Scene.9 王都探索 「…………おーはよー……」 ……昨日、アグラおじいさんの件で悩んでいたら、夜更かしをしてしまった…………。 ぼーっとした頭で、ふらふらといいにおいがする方向へいく。最後に空いている1つの席に、すとんと座る。 「おそよう」 そう言ってにかっと笑ったのはマグナ。 すぐに、ネスに突っ込みを入れられる。 「人のこと言えるのか、マグナ。トリスと一緒に、今起きたばかりじゃないか」 「うっ…………」 「お待たせしました。パン、焼きあがったんで、どうぞ召し上がってください」 聞こえてきたアメルの声に、マグナがほっと息をついて目を丸くする。 「へっ?アメル?」 「あ、おはようございます、さん、マグナさん、トリスさん」 「謎は解けたかな?」 ああ、マグナたちは誰がこの料理を作ってるか知らなかったのね。リューグが食べるように促して、食べ始める。 ………………。 やばい、美味い。 美味すぎる。 なに、これ!?ホントに、いつも食べてた芋!? 「はりきりすぎちゃって……ちょっと多かったかな?」 「問題ないなーい。こんだけうまけりゃ、俺はもう、どしどし食っちまうぜぇ!」 私は、フォルテの言葉に、無言でコクコク頷きながら、パンをほおばり(うぁ〜、焼きたてのパンが美味い!! )、さらに自分のお皿にサラダをよそい、揚げ物に手を伸ばす。カツン、と誰かのフォークに私のフォークがぶつかった。フォークから徐々に上へ視線をずらすと、あの小悪魔と目が合う。 「………………なんだよ。これは俺が目ぇつけてたんだぞ」 「…………私だって、最初からこれ取ろうと狙ってたのよ。バルレル、あんた年上を敬うっていう心がないの?」 「確実に俺のほうが年上だ!!テメェこそ、少しは遠慮ってもんをしろよ!ガツガツ食いやがって」 「おいしいんだから仕方ないじゃん!知ってるんだから!バルレルがこれ取る前に、パン2つ食べてるの!」 「んなこというなら、テメェの皿はなんなんだ!?サラダてんこもりじゃねぇか!」 カツン。 ぱく。 「あぁ、やっぱりアメルの揚げ物はおいしい」 「……………………ロッカ、さん???」 「どうしたんですか?ほら、さんもバルレルくんも早く食べないとなくなりますよ?」 ………………………笑顔、黒っ!!! 「それとも、もうおなかいっぱいなんですか?なら、そのサラダも…………」 「いえ!食べます!食べます!!!」 私とバルレルは、ものすごい勢いで食べるのを再開した。…………ロッカって…………。やっぱり、腹黒兄貴なの??? コンコン。 食事を済ませた私は、1人自室にこもっておなかを落ち着けていた。そんな中での唐突な訪問者。 「は〜い?」 返事をすると、アメルです、という声。 なんだろう、と思ってドアを開ければ…………。 ニッコリ笑って立っている聖女さま。 ………………なんか、あの青触覚兄貴と同じ笑顔の波動を受け取ったのですが。 ぐいっ。 「えっ!?」 「トリスさんと街を見るんです。一緒に行きません?」 い、いいい、行きません?って……。 あなた、もうすでに腕つかんで玄関に向かってません!? 「でぇぇぇ!?ちょ、アメルさん!?」 ピタリ。 アメルが止まって悲しそうな顔でこちらを見た。 「……イヤ、ですか?」 「……ぜんっぜんイヤじゃないです!行きます!行かせてください!!!」 「よかった♪えへへ、トリスさん、もう外で待ってるんですよ。さぁ、行きましょう!」 ……………アメルさん、もしかして、あなたも黒聖女ですか…………? …………そうじゃない、と信じたい…………(泣) 外で待っていたトリス(ほっぺたに生クリーム付)と合流して、街に出る。…………考えてみれば、まともにこの世界を見るの、レルムの村以来だ。今までバタバタしていたからなぁ…………。 「さっ……まずはぁ……うふふふふふ」 「!?な、なんですか、トリスさん!その笑顔は!!」 「ん?…………ねー♪アメル?」 「ねー♪」 ………………怖ひ(汗)他人の笑顔がこれほど怖いと思ったことは、ないです…………。 ずるずると引きずられるように歩いていく。そしてしばらく経って、私は根本的な疑問をぶつけた。 「…………どこ行くの?」 「うん♪もうすぐ着くよ」 なんで、トリスさんたちそんな楽しそうなんですかー??? 頭に浮かぶのは疑問符ばかりだけど、それをつっこんで聞くのも怖い気がした。……ゆえに、私は大人しく連れて行かれる。 と。 ポロン……ポロロン……。 どこかで聞いたようなメロディーが微かに聞こえてくる。あれ、とトリスとアメルも足を止めた。 「なに?この音色?」 「きれいな音色ですねぇ」 ……………………こりは、もしかして。 「あそこにいる人が演奏してるみたいね」 トリスたちが無邪気に銀髪の吟遊詩人に近づいていく。私は、ゆっくりとその後をついていった。…………あーぁ…………あの悪魔に出会うこの瞬間に出くわすとは…………。でも、ま。顔は美形だからいっか。 演奏が、止まった。銀髪の男―――レイムがこちらを向く。トリスが慌てて謝るのが見えた。まだ、私とレイムとの距離は遠い。 「あ、あたしトリスです」 「アメルです」 「トリスさんにアメルさんですか」 「あ、後もう1人……あ、あれ?……あっ、!遅いよ〜!」 トリスに大声で呼ばれて、注目された恥ずかしさに慌てて駆け寄る。 「この方、吟遊詩人のレイムさんですって」 「あ……っていいます」 ペコリと頭を下げて、思い切ってレイムの顔を真正面から見る。 バチリ、と目が、あった。 瞬間、大きくレイムの目が見開かれる。 「?…………さん、レイムさんとお知り合いだったんですか?」 「え!?(いや、お知り合いといっちゃ、一方的にお知り合いでしたけども……)は、はじめて会うけど?」 そう話している間にも、レイムが私の顔を見てるのっていうのが横目に映る。 ……それは「見ている」というよりは「凝視」といったものに近い。 …………ちょ、ちょちょ、ちょっと……な、なに?私、あいにく悪魔にお知り合いは1人ほどしかいませんが!? 思わず1歩引いて距離をとってしまう。 私が離れたことで、レイムも我に返ったのだろう。 表情を一瞬で整え、ニコリ、と柔らかな笑みを浮かべた。 「…………失礼、知り合いに似ていたものですから。……はじめまして、さん。吟遊詩人のレイム、と申します」 大悪魔、メルギトスだろ、あんた。 正体を知ってるから一瞬緊張したけど、頑張って笑った。 「あ、はじめまして〜」 そして、やっぱりレイムの動きが止まる。 …………なんだよ。 レイムは1回頭を振ると、にこっと笑いかけた。 「……トリスさん、アメルさん、先ほどの質問ですがね、いくら演奏が上手くても、それだけではダメなんですよ。本当の吟遊詩人に必要な、語るべき歌を私はまだ持っていないのです」 「語るべき歌?」 「ええ、歌です。まだ誰も知らない真実の物語です。どこかにあるはずのそんな歌を、私はこの手で見つけたい」 「へえ……」 「ああ、すいません。初対面の方に、こんなわけのわからないことを言ってしまって」 「ううん、とても素敵ですよ……」 「見つかるといいですね、その歌……」 レイムが、こちらを見た。さっきから、私の目を見ているようなするのは、やっぱり気のせいかな。自意識過剰? 「ありがとうございます。そのときにはぜひ、みなさんにも聞かせて差し上げますよ。……それでは失礼します。機会があれば、またお目にかかりましょう」 レイムはそう言って、竪琴を抱えて歩き出した。その姿が消えたところで、トリスが黄色い声を出した。 「ねっ、見た!?絶対レイムさん、に一目ぼれしたよね!?ずぅっとのこと見てたもん!」 …………自意識過剰???じゃなかったの??? 「ホント、ずうっと見てましたよね!」 きゃあきゃあ言う2人とは裏腹に、私は静かに考える。…………たしかに、自分で言うのもなんだけど、レイムが私を見る目は普通じゃなかった。う〜ん……?知り合いに似てたからってあんなにメチャメチャ見るもの? …………って。 レイム(悪魔)の知り合いって、悪魔!? …………悪魔に似てる私(人間)って、どうよ…………?うわー、ちょっと、へこむわ……(泣) ま、いいや。機会があったらバルレルに聞いてみよ…………。 「……ところでお2人さん、本来の目的はどこなんでしょうか?」 いまだきゃあきゃあと妄想を膨らませて騒いでる2人に話しかけると、あ、そうだった、とトリスが私の手を引いて近くのお店に入った。 そこには、あたり一面、服服服。服ばっかり。 「……ここは?」 「ミモザ先輩がね、の服や防具を揃えてあげなさいって」 「へっ?」 「の服、汚れてる上に、ところどころ切れちゃってるでしょ?いつまでも借り物の服じゃなんだから、この際ちゃんとしたの買ってらっしゃいって♪」 「えぇぇ!?そんな、悪いよ!!……って、あ、そうか。服、借りっぱなしだからだね!?私なら、あの制服でいいから!」 「……っていうと思ったから、なんにも言わずにここに連れてきたんだよ。気にしなくていいんだよ、お金ならあるから。……なんにも知らないを巻き込んじゃったっていうこともあるし。ね?」 「ね?って、でも…………」 「いいのいいの!…………それに、これから多分戦うことも多いと思う。しっかり防具なんかも揃えなきゃ。……聞いたよ、屋敷の前での戦いのとき、危なかったんでしょ?そういうときのためにも、防具くらいはしっかり身につけなくっちゃ」 「………………………ありがとう」 「いいんだよぉ、本当に!…………でね、アメルにも一緒に選んでもらおうと思ってvv」 「はい!任せてください!さんに似合いそうなの、どんどん持ってきますから!!!」 「え。イヤ、ちょ、ま…………っ」 私の静止の言葉は聞かれず。 この後、私はとんでもない量の服を試着させられることになった。 必死の抵抗によりスカートはやめて(それでも最後まで粘られた)ダボッとした黒いズボンに、白いハイネックのノースリーブセーター。更に寒いとき用に、クリーム色の上着まで買ってくれた。 本当はもっと、ビラビラした服を勧められたんだけど、やっぱり、どーしてもいやだったので、結局は元の世界と似たようなこの服に落ち着くことにした。 防具は、軽い皮の胸当て。本当はそのほかにも買っていいって言われたんだけど、それ以上身につけると、重くってつけているだけで疲れてしまう。なので、最低限心臓を守れる胸当てだけにした。それでも、体力がついたら他の防具も装備するように約束させられたけど。 「ん。可愛い〜、vv」 「え、そう?(照)……ほんとに、アリガトね」 「うん!」 「アメルもありがと。付き合ってくれて」 「いえ!とっても楽しかったです。村にはこんなたくさん服が置いてるお店なんてなかったので」 そっか、と笑って私たちは店を出た。 大分早く屋敷を出たのに、もう太陽は頂点を過ぎていた。 「さ、どうする?もうちょっと見て回る?」 「ん〜……私はいいや。ちょっと、屋敷に帰ってバルレルに聞きたいこともあるし。一足先に屋敷に帰ってるよ」 「そう?……アメル、どうする?」 「……そうですね……もうちょっと見て回りたいです」 「じゃ、決まりね。……、帰り道、わかる?」 「うん。大丈夫。わからなくなったら人に聞くし」 そう言って、私は2人と別れた。 新しい服の感触が気持ちいい。自然と心がウキウキと弾んだ。。 NEXT |