Scene.24 即席軍医(助手)
「軍医さん、こんにちは〜」 そう声をかけて、私は医務室(医務テント?)に入った。 奥には、椅子に座ってなにやら薬の調合をしている軍医さんと兵士。 「おぉ、か。ちょっと待っててくれ。…………よし、と。後はこれを飲んで1日寝とれ」 「はい……ありがとうございます」 真っ青な顔をして出て行く兵士さん。 私は、思わず『お大事に〜』と言った。…………あれでよく歩いていられるな……。 「だ、大丈夫なんですか?顔色悪かったですけど……」 「なに、ただの風邪だよ、風邪。気候が違うのでな、体に変調をきたす者がいるんだ」 「ふぅん……そーいうものなんですか」 「そーいうものだ。…………で?何をしに来たんだ?」 「いや、食堂で食事を取って、ゼルフィルドと一緒に1度テントに戻ったんですが……ルヴァイドがまだ寝てるから、こっちに来てみたんです」 「…………そうか。それで兵士どもが騒いでいたんだな」 「え?」 いや、と軍医さんは頭を振って、そろそろだな、と立ち上がった。 「なにが?」 「……よし、今日はにも手伝ってもらうとするか」 と言われたとたん、テントの布が、ばさっと捲られた。 「軍医殿!手当てを頼みます!」 入ってきたのは2人の兵士。1人は、もう1人につかまるようにしてなんとか立っている。 「ぞくぞくとくるぞ。訓練の時間はな。……、簡単な消毒くらいならできるな?」 「まぁ……」 よし、とぽんぽんぽん、と大きな薬瓶と綿、ピンセットや絆創膏、ガーゼなどを渡される。 …………えっ!? 「お前さんは、小さな傷なんかを片っ端から消毒してってくれ。小さな傷でも放っておくと厄介だからな」 言いながらも、軍医さんは大きな傷をテキパキと診ている。 私は慌てて綿を小さくちぎり、ピンセットでつまんで消毒薬をつけた。 思っている以上に、物を握ることができる。リハビリになるかも! 全体を見て、まず、顔に擦り傷を発見。 「痛いけど……我慢してください!」 ちょいちょいちょい、と綿を顔の傷につけ、消毒したところに傷テープをぺタリ。 さらに、腕まくりをしたところに、切り傷を発見。そこにもちょいちょい消毒する。そこの傷はテープじゃ収まらないので、ガーゼを当ててからテープ。 軍医さんは、その間に足についた大きな傷を手当てし終わっていた。 「よし。後はじっくり寝てろ。そう酷いものでもあるまい」 「あ……はぁ……軍医殿……なんでちゃんが?」 「お。有名人じゃないか、」 「今朝の食堂で会ったんですよ」 「軍医殿、手当て願えますか」 続けざまに入ってくる兵士たち。 ……一体、どんな訓練してるのよ! 「え?あれ?ちゃん?」 「あれ。果物くれた人だー!……どーしたんですか?」 「いや、ちょっと訓練で滑って……」 黒いズボンが破れて、傷口が見える。石か何かの上で滑ったのだろう。……結構、深い。 「……痛いですけど、我慢してくださいね」 あはは、と引きつった笑いを見せる兵士に、私はえいっと消毒液をつけた綿をつけた。 足がビクンッと震える。…………あぁ、痛いよね……そうだよね……わかるよ……。マッハで傷口を消毒する。そして、ガーゼを適当な大きさに切った。 「……よしっ!じゃ、ガーゼ当てときますね。……ズボンは……破れてますけど……」 「あぁ……しょうがないな、これじゃあ……」 「…………えーっと……下手くそでよければ、縫いますけど?」 え?と兵士が返してくる。 裁縫はどっちかっていうと手首から先を使うから、腕に負担はかけないし。 …………被服の時間では、そこまで悪くはなかったから大丈夫なハズ。 破けたところに当て布して普通に縫って……間のところを縦縫いすれば大丈夫でしょ。 「あっ、もちろん無理にとは言いませんが!!」 「…………じゃ、お願いしようかな……後でまた持ってきていいかい?」 「あ、ハイ。ここにいるんで。……軍医さん、お裁縫セットありますよね?」 「あぁ。軍の持ち物でたしかその辺に転がってるはずだ」 その辺って……まったく、この人も結構アバウトな人だなぁ……。 私は礼を言って去っていく兵士さんに手を振りながら、裁縫道具を探し始めた。 暇なときは軍医さんの隣で破けたズボンを縫い、ケガ人が来たら一時中断して、消毒。 でも、気づいたんだけど……結構、ケガ人多いね。そんなに訓練が過激なんだろうか。 それを軍医さんに言ってみると、いやいやと笑って首を振られた。 「がいるからだろう。……いつの間にか、縫うズボンも増えたしな」 「どーいう意味ですか…………でも、ま。大分慣れてきたしスピードアップで」 よし、と糸を切って縫い終わったズボンをきちんとたたんだ。机に置かれているズボンをまた一枚とって、縫い始める。現在縫い終わったのが4枚。残りは3枚だ。 「さて……これは比較的穴が小さいから嬉しいな」 当て布を穴のサイズより一回り大きく切って、ズボンを裏返しにしてからチクチク縫い始める。 「!!」 「うひゃぁ!?」 いきなり名前を呼ばれてビックリ。さらに激しい口調だったので2倍ビックリだ。 険しい形相でテントに入ってきたのは、まぎれもないルヴァイド様だ。 「る、ルヴァイド?起きたんだ、おはよう〜」 「おはよう、じゃない!お前は、また……兵士たちが騒いでいるから何かと思えば……無茶をするなと何度も何度も何度も言っているだろう!?」 「た、たしかに何度も何度も何度も言われてるけど……これは無茶なことじゃないもん〜〜!!」 「しかし……!」 「こらこら、そう怖い顔して睨むな。が怖がってるだろうが」 「〜〜〜軍医!どうしてを止めなかった!?」 「それは私が手伝ってくれと言ったからさ。……大体、この大所帯で軍医が1人っていうのはきつすぎる」 「だが、はケガ人だぞ!?」 「できること以上のことは望んではいない。その縫い物だって、彼女ができると判断したから言ったのだろう」 こくこく。私は激しく頷く。 その間にも、チクチクと針を動かしていた。 ルヴァイドは、そんな私を見て、ストン、と患者さん用の椅子に腰を下ろした。足の上に組んだ手。その上に顔を伏せて、呟く。 「…………無茶はしないでくれ、本当に」 「……うん」 「……ふむ、。今日のところは帰ってやれ。でないと、この将軍が何をするかわからん。下手にケガ人をまた増やされても困る。また、明日来てくれよ」 何か言いたそうなルヴァイドより早く、私ははいっ!と返事をしてテントの外に出た。 …………自分の反射神経、万歳! 「……」 「うぁっ!はいっ!」 ふわっ…………。 ………………本日2度目のビックリイベントだよ!!! 誤解されそうな体勢だってば〜〜〜!!!(泣) しかも、ここ医務室の前〜〜〜!!!人が来る!人が! 「……目が覚めたとき、お前がいなくて驚いた」 「あ……」 「どこかに……行ってしまったかと思った」 「…………ごめん。心配させた……よね」 せめて、書置きくらいするんだった……。 って、私文字書けないじゃん! 「……まったく、お前からは目が離せんな」 あぅ……なんだか、小さな子供みたいでゴメンナサイ。 ルヴァイドは、ふっと笑って私を腕から解放し、ぽむ、と頭の上に手を置いた。 「さぁ、戻るぞ」 「あ、ちょっと待って。その前に……ズボン渡していく」 「…………さっきから思ってたのだが、一体何を縫っているんだ?」 「ん?なんかね、軍医さんのところにくる人、大体ズボンとか破れててさ。このままじゃなんだから、縫ってるの。…………下手くそだけど……って、ヤダ!見ないでよ!」 「……中々のものだな。だが、なんだこの量は」 5枚のズボンをたたんだ束を見て、ルヴァイドが目を細くする。 「まだ残ってるんだよ?」 私はズボンをそれぞれのテントの中に入れていく。みんな、自分がどのテントかわかりやすいようにちゃんと教えてくれたんだ。 ルヴァイドは少し呆れたように腕を組んで、私がテントに行くのに付き合ってくれた。 …………そういえば、将軍なのに訓練とかしてないよな……って、これで訓練なんかされたら、ますます強くなって困るけど(汗) テントに戻って、ルヴァイドはすぐイオスに呼ばれて出て行った。 『今日はもう外に出るなよ』と釘をさしてから出て行ったので、私は特にすることもなく、ごろごろとベッドの上でぼんやりしていると、いつの間にか眠ってしまったらしい。 ふと目を覚ますと、私を抱きしめながら眠っているルヴァイドがいて、ビックリした。でも、本日3回目ともなれば、(ちょっとどーかと思うけど)もう慣れた。 私は、また、とろとろと襲ってくる眠気にあっさりと降参を告げて深い眠りに入った。 ルヴァイドの眉間に、またしわがよっていた。 NEXT |