Lovery prince!第1話〜なんだかんだで入部テスト!?〜






入学式も無事に終わって。

とりあえず、新入生らしく私たちは自己紹介なんぞをしている。

一人一人席をたって名前やらなにやらを言うやつだ。

……とにかく、ここでの私の仕事は『男らしく』なおかつ、『不自然にならない』ように、自己紹介をする事。第一印象は大事だっていうし。

「……次、

あ、来た。

軽く咳払いをして席を立つ。

精一杯作った声を出して、頭の中の文章を声に出した。

「……え〜……っていいます。学区外の遠い地域から来たんで、俺の顔を知ってる人はいないと思います。ので!!!これからよろしくお願いしまっす!以上!」

暫くの間、教室内が静まり返る。

……なんか、変なこと言ったかな?

「……なんか、変なこと言いましたか、俺」

私の言葉に、先生がはっとしたように私を見る。

「いや、そんなことはないと思うぞ」

「そーっすか」

それでも、なんの反応もない。ポリポリと頬を掻く。……紹介がたりなかったかな?

「……あ、なんか質問ある人は手上げてくれたら答えるんで」

私が一言言ったら、教室内は大騒ぎで。

なんか、いっぺんに手が挙がった。

「……なんでだ―――!!!」

叫びたくなるのもわかってほしい。だって、それぐらいに手が挙がっていたんだから。

「はいはい〜!」

元気よく手を上げた男の子。先生も諦めたのか、ハイ、とその子を指す。

「兎丸くん」

指された男の子は、元気よく立ち上がった。

「ハイ!……えっと、君は、何cmですか〜?」

どっ。

周りが受けてる。

その『兎丸くん』とやらを見れば……とても小さい子だった。自分の身長を気にしているのだろう。

かわいいなぁ、なんて思ってたらその『兎丸くん』が私の方を見て答えを促している。

しょうがないから、席を立って。

「え〜……俺の身長は165cmです。そう高くもないんで……兎丸くん、君に抜かされないように頑張るよ」

「えへへ〜……抜かしてあげるよ♪それと、『比乃』でいいからね〜」

「ほいほい」

それからというもの、私は趣味やら特技やら習い事やらスリーサイズやら(?)さんざん質問攻めにあって、ようやくその質問から開放されたのは、もう帰る時間に近い頃だった。

「……午前授業で助かった……」

どんよりと、私が席を立つと、トントンと背中を叩く人がいる。

「?」

振り返ってみると、そこには『兎丸君』改め、『比乃』

君〜。一緒に帰ろう♪」

んあ〜……と、ちょっと欠伸をしてから。

「わかった。ちょっと待っててな」

学生鞄に配られたプリントなんかを詰め込んで、笑う。

「うっしゃ。帰るか」

ウン、と比乃が可愛く笑った。





君、どこ住んでるの?」

「あ〜、俺は十二支高校から歩いて15分くらいのトコ。なかなか近くていいぞぉ。比乃は?」

私が話し掛けると、比乃は嬉しそうに僕?と聞いた。

「僕はね〜…………」

楽しそうに喋る比乃に、私は好感を持った。

話しているうちに気づいたこと。

それは、比乃がとてもゲーム好きだってことだった。

私もゲームは好きなほうだったから、好きなゲームの話で盛り上がった。

「……あ、くんこっち?」

「あぁ。……比乃は向こうか?」

「うん。じゃ、ここでお別れかぁ。……じゃ、また明日ね!!」

手を振って去っていく比乃。

比乃はカワイイなぁ〜……←危ない





入学してから1週間。

友達もけっこう出来て……その中でも比乃は一番の親友。

私が女だってこともばれてはいない。すべてが順調に行っていた。

ぼけ〜、と終礼の先生の話を聞いていると、前の子からプリントが回ってくる。

何気なしにそのプリントを見ると。

『部活案内』

私の周囲にブリザードが……

全然順調じゃなかったよ!!!(泣)

比乃の方を見ると……嬉しそうにそのプリントを見ていた。

あちゃ〜……やってきちゃったよ、部活。

父さんには野球部に入れ、なんて言われてきたけど……とんでもない。

体育の着替えだけでも一苦労しているというのに、わざわざ自分でばらしに行くようなものだ、野球部なんて。

どうしようか……

なんて、考えていると。

君〜。帰ろう?」

もはや日課になっている比乃との下校。

比乃に話し掛けられて、初めて終礼が終わっていることに気づく。

「……ん、帰ろうか」

鞄を持って。

廊下に出ると比乃がいつものように、話し掛けてきた。

君は、何部に入るの?」

何気なしに、私は答える。

「ん〜……野球部にしようかなって思ってたんだケド……」

私が言い途中なのを遮って、比乃が嬉しそうな顔をして大声を出した。

「ホント!?僕も野球部に入ろうと思ってるんだぁ!一緒に入ろう!!」

いや、その後に『やめようかな』って言葉が続くはずだったんだよね。……でも、比乃の嬉しそうな顔を見たら……どうにも言えなくなってしまった。

「う、うん……」

とりあえず笑って言ったら……比乃ににっこり笑われた。





この時私は、自分の足元が底なし沼になっているのに気づいた……(汗)





ってなわけで。

私は今現在野球部の入部テストのために番号をつけてます。

どんどんどんどん泥沼にぃ〜………!!!

なんかわけのわからないセクハラ監督はいるし!!!

君、頑張ろうね!」

比乃の笑顔に力のない微笑みを返しながら、私はこっそりと溜め息をついた。





「……第一試験は砲丸投げだ」

……は?

私は思わず自分の耳を疑った。

ホーガン投げ?

ホーガン……って、あの陸上競技のホーガンっすか?

背番号1番のヤツの手には……まさしくその砲丸が。

「……マジかよ……」

「砲丸投げだって。面白い事考えつくね、あのオジちゃん」

いや、面白いとかそういう問題じゃなくって!!!

「ホーガンで……10M……?」

いや……無理じゃないっすかい?

ぼけーっととにかく試験を眺めていたら。

「……21番、兎丸比乃」

「は〜い♪」

比乃!!!なんで、あんた語尾に音符がついてんのさ!比乃、大丈夫なのか!?そのちっこい体で届くのか!?

「……21番、10M25。合格」

「やった〜!ギリギリだけど合格だぁい!」

……すげー……。

「次、22番、

「……はい」

渡された砲丸はさすが鉄!っていうくらいにズッシリとした重みを持っていた。

「……ちっきしょ〜!!!」

ここまできたら、私の力、見せてやる!!!

オムツしてた頃から少年野球やってて、中学では女子ソフトボール全国制覇のエースピッチャーをなめるなよ!?

ぐわっと大きく構えて。

渾身の力でその鉄の物体を放り投げた。

「……22番、13M10。合格」

「よっしゃ〜!!!」

君、すご〜いっっっ!!」

へへっと鼻をこする。

やっぱり、褒められると嬉しいしね?

なんて話してたら。

後ろの方でものすごい音がした。

「……32M40……」

32M!?そんな人類外のやつがいるのか!?

と思ったら。

比乃がこっそり『ハンマー投げ』の秘密を教えてくれた。

「はぁ〜……なるほどなるほど。……世の中には面白いやつがいるんだなぁ〜……」

安心してたら。

「……58番……21M52……」

「おぉ〜……素手で20Mの大台を越えるとは……」

後ろのやつの声に、驚いてそいつを見る。

『58』の番号をつけたやつは……髪の毛が白い、ガン黒男だった。

「……すげ〜……ん?あいつ、どこかで見たような……」

しかも、結構最近……。あれ……どこだっけ……。

君、次の試験があるみたいだよ♪」

「お〜。すぐ行く〜」

比乃の言葉に、ガン黒男のことはすっぱり頭から消え去った。

……その時、覚えてたら良かったと思ったのは、また後の話。

「げっ……まだあんの?」

「なんか、あと3つあるみたい……」

「げぇぇぇぇ〜……次、なんだって?」

「なんか、3球同時ノックらしいよ♪ホント、面白い事考えつくよね〜……」

比乃の楽しそうな声とは逆に、私ははらわたが引きちぎられそうだった。

「3球同時ノックゥ〜?全部捕れってこと!?……人道的に無理!!!

私の声に、比乃が違う違うと手を振った。

「3球のうちの1球が軟式ボールなんだって。その1球を捕ればいいみたい」

「ふぅ〜ん………」

とにかく、一筋縄じゃないのね……。

あ。誰かが縦ビンゴしてる。

「もう、山勘戦法だねぇ、みんな」

「そうみたいだね」

バシバシバシッ!!!

すごい音がなって私の目に信じられないものが飛び込んできた。

「……3球キャッチしてる……」

「11番司馬葵、パーフェクト!」

まさか、人道的に無理なことを可能にしているやつがいるとは……

11番の後だから、比乃も私もすぐに番は回ってくる。

比乃はパンッと一個だけボールをキャッチした。

「……あ、やった!山勘当たった〜!」

比乃のグローブには軟式のボールが1個。

比乃も山勘戦法かぁ〜。

「次!22番!」

「はい!」

わけのわかんない監督に促されるまま、私は構える。

「なんだ、21番に続いて女みたいなヤツじゃねぇか」

いや、女なんですけどね。

「よろしくお願いします!」

ちょっとむかついたから、大きな声を出してやった。

「……声の大きさはいいな」

監督がバットをひいた。

でも、私の視線はずっと軟式ボールの方へ向けられてる。

カン、と音がしたけど、私は相変わらず軟式ボールを見つめていた。

軟式ボールがライナーなので、私はそこだけに手を出す。他のボールはよけた。

「……ほぅ」

監督の声を聞く前に、グローブの中身を確認する。

やっぱり、入ってたボールは軟式だった。

よかったぁ〜……。

「おい」

「は?」

監督が話し掛けてきた。

「……なんで、軟式だけを見分けられた?」

「……いやぁ〜……最初っから軟式のボールだけを見てて……」

「硬式とまざっただろ?」

ポリポリ、と頬を掻く。

「ゲームであったんですよ。宝箱隠しゲームってのが。そのゲームが宝箱がごちゃまぜになるってやつで……宝が入ってる箱をずっと目で追って……当てるんですよ。そのおかげですかね?軟式ボールもなんとか……」

「ほぅ……」

失礼します、と私はピッチを出る。

比乃がすぐさまよってきた。

「僕も、そのゲーム知ってるよ!……でも、見分けられなかったぁ〜……」

「山勘でも、当たればいいじゃん!」

私は、ピッと親指を上げた。

続いてはパラシュートラン。

元々足は遅いほうではなかったと思うし。

頑張ってやってみた。

……比乃ほどにはいかなかったけど。





「……で。長打力の試験が終わったのはわかった」

「うん。僕ら2人ともあんまり動かなかったね〜……」

「は、別にいいんだ。いいんだが……なんだよ、その変則野球ってぇ!!!」

エラーするごとに1枚ずつ脱いでいく? …… 脱げねぇんだよ、私は!!!

つーか……



脱いでたまるかぁぁぁぁっっっっっっ!!!!



「……全員脱げ。これは監督命令だ」

監督命令に従う以前に。

脱げるかぁぁぁぁぁ!!!










銀月の言い訳。



ヒロイン壊れまくりです(汗)

今回は比乃が出張って(?)ましたね。

次は某ガン黒が出張りそうです。



修正 2004.8.9