Scene.22 立て、歩け、進め!
たし……っ……ぱしぱし……とんとん。 「ふっ……ふふふふふ……っ……た、立てる……立てるー!!!痛くない!!わっはっは!これで、ようやくここを見て回れるわー!!!」 私は、しっかりと地面についている両足を見て、嬉しさのあまり叫んだ。 そして、はっと口をつぐむ。 ……まだ、ルヴァイドには無茶をするな、と禁じられている。 密かに立つのを練習してるなんて知れたら、それこそ怒られる。 私は、ゆっくりとまた、ベッドのふちに座った。 ルヴァイドたちと会話をしてから、早3日。 相変わらず私は、ルヴァイドのテントから一歩も外に出してもらっていない。 とは言っても、ルヴァイドはほとんどこのテントにいるし、イオスやゼルフィルドも遊びに(?)来てくれるから、会話に困るとかはないんだけど。 …………いい加減、飽きてきたっつーの、引きこもり生活。 私に、旅団の風景を見せろー!!!ろー!ろー……←エコー というわけで(何が)、そういった野望の元、私は立つ練習を行っていた。 そして今日、立つことに成功したのだ。昨日までは立つまでに痛みが走ったりして、まともに立つことが出来なかった。 でも! 今日は立てるわ!!立てる!! 「よし……っ……今度は、歩く練習……」 そろり、と立って。もう1度、ぱんぱん、と足を踏み鳴らし、そぉっと支えていた手を離して、1歩、2歩、3歩………… 「!?」 「うっひゃあぁ!?」 思わず、3歩進んで2歩下がる(汗) ルヴァイドが、もんのすごい顔でつかつかと私の方へ歩いて……否、走ってくる。 「る、るるるる、ルヴァイド……!」 「無茶をするなと、何度も言っているだろう!?」 あぁ……何度も聞いた、そのセリフ。その後は決まってる。 ルヴァイドは、側まで来ると私を―――。 ………………………………えっ!?(予想外の展開) な…… なんっじゃこりゃ〜〜〜!!!(パニック) ちょっと〜〜〜!!!抱きしめられてる!抱きしめられてるよ、ママン!!(落ち着け) 「る、るるる、ルヴァイドさん???」 む、胸板が―――!!!結構厚いのね―――! って、そういう話じゃなくって!!マジで落ち着け、私!!ま、まずは深呼きゅ…… す、吸えねェ―――!!! めっさ、抱きしめられてて吸えねェ―――!! 「る、ルヴァ……は、離して〜〜〜!(半泣)」 「……もう、無茶はしないと約束するか?」 「………………(横目)」 「…………もうしばらく、このままがいいのか」 「って、それもイヤ―――!!!心臓に多大なる迷惑―――!!!わ、私はただ、旅団がどんなところか見たかっただけなの―――!!!」 そう!私は、旅団が見たいのよ!そのために立つ練習をしてたのよ! わかって!ルヴァイド! ってか、そろそろ離してくれなきゃ、私の身がもたないわっ!! そんな私の胸のうちが聞こえたのか、ルヴァイドは私を座らせると、腕を離した。 …………ふぅ……落ち着け、心臓よ(まだ軽くパニック) 「……そんなことなら、早く俺かイオスにでも言えばいいものを……」 「うっ…………だって……怒られると思ったんだもん……」 「あぁ、怒る。…………だが。勝手に1人で歩き回られるよりはよっぽどいい。……まったく、仕方あるまい」 ………………ってことは。 「もしかして……!?」 「…………俺がついていれば、多少は足代わりになるだろう」 「…………へ?」 「背中に負ぶさるか?それとも横抱きにするか?」 「んなっ!め、めめめめめめ、滅相もない!!!(汗)重過ぎるんで、やめてください!」 ひえぇぇぇぇぇぇえ!! なんで、そんなさらりと全国の乙女が鼻血噴出すことを言うんですか〜〜〜!!! これが天然だから困るのよ〜〜〜!!! 「……では、どうするのだ?」 思考中。 …………松葉杖とか、ないのかな……ないよな(泣) あ。でも、松葉杖みたいに、ルヴァイドにつかまるくらいなら……重くはないかも。 「………………ルヴァイドの腕につかまり立ちで行きます」 「それでは、足に負担がかかるだろう」 「いやっ!平気平気!(むしろ、負ぶさる方が心に激しく負担がかかりますので!)」 ルヴァイドはしばらく考えていたが、最後にはしょうがない、と承知してくれた。 やった―――!!!ありがと―――!!! 「じゃ、早速……」 「その前に、食事を取ってからだな」 「は〜い♪」 「……それと」 ルヴァイドは、なにやら持っていた袋を私に手渡した。 …………服? 「お前も、いつまでも俺の服を着ているわけにはいかんだろう。買い出しの兵士に頼んでおいた。……なるべく前の服と似たものにしたが……」 おぉ。確かに。ちょっと模様は違ったりするけど、ほぼ同じ服。 「わー、ありがとう♪」 「いや。…………先に着替えるか?それなら俺は外に出ているが……」 「え?いや、先にご飯にしよっ!おなか減ったし」 そうか、とルヴァイドは微かに笑いながら椅子に座った。 しばらく話をしていると、イオスが、ご飯を持ってきてくれた。 そして。 ビバッ!太陽の光―――!!! 私は、ルヴァイドの腕に軽くつかまり、ケンケン+軽く歩くを繰り返して前へ進んでいた。 はじめてみたテントの外。 周りに、大きな、だけどあまり素材のよくないテントが並んでいる。 「あれは?」 「一般兵のテントだ。大体5〜6人が1つのテントを使っている」 「ふぅん……ルヴァイドは将軍だから1人用なんだね?イオスたちは?」 「イオスとゼルフィルドで1つのテントを使っている」 おぉ、なんだかその生活ざまを見てみたい気もするけど……まずは。 「ルヴァイド、軍医さんの所に行きたい」 「…………軍医の所?」 「うん。すっごくお世話になったし……って、私はあんまり記憶にないけど」 意識がなかったからわからないけど、この傷の手当ては多分軍医さんだろうし、熱が出たときも来てくれた。なおかつ、よく効く薬までくれたから……お礼ぐらい言わなきゃ! 「わかった。今ならいるだろう」 ゆっくりとルヴァイドが歩き出す。 私もそれについていくように、ケンケンをした。…………下手に歩くより、ケンケンの方が楽だわ。 途中、旅団兵数人に会った。 兵士は、遠くから私のことを見ている。…………っつか、凝視されてる。 ちらっ、と視線を向けると、明らかにドッキリとした感じで目を見開かれ―――ぎこちなく笑いかけられた。 私もちょっとビックリして、ぎこちなく笑った。 なんだか、そっちの方が後でうるさくなった。 「……軍医、入るぞ」 ルヴァイドが大きなテントの前でそう言い放つなり、私を連れて中に入った。 返事も聞かずに。 「…………返事くらい、聞いてから入らんか」 案の定、部屋の主にそういわれる。やーいやーい(小学生レベル) 軍医さんは、わりと年がいった―――比較的若い青年が多い軍にいるにしては、珍しいくらいの年齢の人だった。 「おや?おまえさんは……」 「あっ!あのっ!お世話になりました!ありがとうございました!」 「ほっほぅ……わざわざ礼を言いに来てくれたのかね?まぁ座りなさい」 軍医さんがイスを勧めてくれた。ルヴァイドに助けてもらいながら、私はイスに座る。 ルヴァイドもその辺においてあったイスを持ってきて座った。 「どれ……せっかくきてくれたのなら、傷でも見るか」 軍医さんは、足と右腕の傷を丁寧に見てくれる。 慣れた手つきで消毒をし、薬を塗りこんで包帯を巻いてくれた。 「ふむ、大分いいようだな。もう2日ほど経てば、普通に歩けるようになるだろう。ただ、腕のほうは、治るのにまだ時間が要るな」 「ん〜……日常の動作ができるようになるのは、どれくらいですか?」 「そうだな……まぁ、場所が関節ではないし、腕の上部だから、それほど負荷をかけるようなことをしなければ……3日だな」 「3日!?……意外と早くてビックリ……」 「ちゃんと休んでいればな……ということだ、そこら辺で様子を伺っている兵士ども、安心しろ。指揮官殿が毎日丁寧に手当てしているみたいだからな」 ビックゥ!とテントの布が揺れて、布の隙間から、こちらを伺うように見ている兵士が申し訳なさそうにペコリと頭を下げた。 私も、思わず頭を下げる。と、ルヴァイドがそちらに目を向けた。 …………兵士はみんな、逃げてった。…………睨んだな、ルヴァイド。 「…………ずいぶんと注目されているようだな」 ルヴァイドが面白くなさそうに呟く。 「ごめん……私みたいなのがいるからだぁ……ってか、そう!ルヴァイド、立場悪くなってないの!?一応……その……敵を、助けたわけでしょ……?」 「心配するな。……というか、名目上、お前は『人質』ということになっている」 ひ、人質……ど、どうしよう……私と引き換えにアメルを……とか言ったら、絶対アメル来ちゃうし! それだけは避けないと……! 「こんなところまで来て、嫌な話はやめないか?…………お前さんも、眉間にしわがよっているぞ」 ……ルヴァイド、眉間にシワ、癖になってるんじゃないの? って。 ……ちょっと、待って。 今、名目上、って言った? 「…………名目上?」 ルヴァイドが、しまったという顔になる。 ……やっぱり、名目上なのね!? じゃ、私の本来の立場は人質じゃないの……? 「お前さんもほら、眉間にシワよっとるぞ」 ぐいぃん、とおでこの皮膚を伸ばされる。 「…………ルヴァイ……」 「」 名前を言おうとしたら、ルヴァイドにさえぎられた。 「これだけは、俺は言えんのだ。お前に関することは、絶対に言えん。……わかってくれ」 ………………命令、か。 お父さんの汚名をそそぐために、ルヴァイドは元老院の命令には逆らえない。 私は、仕方なく頷いた。 でもまぁ……人質じゃないことはたしかだし。 人質よりも、自由だとは思うし。 「…………よしっ!なんだかよくわかんないけど、よし!」 気合を入れて立とうかと思ったけど、やめといた。 それ以上詮索しない私にほっとしたのか、ルヴァイドの表情が柔らかくなる。 「…………軍医さん、また、来ていいですか?」 「あぁ。いつでも」 優しい軍医さん。 …………黒の旅団の高感度、大幅にUP。 NEXT |