何をあげようか、散々迷ってた。 何かプレゼントをあげるにしても―――私が持っているお金は、跡部家が出してくれているお金だ。……ということはつまり、景吾のお金、ということでもあるわけで。 気にしないで使っていい、とは景吾ママたちからも言われてるけど。 このお金で、プレゼントを買うのは、なんとなくイヤだった。 1人で悩んでいても埒があかない。 誰かに相談しよう―――と思って、ふと思いついたのが、ハンスだった。バレンタインのときなんかも相談に乗ってもらったし……今回も何か助言をもらえるかもしれない。 思い立ったら即行動に移さないと。悩みすぎて、もう時間は限られている。 そう決断すると、シェフたちがいる部屋に向かった。 厨房近くの大きな部屋。シェフたちの控え室として使われている場所だ。 そこに近づくと、解放的なドアから、シェフたちの話し声が聞こえてきた。 「今年はどこのパティシエを呼ぶんだろうな……」 「そうだなぁ……去年は銀座の『Eternal』のパティシエだったし……主だった店のパティシエは、あらかた呼んだんじゃないか?」 「……あのー……」 ドアからひょこっと顔を出して、小さく声をかけた。 パッとシェフたちの顔がこっちを見て、笑顔を向けてくれる。 そして、1番早く反応してくれたのは……やっぱり、1番の顔なじみ。 「!どうしたの?おなか減った?」 座りなよ、と椅子を指し示してくれたので、お礼を言いながら、そちらへ向かう。 「ハンス、私がここに来る理由、お腹が減ったとき、としか思ってないでしょ……」 まぁ、大抵がその理由で、なにか食料を求めてここにやってきてるんだけども!ここには、食事のあまりモノがあったりするからね。簡単なものなら、すぐに作ってくれるし。 「違うのかい?」 「今日は違いますー。……実はさー、相談があったんだけど……」 「……あった?過去形だね?」 日本人のシェフも、なんだか面白そうに身を乗り出している。 ぽりぽり……と頬をかく。 「……えーっと…………あの……今の話なんだけど……その、ケーキの……」 そこまで言うと、ピン、と来たのか、シェフたちの顔が変わった。……このお屋敷の人たちは、皆、察しがいい。 「ちゃんのケーキに勝るものを作るパティシエなんて、どこにもいないよ!」 「私は、早速宮田さんに言って来よう。今年はパティシエを呼ばないように!」 「何がいいかな?シンプルにショートケーキ?いや、でも……この時期だから、マロンケーキなんかもいいね……」 「この間、いいチーズが手に入ったよね?甘さ控えめのレアチーズとかもいいんじゃないか?」 楽しそうにプランを立て始めたシェフたち。 盛り上がっている中、小さな声で、それでもしっかり言っておいた。 「あ、あの……つ、作れる範囲で!」 私の技量は限られてるからね……! そんなわけで、シェフたちと話し合って、結局無難に、ショートケーキを作ることになった。 問題は作る時間。 やっぱり、ケーキは生ものだから、時間が経てば品質は下がる。 まぁ、1日やそこらじゃそうでもないけど……やっぱり、なるべくおいしいものを作りたい。……技量がないから、その分新鮮さで勝負!(なんか違) 夕食の時に出すとすれば、学校が終わってすぐに帰って作れば大丈夫だ。 だけど……この際だから、景吾に内緒であげたい。 お屋敷の人たちも大分乗り気で、みんな色々なお祝いを考えてくれた。 どうせなら、それも全部全部内緒で……となると、学校が終わってから夕食の間まで、景吾は家にいてもらっては困る。 ではどうするか? そこで、私は侑士に頼むことにしたのだった。 景吾がいないタイミングを見計らって、侑士を呼び出す。 「侑士〜、ちょちょちょ……こっち来て〜」 「どないしたん、ちゃん?」 やってきてくれた侑士を、柱の影に誘導する。 「頼みたいことが、あるんだけど…………」 「俺に頼みごと?嬉しいわ〜。なんやねん?」 「あの、さ……4日の日、放課後から2時間半……3時間くらい、景吾を引きとめててくれないかな?」 「?4日……あぁ…………跡部の誕生日か……」 ふっ、と侑士がちょっと遠い目をした。 でもそれも一瞬で、すぐにまた笑顔に戻る。 「……しゃーないなぁ、ちゃんの頼みごとやしな……誕生日祝いっちゅーことで、岳人たちとなんとかするわ。なんかするん?」 「うん、お屋敷で準備がね……ごめん、変なこと頼んで」 「えぇって。……あ、そや。それならこのお礼に、今度の日曜日、映画行ってくれへん?ラブロマンスの見たい映画あんねんけど、1人で行くのはちょおとな……(普段は1人で行ってるけど)」 「そんなんでよろしければ、いくらでも付き合うよ〜」 「(よっしゃ……!)ほな、また詳しいこととかはメールでもするわ」 「うん!ホント、ありがと〜!」 「こちらこそ、な」 こちらこそ、なんて変なの……。 ちょっと首を捻りながらも、下準備は完了。 後は当日、だ! そして当日。 侑士とちょっと話し合って、私は後輩に居残りを頼まれたことにした。 後は侑士の演技と、私のヘボ演技で、景吾はがっくんたちとお誕生日パーティーへ。がっくんたちにも事情を話してあるから、大丈夫だろう。みんな、『面白そう』と、快く協力してくれた。 景吾たちが学校から出るのを教室で見届け、私はダッシュで裏門まで向かった。 裏門には、すでに迎えに来ていた車。すぐに乗り込んで、出来る限りの速さで家まで戻ってもらう。もちろん、運転手さんもサプライズのことは知っている。いつの間にか、お屋敷総出でのサプライズになっていた。 屋敷に戻って、制服から着替えるのももどかしく、厨房へ急いだ。 厨房ではもう、シェフたちが忙しそうに動いていた。 それでも、一箇所だけ場所を空けてくれている。そして、そこにはケーキの材料が置かれていた。誰かが準備しておいてくれたらしい。 「ありがとうございますっ」 「がんばって!」 近くにいたシェフにお礼を言って、あらかじめ貰っておいた、スポンジケーキのレシピを取り出す。 わかりやすく書かれたそのレシピ通りにやれば、自分で作ったとは思えないほどのスポンジケーキが出来上がった。 焼きあがったケーキを冷ましながら、ホイップクリームを泡立てる。 テニス部マネージャーの根性で、電動ミキサーを使わずに、手でかき混ぜた。 そして、チョコプレートにチョコペンで『HAPPY BIRTHDAY KEIGO』と書く。 それが終わる頃に、ちょうどスポンジケーキも冷め、デコレーションをはじめた。 途中、ちょっとずつシェフに手伝ってもらいながらも仕上げたケーキ。 かかった時間は2時間半くらい。 よし、なんとかなる……! 着々と料理が作られていて、お屋敷には花が飾られた。 私はそのまま迎えるつもりだったら、メイドさんたちに強引に着替えさせられた。 「宮田さん……変なトコ、ないですか……?」 「とてもお似合いですよ」 「うぅ……えーっと……もう、呼んでも大丈夫ですよね……?」 「はい、準備は整っております」 深い笑みを浮かべてくれた宮田さん。 1つ息を吸い込んで、携帯のボタンを押した。 NEXT |