Act.41 満場一致の、ミーティング 放課後。 中3メンバーは久々に部室に集まり、景吾が若から聞いた事情をかいつまんでみんなに説明した。 薄暗い部室内でプロジェクタが稼働している。 景吾が指し示したスクリーンには、若が持っていたプリントが映し出されていた。 「……という理由で、こうして緊急ミーティングを開いたわけだ。……樺地、電気をつけろ」 「ウス」 パッと部屋が明るくなる。 ……と当然みんなの様子が一気にわかるようになるわけで。 「……おい、岳人。ジローを起こせ」 「OK。……おい、ジロー。ジ ロ ー !!!起きろー!」 部屋が暗くなっていたことで、一気に眠りの世界に入国していたジローちゃんを、がっくんがゆさゆさと揺さぶって起こした。 「……んあ?終わった?」 「……後で誰か内容教えてやれ」 うーす、と亮やがっくんが返事をしたのを聞き届けてから、景吾が一度咳払いをした。 「……で、だ。劇を行うことは決まっている以上、今日最低でも決めたいことは、やる題目と配役だ。それが決まらないと、台本やセットなどの準備に取り掛かれない」 確かに、とみんなが頷いた。 「オリジナルの台本は今から準備するのは難しい。ここはやはり、誰でもストーリーを知っている古典名作か童話がいいだろう。台詞も覚えやすいしな。……何か提案はあるか?」 バッ!!! 景吾の問いかけに、いち早く手を挙げた人がいた。 …………眼鏡が無駄に光り輝いている。 「…………………」 景吾は、一瞥。 「…………………誰か、他「コラ、跡部!無視すんなや!」 「跡部……後がうるさいからさっさと当てとこうぜ」 がっくんの言葉に、ハァ……と景吾がため息をついた。 「…………なんだ、忍足」 「白雪姫や!もちろんちゃんが白雪姫、んで俺が王「却下だ。はい次」 ………………えーと。 「ほな、シンデレラはどうや?シンデレラがちゃんで俺「宍戸、なんか意見ないか?」 「俺かよ!?……そーだなー……」 ポリポリ、と亮が頭をかきながら思案する。 その間に、バンッと机を叩いて侑士が立ちあがった。 「……せやったら、裸の王様はどうや?跡部が王様で。これ以上ない配役や……俺は裸を指摘する役やったるわ」 侑士のゆら〜り、とした視線に、とうとう景吾のこめかみがピクリ、と動いた。 「……いい加減黙らされてぇのか、忍足。テメェは1人で白雪姫の魔女でもやってろ!」 「したら、ちゃんに毒りんご食わせた時点で連れ去るわボケェ!そんで俺がキスしてハッピーエンドや!」 ギャアギャア、と言い合い始めた2人を、みんなは「あー、始まった……」と眺めた。 しばらくそれを見続けた後、がっくんがぽつりと若に聞く。 「日吉、2年であがった意見なんてのはねぇの?」 「具体的な題目まではあがってませんね。わかりやすく童話あたりがいいとは言っていましたが」 「ま、確かに誰でもわかる話がいいよな。童話ならなんか適当なヤツすぐ見つかりそうだし」 「それが意外に難しいんですよ。ほら、童話とかって登場人物が多すぎたり少なすぎたり、極端なんで」 確かに、と頷くみんな。 「あ、じゃあ竹取物語はどうですか?」 ちょうど今古典の授業でやってるんですけど、とチョタが言った。 その一言が、結構しっくりきて―――侑士と景吾の言い合いも止まる。 「…………なかなかいい案かもしれねぇな。おい、樺地。今すぐパソコン立ち上げて『竹取物語』を検索しろ」 「ウス」 「竹取物語なら、ナレーションを多くすれば覚える台詞も少なくて済みそうですね」 「おばあさんだけぬかせば、登場人物は全員男で出来ないかなぁ?」 「となると、今ここにいるメンツで人数もちょうどいいんじゃね?」 「日吉の家から着物借りられへんの?一応、うちにも何枚かあるけど」 「うちにも作務衣くらいならあるぜ」 あれよあれよと言う間に話が進んでいく。 その中で私は1人、嫌な予感を胸に抱き始めていた。 「じゃ、題目は竹取物語でいいな。次に配役決めるぞ」 セットや小道具などの目処が立ったので、あっさりと竹取物語に決定。 さっそく配役決めに入った。 「まず、かぐや姫はで「ちょっと待ったァ!!!!」 ほら、嫌な予感的中じゃないですか!!(泣) 「絶対反対!断固反対!どーして私がかぐや姫!」 当たり前のように言いきった景吾と、それを当たり前のように聞いてたあなたたちに疑問を投げかけます!! 「あーん?お前以外の誰がやるんだ。女役だぞ?」 「私以上にかわいらしい子がいるのでそちらを推薦します!ジローちゃんとがっくん!さあ、いざかぐや姫へ!」 「何言ってんだよ、!俺らに女装しろってのか!?」 「(それもすごく見てみたいから理由の1つだけど!)じゃあ、これ以上私を目立たせてどーするつもり!」 ただでさえ全女子生徒から恨みを買う役職についてるというのに! いくらおいしい思いをしているからといって、これ以上欲張ったら、今度こそ何が起こるかわからない。 頭上から植木鉢とか! お弁当に毒薬とか!! 誰も知らない僻地へ送られるとか!!! ……………………(ゾワッ) ヒィィ……恐ろしい恐ろしい……! 自分で想像した数々の仕打ちに身震いをして、私は改めて決意を固める。 「私なら他の役……月からの使者とかそーゆーので!ほら、出番が少なくて、セリフも少なくて、顔があんまり見えなさそうなやつ!」 グッと拳を握りしめて、精いっぱいの自己主張。 …………をしたつもりなんだけど。 ニヤ、と景吾が、微笑んだ。 「………………顔が見えなければいいんだな?」 「…………え?」 今まで、何度も見たことがあるその笑顔。 ……勝てたためしがない、笑顔。 「……セリフ、ちょこっとだけやったらえぇんやな?」 「………………ちょっと」 侑士の、心が読めないポーカーフェイス。 「出番、少なければいいんだな!!」 眩しすぎる笑顔で何も考えられなくするチビーズたち。 「ちょ、みんな一体な「若、お前の家に、日舞用の扇とかあるか?」 私の言葉を遮って、景吾が意気揚々と若に確認をする。 「はい。祖母のものでよろしければ」 「よし。……かぐや姫は扇で顔を隠しながら演じることとする。竹取物語は奈良時代初期の時代設定だとされているが―――執筆されたのは平安時代だ、時代設定を平安時代に合わせればいい。平安時代は男の前で女性が顔を見せることは稀だった時代だからな」 「え、ちょっと……」 「かぐや姫自体のセリフは元々そう多くないやろ。それに、扇の裏にセリフ書いた紙とか張り付ければ、万が一台詞が覚えられなくても大丈夫そうやな」 「難題に挑戦する男たちにスポットを当てれば、かぐや姫自身はそんなに出番が多くなりませんよね」 「あの、みなさん……」 「「「「「「「かぐや姫、やってくれるよな?」」」」」」」 「……………………………………………ハイ」 ニッコリ笑ったみんなの顔。 ……………………………………………白旗。 心の底から平穏な学園生活を願う私に……また1つ難題がふりかかった(涙)。 NEXT |