なにか頭に靄がかかったようだった なんでかわからないけど、流れる涙 涙の理由はまったくわからなかったけれど やっぱり胸は苦しかった Scene.34 日常の世界。 唐突にハッと目が覚めた。 なにか、とてつもなく長い夢を見ていた気がする。 ぼんやりと滲む視界。 ぽとり、と自分の手に落ちた水滴で、ようやく自分の目から何かが流れていることに気づいた。 「……………あれ?………なんで私泣いてるんだろ」 自分の目から流れる涙を、ゴシゴシと拭いた。 怖い夢でも見ていたのかな? 目の前には、テレビの黒い画面と、プレステ。 「って、私、この状況で寝るってすばらしすぎー………」 明らかに、ゲームをやろうとしてたところだ。 そう、思い出した。 私、久しぶりにサモナイ1をやろうとしてたんだ。 で、セットしたところで、寝たってワケね………………。 「なにやってるんだ、私…………顔でも洗ってこよ」 洗面所へ向かって、バシャバシャと顔を洗う。 鏡を見れば、真っ赤な瞳。 「うーわー…………なんの夢見たんだ?」 こんなに泣いたなんて、久しぶりだなぁ。 うーん……『さとうきび畑の唄』を見て以来かな!? 「って…………なにバカなことを…………ん?」 鏡を見て、気づく。 首に見慣れないシルバーのペンダントがあることに。 「こんなの私持ってたっけ?……ってか、部屋でこんなのするオシャレ感、私にあったっけ?」 んー、とそのペンダントをよく見る。 十字架にピンクの石。 なんか、すっごいセンスいい。 ポロリ。 「……………あれ?…………なんでまた涙?」 ペンダントを手に取ったら不意に零れてきた涙。 後から後からこぼれてきた涙を拭いながら、ペンダントを外そうとした、その時。 ――――――ッ!!! 誰かが、呼ぶ声がする。 ペンダントを外すのをやめて、台所に向かって怒鳴る。 「おかーさぁん、呼んだぁ!?」 「呼んでないよ〜」 「あれ?………じゃぁ、誰?」 ――――――ッ!!! 「キャー、やっぱり呼んでる!!なんか、サモナイチック!……………って、あ。そうだ、私、サモナイやろうとしてたんだよ」 幻聴ということにして、私はプレステを起動する。 いつものとおり、画面が出て、迷いなくロードにする。 そこには、いくつかのセーブデータ。 「どれにしよっかなぁ〜…………久々に、バノッサの声も聞きたいし…………3話目くらいからにしようかな」 セーブデータをどんどん見ていく。 と。 「…………………あら?なに、これ」 見たことのない、サブタイトル。 『新しい日々』???話数も書いてない。 「なんかわからんけど、面白そう〜♪開いてみよ」 ポチッとボタンを押す。 画面に『ロード中』の文字が出た、そのとき。 ――――――ッ!!! 「えっ?………………バノッサの声?」 ペンダントが、カッと光を放つ。 眩しいッ……!! 思わず目を閉じる。 目を閉じた際に、パッと瞼の裏に映像が映った。 見えたのは。 ―――バノッサの、笑顔……? 『ありがと、な。居候』 パンッ!と頭の中で、なにかがはじけた。 一気に記憶が蘇る。 「あ………………?」 オプトゥスでの生活、フラットで過ごした日々。 そして、バノッサとのたくさんの会話。 大事な、大事な記憶。 …………このペンダントが、バノッサから貰ったものだということを、思い出した。 「…………………ッバノッサ!?」 ――――――……居候!?聞こえるのか!? 「聞こえる!聞こえるよ、バノッサ!!!」 ――――――元の世界に、戻れたのか? 「うん、戻ってきたよ…………戻ってきた」 ――――――そうか…………。良かったな。 『良かった』 そうだ。魔王をひきつれて私は帰ってきた。 帰れないと思っていた、元の世界に。 魔王をひきつれてきたといっても、今私はなんともないし、バノッサとこうして話ができるということは、リィンバウムも平和だということだろう。 これが、『良かった』ということ。 「うん…………良かったの、かな………………」 ――――――元の世界に帰れたんだからな。……平和、なんだろ? 「うん、平和、だよ。魔王も、いないし」 そう、これが、私が望んだエンディング。 リィンバウムの平和。 バノッサたちの幸せ。 これで、きっと『良かった』 でも。 ……私の、幸せは。 「…………たい……」 ぽつり、と漏れた言葉を、彼は聞き逃さなかった。 ――――――…………あぁ? 「………でも、バノッサに、会いたい……ッ」 ――――――ッ……!!! 「自分で納得してこっちに帰ってきたつもりだった……それが、世界にとって……みんなにとって『いいこと』なんだと思ってた」 でも。 私にとっては。 顔が、歪むのがわかった。 涙が再び溢れ出すのも、わかった。 「―――でも、私はバノッサがそばにいないの、やだなぁ?」 ――――――…………ッ……来るか? 「……え?」 ――――――…………もう1度、こっちに来るか……ッ? 「…………できるの?そんなこと」 ――――――あぁ。…………だが、きっともう元の世界には戻れない。それでも、来るか? こっちの世界に、戻れない。 お母さんたちとも、会えない。 きっと……………一生。 だけど。 「バノッサの傍にいられないのは、もっとイヤだ!!!」 また、涙が溢れてきた。 こちらの時間では、まだ1時間くらいしか経ってない。 けれど、1週間もバノッサと会ってない気がする。 そして、これからも会えないとしたら……。 ――――――そんなの、耐えられない。 「会いたい、よぅ…………ッ」 涙で、前が見えない。 でも、いつの間にか、テレビの画面は変わっていて。 私がいた森が画面いっぱいに写っていた。 その真ん中に、バノッサがいて。 周りをぐるりと、誓約者、パートナーが取り囲んでいる。 画面の下に、文字が出てきた。 『召喚師バノッサが命じる!』 それとまったく同じ声が、私に響く。 ――――――ッ!!! 呼ばれると同時に。 世界は光に、包まれた。 NEXT |