Scene.34  麦屋の店主


「ふぅ…………どうやら、一応これでケルマとの戦いには終止符がついたみたいね」

フラフラになりながらも、最後まで意地を張りとおして、帰っていったケルマを見ながら、トリスが呟いた(ちなみに、パッフェルさんはウォーデン兵に担がれて帰った)。

「なんだかんだいって、ケルマも悪い人じゃないのよね」

かなりハチャメチャな人ではあるけどね―――………。
顔の造りで言ったら、絶対美人の部類なのに……モテないのは、明らかに服装の趣味の所為だよね(キッパリ)。

「さて……まだ、豊漁祭までには時間があるし……もう1回り、街の中を見て回るか」

フォルテを封切りに、みんなが解散していく。
私も、ちょっと行きたいところがあったので、早々に1人で退散した。
迷わずに、裏路地の方へ行く。
裏路地への行き方は、すでに何度も何度もモーリンに確認していた。

「ここを左に曲がって…………っと」

曲がった先に、ひっそりと屋台があった。
もちろん、その名前は

あかなべ。

「あったあぁぁぁぁ!!!」

思わず大絶叫して、あたりに誰もいないことを確認する。
…………挙動不審者だと思われちゃうわvv(キョロキョロ)←すでに不審者だとは思ってもない。

はやる心を抑えつつ、走り出そうとする足を、せめて競歩ぐらいにしようと押しとどめて、屋台に近づく。

けど。

「…………ん?……あ、あれ…………?」

明かりが……ついてない。
ガーン…………じゅ、準備中!?定休日!?それとも店じまい―――!?
…………なんにせよ、ついてない…………(ガックリ)

「すみません、まだ準備中なん……おや?あなたは……」

色気たっぷりの声に、思わず顔をものすごい勢いで上げてしまった。
暖簾の中から顔を出したのは…………。

シオンさんだ―――!!!

う、美しい黒髪が…………はぅ…………オーラが、眩しいオーラが…………!(ケルマのとは違う)

「あなたは、もしや、トリスさんたちのお知り合いでは…………?」

「あっ、ハイ!初めまして、って言います!」

「初めまして。ここの店主でシオン、と申します。…………よろしかったら中へどうぞ」

「え?…………でも、準備中なんじゃ…………」

「かまいませんよ。…………ちょうどいい山菜が手に入ったんです。山菜ソバでもいかがですか?……あぁ、ここではシルターンの蕎麦を食べさせているんですよ」

蕎麦!お蕎麦!!!久しぶり、ジャパ―――ン!!!

「いいんですか!?」

「えぇ。…………さぁ、どうぞ」

嬉々として私は店の中に足を踏み入れた。
しっとりと落ち着いた雰囲気の屋台。くぅぅぅ〜〜〜、懐かしいわ!!!

「…………ハッ…………」

短い気合の息吹と共に、シオンさんの手が目にも止まらぬ速さで動く。
まな板の上に置かれた生地は、あっという間に細長くバラバラになり、煮えたぎっているお湯の中へ次々と落ちていく。

「おぉ〜〜〜…………」

私は思わず拍手をした。

「ありがとうございます。…………さん、蕎麦はご存知のようですが」

「あ、ハイ。私の世界にも同じような(というか同じ)料理があったんで」

「…………失礼、もしや、あなたは日本、からいらっしゃったのでは?」

「そう、そうです!どうしてご存知なんですか!?」

「知り合いに、同じ世界からいらっしゃった方がいるんですよ」

…………あぁ、誓約者か。そうだよなぁ。なんせ、リプレにラーメン作らせるくらいだから、麺類好きなんだろうなぁ。

「それはそうと……さん、腕に怪我をされてるようですが……大丈夫なんですか?」

「ハイ、大丈夫ですよー。…………みんな、どこかしら怪我してますんで。私だけが泣き言言ってられないです」

「……強いですね」

「そうですかね?みんなが強いから、私もひっぱられてるんだと思います」

シオンさんは、蕎麦をお湯から引き上げて、冷水で冷やし始めた。

「仲がいいんですね。…………そうそう、トリスさんやマグナさんたちがいらっしゃると、いつもさんの話をしていくんですよ」

ハイ、と目の前にお蕎麦と汁、それに山菜となめこおろしが置かれる。

「わぁ〜〜〜!いただきます!」

一口ぱくりっと食べて…………懐かしい味に感激した。
お、おいしい〜〜〜!日本でもこんなにおいしい蕎麦食べたことないよ!

「おいしい!!!今までで食べたお蕎麦の中で、1番おいしいです!!!」

「ありがとうございます。そんなに喜んでいただけると、こちらとしても嬉しいですよ」

「ん〜〜〜vv…………で。トリスたち、私の何を話していくんですか?」

「楽しそうにお話していきますよ。さんとバルレルくんがケンカした、とか、さんが旅団相手に石で応戦したとか」

「…………あんまり良いお話じゃないですね…………」

トリス……マグナ…………帰ったらとっちめてやるー!!
ズルルルルル!と音を立てて最後の一口をすすった。
勢いよく口の中に飛び込んできた蕎麦を、しっかりゆっくり噛み締めて、最後の風味を味わい、名残惜しいが、ゴクリと飲み込んだ。

「はぁ〜、おいしかった♪…………えと、お代は…………」

「あぁ、結構ですよ。…………今日は私からのおごり、ということで」

「へ!?い、いやそんな!こんなおいしい蕎麦食べさせてもらって、それは……!」

「いえいえ。お近づきの印、ということで、ここは1つ」

「………………本当に、いいんですか?」

「えぇ。…………その代わり、他の方にもここの宣伝をお願いしますね」

「もちろんです!!!…………ホント、おいしかったです!ご馳走様でした!」

「どうも。またいらしてください」

席を立って、椅子を直し、店を出る。
シオンさんはわざわざ店の外まで見送りに出てくれた。

「お1人で大丈夫ですか?」

「ハイ。大丈夫です。まだそんなに暗くないし」

「…………くれぐれも、お気をつけて。道は真ん中を歩いてくださいね」

「ハイ!!!」

くすくす笑って、私はシオンさんに手を振った。
だって、シオンさんってば、なんだか幼い娘を見送る父親みたいなんだもん。

しばらく歩いてふと振り返ると、まだシオンさんがこちらを見ていたので、再度、手を振った。




NEXT