私はなんにも持ってない

地位、お金、それこそこの世界の常識でさえも。

それでもここに来たのは

ここが――――――

私の居場所だと、知ったから。



Scene.37  手に入れた居場所。



ゴックン。

私は唾を飲んだ(汚くてすみません)
だって。

この部屋(目の前の部屋)に、私がいなくなって寝込んでいるカノンがいるって言うんですもの〜〜〜!!!

「ば、バノッサ…………あ、開けていいの?」

「開けなきゃ会えねェだろ、バカか、オマエ」

そう言って、バノッサがコンコン、とノックをする。…………珍しい。でも、バノッサがそんなことをするってことは、そうとう具合が悪いんだよね…………。

「カノン?入るぞ」

返事はない。
入ろうとするバノッサを押しとどめて、壁際へ追いやる。

「あ、あのね!私が言いたいのは…………わ、私がイキナリあけて、カノンが逆にビックリして卒倒しないかな、と…………」

「あ〜…………平気だろ?」

「って、なんでそこで目をそらすかなぁ!?」

「うるせェ!!!さっさと開けやがれ。………オレ様は、自分の部屋にいる。なにかあったら、呼べ」

睨んで、隣の自分の部屋に行く。しぶしぶと私はドアノブに手をかけた。

どうか、カノンが私を見て卒倒しませんように!!

そう祈りを込めて、ガチャリとドアを開けた。

「……………バノッサさん?」

カノンの、弱々しい声が。
その声を聞くやいなや、私はカノンに向かって叫んでいた。

「…………………カノンッ!!!」

「………………え?」

ガバリ、と起き上がって、こちらを見るカノン。
少し、その頬はやせていて。
目は疲れたように(いつにも増して)赤かった。

「…………………、さん?」

「カノン〜〜〜〜ッ!!!カノンッ!!!」

相手は病人だというのに、私は思いっきりカノンに抱きつく。
食べてないのか、力が出ないカノンは私と一緒に倒れこんだ。

「………………さん……っ?」

「うんっ…………戻って、きちゃいました……っ」

ペタペタ、と信じられないように私の顔を触る。
存在しているのを確認するように。
そして、目をまっすぐ合わせると。

「……………さんっ!!!」

ギュッと頭を抱えこまれた。
私の頬に、私の涙とは違う水滴が落ちてきた。

「夢……?夢、じゃないですよね……?あぁ、でも夢でもいいかも、しれません……ッ」

「違う!夢じゃないよ!私、ちゃんと、ここにいるよ?」

ぎゅうう、と力をこめて、私もカノンを抱きしめる。

「バノッサがね、もう1度こっちに召喚してくれたんだ。…………だからね、また、お世話になるけど…………いい?」

「……誰が、断ると思ってるんですか……ッ」

「……………カノン…………」

さんは…………やっとできた、僕の家族なんですから……ッ……」

だから、とカノンは続けると、

「勝手にいなくならないでください………ッ」

真剣なその言葉に、面食らった。
かつて、バノッサに言われた同じ言葉。
やはり、兄弟なんだな、と笑みが漏れてしまった。

「?なんですか?」

私が笑ったことに気づいたのだろう、カノンが怪訝そうな声を出す。

「だって……バノッサと同じこと言うんだもん。………兄弟だねぇ」

というと、今度はカノンがぷっと吹き出した。
2人で、顔を見合わせて笑う。
泣き笑いだ。

「また、会えて嬉しいです……っ」

「うん、私も!…………でも、カノン。痩せたんじゃない?ご飯、ちゃんと食べてる?」

「あ…………ちょっと、作る気にならなくって…………」

「って、なにそれ〜!!ダメだよ!?ちゃんと食べなきゃ!!」

「はい」

泣きながら、笑う。

「カノンは育ち盛りなんだからね!?」

「はい」

「バノッサみたいに、もう成長しきって尚、不健康なのはしょうがないけど、成長期に食べなかったら、背、伸びないんだよ?」

「はい」

「………もぅっ、カノンってば」

「はい……っ」

なんとも嬉しそうに笑うカノンを見てたら、何もいえなくなってしまった。

「……………本当に、よかった…………」

「……………カノン、あのね」

「はい?」

「…………私、なにも、持ってないんだ。…………向こうの世界に、なにもかも置いてきた。お金も、地位も、なにもない。……けど、ここに、いていいかな?」

「…………さん」

「……ん」

「何度、同じコトを言わせるんですか?…………家族って………家族って言うのは、同じ家で暮らすのが、当たり前でしょう?」

「………………うんっ!!」

私が返事をすると、カノンは、また、二コリと笑って、立ち上がった。ちょっとふらついたけれど、ちゃんと両足で地面に立っている。

「さぁ…………ご飯でも、作りましょうか。……手伝ってもらっていいですか?」

「もちっ!!!」

カノンと一緒に部屋を出れば、バノッサが待っていた。

「……………もう、話は終わったのか?」

「うん。…………これから、ご飯作るんだ。…………バノッサも手伝って」

「なんでオレ様が……」

「バノッサが1番食べるじゃん!!!たまには手伝っても罰は当たらないよ!!!さぁ、行く!!」

「なにしやがる、テメェ!」

ぐいぐいとバノッサの腰を押しながら、キッチンに向かう。
カノンが笑いながら、包丁を取り出した。

「バノッサさん?いるんなら、この野菜洗ってください」

「…………………………おぅ

さん、お湯、沸かしてもらえますか?」

「は〜い!………………ククク……美白帝王め

テメェ、居候!聞こえてるぞ!」

「げっ……でも、トマト持ったまま怒っても説得力な〜し!」

「のやろ……ッ」

バノッサさん?(黒笑)





この、温かい場所

ここが私の居場所

なにも私は持ってないけど

確かにここが私の居場所

失った私の世界

手に入れた新しい世界

――――――新しい居場所。

さぁ、はじめようか。

新しい生活を。





「Lost my world」 完




長かった……長かったです。でも、なんとかここまでたどり着きました。
それもこれも、連載中、励まし、応援してくださったみなさまのおかげです。本当にありがとうございました。

自分がこれほどキャラに愛着をもてたのも初めてでした。
結局、全てを捨ててこの世界にいることを選んだ主人公は、これからもまたいろいろな事件に巻き込まれると思います。
ここで、一応「サモナイ1」としての時間軸である、「Lost my world」は終わりますが、これより先の時間の物語で、また、姿を現すと思います。続編、とは名ばかりですが、短編も、ちょこちょこと書きたいと思っています。

そして、今後の長編連載ですが―――「2」をやりたいと思ってます。でも実際、「1」の主人公はバノッサとくっついてしまっているので、「2」での主人公は別の少女になると思います。それでも、「1」と「2」は同じ世界の話ですので、「1」の主人公が「2」に現れるなんてこともあるかもしれませんです(わかりにくっ)。ただ、これだけは決まっているのが、やっぱり「2」の主人公も元気で突っ走るタイプの異世界トリップ少女だと思います。やっぱり異世界トリップの要望が強かったので。
「2」で長編連載を始めるときはまた、アンケートをすると思いますので、よろしければ、それにも答えてやってください。
「1」の続編も、よろしければ、見てやってください。

本当に、ありがとうございました。