朝練に行ったら、部員に熱烈歓迎された。
マネージャーの仕事を、なんだか手伝ってくれる人がいっぱいいた。
中には『先輩がいなければ、僕達もう生きていけません……!』と言ってくる子までいた。
その子達は、みんな景吾に怯えてるみたいだ。
…………私がいない間に、なにをした、景吾よ…………(正解は、機嫌が悪くてしごきまくった)



Act.21  の中が、ぐーるぐる



昨日学校を休んだ私は、意気揚々と(全身はまだ痛いけど)登校した。
いやー、学校っていいね!1人で寝てるだけって、ホントつまらないよ!

自分の席で、次の授業の準備をするのが、こんなに愛しいなんて……!
今日は、女子生徒のチクチク視線も少ないし……!

ちゃん、昨日やったとこわかるかー?」

侑士が片肘を机につきながら、話しかけてきてくれた。
……なんだか、笑顔全開なんだけど。どうした、侑士。

「一応景吾に教えてもらったんだけどさー…………はぁ、数学、マジわからないよ……ホント、こんなんで期末考査無理……!」

「どこわからないん?」

「…………えーっと……ぶっちゃけ全てが?わからないところがわからないって、こーゆーコトを言うのね、っていうか……」

「とりあえず、教科書の重要ポイント、もう1回読み返してみ。そんで、公式覚える」

「うん……頑張る…………うー……侑士、この問題さー、どの公式?」

「あぁ、その問題はVの公式や。んで、開いて……そう、それをこっちに移項すればキレイになくなるやん」

「なくなった―――!すっごい!!ありがと〜。……んで、これは?」

「それはやな〜……」

「おい」

景吾が振り返ってきた。
何回もこーゆーコトあったんだけど……それでも慣れない。
突然綺麗な顔がこっちを向くと、ドキッとしちゃうんだよね……。

「数学のテストは、大体出るところが決まってるからな……ココとココと……それからココ。しっかり復習しておけ、いいな?」

「えっ?あ、ちょ、ちょっと待って!もう1回!」

「なんやねん跡部。俺とちゃんのおしゃべりタイム、邪魔すんなや」

「お前とのじゃねぇ。俺との時間だ」

「わー!何言ってるのさ、2人とも!ってか景吾!それより、数学の出るところもう1回!」

なんだか睨みあってる2人だけど、それよりも私にとって重要なのは数学のコトなのだよ!

睨みあっていた侑士が、ふっ、と笑った。
続いて景吾も口の端をあげる。

「ど、どうしたの?」

「いや……やっぱ、ちゃんがおるとえぇなぁ、と思って」

「はっ!?……よくわからないけど、光栄です……?」

、ココとココとココ。…………わかったか?」

景吾が指し示してくれた箇所に、ラインマーカーで丸をつける。
よしっ、ここはとりあえず暗記しておこうッ!

「そや、ちゃん、監督んとこ行ったか?監督、ちゃんのことものっそい心配しとったで」

「あー……昨日家に帰ったら、薔薇届いてたし」

そうなのだ。
昨日、なぜか太郎ちゃんから薔薇が100本も届いた。
ビックリしたよ、あれには……そして、万単位のお金を使わせてしまったことに申し訳なさを感じたよ……!太郎ちゃん、薔薇は高いのよ……!?アメックスのブラックカードかもしれないけど、お金は大事に使おうね……!?(小市民)

「お昼休みにでも行ってくるよ。きっと音楽室にいるだろうし」

「あぁ、。そういえば3月に銀華中と練習試合をするそうだ」

「へっ?」

景吾の突然の言葉に思考停止。
……練習試合?
銀華……って、あぁ、腹痛のとこ!(イヤな覚え方だな)

に、試合の雰囲気を味合わせようという監督の配慮だ」

「………………ん?私に?…………私、ただのマネージャーなんですが」

おかしくない?
試合の雰囲気に慣れさせるとかって……普通選手に向けてやることじゃ…………。

「細かいことは気にするな。詳しい日程は未定だが、一応頭に入れておけ」

「了解いたしました」

…………太郎ちゃん…………何を考えているのだ……?





昼休み、音楽室へいくと、太郎ちゃんが演奏しているのが聞こえた。
うっわー……何がうまいのかはわからないけど……すっごい音……!
なんか、音の波が押し寄せてくるみたいだ……!

1曲終わるのを待って、音楽室のドアを開けた。

「太郎ちゃん」

。来ていたのか」

「はい。ご心配おかけしました。…………演奏すごかったです」

「聞いていたのか。……入ってくれて構わなかったんだが」

いや、それでも演奏を邪魔したくなかったのですよ……。

「もう風邪は平気なのか?」

「あ、はい。……ちょっと色々痛いところはあるんですけど、今日からはまたバリバリ働きます!」

「そうか。……あまり無理はするなよ」

「はいっ!」

「では、行ってよし!」

ペコリ、と頭を下げて音楽室を出た。
太郎ちゃん……心配かけてごめんよ。
今日からは、ホントにバリバリ働くからね!





という私の決意に反して。
テスト前なので、部活は早めに切り上げられることになった。
せっかくの私の決心が……!(泣)

それでもちょっと勉強の時間が増えたから、それはそれでいいのかな……?

家に帰ったら、勉強勉強勉強!
こんなにマジメに勉強したことなんてないよ……ッ。

「On seeing me, he began to run away.…………これと同じ意味で違う文」

「えーっと……No sooner had he seen me than he began to run away」

「意味は?」

「私を見るとすぐに、彼は逃げだした」

「よし、次。…………Every time I go to the store, I run into him. Every timeと同じ意味の単語は?」

「Whenever」

「同じ意味で違う文」

「うっ…………ヒントは?」

「Iを主語に持ってくる」

「えーっと…………あっ、I never go to the store without running into him!」

「正解。和訳しろ」

「…………私は、その店にいくたびに、必ず彼に出会う」

よし、と景吾が本を閉じた。
…………はぁ〜、と脱力する。

頭の中が英語だよ……うぅ、私、話せるのは日本語だけで構いません……!
ポン、と景吾が頭に手を乗っけてきた。

「疲れたか?」

「すこ〜しね……頭の中にアルファベットが浮かんでるだけだよ……」

「少し休憩にするか」

景吾は内線電話に手を伸ばし、お茶を頼む。
どうやらリフレッシュのために、ハーブティーを頼んでくれたらしい。

景吾がくしゃくしゃ、と私の髪の毛をかき乱す。
…………何をするんだ。

「髪の毛くしゃくしゃになる…………」

「お前、髪質変わったよな」

「へ?…………そうかな」

髪を直しがてら、自分でも髪の毛を触った。
マジマジと観察とかしないからよくわからなかったけど……確かに少し髪質が変わったかもしれない。

「俺様の髪質に似てきた」

「いや、それはない!景吾の方が、サラッサラでふわっふわだもん」

「…………あんまり変わらねぇとは思うが」

あー……もしかして、シャンプーとかのせいかも。
私と景吾、同じシャンプー(高級品)使ってるから、髪質似てきたのかもねー……。

コンコン、とノックをして、メイドさんが入ってくる。

カチャン、と2つカップを置いて、ハーブティーを注いでくれた。

「ありがとうございます。…………はー、おいしい」

ハーブがこもりきった脳内をリフレッシュしてくれるよ……!

、今日は、先に風呂入るか?」

「んー……景吾先入ってきていいよ。私、もう少し勉強してから入る」

そうか、と言って景吾が立ち上がる。

「風呂上がったら、また来る」

「うん、いってらっしゃい」

ヒラヒラ手を振って、もう1度勉強再開。
ひたすら単語を紙に書く。

最初のうちは、お風呂じゃなくてシャワーで済ましていることが多かったんだけど、最近は跡部家バスルーム(ルームというには大きすぎるけれども)を使わせてもらうことの方が多い。

跡部家バスルームはとにかくすごい、の一言に尽きる。
まず、風呂石が大理石だし、お湯は流しっぱなしだし(止めたくなる)、もう色んな意味ですごい。お風呂のサイズは、うちの風呂場よりも大きいし!足を伸ばすドコロの話ではない。銭湯もビックリだよ。
なのに、使う人は私と景吾くらいなものだ。景吾しか入らなかったら、お湯がもったいないじゃん!?だから、なるべくお風呂に入るようにしてる。…………景吾が使った後のお風呂に入るのは、なんか恥ずかしいけど、私が先に入るよりマシ。大分慣れた。

景吾はしずかちゃんなので、お風呂タイムは結構長い(それでも大分短くなったらしい)。
…………あのお風呂の時間が、すばらしい美貌を作り上げる要因の1つですか……!?(マジメ)

って、そんなことを考えてる場合じゃない!
勉強勉強勉強…………!
ひたすら単語を書く。単語を……単語を…………。

「あ〜〜〜〜〜!頭の中グルグルする〜〜〜!!!」

いっぺん脳みそ取り出して、英単語全部書き足して入れてやりてぇ!
跡部家の力で、脳みそに後10本くらいシワを書き足す手術とか出来ないかな!?(無理です)
ホント、絶対無理だよ10位以内…………。
10位以内に入れなかったら、どうなるのかな……?
副会長になれないのは別にいいんだよ(いいのか)むしろ、なったらなったで大変そうだし。…………だけど。

なれなかったときの景吾の行動が怖いんだよ!(泣)

景吾さん、なんだか最近おかしいから、何をするかわかったもんじゃねぇ!

頑張れ私!
私の輝かしい未来のためにも、頑張るんだ!
景吾のわけのわからない行動よりも、副会長になるほうがまだマシ……な気がする!

言い聞かせて、私はまた、勉強を始めた。



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