失くしていた感情 失くしていた居場所 失ったモノすべてを オマエが与えてくれたんだ Scene.28 失われた姿。 いつからだ? いつからいない? アイツから聞いた。蒼の派閥とかいう奴らと戦って、ようやく、力が結束したこと。 そして、その後に一緒に弁当を食って帰った。 それから帰宅して…………自分の部屋に入った。 その後姿にふと不安を感じて、アイツに声をかけた。 ノックをしたのに、返事はなく。 不安にかられて、ドアを開けて、ベッドに眠るその姿をみて、安堵した。 それをみてたら、どうしようもなく眠くなってきて―――。 一緒に寝ちまったんだ。 その後、自室に戻ってきて―――。 それから? 散歩とか、トイレとかそういう理由は浮かばなかった。 そんなものではない、となぜかわかった。 知らず知らずのうちに、汗が出てきて、ひどく喉が渇く。 大またで部屋の中に入る。 アイツのベッドを触って、冷たいこと―――いなくなってから時間が経っているのを確認して。 「………………カノン!!起きろッ!!!」 たまらず、叫んだ。 大急ぎで装備を整え、南スラムへ向かう。 いつもの鎧、剣………………そして、ペンダント。 部屋に置きっぱなしだった、紫の石も持ってきた。 カノンは、腕にはめた透かし彫りの腕輪を撫でる。 そして、顔を歪めた。 仕度をしている最中に、大方の事情は説明した。 カノンはぎゅっと唇をかみしめたまま何かに耐えるように聞いていた。 「なんでっ…………さんが…………ッ」 「…………カノン、落ち着け」 歩いていたはず。だが、いつの間にか走っている。 フラットが見えてきた。 前は、見るだけでも不快だったのに、今はそんなことは感じない。 落ち着けといったばかりなのに、自然と、更に足が速まる。 たずねるべき時間じゃないのはわかってる。 いくらオレでも、最低限の常識は持ってる。 まだ早朝、夜が明けて間もない。 そして、自分たちが相手にしている敵の巨大さを考えると、今がただ1人のために、動く時期ではないこともわかってる。 それでも。 「…………ッオイッ、居候がいなくなったッ!」 もう、常識なんて、関係なかった。 「………………もう、すでにいなかったっていうのが、気になるな」 「が勝手に1人で出ていくわけがないよ。それに…………アシュタルも置きっぱなしだったんでしょ?なにか、よっぽどの理由があるんだ」 起こされたフラットの面々は、そこにいるべき人物がいないのと、血相を変えた2人の顔を見るやいなや、大慌てで準備を始めた。誰1人反対せずに、準備を始めたのに、なにやら不思議な感情を覚える。 「…………今回は、僕も一緒に行きます。絶対に」 カノンが、そう言い切った。決意のこもったその言葉に、全員が息を呑んだ。 「…………待ってるだけなんて、嫌です」 うつむいて、自らの剣に、目を落とす。 ―――この剣を、バノッサ以外のために使うとは思っていなかっただろう。 ハヤトがゆっくり近づいて、肩を叩く。 「…………戦うんだぞ?大丈夫か、カノン」 「…………さんは、僕の、家族ですから」 しん、と静まり返る。 いつも、こんな風に静かになったときは、騒がしくする人物がいたのに。 …………今も、その声が聞こえてきそうだというのに。 カシスの目から、ポロリと涙がこぼれた。 「もう、ダメッ…………許せないよッ…………」 「カシス…………」 キールが、そっと妹の頭を撫でる。 ソル、クラレットが、頷いた。 NEXT |