Scene.8  じ意志



敵がすべて視界から消えたのを見とどけてから、私たちは屋敷の中に入った。
緊急にトリスたちの部屋で話し合いが行われる。

「結局わかったのは、あいつらの名前だけか」

「槍使いのイオスと機械兵士ゼルフィルド。2人とも強かったわね」

「あの黒騎士だけでもうんざりだってのにな」

ドアががちゃりと音を立てて開いた。ギブソンさんとミモザがそろって入ってくる。2人とも、騒ぎになってしまったために騎士団に報告をしに行ってくれたのだ。

「待たせたな、みんな」

「騎士団の人たちには、強盗に襲われたってことにしといたからね。一応、見回りを強化してくれるって」

「そうですか……」

しばらく、そんなような話をしていたら、アメルたちの話になった。
マグナが『様子を見に行くんだけど、も来ない?』と誘ってくれた。
私は、この後に起こるちょっと悲しい出来事を思い出しながら、素直に応じる。応じたわけは、トリスの一言。『アメルは、がいた方が安心すると思うんだ』って言ってくれたんだ。……本当かはわからないけれど、すこしでも私に出来ることがあるなら嬉しい。

リューグたちがあてがわれている部屋に行ったら、ロッカがまず出迎えてくれた。
簡単に説明をする。

「僕達がどうしたいかですか?」

ロッカが呟いた言葉を、リューグが聞き取った。ベッドの上に座ったまま、忌々しそうに吐き捨てる。

「はっ、そんなもん聞くまでもねぇだろ。相手がなんだろうが、構やしねぇ……全員まとめてぶっ殺してやるだけだ!」

「そんなことできるわけないだろう、リューグ」

「なんだと……」

「あいつらは、僕らが今まで相手にしてきたならず者連中とは違う。現に村で1番強かったお前も、あの黒騎士には歯が立たなかったじゃないか!?」

「言うなッ!」

リューグが立ち上がって、ロッカの頬を殴った。
2人の会話に口を挟む隙間もなく、たたずんでいた私たちはあっけに取られた。

「ちょ、ちょっと2人とも!」

とりあえず私は慌てて言う。それでも部屋に入らなかったのは、殴られるかもしれない、という恐怖からだった。

けれど、2人に私の言葉なんて届いてない。
凍るような緊張感が、部外者の立ち入りを拒否していた。
ああ、何度だっていってやるさ、とロッカが静かに言う。

「僕達じゃアイツらに勝てっこない!それがわからないのか、リューグ!?」

「それじゃどうしろって言うんだよ……死ぬ目に遭わされて、村をメチャクチャにされて、アンタは悔しくないのかよ、ええっ!?泣き寝入りしろって言うのかよ!!」

「それで争わずにすむのなら、そうすべきだ。これ以上、無駄な犠牲を出すことはない」

「つくづく……テメエって野郎はぁ!」

「リューグもロッカももうやめて!」

リューグがロッカにもう1度殴りかかろうとしたとき、トリスの後ろからアメルが叫んだ。
ピタリと2人の動きが止まる。

「ねぇ、どうして喧嘩しなくちゃダメなの?どうして普通に話ができないの!?あたしは見たくないよ、こんな2人なんて見たくない……」

本当に悲しそうに涙を浮かべるアメルを見て―――。
失礼ながら、ぷっつんと私の頭の回線は切れた。
先ほどの恐怖はどこへ行ったのか。
部屋にずんずん入ってロッカとリューグを前に言った。

「……あんたたち2人と同じくらい……ううん、それ以上、アメルも悲しくって、辛いはずなんだよ」

2人とも、ハッとアメルのほうを見る。アメルはうつむいて、私の方へ来て―――手を握り締めた。

「なのに、2人がケンカしてたら、もっとアメルが辛くなるよ。苦しくなるよ!それすらわからないほど、あんたたちはバカなの!?」

「アメル……」

ロッカがすまなさそうにアメルをみた。
アメルはうつむいたままだ。私の手を握る力が少しだけ強まる。

「…………おい、

「……なに?」

「……お前はどう思う?」

そうリューグに言われてみて、私は改めて考えた。
あの優しくって素朴だった村の人たち。
炎に包まれた村。
今も目を瞑れば、まぶたに焼きついた光景が見える。

「……私は、あの人たちが憎いよ。理由は何であれ、突然の異邦者だった私に優しくしてくれた村の人たち……その人たちを殺した。それを許せるはずがない。……でも、だからといって、あいつらを殺したら、あいつらと同じことになっちゃう。……そうしても、村の人は帰ってこない」

「……お前もこの野郎と同じ意見か」

「そうじゃない!……確かに、ロッカの言うことも、リューグの言うことも両方言い分はわかる。だけど……1番大前提を忘れてるよ、2人は。……まずは、私たちはなにをしなくちゃいけないの?…………アメルを守らなきゃいけないんでしょ?……アメルを守るっていう、その意志は、2人とも一緒じゃないの?……ロッカのいうとおり、今は勝てるなんて思わない。でも、『負けない』ことなら、できると、思う」

アメルの小さな手が、ぎゅっと私の手を強く掴んだ。

「あたしは、みんなが無事でさえいてくれればそれだけでいいんです。それだけで……」

誰も、何も言うことができなかった。
―――それはアメルの心からの願いだから。

で。

ハッと気づいた私は、だらだらと汗を流す。
思わず、アメルが可哀想すぎて口を出してしまった(しかも、こっちが一方的に切れた)けれど、ど、どうなのかしら!?これって、なにか影響がでるんじゃ…………。
だって、たしかここは主人公がロッカかリューグかで迷う、最初のポイントだもの!

「…………えと、後は、お2人で(いや、希望はトリスたちもまじえて4人で)じっくり話し合って……」



「うぁ!ハイ!」

「…………お前の意見、参考になったぜ。……一応、礼は言っとく」

さん、ありがとうございました」

あ、そーですかー…………。
嬉しいです、それはー…………。
でもー……。
これは、もしかしてー…………。

「俺たちの意志は一緒だ。アメルの傍で、アメルを守る」


うっぎゃあぁぁあぁぁ!!!


来た―――!!!!異世界トリップ恒例、双子イベントすっとばし―――!!!

ごめんなさい―――!!!アグラ爺さん!!!探しにいく孫がいなくなっちまった―――!!!

「…………オイ?」

「あ!?う、うん!そうだね!アメルも2人が傍にいたほうが心強いしね!うん!」

「なに焦ってやがる、テメェ」

呆れたように息を吐くリューグ。
すっ、と部屋の空気が和らいだ。アメルの顔が、明るくなる。

「…………さん、ありがとうございます」

「気にしないで!(って、アグラ爺さんどうするよ!?いっそ、私が探しに行くか!?)」

さんがいてくれなかったら、あたし、きっとうろたえて終わってました。本当に、ありがとう」

「やだなぁ、私は私の思ったことを口にしたまでだよ。私はアメルが元気ないの、いやだもん(14話のレルム村イベントは!?)」

「はい!元気になります!」

そこから、私はふらふらと自分の部屋へ帰ってまた自問自答を繰り返した。
…………結局、『なんとかなる』と言い聞かせて、何にも知らないふりをすることに大決定。

…………ごめんね?アグラ爺さんvv
お詫びはお芋で勘弁してください!!


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