Scene.35  漁祭


「た〜だいま〜」

「あっ、!遅いよ〜!!!」

トリスがぱたぱたと走ってくる。
なんだか、いかにも出かけます、という準備だ。

「ごめんごめん」

「一緒に豊漁祭、行こ?」

うっ……トリスちゃんの可愛い笑顔にKOされた…………。

「うん!……みんなは?」

「もう待ってるぜぇ」

柱の影からひょいっと覗いたのはフォルテ。
ついでに色々な顔が現れた。

「………………お待たせしてしまったようで、申し訳ありません」

深々と頭を下げる。
ぞろぞろと現れる人数は…………うぉぉ、多いな、オイ。

さん、ほらほら、行きましょ!」

アメルに手を引かれ、モーリンに背中を押される。
シャムロックさんも、柔らかな笑みを浮かべてちゃんと後ろにいる。
…………あんな、辛いことがあったのに。
私が沈んでちゃいけない。
にこ、と笑顔を浮かべた。

「よしっ!食べて食べて食べまくるぞ〜〜〜!!!」

「太るぞ」

ボソリと言ったバルレルの頭を叩いておいた。
乙女には禁句よ!!!




みんなで食べて、飲んで、ゲームして。
あっという間に時間は過ぎていった。

アメルがものすごい大量のお芋さん(じゃがバタ)を買い込んでくるし、シャムロックさんは1杯飲んで壊れるし(面白がったバルレルが飲ませ続けようとするのを、マグナが止めてた)、リューグの輪投げ披露では、次々にGETしていく景品に店のおじさんがゲンナリしてた。……ちなみに、リューグは私にお菓子をとってくれた。『お前は食い物が1番いいだろ』とか言って。レシィは包丁をもらってた。…………すごく嬉しそうだった。
途中でレイムに会ったけど、今はまだデグレアの手先だってわかっていないから、みんな楽しそうに談笑してた。
抱きついて来そうになるレイムから必死に逃げて、それはそれで……まぁ、面白かったし。

ドォォォン…………。

お腹の底に響く大きな音に、みんなの視線が、自然と上へ向く。

パァァァ……ッと散っていく花火。

「うわ……ぁ……きれい…………」

ドォン、ドォン、と大きな音。
その度に空に咲く、色とりどりの花火は、この世の中をすべて照らすように明るくて、きれいだった。

ついこの間、これと似たような音を聞いた。
…………大砲の音だ。
あれは、命を奪うものだけど、この花火というものは、命を吹き込んでくれるような気がする。

「………………きれいだね」

隣で笑うトリス。
ふと回りを見回せば、みんながみんな、すごく楽しそうな表情で上を見上げていた。
みんなの笑顔は、見てるだけでこちらも笑顔になれる、そんな顔だった。

私は、溢れだして来る笑顔を止めることもなく、

ゆるみっぱなしの表情で花火を見続けていた。





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