他の誰よりも

なによりも大切で

一緒に在りたいと願う

そんな人のそばに――――――。



Scene.35  何もかも捨てて。


眩しい光のせいで、ぎゅっと瞑っていた目をそっと開いた。
まず、目に入ったのは、
白銀の髪。
そこで、私は自分がバノッサの前に立っていることに気がついた。

「………………バノッサ?」

私を見て、ぼーぜんと立ち膝でいるので、私も目線を合わせるために、体をかがめた。
声をかけると、なんとも複雑そうに、紅い瞳を揺らした。

なんとも言えない状況に、私はポリポリ、と頬をかいて、誤魔化すようににへらっと笑った。

「………………あはは………来ちゃ…………ッ」

言い終わるよりも早く、ギュッと抱きしめられた。
前よりも、もっと強く、抱きしめられる。

「ギャー!!なにするんですか!?みんな見てるよ―――!!…………苦しいしッ!!」

「…………もう、向こうに帰れねェんだぞ?」

耳元で聞こえた、バノッサの小さな声。
私は、それに動きをピタリと止めた。

「……………………わかってるよ」

「オマエの…………親とかにも、会えねェんだぞ?」

「……………………わかってる」

「ダチとかにも……」

「わかってる!」

バノッサの顔を見る。
綺麗な紅い瞳は、かつてないほど、真剣だった。

「…………全部、捨ててきたよ」

失ったものが、多いのは知ってる。
それでも、私は…………選んだ。

「こっちで、生きるんだ。決めたんだもん」

辛いことはたくさんある。
これからだって、いろいろと思い知るだろう。自分が持っていたものの大事さ、失ったものの多さを。
でも、それ以上に、得るもの、手に入れたものも、多いはず。
そう信じて。

「もう、決めたんだもん…………」

覚悟はしても、やっぱり辛い。

往生際の悪い涙腺が、暴走する。
―――何かが、頬を伝ったのを感じた。

バノッサが、顔を歪める。
その顔を見たくなくて急いで涙をぬぐおうとしたら、手をつかまれた。

再度、視線がぶつかる。

「………………離れるな」

「え?」

「俺から、離れるな。………………オマエが失ったものを、一生かけて、埋めてやる」

…………………………。
はい?
…………………………って。

「えぇぇぇぇぇぇぇ!?ちょ、ちょっと、バノッサ、何言ってるか、わかってるの!?」

バッバッと私は辺りを見る。
みんな、顔を真っ赤にして、どこかあらぬ方向を見ているだけだ。

「うあぁぁぁぁぁ!!!ちょっと、ちょっとちょっとちょっとぉ!!!」

「うるせェ」

唇に、温かい感触。

「……………………あ?」

私の呆けた顔をみて、バノッサは満足そうに喉を鳴らして笑った。

「…………行くぞ、居候」

さっさと何事もなかったかのように歩き出した、バノッサの後姿を見て、我に返った。

「…………………………………………バノッサ〜〜〜!!!!」

バタバタと鳥が、飛んでいった。




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