Scene.12 へべれけ占い師 騒動も終結した翌日、朝からトリスたちは書庫でしらみつぶしに文献をあさっている。 ルヴァイドたちの手がかりを探すためだ。 …………本当は、事情を知っている人間がここにいるんだけど……やっぱり、どうしても言い出すことはできない。 ここで言ったら…………きっと、最悪な方向に事態は転換してしまう。 はっきり言って……今の時点でトリスたちがルヴァイドの正体を知っても何もできない。 敵があまりに強大すぎるからだ。一召喚師たちと国家との戦いではさすがに力の差がありすぎる。せめて、もうちょっと仲間が増えるまでは……逃げ回るしかない。 私はもうすでに、結構なほど物語に関与しているけど、大筋を変える気は湧いてこなかった。 トリスたちにとってはこれは乗り越えなきゃいけない壁だと思うし。なにより、リィンバウムの運命がかかっているかもしれないからだ。 ……でも、だからといってたくさんの人を死なせる気もない。できることなら、そんな未来は変えてしまいたい。 相反する気持ちを抱えながら、私は今日を過ごしていた。 お昼を食べ終わった私は、自分の部屋でぼぉっとしていた。 ちょっと考え事がしたかっただけだ。これからの記憶も整理したかったし。 今はちょうど、4話目が終わったところ。ケルマとの騒動も一区切りついて、次からは本格的に旅団と戦うこととなる。しっかりと準備しておかなければ。 コンコン。 「はい?」 「あの……僕、レシィです。……入ってもいいですか?」 「レシィ?どうしたの?どうぞ入って」 お邪魔します、と小さな声が聞こえて、かちゃりと細くドアが開いて、身を滑り込ませるように入ってくるレシィ。 「……どうしたの、レシィ?」 「……いえ、ご主人様やネスティさんが書庫に行ってしまって、僕、なんにもすることがなくて……そしたら、みなさん外出してまして……」 「あぁ……そっか。フォルテたちは出かけてるし……リューグはまた再開発地区だね、きっと」 「はい…………」 「ん、少しお話しよっか?……そういえば、レシィとはゆっくり話したことなかったもんね?」 そういうと、レシィは嬉しそうに顔をほころばせ、はいっと返事をした。 ……うぁっ、カワイイ!!! あれね!?母性本能をくすぐるキャラね!?……グッジョブよ、フライトプ○ン―――!!! それから、レシィのいた世界(メイトルパだ)の話をしたり、逆に私のいた世界の話をしたりした。もちろん、ゲーム云々は抜きにして。ロレイラルみたいに、機械がいっぱいあったり、召喚獣でなく空を飛んで宇宙にまでいける話をしたら、レシィは大きい目をさらに大きくして驚いていた。 「へぇ…………やっぱり、ずいぶんと世界の様子が違うんですね……」 「そうだね……私のいた世界には、レシィたちみたいな亜人族ってのはいなかったし」 「そうですか……メイトルパでは亜人族ばかりなんです。狼の耳をもつオルフルだとか、うさぎの耳を持つレビット。あとは虎のフバース族。僕は、角を持つメトラルなんですが……小さい頃、角の病気にかかっちゃって……だから、僕、半人前なんです。いつも女の子たちと家事をしていて」 気になるのか、自分の折れた角をそっと触る。 私は、じぃっとレシィの折れた角を見つめた。 「……私はけっこう好きだよ、レシィの角。折れてはいるけど、太くてしっかりしてるきれいな角だもん。それに、レシィみたいに、おいしい料理を作れる子、そうそういないよ」 「……本当ですか?そう言ってもらえると、すっごく嬉しいです!」 にこにこと笑うレシィ。私は、この子がトリスの護衛獣で本当に良かったと思った。 だが、私たちの談笑は、応接間からの鋭い声でいったん中断する。 「………………ネスティ、さんでしたよね、今の声」 「そう……だね…………はぁ〜……大分ネスってば、カリカリしてるなぁ……」 う〜ん、と唸ってから、私は覚悟を決めた。 座っていたベッドから立ち上がると、レシィに向かって言う。 「…………ちょっと、ネスの様子見てくる……一緒に行く?」 レシィはぷるぷると頭を振った後、にこりと笑ってこういった。 「僕は、ご主人様の様子を見てきます。……今日は、さんといっぱい話せてよかったです!」 「そ、そぉ?」 やっば!!今のレシィ、殺人的にかわいい!!! いやぁ〜〜〜!!!頭グリグリ撫でたい、抱きつきたい、ほお擦りしたい〜〜〜vvv 「…………そういえばさん」 レシィの言葉で、はっと妄想世界から帰還する。 「ん?なになに?」 「……ネスティさんのこと、ネスって呼んでましたっけ?」 「…………あ。……えっと……いっつもマグナたちがそう呼んでるからつられちゃって……あはははは♪……レシィ、このこと言っちゃダメよ」 不自然なごまかし方をすると、私はじゃあね、と言って書庫へ向かった。 書庫では1人、文献相手に格闘しているネスが。ものすごいスピードでページを捲っては、机に積み重ねられていく本。 「…………ネスティ?」 本棚の影からこっそり声をかけると、ばっとネスがこちらを向いた。 「…………なんだ、君か……用なら後にしてくれないか?僕は今、忙しいんだ」 そう言っている間に、目線を本に戻し、またすごいスピードで読み出していく。 「…………はぁ〜……ネスティ、少しは休んだ方がいいよ?カリカリしてると、トリスたちが心配する」 「心配?怒られる心配じゃないのか?」 刺々しい言い方。一発で不機嫌なのがわかる。 「…………ネスティ。旅が上手くいってなくていらいらするのはわかるよ。でも、今回はしょうがないじゃない?だって、マグナにもトリスにも……もちろん、ネスティにも予測なんてできなかったんだから」 「……あぁ、わかってる。わかってるんだよ、そんなことは!でも、だからこそ腹立たしいんだ!」 パタン、と本を閉じて、ずっと文字を追っていた目を閉じた。 やがてポツリと出てきた言葉は。 「…………らなければよかった。関わらなければよかったんだ……レルムの村になんか行かなければ……!」 そこまで言ってから、ネスはハッとこっちをみた。 …………言われるのはわかっていたけど、やっぱり、面と向かって言われると辛いものがある。 私は、出来る限りの力を持って笑った。 「……それでも、私はネスティやトリスたちに会えてよかった。……ネスティがレルムの村に来てくれてよかったよ。……おおげさかもしれないけれど、来てくれなかったら、私は今生きていなかったかもしれないからね」 「……」 「うん……ちょっとネスティ、気持ちを落ち着けた方がいいかもね。じゃ、私は退散するよ」 「!」 ん?と私は振り向いた。なんとか、笑って。 「…………すまない、今のは言いすぎだった」 「うん、大丈夫。じゃ、ね」 ひらひらと手を振って、書庫を出る。 扉に寄りかかって息を大きく吸って、吐いた。 何度か深呼吸をしていると、もう一匹の護衛獣がやってくる。 「…………よォ。なにしてんだよ?」 「ん?べーつーにぃ?……あ、書庫は今はダメだよ。ネスティがいるからね。遊ぶなら違うとこにしなさい」 「遊ぶって、ガキ扱いすんな!」 「はーいはいはい。……んじゃ、私、ちょっと出かけてくるわ。外の空気、吸ってくる」 「あ、おい……」 バルレルの視線から逃れるように、私は屋敷を駆け足で出た。 ちょっと沈んだ気分で、私は商店街へと向かう。 マグナにもたされたお金で、できる限り薬を買っておこうと思っていたからだ。 私は他の人みたいに戦うことが出来ない。だから、せめて治療くらいは……ね。 「ちょっとちょっとぉ、そこの若人ぉ」 ………………………この声わ。 「…………私、ですか?」 「そぉそぉ。あなたよ、あ・な・た。……う〜ん……すごいわね、あなた……」 「は?」 「もう、面白い顔とかいうレベルじゃないわねぇ……うん、ちょっと寄っていきなさ〜い。にゃははははは」 うわ、酒くさっ!! 私は、中華風の女性―――メイメイに強引に腕をひっぱられ、パッと見アヤシイお店に連れ込まれた。 「さぁ…………まずは私の名前よね……って、あなたは、私の名前知ってるのかなぁ?」 「…………それも占いですか?」 「そう、にゃははははは♪……ってことは、やぁっぱり知ってるのねぇ?……うん、面白い、面白いわぁ〜!あなたのお名前は?」 「、ですけど……」 「、ね……名前からして変わってるわね……どれどれ、手相を拝見―――…………あら?あらあらあらあらあら」 手を覗き込むなり、アラアラ星人(何)になったメイメイさんは、しばらくじっと私の手を見ていたかと思うと、突然顔を上げて、ニッコリ笑った。 「…………すごい相を持っているわねぇ〜……」 「な、なんなんです?」 未来を知ってることがばれたのか!? ってか、そんなことでこの人はそんな驚かないだろー……未来くらいこの人になら読めそうだし。 ドキドキしながら、返事を待つ。 だが、メイメイさんは、にぃっこり笑って言ってのけた。 「今はひ・み・つvv」 …………この世界に来てから、何度このセリフ、聞いたかしら? ってか、秘密にしてちゃ、占い師の意味ないじゃん!! 「んー、それじゃ占いの意味がないって思ってるわね?」 ギクリ。 「そーねー……じゃ、ヒントは教えてあげよっかなぁ♪……ヒントはぁ……エルゴの王vv」 「…………は?」 エルゴの王って……あんた、そいつぁー……。 「そ♪4つのエルゴから選ばれた『召喚師を越えた究極の召喚師』のことよ。……あーとーはぁ……自分で考えてねぇ♪にゃははははは!」 …………さっぱわかんねぇ…………。 エルゴの王?…………誓約者のことかな? って、じゃあ、誓約者ルート!?……にしちゃ、モナティじゃないし。 「んー、悩んでるわね、若人。ま、もっと知りたいんだったら、もうちょっと時間がたってからいらっしゃーい。そのときにはまた違う情報を教えてあげるわぁ♪」 「は、はぁ……」 な、謎な人だ、まったく……正体もわからないし。 シルターンの人だってことはわかってるけど。 帰り際、メイメイさんがぽむ、と手に何かを渡してくれた。胡桃に似た木の実で、小さな袋に5,6個入っている。 「これ、キッカの実っていうのぉ。必要になったらすりつぶすなりなんなりして食べてね、特別大サービスよぉ、にゃははははは!!!」 じゃぁね〜、と手を振るメイメイさんに同じように手を振って答えた。 の姿が見えなくなってから、メイメイはぽつりと呟いた。 「あ……1個いいこと教えるの忘れちゃったぁ……まぁ、いいか……きっとすぐに勘のいい坊やが気づくだろうしねぇ……にゃはははははっ」 それにしても、あの子が、まさか、ねぇ…………。 これから、面白くなりそうだわ……♪ メイメイがそう思ったのを、誰も知るものはいない。 NEXT |