その後、後処理や色々なことを済ませて、とりあえず赤ちゃんは、新生児室へ行くことになった。……その間に寝て、体力を回復させるんだって。『明日から大変だからね〜』と助産師さんに脅かされた。

ちなみに、早朝と呼べるような時間帯になってから、侑士たちは帰っていった。
必ずまた明日(というか今日?)来る、と言い残して。

まずは―――ということで。
景吾の携帯から(LDRは携帯使用OKなんだって)景吾パパの携帯番号を呼び出す。

「大丈夫かな?寝てないかな?」

「今はイギリスだから―――大丈夫だろ」

ポチ、とボタンを押して、電話を耳に押し当てる。
景吾ママたちも、予定日のことは知ってるから―――まさか、こんなに早く生まれるとは思ってないだろうなぁ。……驚く姿が目に浮かぶ。

「……あぁ、俺だ」

繋がったらしい。景吾の声に、思わず心臓がドクン、と飛び跳ねた。
……うわー、なんか緊張してきた……!こ、これって考えてみれば、夫の両親に報告だよね……!?

『どうした、まだ日本は夜中だろう?あぁ、今日の仕事の報告か?』

「……あーん?そんな小せぇことじゃねぇよ」

『……それ以外に大きなプロジェクトがあったか?』

はぁ、と小さく景吾が息を吐いた。

「…………生まれたぞ。2968グラムの、男だ」

『………………………………………………え?』

「母子共に健康。特に異常もなく、安産だった」

『……えぇぇぇぇぇ〜!?か、母さん!う、生まれたって!!』

『え、生まれたって……もしかして……ちょっ、あなた!電話貸して!…………景吾!?景吾!?赤ちゃん、生まれたの!?』

景吾ママの大きな声に、少し電話を遠ざけて、景吾がゆっくりと話す。

「あぁ、こっちの時間で3時5分だ。……残念だったな、おふくろ。初孫は、男だ」

『きゃあぁぁぁぁ!もう性別なんてどうでもいいわ!本当に生まれたのね!?景吾、ちゃんは!?ちゃん、起きてる!?』

「あぁ、ここで目ぇまん丸に開いて、会話聞いてるぜ。…………ほら、。おふくろが替われってよ」

「あ、う、うん…………えーっと、もしもし?」

ちゃーん!!おめでとう!おめでとうっ!大変だったでしょ!?景吾生んだときの事を思うと……あぁ、もう、とにかくおめでとうっ!』

景吾ママの声に、思わず顔がほころんでしまった。
こんなに喜んでくれて―――嬉しい。

「ありがとうございます!2968グラムの男の子でした」

『そう〜!……あっ、こうしてる場合じゃないわ!これからすぐに日本に戻るから!』

「へっ!?」

『時間はいつもの通り、30分くらいしか取れないだろうけど……初孫の顔を見に、強行スケジュールよ……!待っててね、ちゃん!』

「えっ、あ、あの!どうか無理はしないでくださ『それじゃ、また後で!』

ブツッ、と切れた電話を、呆然と見つめる。

「景吾……今から日本に来るって」

「……ったく…………今からだと……夕方か」

イギリスから日本まで12時間として……そうだね、夕方になる。

「もう、寝ろ。騒がしくなるだろうからな」

頭を撫でながら、景吾がそう言ってくれた。
ホントは赤ちゃんのことが気になって気になって、今すぐ新生児室に忍び寄って行きたいくらいだったけど―――疲労の方が勝っていたし、色んな人にメールなどで連絡もしていた。そのうち何通かは、夜中なのにも関わらず、『今日中に行くから!』と返信をしてくれた。
…………今日は日曜日だから―――みんな、来てくれるみたい。ありがたいことだ。

……やっぱり、寝ておこう。目が覚めてから騒がしくなるだろうし、赤ちゃんの世話もあるし。

「じゃ……おやすみ」

ちゅ、と景吾が軽くキスしてきた。






お腹の痛みで、目が覚めた。

「……なんだ、もう起きたのか?」

同じく、ソファで仮眠を取っているはずの景吾も、目を覚ましていた。
時刻は10時。5時間ほど眠っていたみたいだ。頭は大分スッキリしている。

シャワーでも浴びたのか、身支度がバッチリ整っている景吾が近寄ってきた。

「んー……なんか、ちょっとお腹痛くて。後陣痛かな……?」

「あぁ……痛み止め貰うか?」

「うんー……」

ぽん、と景吾が頭を撫でて、ナースコールを手に取る。
なにやら話してるのをぼんやりと聞きながらも、意識は赤ちゃんのことばかり。

「……すぐ来るってよ。……どうした?そんなに痛いのか?」

近くにあった椅子を引き寄せて、景吾がベッドサイドに位置を取る。
ふるふると頭を振って、質問に否を返した。

「赤ちゃん、気になって気になって……あぁ、見に行きたい……!」

「……お前の体が平気そうだったら、後で見に行こうぜ。言えば、同じ部屋にしてもらえるんだろ?」

あ、そっか。母子同室にしてもらえばいいんだ。
……うん、そうしてもらおう。そうすれば、いつでも会えるし、来てもらった人にもすぐに会ってもらえる。

「あ……名前、どうしよう?」

私の声に、景吾が少し目を伏せて考え込んだ。
いくつか候補は上がっていたんだけど、どうしても決めかねていて―――後1週間のうちに決める予定だったのに、こんなに早く生まれてきちゃったから、ねぇ……。

「……実は、結構前から、考えてた候補があるんだが―――いや、でもシャクだな……」

ブツブツと、景吾にしては珍しく、はっきりと言わない。
……ピーン、と来た。

「ねぇ、それってもしかして……」

「………………わかったか」

微妙そうな顔をする景吾。
なんともいえないその表情に、思わず噴出してしまった。

「け、景吾……ホンット、複雑そうな顔してる……!」

「複雑なんだよ。…………だが、顔見たら……なんつーか、それ以外、もう思い浮かばねぇ」

「………………いいんじゃない?いい名前だよ」

はぁ、と景吾がため息をついて、抱きしめてくる。

「…………図に乗る姿が、目に浮かぶぜ」

やけに苦々しく言う景吾が可愛くて、また笑いが漏れてしまった。




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