背中は思いのほか痛むし

何より足が痛かったけど

ぼんやりとしている暇はない

もう、今夜には

ここが襲撃されるのだから



Scene.2  那の出会い



軽食をありがたくいただいた私は、聖女の列に並んでるフォルテたちの様子を見てくる、と言うトリスたちとは別に、村を見学することにした。
いや、見納め、だし?

でもさ…………。

見れば見るほど。

「……のんびりした村だこと」

「それだけが取り柄だったんよ」

「おわっ」

いきなり後ろからかけられた声に、私は思わず足が痛いのを忘れて後方へ飛び去る。
そして、激痛にうずくまった。

「大丈夫かい?」

「いやー、平気です」

おじいさんののんびりした声に、痛いのを我慢してこたえた。

「のんびりした村なんじゃよ。……だが、聖女さまの噂を聞きつけてくるものが後を経たなくてなぁ……」

「あぁ…………」

「村の若いモンは、聖女さまのことで村が繁栄すると、盛り上がってるんじゃが……わしら、年寄り連中は、森を相手に暮らす方が性にあってるんじゃよ」

今までずっと森を相手に生業としてきた人が、早々簡単に職を変えられるわけないもんね……。

「……ところで、おじいさん。その手に持っているものは?」

「……めちゃくちゃ簡単に話変えよって……まぁ、なんの変哲もない焼き芋じゃが?」

やばい………さっき食べたばっかりなのに、お芋食べたい!

「食うかい?」

「やった――!!ありがとうございます!」

差し出された焼き芋をほくり、と食べる。
あぁ……うまい……vv

「よぉよぉ、グランじーさん!いいお姉ちゃん捕まえてるじゃねーか!」

「おぅ、ラグじーさん。おまえさんも、芋食うか?」

もう1人、おじいさんがやってきた。
グランじーさん?から芋を受け取ると、ラグじーさん?は一口で半分くらい食べてしまう。

「お姉ちゃんも聖女さま目当てかい?」

「いえ、そういうわけじゃないんですよ〜」

「おや、じーさんたち、なにをやってるんだね」

うわぁ(汗)わらわらとおじさんおばさんまで集まって来てしまった!
みんなは、あまり外の人と話さないのか、私についていろいろと質問をしてきた。

「じゃあ、嬢ちゃんってば、気がついたら森の中だったってわけかい?」

「そーなんですよ〜……まったく、誰が私なんかを呼んだんだか」

「くぅぅ!大変だなぁ……まぁ、芋でも食えや」

「わーいvv」

すでに1本目は食べ終わってるので、嬉々として2本目の芋に手を伸ばす。
いつの間にか、井戸端会議になってしまいました。

「でも、大変だねぇ〜……いっそのこと、この村に住んじまったらどうだい?」

いいですね〜、と笑って言おうと思った。
けど。

そっか……この村、今日で、なくなっちゃうんだ…………。

「まぁ、田舎だし、不便なこともあるけど……いいところだよ」

「い、いいところですよね〜!」

この人たちも……今日で、いなく、なっちゃうんだ…………。
ぐるり、と周りを見回した。
すでに人は10人くらいにも及んでいる。
この、すべての人が……。
今日、命を終わらせてしまうんだ。

「アグラ爺さんの所にお世話になってるんだろ?あそこの家は、芋好きだからなぁ……これ、持っていってくれよ」

と、ドサッと芋を持たされた。
こ、こんなに??こんな持ってってもいいほど、芋好きなんですか?あの家は。

「ありがとうございます!」

「いーや、芋ばっかりで悪いけどねぇ。……さて、そろそろ夕飯の準備しなくっちゃね。ほら、帰るよ!」

肝っ玉母さんっぽい人が、主人らしき人の腕をつかんで引きずって帰っていく。
それを封切りに、バラバラと人が帰り始めた。

「また明日な〜」

「明日はうちの畑の収穫手伝ってくれよ〜」

明日の話をする、彼ら。
もちろん、当たり前のことだったんだろう。
のんびりと過ぎていく日々の上での、当たり前のように言われる約束。

それが、果たされることは、永遠にないのだと。

思いたく、なかった。

「あ、のっ…………!」

思わず、呼び止めてしまった。
今なら。
今なら……まだ、彼らの命を救うことが出来る。

『この村は、今夜、襲撃されます。どうか、逃げてください』

そう言おうと思った。
でも、
言葉は出てこない。
……言っても、なんの意味もないから。
あまりにも非現実な言葉だから。

「なんだい?」

「…………お芋、ありがとうございました!」

「あぁ、気にしないどくれ!それじゃあね」

結局……何も、言えなかった。

はぁ、とため息をつく。
ゆっくりと、私はアグラ家へと足を向けた。

「…………?どうしたの、坊や」

道の途中で、座り込んでいる子供がいる。
村の人たちはみんな、夕食の支度のためか、通りには出て来てない。
ぽつんと木の陰に座っている男の子が、妙に目立った。
パッと男の子はこちらに目を向けると、にっこりと笑った。

「えっとね、お母さん待ってるの!……今日ね、聖女さまに僕の足のケガ治してもらったんだ!だから、今日ここに泊まって、明日、家に帰るの〜!」

「そうなんだ〜。ケガ治って良かったね!」

「うん!……お姉ちゃんの足のケガも治してもらいなよ」

「お姉ちゃんのは大丈夫!…………ところで、さ」

「ん?」

「今日、なんにも用がないんだったら……早く帰ったほうがいいよ?」

「え?」

「…………なるべく、早く……ね?」

「なんで?」

「…………(うぉっ、キラキラオメメが眩しい!!)………………………とにかく!帰れるんだったら、早く帰りなよ?お母さんと一緒に……じゃあね!」

「あ、お姉ちゃん!」

これ以上深く突っ込まれないように、私は、ダッシュでその場を逃げ去った。

わかってる。
こんなことをしても意味がないってことは。
でも。
やっぱり、イヤだった。何にもしないで過ごすのは。


!」

ドアを開けて待っていたように抱きついてきたのは、トリスだった。後ろにネスティ、マグナが話しているのが見える。

「あれ、トリス。早かったんだね。おかえり!」

「それはこっちのセリフだよ。……あ、彼は」

ひょこん、とトリスの横から青い触角髪の毛が出てきた。
こりは…………。

「はじめまして。この村の自警団員でロッカ、といいます」

あ、あれ……?ロッカってこの日、家に帰って来る設定だったっけ???
それでも、にこやかに挨拶を交わしてくれるロッカに私も同じような笑顔を返す。

「……はじめまして!えと…………召喚獣の?、って言います」

「トリスから話は聞いてますよ。あ、早く中に入ってください。もうすぐご飯も出来るんで」

「わ〜いvv…………あ、そうだ。これ」

私は、村の人に貰った芋を差し出す。

「村の人と話してたら、お芋たくさん貰いまして」

あっけにとられたロッカ。その後に、クスリと笑った。

「1日で、村の人と仲良くなってしまったんですか。…………面白い人ですね」

……………………。
うーわー!!!にっこり笑いかけられた―――!!
写メ撮りたい!その笑顔を待ちうけにさせてほしい!!

「さ、早く中に入ってください」

うきうき気分で、アグラ家の食卓につく。
部屋にいたフォルテたちもやってきた。
総勢10人での、にぎやかな食卓。

………………………ん?

10人?

私とー、マグナとトリスに護衛獣2人、ネスティさんにフォルテにケイナ。それにロッカとアグラ爺さんを加えて?
10人?

………………………!!!

ちょっと、ロッカ!!あなたの片割れの赤触覚はどこにいったのよ!?
人間相手に斧振り上げてる赤触覚はどこ―――!?
団長のあなたが帰って来てるなら、片割れの赤触覚も帰ってこれるはずでしょ―――!?

「リューグのヤツは……せっかくお客様が見えているというのに…………」

ロッカのぼそっといった言葉で全てを理解。

あぁ……やっぱり嫌われてるんだぁ(涙)

とりあえず、知らないふりをして、私はご飯を平らげた。
芋ばっかだったけど。さすがに昼間から芋尽くしでちょっと飽きてたけど。
この方たちが作ってくれたと思えば、そんなこと苦にも思わなかったわ!!!

満腹な私は、すでに部屋に引き上げ始めている面々に向かって、家の周りを散歩してくる、と告げた。
ネスティには、『こんな時間に、君はバカか!?傷も治っていないのに』といわれたが、軽く流しておいた。
いや、だってねぇ?

…………私だって、死にたくないわけですよ。
なんだかわけわからないままにトリップして、レルムの村で、短い生涯を終えたくはないのよ。

だから。

…………とりあえず、逃走ルートでも見ておこうかと(卑怯
いや、せめてどうしたら村を抜け出せる、くらいは覚えておかないと。

「ん〜…………ここの階段突っ走って……細い道にでも入れば、なんとかなるかな……」

まぁ、なんとかならなくても、アメルというこの辺の地理に詳しい人がいるからね……。
とりあえず、これ以上進むと、明かりもないしなにも見えない。

ふぅ、と息を吐いて、私はアグラ家へと戻ることにした。

ら。

ぴょこんと。

赤触覚が―――――――!!!(パニック)

「なにやってんだ、テメェ。こんな時間に」

うっひゃ〜〜〜!!怪しまれてる、怪しまれてるよ!!!
私は、汗をダラダラと流しながら、とりあえず、ペコリと頭を下げておいた。(愛想はよくしておかなきゃね!?)

「あ、お腹もいっぱいだったので、散歩に……」

私の声を聞いて、リューグは、ますます疑いを深めたようだ。

「あぁ?……テメェ、村のもんじゃねぇな」

「えーと……アグラおじいさんの家でお世話になってます」

「…………ハッ。オマエもアイツらの仲間かよ」

「あ、トリスたちのことですか?そーですねぇ。仲間です(多分)」

「にしちゃ、見かけなかったな」

「あぁ、私、倒れてましたんで(キッパリ)」

リューグが、一瞬止まってから。

「…………テメェか。村に来る途中で倒れてたヤツってのは」

「はい!まさしくそれです!」

とりあえず、笑っていってみる。怒るかな、と内心ビクビクしていたが、予想外にリューグは怒りもせずにプイ、と顔を背けた。
そのときに、近くの家のドアが開いて、おばさんが顔をだした。

「おや、リューグじゃないか。こんな時間に、誰がこんなところでしゃべってるのかと思ったよ」

「ちょっと見回りしてたんだよ」

「気をつけておくれよ?……おや?そこにいるのは、昼間の女の子かい?」

「あれ。お芋くれたおばさん!!……さっきはありがとうございました!芋たちはすでに私のお腹の中です。おいしかったです〜!」

「あぁ、そりゃよかった!でも、女の子が1人で夜歩いてちゃダメだよ?」

「は〜い!」

おばさんが家に入るのを見届けてから、リューグが口を開く。

「テメェ、いつの間に村の連中と仲良くなったんだ?」

「あ〜…………昼の間に、いろいろとありまして。ホンット、のどかで良い村ですね〜」

村のことをほめると、リューグの表情が、こころなしか柔らかくなった気がした。(あくまで、気、だけど)

「…………おい、帰るぞ」

「へ?」

「どうせ帰るところは一緒だろ。今日はもう見回りはやめだ」

「あ、そうなんですか?…………じゃ、帰りましょっか」

てくてくと歩き出してから数歩して。

「おい」

「はい?」

「…………敬語使うな。ムズムズする。大体、同い年ぐらいだろうが」

ボソボソと小声で言うところをみると、照れてる……らしい。
なんだか、ちょっと面白くなって、嬉しくなって。

「うん」

心が、ほんわかした。



そして。

夜が、やってきた。




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