珍しく目覚めが良かった。
爽快な目覚めは久しぶりで、いつものけだるさは微塵もない。

視線を感じて目線を移動すれば、景吾も目覚めていて、私を見ていた。

「…………目ェ、覚めたか?」

「ん。……おはよ、景吾」

そう言って初めて、まだ手がつながれたままだということに気付いた。







いつもの通り、朝の支度をして。
2人揃って、朝食を取る。

いよいよ今日は抽選会。
景吾は、立海大付属に行って、クジを引いてこなくてはいけない。
神奈川のNo.1(もちろん立海)に、東京のNo.1とNo.2(青学と山吹)、千葉のNo.1(六角)はシードに決まってるから、行っても行かなくてもいいんだけど、その他の学校は強制参加。

今日は部活もあるけれど、そんなわけで景吾は欠席だ。

、行くぞ」

「あ、う、うん」

返事をして、すでに玄関まで来てくれていた車に乗り込む。
1度氷帝まで行って、私を落としてくれてから、景吾は改めて抽選会場に行くのだろう。
そう、思ってた。

…………そう、思ってたんだけど。

「………………あのー、景吾さん……」

「あーん?」

「………………学校までの道順と、違わないですか?」

跡部家を出て、氷帝に向かうには、大通りを駅方面に向かう必要がある。
……だけど、今向かっているのは、駅方面じゃなくて、高速方面。

「学校?……俺たちは、抽選会場に行くんだろうが。……起きてるか?

起きてますとも。バッチリと。
だけど、言われた言葉が、即座に理解出来なかったのよ!

「……抽選会場〜〜〜!?なぜなにWhy!?今日は景吾だけが行くんじゃないの!?」

「は?お前も一緒に行くに決まってんだろ」

「き、聞いてない!っていうか、第一、マネージャーなんかが行っていいものじゃないんじゃ……!」

「別に、マネージャーが行っちゃいけねぇなんてことはないし、うちは副部長がいねぇから、部長の俺とマネージャーのお前が行くのが普通だろうが?」

「そ…………っ(思考中)…………………そうなの?」

「そうなんだ(キッパリ)……ほら、まだ立海に着くまでは時間があるから、少し寝たらどうだ?朝、中途半端な時間に起きて、ゆっくり休んでねぇだろ?」

「えーと……でも、景吾のおかげで、目覚めはすっごい良かったからへーきだよ」

本当に、あれだけスッキリ目が覚めたのは久しぶりだった。
景吾がまるで安定剤みたいだ。

そう言ったら、なんだか景吾がすごく嬉しそうな笑顔を向けてくれた。

…………うぁっ……その笑顔反則!反則〜〜〜!!!(赤面)

「……そうか。ならよかった」

肩を引き寄せられ、コツン、と景吾の頭がぶつかる。
ヒィィ、やめてぇ、私の心臓の音が伝わってしまう……!

「だが、目覚めはよくても、疲れが取れてるわけじゃねぇぞ。お前、ここ最近は、がむしゃらに働いてたしな。……いくら寝ても損じゃねぇ。寝とけ」

「うっ……あっ……は、はい……っ」

「…………おやすみ」

耳元での超絶エロボイスで、うたた寝どころじゃなく、永遠の眠りにつきそうだった。






で。

目が覚めたら、でっかい校門の前。

「…………うわー、ついこの間来たばかりの立海大付属、こんにちはー……」

考えてみれば、この間立海に来たのは、もう昔のことみたいだけど、たった10日前くらいだ。
………………その時は、あんまり喜ばしくない思い出が残ったのよねー……(遠い目)
うっ……今思い出しても、心臓によろしくない……!

、何やってんだ?行くぞ」

「アイアイサー……」

てくてく、と広い校門を抜け、景吾に導かれるままに歩いていく。
ところどころにある案内板が、正しい道を進んでいることを示していた(まぁ、もっとも最初っから景吾が間違えるはずがないとは思ってたけどね)

「はぁ……でも、いよいよ抽選会か……ドキドキしてきた」

「あーん?別に関係ねぇだろ。どーせ、全部倒すんだしな」

「………………さすが景吾さん」

そりゃ、全部倒したら組み合わせも何もないだろうよ……。

でも。

ふっ、と脳裏をよぎった、原作のあの場面。
景吾が悲しげな笑みを浮かべて、パチン、と指を鳴らすシーン。

鮮明にあのシーンが頭に蘇る。

コク、と小さく喉を鳴らした。

「?……?」

突然立ち止まった私を訝しがって、景吾が振り返った。
ハッと意識が覚醒する。

…………ダメだダメだ。悪いイメージを持ってたら、どんどん悪い方向に行ってしまう。
今までやってきたこと、それが私達の力。

「どうした?」

「……なんでもない。だいじょぶ」

「…………お前の『大丈夫』ほど信用ならねぇものはねぇんだけどな」

「あ、酷っ!…………あー……じゃ、1つだけ、聞いてもいい?」

「なんだ?言ってみろ」

景吾が近づいてきて、少し身をかがめ、視線を合わせてくる。

「………………氷帝は、強いよね?」

脈絡もなく、こんなことを言うなんて、明らかに不自然。
だけど、景吾は何も聞かずに、ふっと小さく笑うと、くしゃりと頭を撫でてくれた。

「当たり前だ」

「…………だよね!」

「あぁ。……ほら、もう着くぜ」

景吾が指差したのは、最後の案内板。

『テニストーナメント 組み合わせ抽選会場』

遠くに見えたその文字に、覚悟を決めた。




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