じっとしているのなんて、柄じゃない。

せっかくもらったこのチャンス。

動けるだけ動いて。

この目にしっかりと出来事を焼き付けておくんだ!





Scene.9  整っていく環境。



「…………バノッサ〜。もう平気だよ〜」

「あぁ?なに言ってやがる。昨日、真っ赤な顔してただろうが」

「昨日は昨日!今日は今日!!超余裕!!だから、買い物一緒に行きたい〜!!」

そう。
なぜ私がこんなにも駄々をこねているかというと。
これから、バノッサとカノンが買出しに行くというからだ。
服を選ぶバノッサ。
肉を買うバノッサ。
野菜を吟味するバノッサ。

…………これはもう、見るしかないでしょう!(上記は妄想です)

「平気だってば〜。行きたい行きたい行きたい行きたい!!!」

「だぁぁぁぁ!!!うっせェ!!!」

「いいじゃないですか、バノッサさん」

今まで、テーブルでお茶をすすっていたカノンが、不意に会話に加わる。
その神のお告げにも似た言葉に、私の目は輝き、バノッサは慌てた。

「か、カノン!!オマエ、いつもコイツに関しては、妙に過保護だったじゃねェか!!」

「カノン〜〜〜!!!大好きvv」

ほぼ同時に発せられた言葉。
カノンは爽やかにバノッサの言葉だけを無視して、私に向き直った。

「ありがとうございます。そろそろ、さんの服も買わなくちゃ、と思ってましたし。ちょうどいいですから、一緒に行きましょう」

「うん!!!」

「ただし、夜に出かけますから、それまではしっかり寝ててくださいよ?…………それと、くれぐれも無理はしないこと。いいですね?」

「は〜〜〜い!!!」

元気よく返事をした私に、ニッコリと微笑む。
そして、バノッサに向き直って。

いいですよね?バノッサさん

黒い笑顔で言い切った。
…………バノッサはもう、頷くしかなかった(笑)




夜までしっかり寝かされて。
(抜け出そうとしたら、様子を見に来たバノッサにぶつかって、部屋に閉じ込められた)
日も暮れてきたころ。
コンコン、とノックをする音で目が覚めた。

さん?出かけますけど、大丈夫ですか?」

ばっちり寝癖がついてた私は、慌てて手櫛で髪の毛を整えると、返事をしてベッドから降りた。

「やった〜。本格的な買い物、初めてだよ」

「そうですね。いつもは僕が行ってきちゃいますからね」

「アルク川行く度に、繁華街を横目で通るの、辛かったんだよ〜」

くすくす笑うカノン。…………あぁ、可愛い(悦)
部屋を出ると、やっぱりいつもの黒いシャツのバノッサがいた。今日は鎧はつけないみたいだ。

「…………オラ、行くぞ」

「うん!!」

歩き始めたバノッサの後ろを、カノンと2人でついていく。

「先に、夕飯の材料買っちゃいましょうね。お店、閉まっちゃいますし。夕方だから、少し安いんですよ」

「へぇ〜…………主婦だね」

「え?まぁ、バノッサさんはこの通りですし」

「なんか言ったか、カノン」

いいえ?…………さん、どんな服がいいんですか?前、僕が買ってきちゃおうかと思ったんですけど、やっぱりよくわからなくて…………」

カノンが申し訳なさそうに言う。
でも、まぁねぇ…………。
一応男の子だからね、カノンも。女物の服なんかは、よくわかんないんだろうなぁ。

「男の子だもんねぇ、カノンだって。わかんなくて当たり前だよ。…………えっとね、やっぱり、出来るだけ元の世界の服に似たのがいいなぁ…………動きやすいし」

「そうですね。探してみましょう」

「ゴメンね。わがまま言って」

「いいんですよ。それに、服の件は、バノッサさんのポケットマネーですし」

「………………えぇ!?」

カノンの言葉に一瞬思考回路が停止する。
…………バノッサのポケットマネー!?
…………やっぱ、手下からの上納金とかかな?
…………いやいや、それよりも、バノッサが服買ってくれるってこと!?

「バノッサ、いいの?」

「……あぁ?見くびんじゃねェ。そんぐれー、オレ様が出してやるよ」

前を歩くバノッサに、話しかけると、振り向きもせずに返事だけが返ってきた。
…………耳が赤いぞ、バノッサ。

でも、やっぱり、お金は上納金なのかな……?(汗)
そんなことを、ぽそっとカノンに言ったら、ニッコリ笑って、小声で答えてくれた。

「大丈夫ですよ。バノッサさん、街の外に行って、ちょこっと戦ってお金稼いでますから」

あぁ、フリーバトルのお金かぁ……よかった。カツアゲとかじゃなくて。

「ということだから、気にしないでくださいね」

笑って言ってくれるカノン。
いつか。
…………いつかお礼するからね!!!

心の中で、そう決意した。



「…………ふわぁ〜…………夜の繁華街ってすごいねぇ」

「おい、キョロキョロすんな。店に連れ込まれて、売り飛ばされるぞ」

バノッサが、ぐいっと私の腕を引く。
カノンが人を避けながら、私の隣に来た。
バノッサとカノンに挟まれる形になる。

「…………そんなに、ヤバイの?」

「まぁな。裏ではまだ人身売買もしてるからな」

「…………うげ」

「まぁ、よっぽどのことがなければ大丈夫ですけど……なるべく、離れないでくださいね」

カノンに右から微笑まれれば、バノッサに左から脅しをかけられる。
それでも、2人が気遣ってくれているのがわかって、なんだか、すごくうれしい。
心がぽかぽかする。

「ちょっと待っててください。薬とか買ってきますから。シルターンの方で、すごく良く効く薬を売っている方がいるんですよ」

「へぇ〜…………(ってもしかして!?)」

シルターン文字(ひらがな)で書かれている暖簾には。

『あかなべ』

堂々と書かれてあった。

あ…………。

あかなべだ!!!!!

シオンさんだ!!!!!

麗しいセクシーボイス(井上さんボイス)のシオンさんだ!!!

ドキドキしながら、店の前で待っている。
とうとう好奇心に負けて、ちらりと暖簾の隙間から覗く。

「………………!!(いる!!!)」

美しい髪の毛が…………!!!(なんか違)

「店の外にいるのは、お連れ様ですか?」

シオンさんが、カノンに話すのを聞いて、ドッキリ。
思いっきりバノッサを見る。
バノッサは息を吐くと。
暖簾をくぐった。
私の手を握って。

「おや、バノッサさんでしたか」

「…………よぉ、寄らせてもらったぜ」

「ありがとうございます。…………ところで、こちらの方は……?」

シオンさんが私に目を!!!
…………あぁ、眩しすぎて目が開けられない…………(壊)

「コイツは、オレ様の家の居候だ」

「あっ!って言います!!」

さんですか…………シルターンの名前にもありますよ。…………失礼ですが、リィンバウムの方ですか?」

「あ、いや…………召喚、されてきました。名も無き、世界から」

緊張して呂律が回んない〜〜〜!!!
でも、とりあえず、引きつってるけど、笑みを浮かべてみた。
シオンさんは、ニコッと笑って。

「そうですか。……あぁ、申し遅れました。シオン、と申します。ご贔屓のお客様からは、あかなべの大将、とも呼ばれていますが………私も異世界から来た身。何かお力になれるかもしれません。またぜひいらしてください」

「あ、ありがとうございます!!」

ニコ、と笑う。
うふふ、セクシーボイスに、悩殺気味です(萌)

「カノンくん、これでよろしいですか?」

「はい。シオンさん、ありがとうございました」

「こちらこそ」

「さ……バノッサさん、さん、行きましょう?」

カノンの声に、はっと現実に戻ってくる。
すでに店の外に出ている二人を追って、暖簾をくぐる。
立ち去り際、シオンさんにペコリと会釈をした。

「いつでも、いらしてかまわないですからね?」

「……はい!ぜひ、遊びに行かせてもらいます!!」

かけてくれた言葉。
……感激です。
絶対、遊びに来ようっと。
シオンさんに手を振って、バノッサとカノンの後を追いかけた。



さん、なにか気にいったのありました?」

「う〜ん…………ズボンはいいんだけどね…………上が(汗)」

ズボンは、結構似たようなのがあるんだけど、上がどうしてもファンタジー…………コスプレっぽいんですね。
男物のシャツとかは結構似たのがあるんだけど…………う〜ん。

「やっぱ、パーカーとかは売ってないよなぁ…………もう、いいや。適当に、安いの探そう?」

「いいのか?」

「うん。もう、慣れるしかないよね。ちょっとくらい変な格好しても、あんまり気にしないだろうし」

そう。リィンバウムの世界の人は、服にあまりこだわらない…………というか、見たことの無い服でも、それほど違和感を感じないみたいだ。
やっぱり、召喚と関係があるのかな。シルターンの服を着てたりとかしても、気にしてないもんね。…………ま、2だったら、レナードさんとか、メチャメチャ、ネクタイにスーツだったけど、あんまり気にされてなかったし。

「あ、あの上着とかは?なんか、雰囲気が安そう。大好きなフードも着いてるし!」

店の前に飾られて、赤で何か書かれている。
なんか、日本の大安売りに似ている。

「あぁ…………いいのか?あんな安物で」

「うん。だって、どうせ私すぐ汚しそうだし」

砂煙すごいし。ちょっと油断すると、北スラムは瓦礫が多いから、すぐ転ぶし。

「それだったら、安いほうが…………」

「それじゃ、僕、あれ買ってきますね」

カノンが上着を持って、店のオヤジにお金を払うのを見る。

「…………ありがと、バノッサ」

「あぁ?気にするようなタマか?オマエ」

「こう見えても女の子ですから」

「そうだったっけか?」

「なにおぅ!?」

いきりたつ私の頭をぽん、と抑え込んで、余裕しゃくしゃくな表情でバノッサは聞く。

「…………他に何か買い残したモンないか?」

「…………上着もズボンも買ってもらったし(下着もアレの用品もコッソリ買ったし)。大丈夫だよ♪」

あ、靴は買ってないか。
でも、1番はじめに来たときに、買って来てもらった靴があるからなぁ。
そう思って足元を見る。

…………そうとう汚れてるけどね。

ま、いっか。

それでも、やっぱり、靴に目が行く。
…………靴は、そう変わんないんだよねぇ…………ブーツが多いけど。

あ、あの靴スニーカーに似てる。
…………動きやすそうでいいなぁ。
じっと見てると。

「おい、オヤジ。あの靴もくれ」

バノッサが後ろから、声を大きくしてオヤジに命令…………いや、頼んだ。
サイズを確認された私は、バノッサを振り返って。

「いいの?」

と聞いた。…………だって、高そうなんだもん、この靴。

「いいんだよ。…………テメェ、靴だけは向こうから持ってこなかったろ。せめて、靴ぐらいは、似たものにしとけ」

「……………ありがと」

今日、何度目かの言葉に、バノッサはけっ、と返した。



「………………?」

かけられた言葉に、ハッとする。
このラヴリーながらも、男の子っぽい声は…………。

人ごみの中から、それらしき人物を見つける。

「……ハヤト?」

「やっぱりだ!!」

パタパタと駆け寄ってくるハヤト。
そして、隣にいるバノッサを見て、なにやら複雑そうな顔を見せる。

「………………バノッサ?」

「んだよ、はぐれ野郎。おい、居候、オマエ知ってんのか?」

「居候って…………もしかして、がお世話になってる家って、バノッサの家か!?」

「えーっとねぇ……」

いっぺんに2人が質問してきたので、どちらに対応していいのかわからなくなる。
困っていると、人ごみの中からひょいっと顔が出てきた。

「おい、ハヤト。急に走り出したら危ないだろ…………バノッサ!?」

うぁ!!!トウヤだ!!!
ネットでは黒い笑顔でカノンと同じくらい有名なトウヤだ!!!

「なんでここに!?」

「オレ様がどこにいようと勝手だろ。…………おい、居候。知ってんのか?」

「ハヤトは知ってるよ。アルク川で会ったんだ。…………バノッサたちも知ってんの?」

ていうか、襲撃かけて負けたとこまで知ってるけどねー……私。

「バノッサさん、気にいらねぇとかいって、ハヤトさんたちのところに行って、負けたんですよね〜」

「あ、カノン」

「こんばんは、ハヤトさん、トウヤさん」

どうやら、カノンとは仲が悪いわけではないらしい。

「…………おい、ハヤト。状況を説明してくれ」

「あ、トウヤ、悪い。…………えっと、彼女はって言って…………」

「日本の女子高生やってました」

あ、バノッサとカノンが理解してない。後で説明しとかなきゃ。
トウヤが少し目を見開いて、

「…………もしかして、召喚されて?」

「うん。…………えっと…………」

「僕は、トウヤ。深崎籐矢。ちょうどハヤトと一緒に召喚された」

「トウヤくん。はじめまして〜」

「…………っておい!!!なに悠長に挨拶交わしてやがる!!」

コツン、とバノッサに頭を小突かれる。

「だって、はじめましてだもん。バノッサははじめてじゃないかもしれないけど〜」

「…………その様子を見ると、やっぱり、が住んでる家って」

「うん。バノッサの家だよ」

はぁ〜、とハヤトが深いため息をつく。

「…………バノッサ、なにかしたんでしょ」

というか、襲撃したでしょ、フラットに。私は知っている。
無言で目をそらすバノッサ。カノンは困ったような笑顔を浮かべている。

「…………バノッサ!!!ハヤトたちに謝れぇ!!!」

「なんでオレ様がそんなことをしなくちゃならねェんだよ!!!」

バノッサが悪そうだから!!!

「ふざけんじゃねェぞ、オラ!!」

「へっへ〜ん。怖くないモンねぇ〜」

「…………バノッサさん、さん」

はっ!!!
カノン………の声。
しかも、ちょっと怒ってる。

「ハヤトさんたちが困ってますよ?」

「…………はい。ゴメンナサイ」

固まった私たち。
ぶふっと、変な音がした。

「な、なんか、たち漫才してるみたいだな……ッ」

噴き出して笑っているのはハヤト。
…………今の変な音の主は、己か、ハヤト(怒)
私は、バノッサに掴まれた腕を振り払った。

「漫才なんかしてないよ!!ってか、バノッサが漫才してたら、私はリィンバウムを逆立ちで一周してやる!!」

「…………テメェ…………(怒)」

「…………バノッサ、いつもと感じがずいぶん違うな」

トウヤが微笑んだ。
おぉ。爽やかだぞ、トウヤ。

「あァ?なに言ってやがる」

「そーだよ、トウヤくん。バノッサなんて、いっっつもこんな感じじゃん」

「居候…………オマエ、家でどうなるか覚えてろよ…………」

「わぁぁぁ!!ゴメンナサイ!!!」

今度はぷっという音。
…………今度はトウヤか。

「…………ちゃん、僕のことはトウヤでいいから」

「あ、じゃあ、私もでいいから!」

ニコ、とトウヤが笑う。

「…………良かったら、明日にでも、僕たちのところに遊びに来てくれよ。みんなに紹介したい。…………な?いいだろ、バノッサ」

な、なんか笑顔が怖いんですけど……?
バノッサは、口を1回開いて………すぐ閉じた(なんなんだよ)
そして、結局カノンを見る。カノンは、にこにこ笑っていた。

「…………いってこい」

「うん!!!…………じゃあ、さっそく明日行ってもいい!?」

「あぁ。…………わかるかい?場所」

「う…………」

方向ならわかるけど、道はさすがに…………。

「良かったら、迎えに行くよ?商店街まで来れるかい?」

「うん!大丈夫!」

「じゃ、明日…………時計持ってる?」

「ううん。私、部屋にいたら来たから…………着の身着のまま」

「あ、じゃあ、俺の時計貸すよ」

ハヤトが、腕時計をとって渡してくれた。
私は、その時計を腕につける。
…………ハヤトの時計vv

「じゃ、明日の1時に商店街の入り口な?」

「了解ッス!!!」

「気をつけて帰れよ…………つっても、バノッサがいるから大丈夫か」

「なんだかんだいって、強いからね、バノッサは」

「…………何言ってやがる。オラ、帰るぞ」

手をひっぱられて、半ば引きずられるような形になる。

「また明日ぁ〜!」

私は、トウヤとハヤトに手を振った。



「…………なぁ、トウヤ」

「ん?」

「バノッサって、のこと…………」

「……相当、気に入ってるな。だが、付き合ってる、という雰囲気じゃないしな」

「気づいたか?最後、手、握ってたの」

「あぁ」

「…………変わったよな、バノッサ」

「そうだな」


そんな会話が、されていたことを。
は、知らない。




NEXT