目が覚めたら、隣にバルレルが寝ててビックリすると共に。

今までのことが夢ではない、と思い知らされた。



Scene.5  王都ゼラム



夜明け前に出発して、朝方、私たちは聖王都ゼラムに着いた。
さすがに朝なので人気は少なく、私たちの格好(泥だらけ、傷だらけ)を咎める人はいなかった。
私たちは、街の入り口からほぼまっすぐに見える蒼の派閥へは行かずに、王宮の方へ―――すなわち、ギブソン・ミモザ邸のほうへ向かって、助けを求めた。
朝早くから、しかも、泥だらけ傷だらけの私たちを見て、ギブソンさんたちは、かなり驚いていたけれど、すぐに家の中に入れてくれて、部屋をあてがってくれた。シャワーを借りて、オマケに服まで借りて(今まで、泥だらけの制服だった)簡単に事情を説明すると、そうか、とだけいって、『とりあえず、休むように』と部屋へ返した。
そして、その言葉どおり、休んだんだけど―――。

どうも、休みすぎてしまったらしく。

…………物語では1番ねぼすけだったトリスとマグナと同じくらいに起きてしまいました。

「…………オハヨウ」

「あら、ようやく起きてきたみたいね」

「ごめんなさい〜……ぐっすり眠り込んでしまいまして……」

たはは、と笑いながら空いている席に着く。
ケイナがコップにミルクを注いでくれた。

「おはよう、

「おはよう」

ただ単に、朝の挨拶を交わしただけなのに、グッとギブソンさんとミモザが、飲んでいたお茶を喉に詰まらせて、目を白黒させた。

「な、なんですか!?ってか、大丈夫ですか!?」

「あ、あぁ……ほら、ミモザ。やっぱり同じ名前だって言っただろう?」

「だって、珍しい名前だから、同じなわけないと思ってたのよ。で、ビックリしちゃったの。……こーんな偶然ってあるものなのね……」

???話してる意味が、よくわからないんですが〜?

「オハヨウ〜……」

「トリス、マグナ。おはよう」

「こっちもようやくお目覚めみたいね〜」

「……とりあえず、さん、はい、どうぞ」

アメルが私の前にご飯を用意してくれる。
ありがとう、といいながら、パンをほおばった。
レシィがどうぞ、目玉焼きを出してくれた。
はぁ……おなかへってたんだよね……。おいしい!

「それにしてもびっくりしたよ。いきなり君たちがここに転がり込んで来たときにはね」

ギブソンさんが、お茶をすすりなおしながら、トリスたちに語りかけた。

「泥まみれの傷だらけって感じだったもんねぇ……」

「すいません、先輩たちのところしか頼れる場所が思いつかなくって……」

「あら、うれしいこと言ってくれるじゃない」

「本当はご迷惑をかけたくなかったんですが、本部に戻るのもまずいと思ったので」

「賢明な判断だと思うよ。派閥は無用の騒ぎを嫌うからね。仲間のことを考えれば、当然の選択だろう」

「そういうあんたたちはどうなんだい?派閥の一員なら、立場は同じだろ?」

「ちょっと、フォルテ!」

フォルテの言葉に、ケイナが咎める口調で言った。
しかし、対するミモザは、んっふっふ、と笑うと。

「ところが、そうでもなかったりしちゃうのよねぇ」

と言ってのけたのだった。

「今の私たちって、罰を受けてる立場なんだもん」

「え!?」

そう、たしか、ギブミモコンビは、前回の任務『1』のときに、蒼の派閥に逆らったんだ。主人公(誓約者ね)を連れて行かなきゃいかないのに、途中ではむかって連れ出したんだ。

「どういうことですか?」

ギブソンさんが、ポリポリと頬をかきながら告げた。

「前回の任務のときに、個人的な理由で命令に逆らってしまってね。除名処分になるところを、今回の任務に着くことで、特別に許してもらったのさ」

「へー!あんたたち、みかけによらずやるもんだなぁ」

「信じられません。先輩ほど真面目な方が命令違反なんて……」

「そうですよ。ミモザ先輩だけならわか……ひゃっ」

「お口は災いの元よぉ」

ミモザとトリスがふがふが遊んでいる間に、私たちはギブソンさんに向き直る。

「でも、それなら余計に私たちがいるとご迷惑なんじゃ……」

「いいっていいって。かわいい後輩クンたちを守ってくれたんだもの。これぐらいの面倒は見させてよね」

うぉっ!いきなり復活してくださったのね、ミモザ姉さん!

「とにかく今は、疲れた体を万全にすることが第一だよ。それから先のことは、改めて考えればいい」

「ありがたく、お言葉に甘えさせてもらうぜ。ギブソンの旦那」

「お世話になります」

「すいません……」




食事が終わると、それぞれ自分の部屋に引き上げた。
私は、あてがわれた部屋に戻ると、早速マグナとトリスの部屋に行く。

コンコンッ!

ノックをすると、すぐにはーいという、元気なトリスの声。

です。入っていい?」

「おう!」

今度はマグナの声。ガチャリとあけると、そこにはトリスとマグナの2人だけ。バルレルとレシィの姿は見えない。

「あれ?バルレルとレシィは?」

「なんか、どっか出かけたけど……は?どうしたの?」

「いや、ちょっとね……」

言えない!トリスたちにくっついて、いろいろな人に会おうと思ってたなんて!
……でも、主人公であるトリスたちにくっついてた方が、いろいろなことが見れるんだもん。

「あ、もしかして、まだ、一緒にいていいとか気にしてる?」

マグナのわんこ瞳に見つめられて、邪な思いを抱いていたこと自体が罪に思えてくる。

「いいんだよ、もうは俺たちの仲間なんだから。それに、はなんだか昔からの縁みたいのを感じるし」

「…………ありがとう」

いい子たちだよ、本当に……(ホロリ)
あぁ、嫁(婿)にもらいてぇ!

「とりあえず、を召喚した人を探さなきゃいけないんだよね……」

「でも、考えてみたら変だよな。どうして、森の中で召喚なんてしたんだ?……というか、俺ら、召喚術の光もなにも見てないよな」

「ねぇ。本当に近くに人いなかった?それか、なにか怪しいものとか……」

「うん。モンスターしかいなかった。……ついでに言えば、召喚石もなにもなかった」

「う〜ん……やっぱり、事故かなにかかな……こういうことって、やっぱり派閥に行って資料を調べた方がいいとは思うんだけど……」

「……派閥に、あんまり行きたくないんでしょ?大丈夫、私、そんなにすぐ帰りたいってわけじゃないし」

せめて、この物語が終わるまではここにいたいし!
誰だか知らないけど、私を召喚してくれて、あーりがとー!!!

「そっかvv……やっぱり、って名前の人は不思議な人だ」

「あぁ……なんだか俺らもわからない俺ら自身のことをわかってくれてるような気がする。……じゃ、。一緒に旅でもしながら、気長に召喚主を探すってことでいいよな?」

「うん、お願いします!」

「じゃーさ、とりあえず、1番博識なギブソン先輩のところに行こうか」

にっこり笑いあって、私たちはギブソンさんのところへ行く。
コンコン、とノックすると、はい?という柔らかいテノールの声が聞こえた。名前を告げると、招かれる。
ドアを開くと、奥でなにやら調べ物をしていたらしいギブソンさんは、席を立って迎えてくれた。

「やぁ。何か用かい?」

「ちょっと、のことについて聞きたいことがあって……」

「あぁ……確か彼女は、名も無き世界から召喚されてきたんだったよね?」

はい、と頷くとギブソンさんは本当に懐かしそうに笑った。
きっと、誓約者のことを思い出してるんだろう。誰なんだろう。やっぱりハヤトかな?

「そうか……それで?」

「実は、の召喚主が見つからないんです」

「……どういうことだい?」

「私がこの世界に呼ばれたとき、まわりに人もいないし、怪しいものも何もない。文字通り、何もない状態で、1人森にいたんです」

「ふむ……召喚主がいない……それはやっかいだな」

「はい……で、先輩ならなにかご存知ではないかと思って。どうにかして、彼女の召喚主を見つけられないでしょうか?」

「……残念だが、なにも手がかりがない状態では無理に等しいな。かといって、私たちではやはり、彼女を返すことも出来ない……気長に探すしかないな……」

「そうですよね……」

しん……としかけたところで、マグナが慌てたように取り繕う。

「あ、あと、先輩が西へ任務に言いたときのことを聞きたいと思って」

「無色の派閥の乱のことか……」

「ええ、なにか参考になればと思って」

「しかし、あれは普通の旅じゃなかったからな。宝玉を盗んだ犯人の足取りを地道に追っていく作業の連続でね。とにかく大変だった。敵の刺客にも、何度か襲われたよ」

「でも、最後には任務を達成したんでしょう?」

「派閥の記録ではそうなっているがね、実際は違うんだよ」

「え!?」

「宝玉は奪還できずに、犯人たちはその力で大きな災厄を呼び込もうとしたんだ。私たちはそれを食い止めなんとか事件を終息させただけだよ。旅先で出会ったたくさんの人たちに助けられてね」

そう……たしか、それでバノッサやカノンは死んでしまうんだ……。
あれは悲しかった……バノッサやカノンって、悪役だけどどこか憎めなかったから。っていうか、美形だったから!(キッパリ)

「そうだったんですか。その人たちってきっと、すごく立派で強いんでしょうねぇ」

「ふふふ……」

「なんで笑うんです?」

「いや、別に……そう。。君と同じ名前の女の子にも、とても助けられたし、いろいろなことを教えられた」

「へぇ…………」

ゲームにはでてこなかったけど、きっと街のどこかにいる女の子だろう。
誰も知らないその存在に、私は会ってみたくなった。同じ名前というところに親近感も湧いたし。

「先輩、もっとくわしく話を聞かせてくださいよ?」

「そうですよ。そのときのこと、いろいろ聞きたいです!」

あぁ、そのうちにね。
笑ってそう言ったギブソンさんの顔は、なんだかとっても楽しそうで、その思い出が良いものだと私の心も温かくなった。



続いて私たちはアメルの部屋に行った。
アメルはご飯のときから元気がなかったから。
案の定、部屋でしょんぼりしていたアメル。みんなでいる時には空元気を振りまいていたけど、その笑顔に無理があることを私たち全員はわかっていた。

アメルと少し話をしようとしたけれど、アメルはすぐに『用事があるから』と出て行ってしまった。
もちろん気になる私たちは、その後を追いかけることにした。

でも。

屋敷の前にネスが待っていて、トリスとマグナは召喚作成所に行くことになった。
ついていこうかな、とも思ったけれど、ネスがちら、と私の方を見て、『部外者は立ち入るな』みたいな視線を送ってきたので、笑って辞退しておいた。
…………ネスってば、こういうときは敵意マンマン。あぁ……妹弟子を守る兄弟子は怖し。

「……じゃさ、、アメルを探してくれないか?」

「へ?」

マグナの言葉を引き継ぐようにトリスが言う。

「アメル、どこかでまた落ち込んでると思う。だから、探して励ましてあげてよ」

それは、あなた方の役目でわ!?ってか、イベントですけど!?
そう言おうと思ったけど、もちろん通用するわけがないので堪えておく。

「頼んだよ、じゃ!」

そう言って、去っていく2人を引き止められるわけもなく。
私は、ため息を1つ吐いたのだった。
小さくなる背中を見つつ、私は仕方なしに屋敷を出た。

…………どこにアメルいたっけ?
アメルの人影が出てるわけもないので、てくてくととりあえず歩き出す。
まだ出て行ってそんな経ってないから、遠くへは行ってないはずだけど……。
ハルシェ湖畔だったかな?



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