Scene.16 守れない、でも一緒にいたい 朝、目覚めてすぐに、マグナとトリスの部屋に集まった。 敵の正体がわかったが……そのあまりの強大さに、みんな少なからずショックを受けているようだった。 特にアメルはショックが強く、顔色まで悪くなっていたし、ほとんど会話に加わらなかった。ギブソンさんが、各自よく考えるように、と言って解散したときは、すぐに1人、部屋を出て行ってしまった。 私の心は、考えるまでなく決まっていた。 私はアメルを守りたかったし…………それに、自分について考えても、ここでみんなと別れてしまったら……多分、1人で生きてはいけない。なにせ文字もかけない、読めないんだから。 私はしばらく部屋で考えた後、アメルを探した。テラスで、アメルは1人小さくなって座っていた。 「…………アメル?」 「…………さん……」 「大丈夫?顔色、本当に悪いよ」 「平気……です……」 「そ……っか……」 私も、アメルの隣にすとんと腰を下ろす。 しばらく会話もなく2人で座っていたが、突然アメルが口を開いた。 「……ねぇ、さん」 「ん?」 「あたしは、ただ普通に暮らしていたかっただけなんです。……普通の、村娘として」 「………………うん」 「毎日、家事をして、リューグやロッカやおじいさんと一緒に話したり、お仕事したり……本当は、ずっと、ずっとそうしていたかった!!」 「………………うん」 「だけど、1年前……奇跡の力を持ってから、あたしの普通は変わってしまった。……だんだんと家事をする時間減って……家にも帰れなくなって。……でも、言えなかった……村の人たちの期待を裏切れなくて……!村の人たちから、嫌われるのが怖くって!!…………自分の、ちゃんとした気持ちが、言えなかったんです……迷惑を、かけたくなかった……」 アメルの目から、涙が一粒こぼれた。 私はそれを見つめながら、ゆっくりと言葉をつむぐ。 「…………アメル、誰にでも、そういう気持ちはあると思う。嫌われたくないから、自分の気持ちをごまかしちゃったんだよね。自分が我慢してすむんなら、それでいいやって思ったんだよね」 嗚咽が、聞こえる。 「もちろん、そういう優しさも必要だと思う。……だけど、私はあなたにいっぱい迷惑をかけられたい。怒ったり、呆れたり……そういうの、したい。…………ただ、笑ってるだけじゃ、人は仲良くなれない。一緒に泣いたりしなきゃ……辛いことを乗り越えなきゃ、本当に人って好きになれないと思う」 私はまだ、みんなと笑ったり泣いたり、怒ったりしたい。 フォルテやバルレルとおかず争奪戦したいし、レシィやアメルのおいしいご飯食べたい。ギブソンさんやミモザさんの話も聞きたいし、ケイナの記憶の話も、リューグの知られざる特技も……まだまだ、見たい。 「私はね、きっと誰よりも弱いから、あなたを守るなんて大きなこと言えない。……だけど、私は、アメルと一緒にいたい。もっと一緒に話していたい。その想いだけなら、誰にも負けない。……だから、さ。もしもアメルの背負ってる荷物が重かったら、私に半分持たせてよ。そしたら軽くなった分、一緒に話そう?」 「…………う、うんっ!!」 「……じゃ、いこっか?」 2人で歩いていると、もうすでにみんな集まって話していた。 「、決まったか?」 「うん」 「………………って、その顔じゃ、聞くまでもないな」 みんなが、プッと笑い出す。 な、なにがおかしいの??? 「…………たいがい、バカだな、君も。マグナやトリスと同じくらいバカだ」 「…………ネスティ……ひどい……」 「ここにいる全員、同じ意見だ。ここまで首突っ込んだ以上、今更引き返すヤツはいねーってよ」 私が、ぼーっとしているアメルの肩をぽんっと叩くと、アメルははっとして私を見て、ついでみんなを見た。 「みんな……ありがとう……」 コンコン。 「はぁい?」 「さん?ちょっといいですか?」 「あ?ロッカ?うん、どーぞぉ?」 ガチャリ、と音を立ててドアが開いた。 「んー?どうしたの?」 「あの……お礼を、と思いまして」 「え?」 「……アメル、あの子のことを心配してくれて。あの子が元気を取り戻せたのも、あなたのおかげです。…………本当に、ありがとうございます」 ペコリと頭を下げたロッカに、私は慌てた。 「ちょっ、あ、頭なんて下げないでよ!私は、ただ自分の気持ちを言っただけだもん」 「それが、あの子にとって大きな支えになってるんです。……あの子はあなたのことを本当に信頼しています。だから……もし、これから先、アメルに辛いことが起こっても、どうか……どうか、支えてあげてください」 「………………ロッカ、違うでしょ?」 「え?」 「一緒に、支えてあげるんだよね?」 ロッカは、きょとんと私を見てから…………笑った。 「そうですね。…………あぁ、突然すみませんでした」 「ううん。……今度、またゆっくり話そうね。……あ、そうそう。ずっと言おうと思ってたんだ」 「はい?」 「…………ロッカが、最初に作ってくれた夕食の、芋のスープ、すっごいおいしかった。この世界に来て、なんにもわかんなかった私を元気付けてくれたのは、あのスープだったんだよ。…………あの時は、ありがとね」 「………………そういう顔で、そういうことを言うのは反則です…………」 「ん?」 何をいったのかよく聞こえなかったので聞き返すと、ロッカはいいえ、と柔らかく頭を振って笑った。 「それじゃ……暗くなったら出発するそうなので、準備してきますね」 「あ、うん。じゃ、またね」 暗くなるのを待ってから、2、3人ずつで屋敷を抜け出した。 そのまま少し急ぎ足で王都をでて、大平原に入る。 アメルのおばあちゃんを頼ることにした私たちは、王都から北を目指す。 「次の問題は、どの道を通っていくか、よね」 「彼女の聞いたとおりの道筋を行くのが確実なんだけど……追っ手を避けながら山を越えるのはかなりきびしいわね」 「とはいえ、街道はまず間違いなくあいつらに見張られているわね」 「ですね……」 「いっそ、この草原を突っ切っていくか?」 「え〜!?そんなことしたら簡単に見つかるわよっ!?」 「直進するにしろ、迂回するにしろ、彼らの追撃はあると思ったほうがいいな。となれば、少しでも立ち回りやすい場所を選ぶべきだと僕は思う」 「同感だぜ」 どうしようか、と悩むみんな。 私は、あのー……と挙手をした。 「……とりあえず、街道沿いに行った方がいいと思う……下手に慣れない道を行ってつかまるより、少しでも行きやすい道の方を行った方がいいと思うし……なにより、街道沿いなら、騒ぎを大きくできないと思うんだよね」 「………………そうだな、どのルートを行くにしろ、敵が待ち伏せている可能性は同じだ。それだったら、街道沿いに迂回していった方が、まだいいな。よく考えたな、」 …………って、私が考えたんじゃなくて、1番敵が手薄なのが街道沿いだったからなんだよね。その記憶に頼っただけのこと。 ただ、街道沿いが1番手薄だと言っても、イオスがいることに変わりはないし、召喚兵もいたはずだ。 私は、噴出してくる汗が、暑さによるものじゃないことを知っていた。 NEXT |