そして、やってきたコンソレーション当日。



「ジローちゃん、おーきーてー!」

「ぐー……」

私は、集合場所である入り口のところで、フェンスにもたれながら寝ているジローちゃんをゆさゆさと揺さぶっていた(汗)

みんなはすでに移動している。ジローちゃんが起きないから、私だけ残って起こしているわけだ。
ふっ、とジローちゃんの目が開く。

ほっ、と息をついた。ようやく移動できる……!

「……あー、ー。おはよー……」

ぎゅーっとジローちゃんが抱きついてくる。ふっ……もう慣れたもんよ……!……それでも、恥ずかしいけどね……!入り口だから、人がいっぱいだしね……!注目されてるよ……(泣)!

「おはよ、ジローちゃん。もうみんな移動し……」

「……ぐー……」

「って、また寝てるし!(光速ツッコミ)」

抱きついたまま、ジローちゃんがまた寝息を立てていた。
仕方なしに、私はジローちゃんを引きずりながら歩き出す。

コンソレーションは、準決勝で負けたウチ(氷帝)、聖ルドルフ、北條、箕輪台の総当り戦で決着がつけられる。
北條、箕輪台は大丈夫だと思うけど……やっぱり気になるのは、聖ルドルフ。観月を初めとして、赤澤、金田コンビも要注意だし、裕太くんもいるしね……見ておいた方がいいよね、やっぱり。

ちょうど第1試合は、聖ルドルフ対北條。
…………見に行っておこうっと。



景吾がやってきた。みんなを更衣室に連れて行って、自分は着替えずに戻ってきてくれたみたいだ。
私の腰にジローちゃんがしがみついてるのを見ると、ピクリ、と眉を上げた。

「……ジローのヤツは何をしてんだ」

「1回起きたんだけど、また寝ちゃってさ……仕方ないからこのまま連れてきた」

話してる間も、ジローちゃんはしがみついたまま寝ている。……立ったまま寝るとは、すごい子だよ……バランス感覚がいいのか?(なんか違)

「おい、ジロー。起きろ」

景吾がジローちゃんの手を引き剥がしつつ、ジローちゃんの耳元に怒鳴った。
ジローちゃんは、その声にも負けず、未だ眠りの中。
むにゃむにゃ、と口を動かして何か言った。

……んー、、柔らかい〜……気持ちE……ぐー……

私はよく聞き取れなかったんだけど、それを聞いたとたん、景吾が恐ろしいほどの剣幕でジローちゃんを引き剥がした。
抱きつくことによって体勢を維持していたジローちゃんは、私という柱を失ってヘロヘロと地面に座り込んだ。

「ん〜……あれ?」

「ようやく起きたか……ジロー、さっさと更衣室行くぞ」

「んー……」

ふらふらとジローちゃんが立ち上がる。

「あ、景吾。私、着替えたら聖ルドルフ戦見てくるから。部員たちに、テーピングは後でって伝えておいてくれる?」

「あーん?ルドルフ?……あんな奴ら、見るまでもねぇだろうが」

「あなどっちゃいけませんって!聖ルドルフ、強いと思うし。データはあるに越したことないでしょ?……ってなわけだから、行ってきます!」

「あ、オイ、!」

時間もないし、私は景吾の返事を聞かずに、女子更衣室までダッシュした。
相変わらず、氷帝ジャージを取り出すと注目される。何かを言われる前に、手早く着替えて荷物を持ってコートへ。

すでに試合は始まっていた。

「えーっと……あれが、赤澤くんのブレ球か……ここから見てる分には、ブレてるようには見えないけどなぁ……」

カキカキ、と私はノートにデータを書いていく。
赤澤くんは、パワーも強いし……金田くんとの相性もいいみたいだなぁ。このコンビは、厄介だぞ……。

「……んふっ……中々、いいデータを取っていますね」

「あ、ありがとうございます、まだまだで……うぇっ!?」

な、なななな、なに!?
バッと振り返れば、そこには腕を組んで笑っている……観月はじめ!?
うわ、本物!?マジで『んふっ』って言ったよ、この人!うわわ、石田さんボイスだよ……!(興奮)

「み、観月……さん……!?し、試合中じゃ……!」

「北條中なんか、この僕が出るまでもありませんね。それよりも、貴女の方が気になりますよ。氷帝学園3年、マネージャーのさん?」

「な、なななな、なんで私のことを……!」

「んふっ……この1週間で氷帝のデータは調べつくしました。もちろん、貴女のことも存じていますよ」

トン、と人差し指を頭に当てて、んふっ、と笑う観月。
し、調べた!?な、なぜ私まで……!
観月が1歩近づいてくる、その顔にあの笑みを浮かべて。
なんとなく怖くて、私は1歩後ろへ下がった。

「優秀なマネージャーだそうで……」

「いえっ、そんな、滅相もない!(汗)観月さんに比べたら、まだまだヒヨッ子の分際でございます、ハイ!」

「謙遜する必要はありませんよ。200人の氷帝部員をまとめあげていると評判ですから」

じ、実際まとめてるのは景吾だから!

ブンブン、と首を振って否定しているのだけど……観月はだんだん迫ってくる(汗)
いや―――!その声を、ごくごく近くで聞かせないで―――!

「あ、あの、観月さ……は、離れ「どうです?我が聖ルドルフで、更にその力を伸ばしてみては」

……………………………………………え?
な、なんですか、今……人の話をさえぎって、この人はなにを話そうと……。

「我が聖ルドルフでは、優秀なコーチの元、マネージャー、トレーナーとしての勉強が出来ます。スポーツ特待生ほどではありませんが、助成金も出ますし、寮での快適な生活もできますよ」

「え、あの……」

「貴女のその優秀な才能……もったいないですね……ルドルフに来たら、僕が更にその才能を伸ばしてあげましょう」

ズズズイ、と観月が迫ってくる。
うわあぁぁぁ、こ、怖い……!何この人!マジでスカウトに命賭けてない……!?

「いや、あの……!」

「僕と共に、聖ルドルフを全国へ導きましょう。……さぁ、氷帝からルドルフへ」

あぁぁ、ダメだ、後ろはフェンス……!これ以上下がれない……!でも、この観月は怖すぎる―――!!!
観月が私の前に迫ってきた。
私よりも背が低いくせに、威圧感で圧倒されて、フェンスに追い込まれた。

「おい、コラ。何してやがる」

観月の背後から聞こえる声は、景吾のモノだ。
バッと観月が振り返ったときに、景吾の顔がちらりと見えた。
あぁぁ、良かった……助かった……!

「……んふっ……これはこれは、跡部くん、今日の試「、行くぞ。さっさと来い」

バッチリ観月の言葉を無視して、ぐいっ、と景吾が私の手を引っ張った。
その力の強さにたたらを踏みながらも、なんとか歩き出す。

ん―――……失敗ですか

観月が小さく悪態づく声が聞こえた。





その後、ズルズルと景吾に、建物の影に引っ張り込まれた私。

、お前1人でいるから、こんなことになるんだぞ」

肩を両手でぐっと掴んで、景吾が目を覗き込んでくる。

「だ、だって……ルドルフのデータ、欲しかったし……」

「んなもんいらねぇよ。……この俺様が出るんだ、負けるワケねぇだろ」

「そ、そりゃそうだけど……でも、準レギュの子とかに……ほら、あの赤澤くんって、ブレ球っていうクセ持ってるし……」

はぁ……と景吾が小さくため息をつく。
それと同時に、肩から背中へ手を回されて抱きしめられた。

「け、景吾……!」

「……お前はな、自分がどれだけ目立つかわかってねぇんだよ……」

「はい?」

目立つ……?そりゃたしかに、氷帝ジャージを女の私が着てる時点で結構な目立ちようですが……あぁ、さらにこのデッカイ身長のおかげで、目立つのか!
でも、景吾や侑士たちに比べたら、全然目立ってないと思うよ!(断言)

「…………どんどんいいマネージャーになっていって……知れば知るほど、ドコの学校だって欲しがる……」

「け、景吾さん……?」

「……ったく、いっそのこと俺の腕から離さないでやろうか?」

「はいぃぃぃ!?」

ぎゅーっと景吾が腕の力を強める。
私は、とにかく誰かに見られてないか必死だった。こ、こんなとこ見られたら、氷帝ジャージ着てる時点で、かなりの敵意が向けられてるのにさらにイヤな展開に……!

「け、景吾、そろそろみんなと合流しよ……!?」

アップとかもあるだろうしさ!
わたわたと慌てながら言うと、景吾はようやく離してくれた。
はぁ……よかった、なんとか誰にも見られてない……!

「……、手」

「え?」

「手、出せ」

言われたとおり、右手を差し出すと、ぎゅっと握られた。
…………………え?
そのままズンズン歩き出す景吾。

「え、ちょ、ちょっと景吾!まさかこのまま……」

「このまま行く」

「イヤ―――!!!手繋いでるとこなんて見られたら、確実に私、他校の生徒から襲撃食らうから!!はーなーしーてー!」

「却下」

嫌がる私を尻目に、景吾はそのまま歩いていく。
あぁぁ、ついに人目に触れてしまった……!

周りの人が、驚いてこっち見てるよ……!イヤー!そんなに見ないで―――!(泣)
誰か、今見たことを消去できる秘密道具とか持ってませんか……!?(持ってません)

……聖ルドルフの観月か……俺様が直々に相手してやるぜ

青いネコ型未来ロボットに助けを求めていた私は、景吾の小さな呟きを聞くことはなかった。



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