Scene.30  士と王子


コンコン、とノックをして、扉の外から声をかける。

「シャムロックさん?入っていいですか?」

「あ、どうぞ」

カチャリ、とドアを開けると、ベッドに横たわっているシャムロックさん。
やっぱり、あまり具合はよくないみたいだ。

「右腕、診させてもらいますね」

ベッドサイドに座ると、すでに鎧は外されている、シャムロックさんの右腕の服を捲り上げた。
思ったとおり、そう深くはないけれど、長い切り傷が1本腕に走っていた。
傷自体はふさがりかけているものの、まだ赤く、すこし腫れている。周りには、固まりかけた血がこびりついていた。

「フォルテー、持ってきたタオル、お湯に浸して絞ってくれる?」

「ほいきた」

フォルテが絞ってくれたタオルで、丁寧に患部を拭いていく。

「…………つっ……」

「あ……痛かったですか?すみません、ちょっと我慢してください」

「…………ずいぶんと、慣れていますね」

「はは……まぁ、元怪我人ですから」

そういったところで、フォルテに頭をポカリと叩かれる。

「今も、怪我人だろ?無茶はすんなよー?」

わかってるって、と言い返して、ガーゼを手に取る。

「あの…………お名前は?」

「え?…………あっ……もしかしなくても、自己紹介してなかったですよね…………私、、って言います」

「ちょっと前から一緒に旅してたんだが…………黒の旅団に連れ去られてたんだ。あの騒ぎのときに、あいつらから逃げてきた……だろ?」

フォルテの言葉に、一応頷き(逃げてきた……というより、ルヴァイドが解放してくれたからね)、塗り薬をガーゼにつけて、もう1度患部をキレイに拭いてから、ガーゼを貼り付けた。

「…………あの……、さん…………」

「やだなぁ、でいいですよ。騎士の方が、庶民に敬語使わなくてもいいですって」

「いや、しかし…………」

困ったようにシャムロックさんは、フォルテを見上げる。
それでも、フォルテはにかっと笑ってあっさり言ってのけた。

「堅苦しい男は、嫌われるぞぅ♪」

「…………わかった。じゃあ、遠慮なく。……………………私は、どこかで君と、会ったことはないか?」

思わず、ガーゼがはがれないように、テープで貼り付けようとしていた手が、止まる。
………………えーと。

「会ったことは、ないと思いますけど…………(私は画面で対面してましたが)」

「お?お堅いお前さんがナンパたぁ……珍しいもんだ♪」

「フォ・ル・テ?」

「………………お前、突っ込みのタイミングがケイナに似てきたぞ……」

「あら、それは光栄vv…………でも、たぶん会ったことはないと思いますよ?というか、私自身、この世界に来たのが、つい最近ですから」

「………………え?それじゃ、君はもしかして……」

「えぇ、召喚獣なんです。…………もっとも、私のマスターはわからないんですが。手っ取り早く言うと、はぐれ?みたいな」

「す、すまない。辛いことを……」

「いやいや、別に辛いとか思ってませんし!…………さ、これでとりあえずは大丈夫だと思います。しばらく動かしづらいとは思いますけど…………そこんとこは、我慢してください」

「あぁ。…………ありがとう」

「いえいえ。…………じゃ、私は失礼しますね。まだ、傷を隠して我慢してる人たちがいるんで」

リューグにロッカのお二方と、カザミネさん。
さぁ、まだまだ休めないぞ。

「…………じゃ、また後で」

私は、フォルテを部屋に残して、扉を閉めた。




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