抽選会場に入ったら、ものすごい勢いで集まる視線と、ヒソヒソと聞こえるざわめき。 「おい、氷帝の跡部だ……」 「今年は、都大会5位通過らしいぜ」 「だが、氷帝は関東からレギュラーだからな……ってオイ」 「「「隣の女はなんだよ?」」」 ………………注目するのは、景吾さんだけにしてください……(シクシク) ざわざわと周りが騒ぐのも気にせず、景吾はいつものように自信満々の顔で前へ進んでいく。 その後ろに隠れるようにして私も前へ進んだけど―――生憎、隠れられるくらいの大きさじゃないのよね、私の体……!(泣)あぁもう、こーゆーとき、無駄にデカイ体は困るっての……! 「け、けーご……あの、さ……私、やっぱり、外で待ってるよ。……あっ、立海は練習してるみたいだしさ、ついでに偵察がてら、見てきたり「ダメだ」 …………………Why? 即答却下の理由を、目で求めたんだけど、景吾は小さなため息をつくだけ。 「(……立海の奴らの中に1人で出せるわけねぇだろ)」 …………何か聞いちゃいけない雰囲気なので、そこで黙っておくことにした。下手に聞いても怖いし……! 仕方なしに、少しでもたくさんの目とかち合わないように、少し下を見ながら歩いていたら。 「ちゃんっ!!」 いきなり大声で名前を呼ばれ、反射的にビクッと体がびくついた。 目線が合わないとかなんとか、もう気にしてる場合じゃない!なにっ!?私、一体何かしましたかー!?(パニック) バッと顔を上げたら、前方にぶんぶん、と手を振る人影。 「ちゃーん!!!」 「…………キヨッ!?」 満面の笑みで手を振っているのは、そう、オレンジ頭の山吹中、ラッキー千石。 ビックリして名前を叫ぶと、ぱっとキヨは笑顔になって、ばひゅん、と言う音がふさわしいくらい、ものすごい勢いで近寄ってきた。 とは言っても、私の前には景吾がいるから、結局キヨは景吾の脇から顔を覗かせているんだけど。 「うわー、うわー、ちゃんも抽選会に来たんだー!」 景吾の脇から、ぴょこぴょこキヨの頭が見える。 えーっと……景吾さんが立ちふさがってるから、話しにくっ……!(汗) 「あ、う、うん……」 「……おい千石。邪魔だ、退け」 「(無視)クジも引かないみたいだし、なんのために俺、ここに来たんだろーって思ってたけど、そうか……ちゃんに会うためだったんだー!やっぱり俺って、ラッキー♪」 にょきっ、とキヨの手が景吾の脇をぬけ、私の手を取り、ぶんぶんと振ってくる。 ……せ、千石さん……景吾さんの存在、無視してませんか……? そーゆー行動を取ってると…… 「千石……聞こえなかったのか。退け」 ……ほーら、景吾さんご立腹されちゃうんだよ……! あぁぁ、怖い、怖い……景吾が前を向いてるから顔は見えないけど……怖すぎる……! べしっ、と景吾がキヨの手を叩く。 少し赤くなった手を見て、キヨがようやく景吾に向き直った。 「……相変わらずだなぁ、跡部くんってば」 「テメェもな。……、この辺でいいだろ」 景吾がトン、と肩を押してきた。座る場所は各自自由、適当に座ればいいから、この辺に決めようということだ。 「あ、ちゃんソコ座るの?じゃ、俺もそっちに行く〜!」 「おい、千石!お前はまた、勝手にそういう……!」 前の方で、イガグリ頭の人が声を上げた。 …………おぉ、地味ー's 南。初対面。 意外とそんなに地味じゃないぞ。頭が自己主張してるし(え) 「いーじゃん、南〜。なんなら、南もこっち来れば?」 「ったく……自己中なヤツめ……!」 文句を言いながらも、南がこちらへやってくる。 おぉぉ、間近であのイガグリ頭を拝見させていただけるのね……!カモン、イガグリ!(違) 「……奥つめろ。そっちの壁際に座れ(そうすりゃ隣は俺様だけだ)」 「は、はい……」 頭はイガグリモード(なにそれ)だったんだけど、言い知れない景吾の威圧に押され一気に吹っ飛ぶ。すごすごと1番壁際の席の方へ進んでいった。 荷物を下に置いて、いざ座ろうと思ったら。 「俺たちもここに座っていいか?」 後ろから聞こえる声。 あまりにも知りすぎているその声の主に驚き、座りかけていた間抜けな体勢で、思わず止まってしまった。 「て……手塚くんに大石くん!?」 髪型の独特度なら、イガグリにも負けない、ナチュラルなびき髪の手塚くんと、こちらは全国的に有名、ムーンヘッド大石! 「久しぶりだな、、跡部」 「ビックリしたよ、まさかさんが来るとは思っていなかったから」 相変わらずな表情の手塚くんと、対照的に素晴らしい笑顔の大石君が、普通に私の後ろの席に座る。 「……お前ら…………」 景吾が呆れたように手を顔にやった。 前の方から移動してきたキヨたちは、私の前の席を陣取る。 「じゃ、俺たちはこっちね〜。あ、ちゃん、うちの部長の南」 「やぁ。……南健太郎、山吹の3年だ」 「あ、はじめまして!氷帝学園3年、マネージャーのです」 ペコ、と挨拶をしていると、今度は、隣に座った景吾の方から違う声。 「おう、この間は妹が世話になったみたいだな」 「こんにちは、さん!」 …………不動峰中まで、ご登場〜…………。 うわっ、ちょっと、何これ……こんな狭いスペースに東京4チーム集結!? これがあれか……噂の、『強いヤツは大体トモダチ』ってヤツか!(1年トリオ参照) 「あれ?なんで千石はさんのこと知ってるんだい?山吹と氷帝は、都大会では当たってないよな?」 「ふっふっふ〜……それはね、大石。偵察に行った時に、運命の出会いをしたからさ!」 「にはそんな運命ねぇよ、いい加減なこと言うな、バーカ」 「橘さん、うちはクジ何番目に引くんですか?」 「うちは都大会4位通過だから、3位の銀華の後だ」 「そういえば手塚、お前んトコの1年坊主はどうだ?」 「……ん?あぁ、南か。どこから声がしてるのかと思った」 「ぐっ……!」 「「「さすが地味's!!」」」 …………み、身の置き場がない……ッ!(汗) こんな豪華メンバーの中で、絶対、私1人浮いてる……! あぁ、でも、このメンバーを思う存分観覧できるって考えれば…… 「?どうした?」 「………………なんでもない。みんなが美しすぎて、ちょっとね……」 「「「「「は?」」」」」 おっと、正直に言いすぎてしまった……! でも、みんなそれぞれ違うタイプの美形なんだもーん……見てて飽きないしー(開き直り) 「あはは、何言ってんの、ちゃんってば〜!ちゃんの方が全然可愛いじゃーん、あはは!」 はーい、千石清純さーん、無茶なフォローはやめましょうねー。 こんな美形軍団に囲まれて、そんなフォローされても、悲しくなるだけですよ! 「ありがとう、キヨ。君の優しい心だけ受け取っておく。…………あ」 しゃべっていたら、いつの間にか時間が来ていたらしい。大会の委員らしい先生達が、続々と壇上に上がっていた。 「……いよいよ、か」 大石君が小さく呟いた。 それが聞こえるくらい、いつの間にか会場が静まり返っていた。 この抽選会が、それだけ大事だということを、この会場にいる全員がわかっているのだ。 試合になれば、純粋な力と力の戦いだけど……それ以前に、どれだけいいブロックに入れるか、が重要だ。こう言っちゃ何だけど―――弱い学校が集まっているブロックに入れたら、あまり苦労もなく勝ちあがれるから、いざ勝ちあがったときの疲労も少なくて済む。まさしく、運も実力のうち、ということ。 だから、まずは、どこの学校と戦うよりも前に、 この抽選が、第一の戦いだと言える。 すぅ、と大きく息を吸った。 知らず知らずのうちに、手を硬く握り締めていたら。 「…………?」 景吾の手が、ふと私の手に触れて、握り締めていた手を解いた。 行動の意味を問うために、ちらっ、と見たら、『シッ』と小さい制止の声。 みんなは、抽選会が始まる、ということで、もう壇上の先生達に注目してる。 だから、気付いてはいない。 景吾が、軽く私の手を握り締めてくれたことに。 誰にも見えない机の下で、景吾と私の手は繋がっていた。 まるで緊張と不安を取り除くかのように、景吾の手が温かく包んでくれる。 もう1度景吾を見たら、いつもの自信満々な笑い。 ……きゅっ、と私も、手を握り返した。 「……これより、全国中学生テニストーナメント、関東大会の抽選会を始めます。名前を呼ばれた学校は、前に出てきてクジを引いてください。まず、神奈川、城成湘南―――」 今、最初の戦いが始まる。 NEXT |