5月の氷帝学園のイベントは、遠足、体育祭……中間考査(ボソ)

まずゴールデンウィークが終わってすぐの、登校日、そこでは遠足が行われる……んだけど。



「…………………なぜお城」

そうなのです、私は今、どでかいお城の前にいます。
……遠足って、山登りとかするんじゃなかったっけ?でも、城……?城来てどうするの?このような城を作れとでも言いたいのか……!?いや、でも氷帝学園ならありえる……!

、集合場所は向こう……何やってんだ?」

いきなり現れた、景吾のドアップ。
美しいお顔の突然の出現に、思わずのけぞった。

「わっ!?び、ビックリするなぁ……驚かさないでよ」

「あーん?お前が勝手に驚いたんだろうが。行くぞ」

ポケットに手を突っ込んだまま、景吾が身を反転させる。
その後を追いかけて、ざわざわとざわめく一団の中へ。

「……遠足って、どっか山登りとかするんじゃないの?」

「あーん?5月のこの陽気じゃ、山登りは寒いだろうが。だから、史跡見物。教養の一環でな」

「……なるほど」

「俺は点呼取りに行ってくる。お前はここから動くなよ」

ぽん、と景吾が1度頭に手を乗せてきて、そのまま去っていく。
クラス委員だから、こういうときの点呼も大事なお仕事。

私は言われたとおり、その場でじっとしていた。というか、人が多すぎて、動けない。

「あっ、おったおった、ちゃん」

斜め後ろからかかる声。
振り返れば、侑士がヒラヒラと手を振っていた。

「侑士、おはよう」

「あぁ、おはようさん。……はぁ、まったくかなわんなぁ、なして俺ら、城見に来なあかんねん。もうすぐ都大会やっちゅーのに」

人の波をかき分けて、侑士が傍にやってくる。
170cm越えの私たちが揃うと、後ろに人は見えないだろうな……と思いながらも、移動するのも大変なので仕方なしにその場で話す。

「そうだね、もう都大会……でも侑士はまだ出ないんでしょ?」

「あぁ。正レギュは関東大会からや。……っても、3人は正レギュいれとかんとまずいから……ジャンケンせなあかんねんけど」

「…………ジャンケン?」

「跡部は責任者として行くやろ。んで、それには樺地もくっついてくから……後1人、俺らの中でジャンケンして、負けたヤツが都大会出場するんや」

「………………そんなことで、出場メンバー決めてたの……?」

「まぁな。都大会なんて、関東行く前の準備運動みたいなもんやし。…………それはそうと、ちゃん」

侑士が真剣な顔つきで、がしっと私の肩を掴んだ。
眼鏡がキラリと光って……なんですか、怖いんですが。

「昼からの自由行動、一緒に回らへん?」

「へ?」

「ここの城内、動物園あるんやで。ゾウがおるらしいねん」

「ゾウ!?へぇ〜……」

「タダやし、一緒に見に……」

「ほぅ……面白そうなこと言ってんじゃねぇか。俺様も混ぜろよ」

「…………なんなん、跡部。自分は呼んでへんわ」

点呼から帰ってきた景吾が、侑士の肩をぐいっと掴んでいた。
侑士は嫌そう〜に景吾を見て、ぷいっと顔を背ける。

「な、ちゃん。サルもおるらしいで。一緒に見にいこ」

「貴様1人でサルと戯れてろ。、行くぞ」

景吾が私の手を引っ張って、サクサク歩き出す。
みんな移動を開始していた。

「えっ、あっ……侑士は?」

「ほっとけ」

「酷いやっちゃなぁ」

ベリッ、と侑士が私と景吾の手を引き剥がした。
くるりと私の方に向き直って、

ちゃん、こない酷い男はやめて、俺にしといた方がえぇって。俺なら愛の永久保証付き、医者やし、生活に不自由は絶対させんし、家は結婚と同時にマイホーム購入したる」

「……ゆ、侑士……?」

「絶対浮気はせぇへんし、生涯ちゃんだけを愛し続ける。家族計画は良く話し合おうな」

「忍足、貴様いい加減にしろ!」

「……小姑みたいな跡部がおっても、俺は全然構わへん。せやからちゃん、俺の―――」

ドカッ。

景吾の長い足が、明らかに使用用途として間違った使い方をされてます。
ズイッ、と侑士の胸倉を掴んで、ちゅーでもするのかというほど顔を近づけていた。

「貴様、ゾウのエサにでもなるか、あぁん?」

「跡部こそ、サルと仲良う遊んでた方がえぇんと違うか?」

「…………………………」

「…………………………」

睨みあってしまった2人。
私は、慌てて2人の間に入った。

「ふ、2人とも!み、みんなに置いてかれる!行こう!?」

「「コイツがいなくなったらな!!!」」

息もピッタリな2人。
…………ゾウさんのトコロに逃げ込みたくなっちゃったなぁ、もう(泣)





なんとか2人をなだめすかして、午前中は普通にガイドさんの説明を聞いて、お城の中を見学したり、城内を少し歩いたり。
きれいだねぇ、大きいねぇ、と言っていたら、景吾が『こんなもん、建てて欲しかったらいくらでも建ててやるよ』とか言ってきた。……景吾ならやりかねないので、丁重にお断りしておく。し、城が家とかは嫌だ……!あとべっきんがむ宮殿でさえ、ギリギリなのに……!

で、お弁当を食べて(お弁当は他のクラスの、がっくんやジローちゃん、亮も一緒に食べた)、午後の自由行動。楽しく自由に、この辺の散策をするハズなんだけど……。

、こっちにクジャクいるぞ」

ちゃんには、そんな派手なの似合わん。こっちはプレーリードッグがいるで。おいでおいで」

「何どさくさにまぎれての手握ってんだよ、離せ」

「跡部こそ、さっきちゃんの肩に手ぇ回しとったやないか」

は俺の女だ。肩抱くなんて当たり前じゃねぇか」

「誰が跡部のやねん。ちゃんはみんなのもんや」

「だから、は俺のモノだって言ってるだろうが」

「聞こえんな。ちゃんは、みんなのちゃんやねん。…………いずれ、俺のちゃんになるやろうけど」

「あーん?ありえねぇな、は跡部になるんだよ」

「忍足っちゅー方が、語呂もえぇわ。諦め、跡部」

………………………相変わらず、景吾さんと侑士さんは、人に聞こえないところで何かボソボソと言ってるし。
……んー、どうするべきか、これは。止めた方がいいのだろうけど……ダメだ、あの2人を取り巻くオーラが、どす黒すぎて近寄れない……!

というか……私、さっきからトイレ行きたくて我慢してるんですが……言い出すタイミングが掴めない(汗)
でも、そろそろ限界……!

「け、景吾……侑士……わ、私、ちょっとトイレ行ってくるね!」

言い残して、私はトイレに向かってダッシュ。
別に、そんな猛ダッシュするほど切羽詰ってるわけじゃなかったんだけど……と、とにかく真っ黒クロスケも裸足で逃げ出すほどの黒い2人のオーラから、逃げ出したかったのよ……!

少し離れたところにあるトイレ。
並んでる人がいなかったので、そのまま駆け込んだ。…………周りの人から見たら、相当我慢してる子に見えただろうな……。

とりあえずコトを終えて、ザーッと水を流し、手を洗いながら鏡で少し自分の顔を見る。
………………ダメだ、景吾とか侑士とかの美しい顔見た後だと、鏡って辛い……!(泣)

温風器で手を乾かし、外に出た。
け、景吾さんたち、真っ黒状態から解放されていればいいのだけど……!

心持ち遅い足取りで、テクテクと歩く。


……。

…………。

……………………。


「…………あれ?」


行けども行けども……景吾さんたちと出会えないのですが(汗)
なーぜー!?そんな距離も離れてないはずなんですけど!えっ、置いてけぼりですか!?そうなんですか!?放置ですか―――!?(パニック)

キョロキョロ、と辺りを見回して。


…………待てよ、ココ、どこだ…………?


そういえば……さっき見ていたところとは、違う角度でお城が見える気がする。
お城の周りの公園って、どこもあんまり変わらないから、道、間違えた……!?

そりゃ、会えないわけだよ……!

私は、とりあえずトイレの場所まで戻ろうと、方向転換をする。
…………ちょっと待てよ。ただがむしゃらに歩いてきたから、トイレがどこにあるかすら、もはやわからない……!

なんておバカなの、私……!これって、俗にいう。

『迷子』ってヤツじゃん……!

あぁぁ、中学3年生(しかも、元々は18歳だった)にもなって、迷子になるなんて……!

イヤ、まだ迷子になったというわけじゃ……!(強がり)
誰かに道を聞けば……そうだよ、そうすればいいんだよ!

とりあえず、その辺にいる人―――っと、男子学生(3人組)しか周りにいないな……あれ?今日は平日だから、学校もあるはず……サボりか、堂々と。しかも、城の周辺で。
でも、他に人がいないから仕方が無い。この人たちに教えてもらおう。

「あの、すみません……動物園って、どっちですか……?」

恐る恐る、話しかけた私に、ばっと男子学生たちの視線が集まる。
ヒィ、そんなガン見しないでください!

「あっれ〜、その制服……俺、さっき向こうでいっぱい見た」

「社会科見学かなんかだろ?……中学生?」

「えっ、あ、はい……えと、あの、動物園……」

「へぇ、中学生にしちゃ、背ぇ高いなぁ……なぁなぁ、どっから来たの?」

「へっ!?あ、と、東京、ですけど……あの、動物……」

「東京〜?今時の東京の中学って、社会科見学でこんなとこくんの!?うわ、俺だったら絶対サボるし!」

…………………ひ、人の話を聞け―――!(怒)
もういい、やっぱり普通の人が来るまで待てばよかった。こんなサボり学生に聞いた私が馬鹿だった!

「すみません、もういいで……」

『す』と言おうと思ったら、学生のうちの1人がニッコリ笑って、手を掴んできた。

「!?」

「で?動物園だったっけ。俺、案内してあげるよ」

「もう結構で……」

「俺たち地元だからさ。まかせてよ」

「いや、ちょ―――ッ」

もういいって言ってるだろ―――!
人の話をさえぎるな―――!!!
人の話を聞かなかったり、さえぎったり、大概にしてくれよ、もう!

手を引っ張られるので、必然的に足まで動くことになる。
スカートだけど、さっきの景吾さんみたく、蹴っ飛ばして逃げてやろうか……!

凶悪なことを考えてたとき。

ガシッ、と背後から肩を掴まれた。

「……見つけた……ッ!」

荒い息を吐きながら、私の肩を掴んでるのは。

「景吾!」

肩で息をして、ぐい、とシャツで額に浮き出た汗を拭う景吾。
私の手を掴んでいた男が、ちっと舌打ちをした。

「……中坊のくせに、男付きかよ……!」

そのまま、男たちは去って行った。
後に残されたのは。
………………荒い息を吐きながら、ものすごい力で肩を掴んでくる景吾と、私。

「……お前……なに、迷子になってんだよ……ッ」

「ま、迷子じゃな……!」

景吾が1度、大きく息をついて、息を整える。
その後、ジロ、と睨んできた。

「あのな……お前、明らかに俺らがいた場所と反対のところで、1人ふらふらしてるのを、迷子じゃねぇっつーのか?」

「…………ま、迷子でした…………」

「バカ」

小さく呟いて。
ぎゅっ、と景吾が抱きしめてきた。

「け、けけけ、景吾―――!」

「少しくらい、こうさせろ。俺様を走らせたバツだ」

そ、そんな―――!(絶叫)

密着してるから、いつもより景吾の鼓動が早いのがわかる。
くっついてる体は、少し汗ばんでいて火照っている。

…………そして、ピンポイントで耳に熱い吐息が吹きかかってくるんですが!(汗)

「け、景吾……!お、お願いだから、息を吐くのはもうちょっと離れて……!」

「……嫌だ」

「わ、わかっててやってるんですか―――!(絶叫)」

くっ、と景吾が喉の奥で笑う。その低い笑い声が、また耳にガツンと良くない刺激を……!

「……忍足の野郎と話してたら、お前、消えてるし……ったく、ちょろちょろしてんじゃねぇよ」

「と、トイレ行くって言ったもん……!それに第一、景吾と侑士がなにやら2人で黒々しいオーラを放っていたのが原因で……」

「あーん?何があろうと、俺様の傍を離れるなんて、言語道断だ」

「……えー…………」

なんとも俺様街道を突っ走ってくださる発言に、私は一言も返すことが出来ずに固まってしまう。
景吾が、耳元ではぁ、とまた息をついた。だからその息がヤバイんだって……!(泣)

「……お前、マネやってるときは、あんなにしっかりしてるのに、どうして日常生活はこんなふらふらしてんだよ」

「んなっ!ふらふらとは失敬な!」

「お前、本気で否定できんのか、あーん?」

……………………………。
そりゃ、ちょっとはマネージャーやってるときよりも、気が抜けてるかなー、とは思うけど。
ふらふらなんて、して、ない……ハズ(汗)

「……ったく、手がかかるやつだ……」

「あぁぁ、ごめんなさい……ッ」

「…………んなとこも、可愛いんだけどな」

景吾さん、公共の場で、爆弾発言。
なんってことを、この人はこんな場所で言うのか……!

「ちょっ、ちょっと景吾……ッ!」

「照れ屋だし」

「あ、あの、そろそろ離して……」

「すぐ真っ赤になるし」

「いい加減、人に注目されて……」

「……全部ひっくるめて、お前が可愛い」

「景吾―――!もう無理―――!ごめんなさいっ!私が悪かったです―――!(泣)」

半泣きで叫ぶと、景吾がクッとまた喉の奥で笑って、ようやく離してくれた。
あぁぁ、もう無理……!心臓も肝臓も腎臓も全部みんな口から出てきそう……!(混乱)

、顔真っ赤」

「景吾がさせたんでしょーが!……あぁぁ、全身の血液が顔に集中してる気がする……!」

ぺとぺと、と私は自分の手で顔を包む。冷えた手が、火照った顔を少しでも冷やすように。
と思ったら、今度は景吾が手を当ててきた……!
ヒンヤリとした両手で顔を包まれる。

「……熱いし」

「だから、景吾がさせたんでしょー!(泣)」

そして、今の行動でまた少し冷えた顔に、熱が戻ったともさ!
もう、この人は……!

、行くぞ。忍足たちも探してるしな」

景吾が手を握って歩き出す。
もう、それを振り払うことも出来なかった。



未だ、熱を持ち続ける顔と、繋がれた右手の熱。
どっちが熱いかなんて、もはやわからないよ……!



その後、同じように肩で息をしながら探してくれていた侑士と合流して、散々お説教された。


…………ご、ごめんよ、侑士兄ちゃん!(泣)

だから、息も途切れ途切れの掠れ具合が腰に響く、殺人的なエロボイスでお説教するのやめて―――!(大絶叫)




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