ちゃ〜ん、来たで〜」

もうそろそろお昼、という時間帯。
大きな花束を持ってやってきたのは、侑士だった。
明け方に帰ったから、私と同じくあまり寝てないと思うんだけど……いつもと変わらない、美形っぷり。どうして美形っていうのは、常に美形なんだろう……!(景吾とか)

「侑士、おは……あっ!」

「……さん!おめでとうございます!」

「ビビったぜ、ったく……ま、おめでとさん」

先輩……と、跡部部長。おめでとうございます」

「ウス」

「みんな!!!」

侑士の後ろから、わいわいと入ってきたのは、チョタ、亮、若、樺地くん。つまりは、昨日いなかったレギュラー全員だ。

「下でちょうど会うてん。あれ?跡部は?」

今ちょっと出てる、と言うと『そうか〜』となぜだか嬉しそうに言う侑士。……どうした、侑士。
亮がお土産をテーブルに置いて、こちらを向いた。

「夜中にメールきたかと思えば、『子供が生まれた』だもんな……聞けば、忍足たちは生まれるまで病院にいたっていうし……」

「俺だって知らせてくれれば、飛んできましたよ。……忍足さん、恨みますからね」

「……鳳、すまんかった。このとーりやから、その笑顔、やめてくれんか」

……チョタってば、最近さらに笑顔が怖くなった気が……!じ、人生経験が豊富になるたびに、笑顔に深みが増すのかしら……!?(そんなバカな)

若が物珍しそうに、部屋の中を眺めてから(そりゃそうだよね、こんな豪華な部屋、眺めたくなるよね……!)、会話に参加してくる。

「ホントに……忍足さんは、肝心なところが甘いんですよ」

「色々といっぱいいっぱいやったんやって。あ、岳人たちも、もうすぐ来るって連絡入ってたで」

がっくんたちも……朝まで付き合ってくれたのに……嬉しいなぁ、そんなに気にしてもらえるなんて。

「……ほんで、どうや?経過は」

「すこぶる順調!ちょっと寝たから、体力も戻ったよ〜」

「そらよかったわ。……お、赤んぼ、一緒におるやん」

侑士が花束を置いて、保育器にいる赤ちゃんに近づいていった。
ついさっき、母子同室の許可を貰って、赤ちゃんはこの部屋にやってきていた。

「うん、さっき来たんだよ。ナイスタイミング」

どれどれ、と亮と若が赤ちゃんに近づいていく。
ひょいっと覗き込んで、うっ、と2人が呻いた。

「…………おいおい…………」

「……跡部部長に、そっくりですね……」

「そーかい、ありがとよ」

「!?……跡部部長」

……なんてタイミングがいいんだろう。
バタン、とドアが音を立て、景吾が若たちに言葉を返しながら入ってきた。

「あ、おかえり〜」

「買ってきたぞ。ポカリでいいな?」

「ありがと〜。あ、冷蔵庫にはコーヒーとかも入ってるから、みんなも良かったら飲んで」

この部屋の冷蔵庫に、何本か飲み物は入っていたのだけど、スポーツドリンク系統は全部飲みきってしまったので、景吾に買って来て貰ったのだ。

別にペットボトルのままでもよかったけど……わざわざコップに注いで、渡してくれた。
それを飲んでいると、ぽいっとタオルまで渡された。

「また汗出てる。拭いとけ」

なんだか妊娠中にたまっていた水分を排出するとかなんかで、出産後から異様に汗が出る。こまめに拭くようにはしてるんだけど……また、出てたみたいだ。

「……甲斐甲斐しいやっちゃな……」

「跡部、なんか拍車がかかってねぇか……?」

「あーん?なんか言ったか?」

「…………なんでもねェよ」

亮が小さくため息をついて、もう1度保育器を覗き込んだ。

「マジで跡部に似てるよな……性格も跡部そっくりになったら、どうすんだよ」

「アホ、宍戸。そこは俺らの腕の見せ所や……!いかに俺を父親と思い込ませるように育て……」

ドカッ、と景吾の長い足が侑士にヒットする。
……あぁ、景吾の綺麗なお顔に、青筋が浮かんでる気がするよ……!

「…………ったく、この馬鹿は……!やっぱり、やめりゃよかった……!」

「景吾ってば、もう……決め「―――!来たぜぇっ!」

話をさえぎって元気に入ってきたのは、ご存知の通り、氷帝チビーズ。またの名を、氷帝最強の癒しコンビ……!

「とりあえず、何買っていいかわかんなかったから、ムースポッキー買ってきた〜」

「あはは、ありがと、ジローちゃん」

ニコニコ笑って寄ってくる、チビーズ2人。あぁ、本当に癒される……!
これで部屋の中には、元氷帝テニス部レギュラー勢ぞろい。やっぱり、みんな一緒にいると、すごいしっくり来る。

チビーズは慌しげに保育器を覗き込んだ。

「お〜、なんだか生まれたときと、少し変わってね!?たった数時間なのに!」

「そうだねぇ……がっくんたちが見たのは、本当に生まれた直後だったから……」

「うわ、マジマジすっげ〜!ホント、可愛Eー!」

「ジロー、あんま騒ぐなよ。赤んぼ起きるだろ。…………っと、そういや、名前はもう決めたのか?」

ギク、とコーヒーを飲んでいた景吾が反応する。
その反応が面白かったので、ついつい笑ってしまった。

「なんだよ?決まってんだったら教えろよ」

「あはは……景吾、みんなに言ってよ」

「……………」

「え?よく聞こえなかったんですけど……もう1度言っていただけますか?」

「〜〜〜〜〜!」

景吾が、なんとも言えない複雑な表情を浮かべる。
あはは、お、面白い……!

……笑ってられるくらいなら、お前が言え……!」

「ここはやっぱり、名付けた景吾が言うべきでしょ〜?」

そう言ったら、景吾は軽く私の方を睨んで……ギラッ、と侑士に視線を向けた。
侑士は向けられた視線の意味がわからないらしく、『俺?』なんて、自分を指差している。

「なんやねん、跡部。なんかあるなら、ハッキリ言い」

のん気な侑士の言葉に、…………はぁ、と景吾がゆっくり息をついた。
やがて、覚悟を決めたらしく―――部屋のすみっこの方へ視線を向ける。誰かと視線を合わせるのがイヤらしい。

「………………景士だ」

「…………………………………………………え?」

景吾のいった言葉に、みんながきょとん、として固まる。

「名前は、景士。……跡部景士だ。俺様の景に……忍足、貴様の名前の士をつけた」

誰もが言葉を失っていた。
シーン、と静まり返った部屋の中で、やっぱり1番初めに発言したのは、当の本人である、侑士だった。

「…………ホ、ホンマか……?」

「…………嘘言ってどうすんだよ」

「……ちゃん……」

やっぱりまだ信じられないのか、侑士が私の方に視線を向けてくる。
景吾を1度見て、少し笑いながら、口を開いた。

「景吾がね……この子の命は、侑士に救ってもらったから……って。ほら、あの事件の時と……それに、出産の時だって、侑士がたくさん助けてくれたし。だから、侑士から一字貰おう、ってことになったの」

あの時―――もしも、侑士の的確な応急処置がなかったら、この子は今、こうしてみんなと出会えなかったかもしれない。
この子が無事に、こうして生まれてこれたのは、侑士のおかげだ。

跡部景士―――。

この子には、もうこれ以上の名前なんてないだろう。

「うわ……ヤバ……めっちゃ嬉しゅうて、顔ニヤける……!」

侑士が大きな手を、口元に当てた。
ちっ、と景吾が小さく舌打ちをした。

「図に乗るなよ?お前の名前が一字ついてるからって、お前の子供じゃねぇからな?俺との子供だからな?」

「いややな、跡部。世の中には、養子縁組っちゅー手続きがあるんやで。養子でも、名前に俺の名前入っとるから、違和感なしでバッチリやな」

「ふざけんなっ!何が養子だ!……ったく……!」

「うわーうわー、侑士だけずりー!!なぁなぁ、!今度子供生まれたら、『景人』ってつけろよ〜」

「あっ、ずりーぞ岳人!景郎……は変だから……あ、鳳とかけて『景太郎』でいいじゃん!」

「『亮』って字は、スケ、とも読めるからな。『景亮』でもいいじゃねぇか」

わいわいと騒ぎ始めたみんなに、慌ててストップをかける。

「ちょ、ちょっと待ってみんな……わ、私は一体何人の子供を産む予定なの……!?しかも、男の子ばっか……!?」

「あ、じゃあ、俺の名前で若葉とかいいんじゃないですか?先輩」

「えっ、わ、若まで……!」

「弘子、も……」

「樺地くんも―――!?」

なんだかもう、大変なことになっている。
この分だと……兄弟が出来ること、前提……?

景吾とぱち、と目が合った。
ニヤ、と笑いかけてくる景吾は、口パクで

『きょ う だ い』

と言ってきた。ふ、増やす気マンマン……!
…………も、もうちょっと経ってからね……!今は、初の育児で、頭はいっぱいだよ……!

こんな騒ぎの中でも、スヤスヤ寝てる……景士。

しょっぱなから、大物振りを発揮している。

さて……どんな子に、なるのかな。

これからの育児に、不安がないと言ったら嘘になるけど。

隣に座ってる景吾とか、まだ騒いでるみんなとか、跡部家の人とか。
たくさんの人がいるから、きっと大丈夫だ。

眠る景士が、少しだけ笑った気がした。




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