「ジローちゃん、頑張れー!」

「うん、頑張る!ありがと、―――!」

ようやく覚醒したジローちゃんは、あの裕太くん相手に、あっという間に試合を決めた。






「へへ、俺、の為に頑張ったCー!」

ニコニコと笑いながら、ジローちゃんが私のドリンクを受け取る。
……ジローちゃんが、試合に要した時間はわずか15分。あのリョーマさえも苦しめた、左殺しの裕太くん相手に、圧倒的なゲーム展開で勝利を収めた。

「お疲れ、ジローちゃん。マジックボレー、絶好調だったね!」

今日のジローちゃんのボレーは、本当に魔法のようだった。
あっという間にネットに詰めたかと思うと、柔らかい手首のタッチで、ドロップボレー、アングルボレー、様々なボレーを使い分ける。芸術といっても、差し支えないかも。

とにかく、やっぱりうちのレギュラーは強いんだぞ……!と、周りの人にアピールするのに、十分なほどの強さだよ……!

「……、行ってくる」

ジローちゃんとは反対側にいた景吾が、ジャージを脱ぎながら立ち上がった。
ポス、と私にジャージを渡す。

「うん。……頑張って」

立ち上がった景吾が、くしゃくしゃ、と私の頭を撫でた。

「0ゲームで勝ってくる」

「………………えーっと……」

それは願っていいのか、わからないよ!(泣)
あぁぁ、勝って欲しいけど、0ゲームで勝ったら、また羞恥プレイ……!景吾が勝つのは大前提として、少し、観月に頑張ってもらって、1ゲームくらいは取ってくれないかな……!?

微妙なお願いをしたのだけど。

………………やっぱり、そんなお願いは通じなかった(泣)






、0ゲームだ」

光り輝く笑顔で、景吾さんがコートから出てきた。
あぁぁ、本当に後光が見える……!けど、同時に黒いオーラも見える……!(泣)

「…………お、おめでと…………」

あの観月相手に、まったくシナリオテニスをやらせることなく、完勝。
……なんだか、普段の景吾からは見えない、言い知れない気合が見えたよ……!(が迫られたことに対する怒り+0ゲームご褒美の相乗効果)

今後起こることを考えるのは、ひとまず止めておいて(だって、怖いし)……と、とにかくこれでルドルフ戦は勝利。
最後の1試合は、北條が相手だった。
「0ゲームならご褒美」ってことで、景吾さんがシングルス3に登録しようとしていたのを、慌てて食い止めたのは、ここだけの話。……もう、勘弁してくださいよ……ッ!
オーダー表をささっと書いて、シングルス2になんとか景吾を登録した。北條はルドルフより格下の相手だったので、結局景吾まで回ることなく3試合連取し、私たちは関東大会の切符を手に入れることが出来たのだった。…………よ、よかった、色んな意味で……!

ニヤけながら、荷物を持って木陰へ移動。
閉会式を終えて帰ってきた景吾が、呆れたように息を吐く。

「……、顔、ニヤけてる」

ぺち、と頬に手を当ててくる景吾。
そんなこと言われても、この緩みっぱなしの顔は、どうにもできないもん。

「……だって、嬉しいしさ。へへ、関東大会!」

「……ったく」

浮かれる私に、景吾が少し苦笑してぽんぽん、と頭を撫でてきた。

「……ま、これでようやく、俺様の美技を見せてやれるってワケだ」

「大分見せてもらったよ〜。カッコよかった〜」

「バーカ。あんなもん、まだ序の口だ」

ニヤ、と景吾がいつもの笑みを浮かべると、みんながいるというのに、耳元に口を寄せてきた。

「関東では……もっともっと、酔わせてやるぜ?」

そんな言葉を、低い声で囁くのだ、この人は。
ババッと逃げようとしたら、ガシッと手首をつかまれた。

「……逃げんじゃねぇよ」

「に、逃げたくもなりますよ!(泣)」

公衆の面前で、そんなエロボイスに腰砕けになってるところは、見られたくないですから!

「は、はーなーしーてー!」

「却下」

「なぜっ!?(叫)」

ぐぐぐ、と顔を近づけてきた景吾から、なんとかして逃げようと試みる。
いーやー!みんないるでしょ―――!!
羞恥プレイにも程がある―――!

「……

ギャー!囁かないで―――!
パニックを起こしかけているうちに、どんどん景吾の顔が近づいてくる。
ダメだっ!もう、羞恥プレイを覚悟するしかない…………っ!
ぎゅっと目を瞑ったその時。

「……ちゃんに、何してんねん跡部」

背後から、良く聞きなれた声が。
瞬間、景吾の力が少し弱まったので、ぱちっ、と目を開いて、首をぐりっと捻った。
私の背後に立っているのは―――

「……侑士っ!」

ちゃん、お疲れさん」

―――!俺も来たぜ―――!」

ぴょこぴょこと侑士の後ろで跳ねてるのは、がっくん。

緩んだ景吾の手を剥がして、私はわたわたと立ち上がった。

「2人とも、来てくれたの!?」

「最終日やしな。…………そこにいる、狼にも注意せなあかんかったし

ぐわし、と景吾が侑士の襟首を掴んで引きずって行った。

……忍足、今ならテメェに、東京湾か相模湾、好きな方を選ばせてやるぜ?あぁん?

残念やな、俺は大阪湾しかご縁がないんや

なら、俺様の自家用ジェットで大阪湾まで空輸してやるよ……ついでに、俺様直々に、大阪湾に沈めてやる

あー、俺、飛行機苦手やから、遠慮しとくわー。……ちゃーん、ご苦労やったなぁ、疲れたやろー?」

侑士がやけに明るい声を出して、ぽんぽん、と頭を軽く撫でてくる。
……なんだか、景吾といい、侑士といい、人の頭撫でるの好きだよね……。

「勝手に、俺様のにベタベタ触んじゃねぇよ、伊達眼鏡」

「誰が跡部のやねん。人を所有物にしたらあかんでー?それに、度が入ってる入ってないで、眼鏡を差別するなや」

景吾と侑士がなにやら言ってる間に、私はキョロ、と辺りを見回した。

…………やっぱ、亮(&チョタ)は来てないか。

はぁ、と小さくため息をついた。

最近、ホント会ってないからなぁ……怪我ばっかり増えて……今度、チョタにでも場所聞いて、ちらっと見に行ってみよう。
チーズサンドとミントガム差し入れにして……でもチョタもいるから……あぁ、だけどビーフカッセロールやししゃも(本物)を差し入れにするのは無理……!

頭の中で色々考えていたら、侑士がニッコリ笑ってこっちを振り返ってきた。……素晴らしい笑顔なんだけど、その後ろの景吾の顔が険しすぎて、なんだか素晴らしさが半減してる気が……!(滝汗)

「どうやら、コンソレーションは圧勝やったみたいやな。ちゃん、頑張ったもんな。部活の時も、ずーっとデータ書き出しとったやろ?」

「あはは、見てたんだ。うん、圧勝だった!やっぱ、うちの学校、群を抜いて強かったよ」

「関東じゃ、俺らの強さ、見せてやるからな!、楽しみにしててみそ」

がっくんのお目目にメロキュン(何)
ほわ〜、としながら、がっくんを撫で撫でした。

「ところで、ジローはどこにおんねん?さっきから、見ぃひんけど」

「ジローちゃんなら、もう帰ったよ〜。『眠い……もうダメ』って呟いて」

……ちっ、アイツ……跡部をちゃんと見張っておくよう言うたのに…………そや、ちゃん。これから暇やったら、俺と映画見「、帰るぞ」

スコーン、と景吾が侑士の言葉をさえぎって、私の手を引く。
引っ張られた私は、軽く躓きそうになりながらも、歩いていくしかない。

「え、ちょ、け、景吾!?」

「お前、疲れてんだろ。さっさと帰って、風呂でも入って寝るぞ」

「えっ、ま、まだ夕方……って、違っ!侑士が何か言いかけ「気のせいだ

……………………Oh〜、景吾さん。あれを「気のせい」って言い切るのですか……なんだか、もうそこまでいくと、スゴイとしか言いようがないよ……!

「跡部、何勝手にちゃん連れてってんねん!」

侑士が、その長い足をフルに生かして、さっと追いついてくる。がっくんが、慌てて追いかけてきてるのが、可愛い……(コラ)
それすら目もくれず、景吾はさっさと私の荷物を掴むと、歩き出す(ちなみに、景吾の荷物は、ずっと樺地くんが持ってくれてる。姿が見えないから、車にでも届けてくれてるのだろう)

「勝手に?俺様たちは、ただ普通に帰宅の途に着こうとしているだけだが?俺とが帰る家は同じだからな」

「……おのれ、跡部……どこまでも憎いヤツ……俺かて、住めるもんなら、ちゃんと一緒に住みたいわ……!そしたら、俺が毎日起こしてやって、飯も一緒に食うて……一緒に登校とかして……!」

「俺たちが毎日やってることだな。お前には一生無理だ、諦めろ」

「いーや……もしかしたら将来、俺が毎日起こしてやって、ちゃんが作った飯、食うたりするかもしれんやないか……!」

「ありえねぇ。いい加減、そのどうしようもない頭をなんとかしろ。…………、行くぞ」

「わわわ……け、景吾、転ぶ!」

「転んだら、抱きとめてやるから、とりあえず、あのバカから離れるのが先決だ」

有無を言わさない景吾の口調に、逆らえるはずもなく。
なんとか転ばないように(抱きとめるとか、サラリと言ったけど……やめて!)、景吾の速い歩調に合わせて歩く。

羨ましいヤツや、跡部……ッ

会場を出るとき、小さく侑士が何かを呟いた。




結局、こんな微妙な感じで。

都大会は、幕を閉じた。




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