Scene.13  つかい



「………………あ、そっか」

私は、隣で豪快に眠るバルレルの姿を見て、夜中の出来事を思い出す。
起こさないように、そうっとベッドを抜け出して、乱れた毛布をかけなおしてやる。

ポリポリと頬をかいて、応接間に下りて朝食を食べた。
しばらくして、バルレルが降りてくる。

「……なぁんで起こさなかったんだよ」

「ぐっすり眠ってたみたいだから……可愛かったよ、バルレルの寝顔vv」

「んなっ!!テメェこそ、話が途切れたと思ったらすぐに寝やがって!どーいう身体の構造してやがるんだ!」

「お?なんだなんだ?とうとうバルレルがの部屋に夜這いにでも行ったか?」

「違う違う。フォルテってば、誤解を招く言い方しないでよ……バルレルが、部屋が狭いからこっちで寝かせてくれって昨日来たの」

ふ〜ん、とフォルテがにやにやと、意地悪〜い笑顔をバルレルに向けた。
バルレルが、たじっと後ずさる。

「な、なんだよ?」

「そーいうこったら、わざわざの部屋じゃなくても……」

「う、うるせぇ!」

そのまま、ぎゃあぎゃあと騒ぎながら朝食を食べ、ちょっと庭に出てネコと一緒に日向ぼっこしていると。

やぁ〜っと、見つけたわよ、vv

み、ミモザさんが、すんばらしい笑顔で私のいる場所まで信じられない速度でやって来た。
背後に黒い網状のオーラが見えるのは、気のせいじゃないはず……。

「な、ななな、なんですか?」

ぽむっ、とミモザさんは私の肩を叩くと、にいぃぃっこり笑った。
………………怖ひ…………(汗)

「この役ができるのは、あなたしかいないのよ♪引き受けてくれるわね

って、内容も何もないままにそう断言されても困りますけど!!!

「…………と、とりあえず事情をお聞かせ願えますか?」

まぁまぁちょっと来なさいよ、とミモザさんは私を部屋に連れて行く。
そして、ピクニック計画を聞かされたのだった。

「……で、私は具体的に何をすれば……」

「まずはね、ミニスちゃんの家に行って、ミニスちゃんを誘ってきて欲しいのよね。……一応、蒼の派閥である私やトリスたちが行ったらマズイだろうから」

「あぁ、なるほど。ハイ、喜んでお引き受けします!」

そ・れ・か・らぁ♪

異様な声の明るさに、ひくりと顔が引きつる。

「ま、まだあるんですか?」

「お弁当を作ろうと思ってるんだけど……ちょうど材料を切らしちゃってねぇ……悪いんだけど、買ってきてもらえるかしら?」

私は案外普通の依頼に、ほっと息をついた。
変な頼みごとじゃなくてよかった。身構えたのが嘘みたいだ。

「わかりました〜」

「あ、メモとかはバルレルくんに渡してあるからね。一緒に連れてくといいわ」

「…………なぜ、バルレル…………」

いや、これは聞くまでもない。
きっと、この人が脅かし頼んだに違いない!
私は、ハハハ……と乾いた笑いを漏らすと、早速、部屋でゴロゴロしているバルレルを捕まえた。彼は、もはや私の部屋を拠点とすることに決めたらしい。……あんた、マグナの護衛獣だろうが。

「な、なんだよ!?……はっはぁ……さては、オメェも、あの女に脅されたな?」

「失敬な、私は頼まれたのよ。ほら、さっさと立って、ミニスの家に行くよ」

へぇへぇとうなずき、小さく文句を言うが、しっかりと前を歩いているところは、さすが男の子というべきか。
屋敷を出て、早速高級住宅街へ向かう。とはいっても、マーン家の所在はわからないので、そこら辺で聞き込みをしよう、と思っていたのだけれど。

「あっれ〜?じゃない」

向こうからやってきてくれました。
パタパタと可愛らしい足音をさせて寄ってくるミニス。

「どうしたの、こんなところにバルレルと2人で」

「んーっとね、ミニスにお誘いをしに来たんだ」

「お誘い?」

「明日ね、ピクニックをする予定なんだ。一緒に来ない?」

「え!?ピクニック!?行く行く、絶対行く!」

「そういうと思ったvv……じゃあ、明日の朝、ギブソンさんのお屋敷まで来てくれる?あ、お弁当とかはこっちで持っていくからね、気にしなくていいよ」

「うん!楽しみ〜!わざわざありがと、!!」

「いえいえ。じゃ、また明日ね〜」

ミニスと別れて、今度はバルレルの横に並んで商店街に向かう。

「ねぇ、バルレル。買っていくものって何?」

「あぁ?…………ほれ」

ピラリと渡されたメモを見るが、さっぱりわからない記号の羅列。
私は、メモをバルレルに返した。

「…………全っ然わかんないんですけど?」

そういうと、バルレルはちょっと驚いた。
メモを見てから、私の顔をマジマジと見る。……なんだよ、失礼だな。

「…………召喚獣ってもんは、普通、こっちの世界の文字までわかるもんだぜ?」

「…………でもわかんないんだからしょーがないじゃない。きっと、私を召喚した召喚師がさぼったのよ」

んなわけあるか!……まぁ、ここで考えたからってわかるもんじゃねぇ、しょーがねぇからオレが読んでやる。ありがたく思えよな」

「はいはい。ありがとうございますー(棒読み)

バルレルは一瞬むかっとしたようだが、すぐにメモを読み出した。

「卵3ケース、肉ひとかたまり、芋、にんじん、タマネギ5袋ずつ。小麦粉、2袋。米1袋、それから…………」

「ちょ、ちょちょちょ、ちょっと待って!!そ、それを買っていくの!?私たち2人で!?」

「って、ここには書いてあるぜ?」

「…………………あの笑顔にだまされた…………」

私はガックリと肩を落とし、頭の中で今読まれたものを復唱した。
…………どう考えたって、2人で持てる量じゃないでしょ、それ…………。

「しょーがねーだろ、みんな出払ってるんだからよ」

「…………バルレルが珍しくマトモなことを……」

「オマエなぁ……もういい。さっさと行くぞ」

「はーい…………」


結局、私は野菜と卵などの比較的軽いもの(でも、量があるのでかなり重い)。
バルレルは小麦粉や米を持って、2人して息を切らせながら、その日は屋敷へ戻ったのだった。
…………明日、筋肉痛だったらシャレになんないわ…………。




NEXT