「あー、さすがに誰もいないかー……」

明りが消えて真っ暗なモーリン邸を見て、コッソリとため息をついた。







「誰かと会えればいいな、と思ってたけど……」

これは無理そうだ……。

どちらを向いても人の頭ばかり見える、という状況の祭り会場に来て、そう悟った。

「ま、しょーがないな……運が良かったら会えるかもしれないし」

大勢の人の間を縫うように歩いて、屋台や露店をひやかして歩く。
途中、1つだけりんご飴を買った。

「お?……おぉぉ?」

突然、人の流れが一定になった。
何かあるみたいだ。みんな一緒の方向へ向かっている。

「うぁぁ……ムギィ……!」

そのまま流れに乗ってどこに行くかもわからないので、多少無理をしてでもその流れをかいくぐり、人のいない方へいない方へ、と歩いて行く。
しばらく歩いていれば、人もまばら―――いや、人っこ1人いない場所に、辿りついた。

人にもまれた疲労感と、ずっと立ちっぱなしであったために休みを要求している足をいやすために、適当な石を探して腰を落ち着ける。

りんご飴をなめながら、空を見上げた。

見えるのは、漆黒の空。

黒を見れば、いつでも思い出す。

「…………ルヴァイドたち、元気かな」

ルヴァイドはちゃんと寝てるかな。誰かが休みをとらせないと、いつまでもがんばってしまう人だから。
イオスは、ちゃんとご飯食べてるかな?食べる量は多いのに、意外に好き嫌いもあるから放っておけない。
ゼルフィルドは、相変わらず1人で黙々と武器を磨いたりしてるのかな。

漆黒の空は、疲れを優しく包みこむ夜のような人たちを思い出させる。
次に会うときは、敵同士だとわかっていても。

「……また、会えれば、いいな」

呟きと共に、大きな閃光が漆黒の空を切り裂いた。




ドーンッ……!




遠くで鳴った体に響く重低音に、ルヴァイドは書類を読んでいた目をふと休めた。
宿場としてる大きなテントには、まだ微かに少女のいた気配が残っている。

『いい加減、寝ようよ!』

夜遅くまで仕事をしていると、彼女が決まって持ってきた毛布。
それを見て、思わず口が緩んだことに、ルヴァイド自身、気がつかなかった。

彼女のことを思い出したことで、少しだけ気持ちが緩んだ。一旦休憩を入れるか、と書類を机に置く。
それと同時に、再度鳴り響く重低音。

息抜きがてら、正体を確かめにテントから外へ出る。
すると、ちょうどこちらへ来ようとしていたのだろうか、イオスとゼルフィルドがそこにいた。

「ルヴァイド様」

「どうした。何か用か?」

「あ、いえ……根を詰めておられたようなので、温かい飲み物でもお持ちしようと思いまして」

なるほど、イオスの手にはティーセットが用意されていた。
このティーセットも、あの少女が

『休憩なんだし、一緒にお茶飲もうよ!』

とどこかから持ってきたものだ。

「あぁ。……ちょうど、休憩しようと思っていたところだ」

「では、すぐに準備いたします。テントの中へ―――」

イオスの声にかぶさるように、ドーンッ……とひときわ大きな音が鳴った。
音の源を探そうと、見回す。

「東南東ノ上空デス」

ゼルフィルドの言葉通りの方向を向くと。

「……花火か……」

小さな光の粒が、夜空に咲いていた。
1つ1つは小さなものだが、集結して大きな花火になっている。

毛布やティーセット。
1つ1つは小さな思い出だが、集まればこんなにも彼女を色濃く描きだし、それは大きな想いへ変わる。





漆黒の空。

舞い散る花火。

「綺麗……」 「なかなか、綺麗なものだな……」

異なる地で小さく呟かれた言葉は、同じ漆黒の空に、吸い込まれた。




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