこから行く?」 あまりにも普通に行動し始めた景吾に、私はハッと意識を回復させる。 「……えっと……まず何か食べたい、です!」 「よし。うまいもの、食わせてやる」 フッ、と笑った景吾がカッコよすぎて。 …………私は、もしかして2人で文化祭を回るのは、非常に危険(女子生徒の襲撃だけでなく、私の心臓の面でも)なのではないかと思った。 堂々と他のクラスがやっている軽食店に入った景吾。その直後に女子生徒たちの大きな歓声を聞いた私は自分の考えが当たったことに頭を抱えた。 突き刺さる視線に耐えながら猛スピードでサンドイッチをテイクアウト。 「ここで食べていかねぇのか?」 と問う景吾に「外行って、2人でゆっくり食べよう!」とこっそり耳打ち。 その言葉のどこがお気に召したのかわからないけれど、なんだか景吾はやたら上機嫌になって頷いた(『2人で』というところがお気に召したらしい) 途中で飲み物(がっくんのクラス)やお菓子(チョタのクラスと若と樺地くんのクラス)なんかも買って、2人で木陰に座って軽く食事。 なんだかピクニック気分で、景吾と2人「なんか学校内で新鮮だね」なんて会話を弾ませながら昼食をとった。 昼食をとり終わって一休みした後、この後の行動について軽く確認。 午後はディベート大会だしそれが終わったら交響楽団の演奏が控えている。 したがって、これから店を回るにしても行けるところは数少ない。 後行ってないクラスは―――。 『俺んトコ、射的やってるから来てね〜!宍戸もいるよ!』 そう言っていたのは、先ほど喫茶店に来てくれたジローちゃんだ。 私たちのところにも来てくれたし、これは行かなくては。なにより、ジローちゃんがちゃんと寝ずに当番をこなしていたらそれはそれで一見の価値がある(キッパリ) ……ま、亮がジローちゃんを起こしながら店番してる、に一票かけたいところだけど。 そんなわけで、ジローちゃんの様子を見がてら、亮とジローちゃんのクラスへ行くことになった。 中々にぎわっているらしく、たくさんの人が出入りしていた。 その中で、見なれた顔を探すと、向こうもこちらに気付いてくれた。 「おう!来てくれたんだな」 「亮!あはは、似合うよ〜、そのタオル」 不動峰の石田くんみたいに、タオルを頭に巻いた亮が、こちらへやってきて応対してくれた。 「さすがに帽子かぶれねーからな。やってくか?」 「ぜひ!……ジローちゃんは?」 亮にお金を渡しながら、あたりをきょろきょろと見回す。 「あそこ。珍しく寝てねーぜ」 「あ、ホントだ」 必殺のジローちゃんスマイルを浮かべながらの接客はなかなか板についている。 ほどよい覚醒状態だ。 「来てくれたんだ〜〜!!」 お客さんの応対を終えてから、ジローちゃんがハイテンションでやってくる。 「こっちいい景品あるからこっちこっち!」 ハイテンションだけど、コッソリとそう言って笑うジローちゃん。 ……なんて可愛いんだ!! 「ハイ、どーぞ。もう弾は込めてあるから、よく的を狙って撃ってね〜」 「的に貰える景品の名前が書いてあるからな。落とした分は出口で景品と交換な」 「はーい」 ジローちゃんと亮の説明を聞き終わってから、銃が渡される。 それを手にとって、さてどの的を選ぼうか〜……と的を吟味すると。 お菓子の名前が書いてある的、飲み物が書いてある的。それらは比較的当てやすそうな近い位置。 高い位置にある的は…… 「え、テディベア?」 思わず銃を置いて、上段に位置する的を指差してジローちゃんと亮に向かって聞いた。 後ろで見ていた景吾も、「なんだ?」と近くに寄ってきて的を見つめる。 「あー、気付いたかー……ほら、目玉商品って必要だろ?」 「一応用意はしてあるけど、まだ誰も倒してないよ〜」 そりゃ……あれだけ高い位置にあってやたらと的が小さいもの。倒すのは結構大変だろう。 でもテディベア……ちょっと欲しいな、と思っていたら、私の後ろから的をのぞいていた景吾がほぉ、と呟く。 「シュタイフ社のテディベアか……なかなかいい賞品用意してるじゃねぇか」 「賞品提供者がいたからな。……あれ、たっけーんだろ?目玉になると思って」 「え?高いものなの?」 「一体で安くて1万ちょい、高くて3万、限定品なんかだと15万以上するものもあるな」 「エェェェエエエ!?」 ちょ、そんなものを賞品にしてもいいんですか!! 採算とれないでしょ、絶対!!! 「なんかクラスメイトが土産にもらったらしいんだが、ダブった、とか言って持ってきてくれたんだよ。だからコストはゼロ」 そんなこと言ったってー!!!! 「なんだ、。欲しいのか?」 「えっ!?や、欲しいと言えば欲しいけど……でも値段聞いたらなんだかそんなもの分不相応な気がしないでもなく……!そして、私にあれが取れるとは到底思えません……!」 私にはお菓子を取るので精いっぱい!! 元をとる、というわけじゃないけど、せっかくお金払ってゲームしてる以上、何かしら景品欲しいじゃん!(庶民根性) というわけで、私は比較的近い的めがけて、一生懸命腕を伸ばして撃つ。 5発弾をもらったけど、お菓子と飲み物を1個ずつ取って、後の3発は外れてしまった。でもま、こんなものだろう。むしろ2個景品が取れただけで万々歳だ。 ちょっとホクホクした気分で銃をジローちゃんに返す。 「おい、ジロー。次は俺様だ」 景吾がお財布からお札を取り出して亮に渡す。 え、景吾さん……!? 「ニシシッ、まいどー!……ほいっ」 満面の笑みのジローちゃんが景吾に弾を込めた銃を渡した。 景吾がなんだかやけに決まった格好で右手を伸ばす。 「え、ちょ、景吾さん……!?」 「まずは銃の具合を見ねぇとな」 パンッ。 なんだか、私が撃った時よりもいい音が鳴って、中段にあったちょっと高級なお菓子の的が倒れる。 「おっ、スッゲー!中段の的当てるヤツもそんなにいないんだよ〜!」 「こんなものか。少し左に照準がずれてるな」 ぶつぶつと何事かを呟いて、景吾はジローちゃんに銃を渡す。 弾を込めた銃を再度受け取ると、もう一度中段の的を的中させた。 「(唖然)……」 もはや、声も出ない。 どこからどうつっこめばいいのかよくわからない……! 「よし、大体感覚はつかめたな。…………次で、しとめるぜ」 スッと景吾が銃を構え。 ピタリとその照準を一番高い的のところに合わせる。 パンッ……ピシッ……。 最高段の的が……倒れた。 オォォォォォオッ!!!と歓声が上がる。 ジローちゃんがものすごい勢いで鐘を鳴らした。 「おーおあーたりー!!!」 ガランガランと鳴る鐘に、周りの人からの拍手。 景吾はそれを当然のように聞き流していた。 「あぁ、賞品はにやってくれ」 「ほらよ、」 亮が持ってきたフワフワのテディベア。うぉぉ、可愛い……! 未だ信じられない気持ちでいっぱいだけど、とりあえずそのテディベアを受け取る。 頭の中を整理するために、テディベアの頭を無意味に撫でた。 撫でながら、私は頭の中に浮かんだ当然の疑問を景吾にぶつける。 「……景吾さん、どこかで射撃をたしなみまして……?」 「あぁ。オーストラリアの射撃場でな」 ……………………恐れ入りました。 NEXT |