Scene.27  動の後に


私は、泣きながらリューグに手を引かれて走っていた。
後ろから、ガラガラと瓦礫が崩れる音、炎の音が聞こえる。
足は痛いし、腕も痛い。でも、私は必死で走るみんなについていった。
逃がしてくれたルヴァイドの顔が、頭から離れなかった。
ルヴァイドが、なにか酷い目に合わされたらどうしよう。
彼は、私を助けてくれたのに。

「……ここまで離れれば大丈夫だろう。やつらも、追ってくる様子はない」

その言葉を聞いて、みんながひとまず止まる。みんな、張り詰めていた糸が切れたように、座り込んだ。
ずっと泣いていた私は、リューグに無理やり座らせられた。

「大丈夫だ、落ち着け」

走ってる間中言われていた言葉。ポンポンと頭を撫でられる感触。
私は、ようやく安心してきて、まともに息を吸い、吐いた。泣きながら走っていたから、軽く酸欠で苦しかった。

リューグは私が落ち着いてきたのを見ると、私のドロだらけのズボンを膝まで捲った。

「……ふぐっ!?」

1番痛いところを触られて、思わずうめき声を出してしまう。
リューグが顔をしかめてアメルを探す。

「アメル、を……」

「ううん、そっち騎士さんの方が重症だから、私はいい……だ、大丈夫リューグ。これ、治りかけてるヤツだから」

「……ちっ……じゃあ、すこしくらい痛んでも我慢しろよ?」

リューグがテキパキと持っていた水で布を湿らせ、傷口を丁寧に拭く。そして、違う乾いた布を細く裂き、包帯代わりに巻きつける。

「……ありがと。じゃ、次はリューグね」

「あ?……俺は別に……」

「顔、泥だらけ。擦り傷も多いし」

私は同じように湿らせた布をリューグに渡し、トリスたちの荷物の中から、Fエイドを出して貼り付けた。

「…………リューグ?」

リューグはいきなり私の肩に頭を乗せた。

「…………本当に、だな?」

「…………偽者がいるなら別だけど……」

「……マジで……生きてるんだよな?」

「…………一応痛むけど足もついてるし、生きてるよ」

「…………心配、かけさせんなよ……」

「…………………ごめんなさい」

ペコリと頭を下げた私の髪の毛を、くしゃりと撫でる。
顔を上げたリューグは、柔らかい微笑を浮かべていた。
………………あぁ、もう……クラクラするよ、その笑顔。

「それにしても、あのビーニャって召喚師。あれだけ召喚術を乱発できるなんて……」

「えぇ。あれだけの数の魔獣を使役できる力。とても尋常のものとは思えません」

うぉっ……そーだった。私がいた頃から大分時間が経ってるから……新しい仲間がいるんだ。……えーと、今話したのはカイナで……カザミネさんもルウも、あっ、モーリンも私会ったことないよなぁ……レナードさんもだ。……下手にうかつなことは言えないな(汗)

「……間違いないな」

「あぁ、だろうな。オレ様も多分お前さんと同じことを考えてるぜ」

「あのビーニャという召喚師、スルゼン砦を壊滅させたガレアノの同類に違いない」

ガレアノ……悪魔3兄弟の次男坊(ちなみに長男キュラー、末っ子ビーニャ)だわ……でもね……私思うのよね。

明らかに顔色が3人の繋がりを決定付けてるって!!
あんな青白い顔した人間なんて、他にいないよ!!
イオスとバノッサは別よ!?あれは青白いんじゃなくて、色白なのよ!美白なのよ!!

「ガレアノって……キミたちが戦ったって言ってた、死人を操る召喚師のこと?」

「そんな、嘘でしょう!?」

「僕だって、そう思う。だがな……だが、そう考えれば、屍人使いがスルゼン砦を滅ぼした理由が説明できるんだ」

「あの2人をつなぐ共通項はたぶん……」

「黒の旅団の一員か。なるほどな……そういうことかよッ!あいつら……をこんな目に合わせやがって……!」

そのとき、ぐっとシャムロックがうめく声がした。フォルテがハッとして、シャムロックに近づく。

「おい、シャムロック!しっかりしろ!?」

「大丈夫です。今までの疲れで、気を失っただけです。でも……肉体以上にこの人の心は傷ついてました。それが、心配です」

「ちゃんとした場所で休ませる必要があるでござるな」

カザミネさんがそう言って、フォルテと共にシャムロックを運び始める。

「…………………ところで……アナタはいったい何者なの?」

しばらく歩いたところで、ルウが振り返って聞いてきた。
私が答えあぐねていると、マグナが助け舟をくれる。

「ルウ、この子は俺たちの旅の仲間で……ちょっと前に、黒の旅団にさらわれたんだ」

「あぁ、この子かい。あんたたちが必死になって探してたのは。……あたい、モーリン。ファナンで道場を開いてるんだ」

「あっ……はじめまして!って言います」

「拙者はカザミネと申す。…………殿か。拙者の知り合いにも同じ名前の女子がおるでござるよ」

「カイナと申します。……私も、あなたと同じ名前の方を存じております。……あぁ、こうしてみると、サイジェントが懐かしいですわね」

「うむ。…………しかし、よくぞあの旅団に捕まって無事に帰ってこれたでござるな」

「…………おい、そーだ……オマエ、撃たれた傷はどうしたんだよ!?これだけの期間で動けるハズねェだろ!?」

バルレルの大声に耳を軽く塞ぎながら、私は必死に説明の言葉を捜した。

「…………えーと……黒の旅団が治してくれた」

「はぁ?…………なんで」

「知らないよ!いくら聞いても答えてはくれなかったし……でも、どうやら私は『人質』として連れ去られたみたい」

でも、ただの人質にしては待遇がよすぎたけどね…………。
それに、バルレルはやっぱり不信感を感じたらしい。

「…………そーいやぁ、あのガキが『あなたがそういうんなら』って言ってたよなァ?」

「私、あの子のこと知らないよ!ってか、あの子とははじめて会ったし!…………たぶん、私と引き換えにアメルを手に入れようとしてたんだと思う」

「ちっ……アイツらが考えそうなことだぜ」

「……あの子の優しさを逆手に取るつもりだったんですね」

リューグやロッカが怒りをあらわにして言う。
でも、ただ1人じとりといや〜な目つきで見てくるバルレル。

……やめなさい、その目つき。
ゴツン、と一発バルレルにゲンコを入れてから(いてぇ〜という声は無視)、私はマグナに向き直った。

「……心配かけて、ゴメン!……それと、探してくれて、ありがと」

マグナは、にかっと笑うと、私の頬をひっぱり始めた。

「…………まぐにゃふぁん?」

「……本物だよね?」

「それ、さっきリューグに言われた」

「……生きてるんだよね?」

「前言と同様の方向で」

「………………よかった!!」

「そこは違うや。…………ありがと、マグナ」

にへらっと笑うと、マグナはうんうんと頷いて私の頭をぽんぽん撫でる。
トリスがもう〜、とすこし頬を膨らませながら肘で突っつく。

「嬉しいからって暴走しないの!……まずは、シャムロックさんを運ばなきゃ。お兄ちゃんたちじゃないと、運べないんだから」

そうだった、とマグナは慌ててシャムロックの方へ走る。
私たちは、えっちらおっちら街道を歩いて、森の中にあるルウの家に向かった。



ルウの家に着いたとき、私たちはまさしく疲労困憊という感じだった。
服はドロドロだったし、ところどころ傷ついている。
マグナがリプシーを呼び出してはみんなの傷を回復して、比較的傷の軽いものから、お風呂に入った。
私は召喚術が効かない身なので、1番最初にお風呂に入り、泥だらけになった傷口を丁寧に洗った。かなり痛かったけど、傷口にバイキンでも入ったら、治りが遅くなってしまう。

っていうか、それよりもお風呂に入れたことが嬉しかった。久しぶりのお風呂。あぁ、日本人はやっぱり湯船よね…………。
まだ待っている人がいるので、さっさとお風呂を出ると、洗ったせいか、腕からはまた血が流れてきたのをタオルで止めた。

私は、ルウに救急箱の場所を教えてもらうと、ガーゼとテープを出した。そこはもう、旅団でやっていたから、慣れた手つきでガーゼを患部に当て、テープで止める。

、大丈夫?」

「うん。ちょっと傷口開いただけだから。なにか手伝うことある?」

「あ、じゃあバルレルの傷見てやってくれないか?酷くないって、俺に見せようとしないんだよ」

「あっバカッ!ニンゲン!に言いつけることねェだろォ!?」

私は、バルレルの頭をボカッと殴ると(もちろん左手)、救急箱からガーゼと消毒薬を取り出した。
バルレルの複雑怪奇な服を無理やり捲って、腕やら足やらに複数ある傷を見る。
…………まぁ、確かにそんなに酷いものじゃないけど、なにせ数が多すぎる。片腕に3、4箇所は傷があるくらいだ。

「う〜ん…………まずは、お風呂は入ってきて傷口洗ってきて。治療はそれからのほうがいいと思うよ」

「…………チッ……ニンゲン……後で覚えてろよ……」

そう言って、バルレルはどすどすとお風呂へ向かう。
私はその間に、ルウに傷薬はどれか教えてもらい、ガーゼにそれを塗りつけて準備をした。
そして、お風呂に入った後のフォルテやレシィの軽い怪我を処置する。
あまりの手際のよさに驚かれたが、『自分のケガを処置してたから』と適当にごまかしておいた。…………軍医の助手をしていたなんていったら、ややこしいことになりそうだし……。

トリスとミニスが救急箱を捜し求めてやってきた。

「どしたの?どこケガした?……って」

なんてこと!
可愛い可愛いミニスのぷにぷにほっぺに傷がついてるわ!

「み、ミニス……かわいい顔に傷が……」

「だ、大丈夫よぅ、これくらい。それよりもトリスの腕のケガが酷いの」

へへへ、とトリスがちょっと困ったように笑う。私は、トリスの白い服から滲んでいる赤い血を見逃さず、服を捲らせると、手早く治療した。
そして、その後にちゃんとミニスのほっぺたにもFエイドを貼っておいた。くぅ……この絆創膏姿のミニスも可愛いわ!!!←危険

「……………………出たぞ」

そこへ、お風呂から上がったばかりのバルレルがぽかぽかと湯気を出しながら現れる。
先ほどの複雑怪奇な服は脱いで、タンクトップにズボンという……なんとも少年らしい姿だ。
…………この風呂上りつやつやぷにぷにほっぺも捨てがたいわね!!
でも、そのほっぺ以上に気になるのは、やっぱり傷の多さ。
お風呂で温まったせいか、傷が赤くなっているのがわかる。

「まぁまぁまぁ、バルレル君。こちらに来て座りなさい」

バルレルは、ぷいっと顔を横に背ける。
…………くっ……可愛くない……!

私は、バルレルのしっぽをひっつかんで座らせ、腕やら足やらの傷にかたっぱしからFエイドとガーゼをはっていった。

「……………よし、終わり」

「おい、。終わったか?」

「あ、リューグ。うん、一応終了。…………どう?そっちは」

アメルとモーリンが必死になってシャムロックの看護に当たっている。
ここについてから、もうずいぶん時間が経った。夕方にはついていたのに、今はもう真夜中だ。

「まだかかりそうだ。…………疲れてんだろ?こっちはいいから、寝ちまえよ。レシィやミニスも寝かせたし」

「え?…………でも」

フォルテがひょいっと顔を覗かせた。

「いーからいーから。もずいぶんな目に遭ってるしな。早いトコ寝ちまえよ。こっちは、俺らだけで十分だ」

フォルテが言うと、なんだかホッとしてその気になってきた。
それと共に、疲労感から眠気が襲ってくる。

「バルレル、を連れてけよ」

「そんなら、俺も寝るぞ?」

「あぁ。お前が1番頑張ったしな」

「…………、行くぞ」

勝手知ったる他人の家。
バルレルは私を連れて、空いている部屋へと入った。




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