「神奈川、相原第一、12番!……次、栃木、教陽中学―――」

近づいてくる、順番。
栃木が終わったら、今度は東京。
3位の銀華、4位の不動峰、そして、5位の氷帝の順に、クジを引くことになる。

「はぁ〜〜〜……銀華っ!!」

原作通りのその掛け声に、やはり決められている未来なのか、と思う反面。
…………ちょっとだけ、力が抜けた。






「生まれ変わった銀華魂を見せてやるぜ!…………あ」

以前、練習試合で会ったときより、ちょっとだけ成長してる(?)福士ミチル。もっとも、成長したのは外見だけで、中身はあんまり変わってないみたいだ。

「次、東京、不動峰中、前へどうぞ」

「じゃあ、お先に」

橘くんがガタン、と席を立つ。
多分、大舞台には慣れてるんだろう。微塵も緊張とか感じさせない。

「橘さん、頼みますよ」

「おう」

リズム神尾の声に笑みさえ浮かべて、堂々と前へ。
抽選ボックスに手を入れるのをじっと見つめる。

……不動峰が終わったら、今度こそうちの番。
さっきからずっと握っていてくれる景吾の手を、再度、きゅっと握りなおした。

「……東京、不動峰中、5番!」

不動峰は5番で、山吹と同じブロックへ。
東京は出場枠が多いから、どうしても同じブロックに入る確率も高いんだよねー……だけど、ギリギリで立海のブロックとは違うから、いい方だと思う。

「不動峰中?聞いたことあるか?」

「いーや、ねぇなぁ。初出場らしいぜ、カモだな」

多分、最初の対戦相手、神奈川の糸車中だろう。

「ちっ」

神尾君が小さく舌打ちをした。
悠々と戻ってきた橘くんが、それを制止する。

「言わせておけ」

……本当にこの人は大物だ。いくつもの大舞台を乗り越えてきたからだろう。
糸車もかわいそうに。まさか、ここにいるこの大仏さん(オイ)が、九州二強の1人、獅子楽中の橘だとは思ってもいないのだろう。

……いいか?」

立ち上がった景吾が、手をちょっと動かした。
そこで、ハッと気付く。今度こそうちの順番だというのに、まだ景吾の手を握り締めたままだということに。

「うわっ、ごめん!」

これじゃ、景吾が動けないじゃん……なにやってるんだよ、私ー…………。
ばっと手を離して、もう1度『ごめん』と謝った。

「いい。……じゃ、行ってくる」

ぽん、と私の頭に手を乗せ、景吾が立ち上がった。
前へ歩いていくのを、祈るような思いで見ていた。

…………もうクジも半分以上が引かれている。
その中で残っている場所は限られていて―――そう、その残っている場所に。

青学と当たる、15番も残されている。

原作どおり行けば、15番に氷帝が入ることになる。

勝ち上がっていけば、いつかは当たる相手だろう。
だけど―――1回戦で当たるのは、あまりにも早すぎる。

景吾が抽選ボックスの中に手を入れた。

会場中が、景吾に注目している。
氷帝がどこに入るか、みんな気になるのだろう。

妙な静寂。
息苦しいくらいの沈黙だ。

ふっ、と景吾が動き―――高々と、紙を掲げた。
この場所から、紙に記された番号は見えない。

だけど、見たことのある景吾の優雅な仕草。
そして、紙をみて一瞬驚いた大会委員の先生の表情で―――全て、わかった。



「…………15番、氷帝学園」



わっ、と会場が沸き、いきなりの東京同士の戦いについて騒ぎ始めた。
私の後ろに座っていた、大石君が『えっ?』と小さく言ったのが聞こえた。

全てが耳に入ってきてから、はぁ……と小さくため息をつく。

―――やっぱり、原作の方向に話は進んでいく―――

逃れられない運命ってことなのだろうか?
変えられない未来ってことなのだろうか?

とにかく……時間は元には戻せない。
もちろん、クジの結果を変えることも出来ない。

うちの1回戦は―――青学、そう決まったのだ。

未だざわめいている会場を、まるで気にする様子もなく景吾が戻ってくる。
座る直前に―――後ろの青学2人に振り返った。

「……というわけだ、覚悟してろよ、あーん?」

「いい試合をしよう」

「…………こりゃタイヘン……」

いつものように自信たっぷりの景吾。
全然動じていない手塚くん。
ものすごい動揺してる大石くん。

私の心境で一番近いのは、当然、ものすごい動揺している大石君だった。







「……それでは、抽選会を終了します。各自、解散してください」

ようやく全ての抽選が終わった。
とりあえず、持ってきたノートにトーナメントを書き写す。
後日、各校にFAXで送られてくるけど、その前にみんなに報告するためだ。

「じゃ、俺たちは帰るとするか」

「さよーなら、さん。また今度!」

まず、不動峰の2人が立ち上がった。

「うん、じゃあね。橘くん、杏ちゃんにもよろしく言っておいてね」

「あぁ。また会場で会おう」

手を振ってきた神尾くんに、ヒラヒラと手を振り返して、トーナメントを書き続けていると。
今度は後ろの席で、動きが始まる。

「大石、書き終わったな?では、俺たちも帰るとしよう」

「あぁ、ちょっと待ってくれ、手塚。……よし。……じゃあさん、跡部。お互い頑張ろう」

「うん。……よろしくね」

コク、と手塚くんが1つ頷いた。
そして、青学の2人も帰っていく。

「ごめん、景吾、書くの遅くて」

「焦らなくていい」

ん、と返事を返しながらも、カリカリとトーナメントを書き続ける。
最後、15、16のところで、一瞬手が止まったけど―――意を決し、書き込んだ。

15. 氷帝
16. 青学

カリ、と最後の文字を書き終え、シャーペンをペンケースの中に仕舞った。
ノートも閉じて、カバンの中へ。

「お待たせしました」

「じゃ、行くぞ」

歩き出した景吾に続いて、私も立ち上がる。
まだ会場に残っていた人の視線を受けながら、ドアをくぐり抜けた。

「跡部くん!ちょっといいかな?」

ドアを出た先で、景吾が声を掛けられた。
声をかけてきたのは―――月刊プロテニス記者、井上さんと芝さん。

…………これが熱い男、井上さんね……!!
あ、芝さん、顔ちっちゃくて可愛いー……。

「どう?初戦が青学に決まった感想は?」

「別に特別な感想はないですよ。上へ行くには、いずれ戦わなければならないですからね。それが早いか遅いかの違いで―――今回は、たまたまそれが1回戦だった。ただそれだけのことですよ」

「ふむふむ……おそらく、シングルス1は君と手塚くんの対戦になると思うけど……手塚くんとは初対決だよね?どうかな、なにか言いたいことはある?」

「……ま、これでどっちが上かを見せてやれるってことですね。もちろん、俺様のほうが上に決まってるがな。なぁ、?」

「けーごさーん……」

井上さんの目が、キラ、と光って(怖っ!)私に向く。

「君は……氷帝のマネージャーだよね?」

「は、はい……」

「はじめまして、月刊プロテニス編集者の井上だ。これ、名刺」

「は、はぁ……」

「どう?氷帝は青学との1回戦に決まったわけだけど……さっき見てた限りでは、青学の選手とも懇意みたいだよね。どんな気持ち?」

「え?えーと……うちの部員には、全力で戦ってもらうだけです。いい試合をしてもらいたいです……」

「うん。マネージャーの君から見て、青学の選手で、誰か注目してる選手はいる?」

「え?えーと……(汗)」

ど、どどどどうしよう……井上さんがメモを手に、ズズイ、と迫ってくるから、めっちゃ怖いんだけど……!答えるまで逃がさないぞっていう雰囲気だし……あぁ、でも、こういうのって、やっぱり答えない方がいいのかな……下手なこと言ってもあれだし……あぁぁぁぁ(混乱)

心の中での葛藤を読んだかのように、景吾がぽん、と頭の上に手を乗っけた。

「井上さん、あまりコイツをいじめないでやってください。こーゆーのに、慣れてないんでね。……、全部律儀に答えなくていいぜ」

「う……ごめんなさい」

「いやぁ、すまないね、ついつい」

「井上先輩ってば……ごめんね」

芝さんがニッコリ笑って、フォローしてくれた。
あ……可愛いvv(オイ)

と思ったら、今度は芝さんがズズイ、と前に出てきた。
今度は反射的に少し身を引いてしまった。

「えーっと……でね、1つだけ、聞いてもいい?」

「は、はぁ……」

「女の勘なんだけど……もしかして2人、付き合ってたりする?」

「へっ!?」

突拍子もない質問に、声がひっくり返ってしまった。
慌てて口を噤むが、1度出た声は戻らない。は、恥ずかしい……!

「ふふ〜……そーいう反応っていうことは……」

「……ご想像に、お任せしますよ。なァ、?」

景吾は、ニヤといつもの笑みを浮かべて、飄々と芝さんにそう言うけど。
私は生憎、そんなにパッと切り替えが出来る脳みそではないのですよ……!

「うっ……あっ……えと」

「ふふ、かーわいぃvv あ、私、芝沙織。どうぞよろしくね、ちゃん。あ、今のは記事にしないから、大丈夫よ」

「あ、よろしく、お願い、します……」

いいように扱われてる、私……(泣)

「また改めて、氷帝にも取材に行かせて貰うことにするよ」

「えぇ。……じゃ、そういうことで。……、行くぞ」

「はーい……」

井上さんと芝さんに頭を下げ、先へ行く景吾の後へ続く。

確実に、物語は原作へと動き出していた。




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