始業式。

いつものように学校に行った、私たち。

普段どおり、何気なく登校したんだけど。

「あ……跡部様!?」

事情を知らない女子生徒たちは、一気に景吾に注目した。

その騒ぎがようやく収まったのは―――学校が始まって3日後のことだった。



Act.8 たな学園生活、新たな問題勃発



景吾の髪が短くなったことに、ようやくみんなが慣れた。
試合を見に来ていた人が多かったことや、噂で広まっていたこともあり、景吾の髪が短くなったってコトは大分知られてたみたいだけど……やっぱり、実際自分の目で確認したかったらしく、始業式の日なんかは3−Aの教室前に人垣が出来ていた。
それはもうすごい人垣だったけど、徐々にそれもなくなっていって……景吾の短髪のカッコよさに逆に騒ぎになったりしたものの、なんとか事態は沈静化してきたようだ。

だけど。

「……なんか友達が見たって言ってたんだけどさー」

「あー、知ってる知ってる。例のテニス部マネでしょ?」

「そうそう。あの試合の時も、一緒のお車で帰ったみたいよ」

「毎日、同じ車での登下校だし」

「なんか、遠い親戚だとは言ってるけど、ねぇ……どう思う?あの噂」

「……本当なのかしらね」

「跡部様と一緒に暮らしてるって……」

違うところで火種がついていた。





密かな噂としては、前々からあったみたいだけど……それが、こうして拡大したのは、部活がなくなった所為だと思う。登下校の時間が、一般の生徒と同じ時間になって、人目に触れる時間が多くなったから。

でも実際、私はそんな噂があるなんてことは、今の今まで知らなかった。

そう。

さん!私たち、あなたのお家にお邪魔したいのだけど……!」

ものすごい表情のクラスメイトたちの襲撃がなければ……!(汗)

さんと跡部様が親しいのはわかってるつもりなの。でも……まさか、跡部様のお屋敷で一緒に暮らしてるなんてコト、ないわよね?いくら、遠い親戚でも……ねぇ?」

「え……え?ちょ、ちょっとなんの話……」

「あつかましいお願いだとは重々承知よ。だけど、私たち、あなたのお家の話を全然知らないし……ごめんなさい、疑ってはいけないと思ってるんだけど……一目見れば納得するから」

そこまで聞いて、ようやく私は事態を把握したのだった。
つまり……景吾と一緒に住んでないか、私がちゃんと『家』にいるか知りたいってことらしい。

でも。

それは……無理だ!!

やっぱり私も、景吾と同居してるなんてことがバレたらマズイとは思ってたから、今まで跡部家でお世話になっていることはひた隠しにしてきた。家族のことは、『いない』というと、みんなが深く突っ込んでこなくなったから、そのままにしておけたし。

けど……今回のこれは……(汗)

みんなの目がギラギラと異様な輝きに満ちている。
……私は今、クラスメイトたちの違う一面を見ている…………!?

さん……それとも、もしかして本当に……?」

「えっ!?えーと、その、いや……そーゆーわけでなく……今までちょっと忙しくて、散らかってたりとか……」

適当にはぐらかそうにも、部活や生徒会活動がほとんど終わった今には、良い言い訳も思いつかない。

くっそぅ、こんなことなら最初に嘘なんてつかなきゃよかった!(滝汗)
でもでも、あの時点で景吾と同居してるなんていったら、私は体育倉庫に置き去りですまなかったかもしれない。それこそ、北極に置き去りくらいにされてたかも!……誇張じゃなく!

当時の身の安全を考えるときっとベストだったんだろうけど、今となってはあのときの嘘を後悔せざるをえない。
『遠縁だから、身よりもいないしお世話になってる』と最初から言えばよかったのだ。でも、変に『違う家で暮らしてる』みたいなことを言ってしまったから……いまさら、言い出しにくい!

「もちろん、さんの都合がいい時で構わないし!家の都合もあるだろうから」

そもそも、この世界に来た瞬間に私の『家』は失ってるし……来て以来、ずっと跡部家にお世話になってる。だから、『家』というと……。

「いいじゃねぇか」

どう答えようか迷っているところに聞こえた声。
私はバッと後ろを振り返った。

そこにいらっしゃるのは、紛れもない景吾さん。

いつからそこにいたんだろう……いや、それよりも、どこから聞いてそのセリフを言ってくださってるのだろう!タイミング次第では……大変なことになる(汗)

「家に来たいっつってるんだろ?なら招待すればいいだろーが。どーせ見られて困るものなんてねぇし」

突如現れた景吾に、女子生徒は多少おののきながらも、口を開いた。

「……跡部様は、さんのお部屋にいらしたことが……」

「あーん?当たり前だろ、なんてったって……」

ワァァァアア!ま、まぁたまーにね、遊びに来たりするのよ、たまーに!本当にたまーに!」

オイ、と何か言いたげな景吾に、必死の形相で『それ以上何も言わないで!』とテレパシーを送る。1度開きかけた口を閉じてくれたのを見ると……景吾は、この魂の叫びをなんとかキャッチしてくれたようだ。

「そうなの……跡部様もつい最近いらしたの?」

「え、あぁ、まぁ……えっと……」

ヤバイヤバイヤバイヤバイ!!!(滝汗)
なんか、話が危ない方向に向かってる気がする!!
そして、あからさまにみんなの目が敵意を含んだ!!!

「……そう。なら、私たちが伺っても大丈夫かしら?大丈夫よね、跡部様がいらっしゃってるんだものね」

「え、えーっと……」

「来週の日曜日、空いてらっしゃるかしら?」

「へ?」

空いてらっしゃるかしら?(ニッコリ)

「ハ、ハイ!」

「そう。……なら、来週の日曜日、伺わせていただくわ。また詳しいことは後日。……では」

「…………では?」

ニコッ、と笑って(でも目は笑ってない)去っていくクラスメイト。
取り残された私は、ただ呆然とそれを見送るだけ。

でも、言うべき一言は、わかってる。



どーするよ!!!(滝汗)



「……なんなんだ、一体?うちに来たいってんなら、別に来させりゃいいじゃねぇか。うちはいつでも客を迎える用意は出来てるぜ?」

さらっ、と危険発言を言う景吾様。
あぁ、やっぱり景吾、中途半端なところだけ聞いてたんだー!!

「違うんだよ、景吾!彼女たちが来たいのは『うち』なんだけど、『うち』じゃなくって……!えぇとつまりその……!」

そこから、私は景吾に今の状況を説明した。
景吾は眉をひそめて不思議そうな顔をしていたけれど、数分かけての渾身の説明にようやく状況を理解してくれたらしい。
その上で、こんなことを呟いた。

「……まぁ、そもそも……学校的にも公にはしたくない、ということで、俺も公表は控えてきたしな」

「え?」

「一応、俺とお前が一緒に住んでいることは校長から口止めされている」

そう言われてみれば、校長先生とかは私の住所が跡部家だってことは知ってるんだ……。

「遠い親戚とは言っているが、俺達の年代で、他人の男女が一緒に暮らしてるなんて外聞的にはあんまり良くねぇだろ?俺様は別に気にしねぇが、世の中まだ凝り固まった頭の持ち主が多いからな……何より、変な噂で損するのは、女であるお前の方だ」

「あー……」

「別に、クラスメイトくらいなら問題はないとは思うが……」

「いや、大有り!なんていうか……違う意味での問題勃発!」

ある意味、外聞よりも危険!!
私の命の危機!

「あぁぁ……どうしよう……!今からアパート探して、間に合うかな……!」

頭の中でこれからやらなければならないことを列挙していたら、景吾がふぅ、と息を吐いた。

「…………俺様がなんとかする」

「……え?」

「アテがある、大丈夫だ。…………家に帰ってから、説明するから、とりあえず今日はもう帰るぞ」

なんでもないような顔をした景吾に手を引かれ。

「え?…………アテ?えぇぇ!?」

景吾の考えを読むことが出来なかった私は、ただ疑問符を繰り返した。




NEXT