私がいない間になにが起こったか ちゃんと聞いておく必要があった それはきっと 私の知らない未来の物語だから Scene.36 戻ってこれた理由。 「え!?こっちではもう1週間経ってるの!?」 フラットの面々と別れた後(異様にそそくさしてた)、周りの木々の倒れ具合に、一通りビックリして、私はバノッサと2人、街道を歩いていた。 初めて呼ばれたときのように、部屋着に裸足だったが、なぜか、私が置いてった靴が用意されていた。……バノッサよ、なぜ持っていた。 だから、歩くことに支障はないのだけれど―――バノッサが発した言葉に、思わず立ち止まってしまった。 「オマエが消えてから数えればな。オラ、止まるな。歩け」 「はいはい。……そうなんだ…………あ、ところで、どうなった?オルドレイクは」 「…………あぁ……アイツは……」 バノッサは一度そこで言葉を切る。 歯切れの悪さに、私は一番最悪の出来事を想像した。 「……死んだ、の?」 いや、とバノッサは頭を振る。 「正気を失った……が一番近ェ言葉だな。魔王……オマエが消えて、自分の持つ力のほとんどをつぎ込んだ計画が、失敗したんだ。……狂いもするだろうさ」 「…………そっかぁ…………キールたちは」 「アイツらは、家を出てフラットにそのままいる」 「……その方がいいね、うん」 「で?……オマエは?」 「はい?」 突然の質問に、1回聞き流してしまう。 そして、あぁ、と私は返事をした。 「帰ったら、記憶がなくって。……でも、バノッサの声と……それと、このペンダントで、思い出したんだ」 胸にある、ペンダント。 これが、私の記憶を蘇らせてくれた。 「バノッサは?…………私のこと、忘れなかった?」 「忘れるわけねェだろ、こんな変なヤツを」 「あ。ひどいし!!」 「………でも、諦めてた………召喚術なんて、オレ様の分野じゃねェ。だが、アイツら―――フラットの奴らが、もう一度オマエを召喚するって言い出した」 「すごいな、その考えも…………」 「で。今日、オレ様の持ってるコイツを媒体に、オマエを呼び出したってワケだ」 そう言って、バノッサは自分の胸にある、ペンダントを持つ。 ……………それって、私があげたヤツじゃん!! 「じゃ、バノッサが私を召喚したの?」 「………まぁな。アイツらの力も借りながら、な」 「じゃ、協力!?いつでも孤高主義のバノッサさんが協力したってこと!?」 「テメェ……ケンカ売ってんのか?あぁ?」 「売ってないデス(汗)ゴメンナサイ」 バノッサは、はぁ〜……と大きなため息をついた。……ひどい。 「…………で?どうなんだ?…………魔王とやらは?」 「ん〜………………はっきりいってよくわかんない」 「はぁ?」 「なんか…………いるんだかいないんだか、よくわかんない。私が自我を保っているから、いないのかもだけど…………なんか、どこかいるような、変な感じ」 ん〜、と体を伸ばす。 自分の思い通りになる体。 あの時はハッキリと自分の中の『魔王』と対話したというのに、今はその存在すら曖昧でつかみとれない。 困ったように笑うと、バノッサはそれ以上何もいわなかった。 そこでようやく私は、自分の気になっていたことをバノッサに聞いてみた。 「…………ねぇねぇ、カノンは?」 そう。 カノンの姿が、なかった。 バノッサが家に残してきたのか。 ―――それとも、それ以外の理由があるのか。 気になっていたのだ。 「…………………カノンは、寝込んでる」 「え?」 「オマエがいなくなってから、部屋から出てこねぇ。………だから、早く帰って顔見せてやれ」 「……うん。たくさん、心配かけちゃったね」 「小言か泣き顔か、どっちか覚悟しとけよ」 「できません……ッ。…………ところで……あのー」 「なんだ」 「…………………アシュタルさんは、どうなさってるのかと」 私が言うと、バノッサはポケットから石を取り出した。微かに輝いているように見える。確か前にもこんなことが……………。 ……………………(思い出す) ヒィィィ―――!!!怒ってらっしゃる!!きっと!!! 呼び出すのは怖いけど、遅くなればなるほど怖さは増す。 「…………………あ、アシュタル?」 小声で呼び出してみた。 ブゥン。 現れたのは、依然と寸分変わらない立ち姿。 違うのは。 ……いつもより深い、眉間の皺。 「お、お久しぶり?」 「……………………この、大バカモノが!!!!」 ボカッ!!! 「痛いぃぃぃぃぃぃ!!!」 「何度も、何度も言っただろう!?…………俺を、呼べと!!」 「はい、はいぃぃい!!……ただ、あの時は石を持ってるかどうか危うくて…………」 ごめんごめん、と謝り続ける私に、アシュタルが大きく息を吐いたのがわかった。 「…………もう、いい。…………とにかく、また、会えてよかった」 「よかった?やぁだ、アシュタルちゃん。そんなに嬉しいの?」 あー…………ごめんごめん。 もう言わないから、そんな睨まないでvv(汗) 「まぁ、アシュタルにとっちゃ、私が召喚師だしね。アシュタル呼べる人もそうそういないしね。役目なくなっちゃ困るよね。うん。うん」 「………………主を守れなくて、なにが、召喚獣だ…………!」 「………………あー…………ホンット、ごめん!ってば。ね?許して、そろそろ〜〜〜!今度、おいしいもの作ってあげるから!!」 私の必死のお願いに、アシュタルはゆっくりと首を振って、まっすぐ私を見た。そして、見たこともない顔で。 「………………楽しみにしとこう」 といって消えた。 …………そっか、アシュタル。 おいしいものが食べたかったのね!? 言ってくれれば作ったのに!! 少ないレパートリーだけど! 「おい、そろそろ行くぞ」 「は〜い。…………ねぇ、バノッサ」 「あぁ?」 「あ、あのさ…………………私が、その………消えるときに言った…………」 あぁ。こっぱずかしい!!! と思ったら。 バノッサのいつものニヤリ笑いが迫ってきて―――。 ちゅ。 ……………………。 「っぎゃぁぁぁ!!!なにするんだ、美白帝国皇帝〜〜〜!!!」 「あぁ?キスぐれーで騒ぐな。………そーいや、誰だっけなぁ?オレ様のことが好きだって言ってたのは…………」 「ぎゃぁぁぁぁぁ!!!言わないで、それ以上言わないで!!!」 クッと喉の奥で笑う。 「これから、楽しくなりそうだな」 「えぇぇぇぇぇ〜〜〜!!!」 「あぁ?ま、一応オマエはオレ様の召喚獣だろ?………主の言うことは聞かなきゃいけないんだよなぁ?」 「この…………性格歪んだひねくれ美白!!!あんたこそ、一生かけて私の失ったものを埋めてくれるんでしょ!?」 「あぁ…………」 ふっと、バノッサが真面目な顔に戻った。 え?え? ちょっと、そーゆー顔するのは、反則でしょ? 「一生かけて、埋めてやるよ。この、オレ様がな」 それって、プロポーズに聞こえますよ、バノッサ兄さん? NEXT |