Scene.36 対峙しなければならない思い出 パチリ、と目が覚めた。 本当に、なんの前触れもなく、目が覚めた。 そして、自分が今置かれている状況がわからなくて、きょろきょろと回りを見回す。 昨日はみんなで夜まで騒いでいた。 つかの間の休息……みんな、ものすごいハイテンションで、なにか見えない恐怖を振り払うようにはしゃいでいた。 でも、確かレシィやミニスもいるしーってことで、日付けが変わってから少しして、みんな寝たんだ。 バルレルに引きずられるように部屋へ連れて行かれて、ちょっとばかしお酒も飲んでいた私は、あっさり意識を手放して―――。 ベッドに入った記憶は無いのに、しっかりとベッドに入って毛布までかけているところを見ると…………どうやら、隣に寝てる、ひねくれものの優しい悪魔が苦労して、運んでくれたんだろう。 なんだろう…………思い出せないけど、嫌な夢を見てた気がする。 悪夢を見たときの不快感で、喉がカラカラだ。 寝かしつけるように、身体の上にバルレルの腕が置かれていた。 それをそっと外して、ベッドを抜け出す。 バルレルも結構飲んでいたからだろう、起きる気配はまったく無かった。 台所へ行って、置いてあった水差しからコップに水を注ぐ。 一気に飲み干したけれど、それでもまだ足りずに2杯目を注いだ。 そのとき、廊下の方からゴソゴソ、と人が動く音がした。 水を飲み干して、コップを軽くすすいでから、物音がした方へ行く。 「…………?」 私よりも人の気配を読むことに長けている人間が、私が話しかけるより早く、反応してきた。 その声で、まだ暗い廊下でもそれが誰だかわかる。 「………………なんだ、リューグにロッカか」 廊下をひたひたと歩いて来たのは、リューグとロッカ。 でも…………なんだか、格好がこれから出かけてきます、っていう感じ。つまりは戦闘用のいつもの服。 さっき外、見たけど………まだ暗かったぞ??? 「どしたの?こんな朝早く」 「お前こそ」 「あー、私は喉渇いたから、ちょっと水飲みに。…………って、誤魔化されないよ?」 「チッ…………まぁ、見つかっちまったもんは、仕方ねェか……」 リューグがロッカを仰ぐ。ロッカも1つ頷いて、私に向かってニッコリ笑った。 ………………う。なんか、怖いぞ、その笑顔。 「まぁ、さん。ここではみなさんが起きてしまうことですし…………続きは外ででも。……リューグ」 「まかせろ」 「うぇ!?」 グインッと高くなる視界。 …………えぇぇええぇ!? わ、私もしかして…………。 リューグに担がれてますか!? 「な、なにす…………むっ!?」 「さん、少し静かにしててくださいね」 ロッカがニッコリ笑いながら口を手で塞いできた! ひぃぃ、唇に手の感触が〜〜〜!!! 酔っ払ってたから、キチンとパジャマに着替えないで、そのままの服で寝てたのがいけなかった!!!パジャマだったら、リューグたちも外に連れ出そうとは思わなかっただろうに! 「むぐ〜〜〜!!!(どこつれてくのよ〜〜〜!!!)」 こーゆー時は「さすが双子!」な息ピッタリの行動に為すすべもなく。 …………私は、触覚双子兄弟に拉致られました。 ようやく解放されたのは、家どころか街を出たところで。 いい加減リューグにかける負担の重さ(体の重さとも言う)に、申し訳なさを感じて、モガモガ暴れたら、解放してくれた。 「…………はぁ、はぁ…………な、何すんのさ……っていうか、ホント、こんな朝早くに何の用?」 街の外に出ても、まだ辺りは薄暗い。こんな時間に起きてるなんていうのは、よっぽど朝が早い農業関係のみなさんか、ご年配の方だと思うよ!? それに、リューグとロッカはバッチリでかける服装―――戦闘ができる服装っていうのも気になる。 「……一応、シャムロックさんたちの事件も一段落ついたみたいですし……ちょっとこれを機に、村へ戻ってみようかと思って」 「ジジィも見つからねェし…………なにより、村の連中が、あのままだと、な」 あぁ……そうか。私たちが村を後にしてから、おそらく村へ行った人はいないだろう。そうなれば、あの場所に…………村の人たちはずっとあのままだ。 「…………私も行っていいかな?お花くらい、供えたい」 リューグはフッと笑って、くしゃりと私の頭を撫でる。 …………最近、リューグにこれをやられる回数が増えた気がする。 「連れてく気がなかったら、こんなとこまで連れてこねェよ」 「村の人たちも、きっと喜びます」 ニコリと微笑んでくれたロッカの笑顔に誤魔化されそうになったけど、私は持っていた疑問をぶつけた。 「…………でも、なんでこんな時間に?みんなに一言言ってからでも……」 「言ったら―――みなさんはきっと手伝ってくれるでしょうね。…………でも、これは僕達がやらなくてはいけないことなんです」 ロッカの顔が、少し伏せられる。同様に、リューグの顔も少し曇った。 「……俺たちの、ケジメだ。……だから、誰かに見つかる前に早く家を出る必要があった」 「それに…………あんな姿になった村を……できることなら、みなさんに見せたくないですし」 ロッカの顔は、微笑をたたえてるけど辛そうだった。 あんな姿―――。 ロッカはそう言った。 私が最初に見た村は、自然がいっぱいで、どこか温かい雰囲気に包まれた村だった。 私にはそのイメージが根強く残ってる。 けれどその村は―――もうない。 残っているのは、廃虚となった村の残骸と、無惨に散らばる村人の身体。 見せたくない―――というのも、当然だと思う。 村の人も、大人数の目にさらされることは望んでいないと思うし。 「…………私…………」 行かないほうがいいんじゃ、と言おうとしたら、リューグにまた頭をくしゃくしゃっとされた。 「行くのやめる、とか言うなよ?…………俺らは、お前になら、と思ってここまで連れてきたんだからな?」 「………………うん……ありがと」 ロッカにも、くしゃくしゃになった髪の毛を元に戻してもらいながら、その通りです、といわれた。 NEXT |