Scene.24 to 25  女の為の最良選択


部屋に戻ったルヴァイドの目に入ったのは、ベッドの上で安心しきった顔で眠る、の姿だった。
きっと、寝る気はなかったのだろう。毛布は彼女の身体の下で、本来の役目を果たしてはいなかった。

無防備にゆるめられた顔。
微かな寝息は、とても穏やかで。


ルヴァイドは自然に笑みをこぼした。


鎧を外し、ラフな格好になってから、を抱き上げ身体を移動させ、毛布を取ってその身体にかけた。
剣を枕元に置き、自分も毛布の中に身を横たえる。



…………彼女は、ここにいていいのだろうか。



日に日に、元気を取り戻していく彼女を見て、そう思う。
あの召喚師が……元老院が何を考えているのかはわからない。
だが、その目的がよくないものだということはわかる。
最悪…………彼女の命はないかもしれない―――まぁ、もっとも、召喚師の口ぶりからするにその可能性はないに等しいが。

だが…………きっと、捕らえ続けている先に、待ち受けていることは、彼女にとって辛いことだ。


―――もう、彼女の悲しい顔は、見たくない。


今でも胸に残っている、顔。

…………村を滅ぼしたルヴァイドを憎むというより―――どこか、自分自身を責めているような―――そんな表情だった。

あんな顔は、してほしくない。

ここ数日でわかった、彼女の笑顔の明るさを、ずっと持ち続けて欲しいと思うから。


んー、と寝返りを打った彼女が、ルヴァイドの胸へ転がり込んでくる。
クスリ、と笑みを浮かべながら、そっと背中を抱きしめた。


…………自分の手は、血生臭い。


数え切れないほどの人を、この手で殺してきた。
許しを請うつもりはない。
むしろ―――恨んでくれた方が、よほどいい。
自分はきっと、恨みのうちに死ぬだろう。


そんな人間の側に、彼女はいてはいけない。


彼女は―――こんな人間を、許してしまうヒトだから。

「………………

だけど。

離してしまいたくない。共にいたい。

「………………

切なくなるほどの、この気持ち。


三砦都市トライドラの陥落させよ、という命令が来たのはずいぶん前だ。
今まではの静養のために、延ばし延ばしにしていたが―――そろそろ、本格的に動き出さねばなるまい。

きっと……また、彼女は悲しむ。
そして、また自分の手は血に染まる。


………………本当に、彼女を捕らえ続けていいのか?


拭いきれない、この不安感はなんだ?




………………彼女にとって、1番いい選択を、したい。




それが、たとえ『別れ』という形になっても、彼女にとっていい選択だったのなら、後悔はしないだろう。
―――自分が、少しだけ……寂しくなるだろうけれども。

離れる日は、おそらく近い。

だから、今だけは。

手を伸ばせば届く距離にいる、今だけは。

この腕の中で笑っていてくれ。

ルヴァイドは願いを込めて、腕の中にいる少女を抱きしめた。






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