Scene.23  れゆく心


3日が経った。
軍医さんの言うとおり、傷が治ってきて、私は、ほぼ不自由なく生活できるようになった。
どこから取ってきてくれたのか、ルヴァイドがキッカの実もくれたし。
本当は、昨日ぐらいから平気だったんだけど、ルヴァイドがまだ3日経ってはいない!とかなんとか言っちゃって、歩く練習とかさせてくれなかったし。
朝早く起きて出て行こうと思っても、ルヴァイドの方が早く起きて仕事してるし、ルヴァイドが寝てから……と思っても、ずぅっと仕事してるから、結局私のほうが負けて、先に寝てしまう。しょうがないから、書類を届けてる間とかを見計らって、練習していたのだけど。一体、ルヴァイドさんはいつ寝てるのでしょう?
そんなわけで、じっとしている最後の日の夜、私は何気なくルヴァイドに聞いてみた。

「…………ねぇ、ルヴァイド」

「なんだ?」

「……前から思ってたんだけど……一体いつ寝てるの?今だ、ルヴァイドが寝てるところ見たの、1回しかないんだけど。もしかして、ずーっと徹夜???……なわけないか」

「なんのことはない。お前が起きるより早く起き、眠った後に寝ているだけだ」

「……いや、そー言われちゃ、そーなんだけどさ…………それに、場所はどーしてんの?まさか、立ったまま寝るとかないよね〜いくらなんでも」

「…………イス」

「………………は?イスって……その、イス?」

コクリ。
……って、コクリじゃないよ!!

うっぎゃあぁぁ!!立ってるのとあんま変わんないじゃん!そ、そうとは知らずにごめんなさい!今すぐ出て行きます!」

「落ち着け!出て行くって行ってもどこにだ!?」

「軍医さんのところにでも!もしくはイオスたちのところの隅にでも置かせてもらいます!」

待て

わし
ふ、服が、の・び・る〜〜〜!!!

「行くな。行かないでくれ。というか、イオスたちのところには行かせん

なぜ、限定
やがて、ルヴァイドはぽつりと言った。

「……オマエには……ここにいて欲しい」

…………………………は?
今、なんとおっしゃいました?

ちょっと、目ん玉飛び出そうですが(汗)

「えー、ルヴァイドさーん……全国の乙女が誤解する発言は控えて……」

「イスでは寝ずに、ここで寝ればよいのか?」

そして、私を軽くトンッと押し、ルヴァイドは自分もまた、ベッドに寝……って。
冷静に状況を把握している場合じゃない!!!

何だ、この全国の乙女が誤解する体勢は―――!!!

「る、るるるる、ルヴァイドさん!?」

ルヴァイドは、そのままの体勢で、こそっと呟く。

「…………バルレルというのは、誰だ?」

み、耳に息が!!息が―――!!!(大パニック)

「ど、どどど、どうしてその名前を……!」

「夜中に呟いていたぞ…………察するに、一緒に寝ているようだが」

誤解を招く発言はやめて下さい!!」

「どう考えても、女の名前ではないな」

いーやー!!!耳元で囁かないで!
そんな、素敵に無敵な色気ヴォイスで囁かないで―――!!!(泣)

「誰だ?」

「ご、ごごごご、護衛獣です!!っても、マグナのだけど!!」

「…………護衛獣?」

「そう!ルヴァイドも知ってるハズ!あの、翼の生えた男の子!」

「…………1番危険そうなヤツではないか…………」

「へ?なんか言った?小さくてよく聞こえなかった」

「イヤ、なんでもない。ふむ……では、俺が一緒に寝ても支障はないな」

いや、有りまくりですけど!?私の心臓に多大なる支障が出ますけど!?
それに、ちょっと、あんた29歳の男でしょ〜〜〜!?
そんな(たしかに女の端くれだけど)とにかく私と一緒に寝ちゃダメ―――!!

と言おうと思ったが。

「…………すー……」

すでに寝てるよ、この男

ガックリとうなだれながら、私は寝ているルヴァイドの顔を見つめる。
…………あーもー、自分が隣にいるのが恐れ多くなるほどの美形顔。
睫毛長っ……髪の毛サラサラだしっ。
…………自分、女でいるのがイヤになります

私は、バフッとルヴァイドに毛布をかけ、反対側にズリズリと移動した。
毛布の端っこを身体にかける。

……うっ……寒っ…………でも、我慢我慢。ルヴァイドはずっと我慢してたんだし。
うん、明日は軍医さんの所とイオスのところに行こっと。んでもって、なんとか軍医さんに泊めてもらおうっと。うん、そうしよう←勝手



で。
私は自分の意志で、ルヴァイドさんから離れていったはずなんですが。

…………どーしてルヴァイドさんに抱きしめられてるんでしょうか?

し・か・も、腕枕―――!!!
うわっ……鼻血出そう……。

こんなとこ、他の誰かに見られたら誤解されるわ……。

「んしょ……っ……」

首に巻きついている腕をどかし、起き上がる。
そぉっとルヴァイドをまたぎ、床に着地した。

「…………ルヴァイド様?」

イオスの声だ。
……よかった、寝てるところ見られなくて。

「ルヴァイド様?」

「しーっ」

起きちゃうでしょ、ルヴァイドが!
私は、ルヴァイドに毛布をかけなおしながら、テントの外に向かって言った。

「…………?」

訝しげにかけられた声。イオスが失礼します、と一言言ってテントの入り口から覗いてきた。

、ルヴァイド様は……ん?」

「ご覧の通り、熟睡でございます」

「…………珍しいな、ルヴァイド様が人がいるのに起きないなんて」

「よっぽど疲れてたんだろうね。……ってか、疲れさせたの、私なんだけど」

こうやって話していても、起きる気配はまったくない。
でも、念のため、私はイオスと共にテントの外に出る。

「動いて大丈夫なのか?僕はこのところ忙しくて行っていなかったが……」

「うん。足はもう普通に歩けるよ。走ったりするとやっぱり痛いけどね。腕も……軽く握ったりするのは大丈夫」

「そうか……それは何よりだ」

「で?イオスは?どしたの?」

「食事を……と思ったんだが、ルヴァイド様はお休みのようだし……はどうする?なんなら運ぶが?」

あー……おなか減ってます。かなり。
でも、ルヴァイドが寝てるところでご飯食べるのは……せっかく、熟睡だし。

「……食堂とかってないの?」

「テントだが、あるにはあるぞ。……一緒に行くか?」

「うん!!」

よっしゃ、自由に歩きまわれるところ、第一号は食堂だ!!!



ここだ、とイオスがテントを分け入ってはいる。
すぐに『イオス隊長!おはようございます!』という声が、たくさん聞こえる。
その後で、ひょいっと私が入ると……。
しーん………………。

…………いくらなんでも、その差別は酷いですよ……(ガックリ)

「…………イオス……私ってば、やっぱり嫌われ者なのね……?」

「いや?そうではないと思うぞ?もっと、よく周りを見てみろ」

顔を上げて、食事をしている兵士たちを見る。
みんな、スプーンが途中で止まっていて、こちらを見てぽけっとしている。

「…………不可思議な生物を眺め見る視線にしか感じられないのですが」

「まぁ……そう言われるとそうかも知れないな」

「酷ッ!」

「ほら、食事だ。座れ」

素直に座ると、銀色のお盆がコトン、と置かれる。
湯気の立っているスープ、ご飯、それと……これはなんだろ、果物?

「いっただっきまーす」

スプーンを左手に持ち、ゆっくりとスープを口に運ぶ。

「……あづっ!!

喉を通る液体、熱っ!!
ゆ、湯気が立ってたわね、そういえば……油断してたわ(馬鹿)

「……まったく……騒がしいヤツだな、君も」

「う……重々承知はしております……」

「まぁ、それくらい騒がしくなければ、この状況に参っているだろうがな」

イオスがおかしそうに笑って、スープを口に運ぶ。
……なんって、優雅な手つき!可愛い顔して!!(なんか違)
ってか、これが20歳だなんて、信じろって言う方が無理!!

「……やはり、食事をするのにはまだ辛いか?」

イオスが左手で食事を続ける私に聞いてきた。

「んー ……やっぱり、口元までスプーン持ってくるには、ちょっと、ね。……ま、明日にでもマスターしてみせるけど!」

そうか、無理するなよと言って、イオスはまた柔らかく笑って食事を続ける。
あっという間に、ご飯やスープはイオスのお腹の中。……あれ?私の倍はあったはずなんですが。
細腰とはいえ(←余計)やっぱり、男の子なのね……(20歳に対して言う言葉じゃない
私はといえば、かなり遅い。

「あっ……イオス、私のことは気にしなくていいよ?お仕事あるんだったら、戻って」

「だが……」

「いいのいいの!ちゃんとテントになら帰れるから!」

「……そうだな。それでは僕は、行くとするか。一応、ゼルフィルドを呼んでおく」

「え?そんな、別にいいけど……」

「ゼルフィルドは僕たち兵士と違って、訓練することはない。だから、戦闘以外は意外と暇なんだ」

「……そっか。じゃ、ゆっくりでいいからここに来てって言っておいて」

「あぁ、わかった」

イオスは席を立つと、お盆を下げ、テントを出て行った。出て行く直前にちらりと私を見て。
1人残された私は、黙々とスープとご飯を平らげる。
最後に、残しておいた果物をパクリ。

…………………お?

「おいしい…………」

りんごに似た味。甘いけどくどくないさっぱりした味。
久しぶりに、甘いものを食べた気がする。

「…………、ちゃん?」

不意にかけられた声。私は飛び上がるほど驚いた。

「は、はい?」

名前も知らない兵士。
ずっと私の隣に座っていた人だ。

「あぁ、よかった。イオス隊長がそう呼んでいるから、名前は覚えていたんだ。…………その果物気に入った?よかったら、これも……あっ、口はつけてないから!!」

差し出される果物。
私は、果物と兵士の顔を交互に見る。

「……いいんですか?」

「どーぞどーぞ!!…………傷、まだ治るのに時間はかかるのかい?」

遠慮なく、といって、私はもらった果物を食べる。
うん、おいし―――vv

「ん〜〜〜……足はもう大丈夫です!でも軍医さんが言うには、腕はまだかかるみたいです……でもまぁ、あんまり不自由はないし!あ、ありがとうございます!おいしかったです!」

「…………よかったら、これも」

これも、これも、と周りの兵士たちが私に果物を差し出してくれた。
こ、こんなにいっぱい???嬉しいけどvv

ちゃんって言うのかぁ〜……どこの出身?」

「えぇっと…………話せば複雑なんですが……私、召喚獣でして」

「召喚獣!?……ってったって、人間じゃないか……あぁ、シルターンとかそっち系?」

「一応、こっちの世界では名も無き世界ってされてるところなんです。本当は名前があって、『地球』ってところから来たんですよ」

あちこちから、へぇ〜、とか、ほぉ〜、とか言う声が聞こえる。
いつの間にか、周りにたくさん兵士が集まってきて、雑談会になっていた。

いろいろなことを聞いた。

家族のことを嬉しそうに話す人もいたし、軍に入るときに彼女にフラれた人もいた。
家に残してきたネコが心配だとか、奥さんが怖くて家に帰りづらいとか。
みんな、こうして話してみると普通の人で、どうして軍にいるのかわからない。
にこにこ話していると、突然バサァッとテントの布が捲れた。

「…………、迎エニ来タ」

「ゼルフィルド!」

現れた機械兵士に、一般兵士たちはわたわたと自分たちの食器を片付け始め、外に出て行く。

「……随分ト長イ食事ダッタナ」

「うん、兵士の人たちと話し込んじゃって」

「ソウカ。……デハ行クゾ」

まだ残っている兵士たちに軽く手を振ってテントを出た。

黒の旅団の人たちは優しい。
この人たちは……どんな思いでレルムの村を焼いたんだろう。
辛くなかったわけがない。
…………こんな辛いこと、しなくてもいいのに。しても、意味がないのに。
私は、彼らの故郷、デグレアの現状を知った上で、そう呟いた。
彼らは―――さらに、まだ辛いことが待っているのだ。
誰か1人でも、この辛い現状を乗り越えられますように。

私は空を見上げて、ただひたすらに願った。




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