すでに私がここに来て2週間―――。

誓約者たちに会っていない。

まだこの世界に来ていないのか、それともただ会っていないだけなのか。

あの子たちに出会いたい、と思うとともに。

…………この幸せな時間がなくなるのが怖い。



Scene.2  序章までの残された時間。



「バノッサ―――、ご飯だって」

バノッサの部屋の前で少し大きめの声で話す。

二週間もたてば、恐怖心とか、遠慮とかいうことはなくなってしまい。
私は気軽にバノッサを呼び捨てにするようになった。
なんせ、向こうの世界でも呼び捨てだったし、その方が呼びやすいのよね(苦笑)

「……あぁ」

扉の向こうから、低い声が聞こえた。
返事をしたのを確かめて、私はリビングへ向かう。
ここ二週間で、この家の住人とは随分仲良くなったと思う。
カノンはもともと友好的だったが、正直バノッサは無理だろ、と思っていた。
そう思っていたのに、期待に反して(?)、バノッサは結構友好的(?)だ。
ちゃんと話もするし(基本無口だけど)、この世界で生きていく上での重要なこともぽつぽつと教えてくれる。

「(実はいいやつだ、バノッサ……)」

「おい、居候」

「……ムカツクこともあるけどね……」

せっかく褒めているのに!

でも、これもバノッサが友好的な証拠。
たまーにこうやってバノッサはからかってくる。

「なんかいったか?……おい、居候」

「(ブチっ)確かに居候だけど、居候って名前じゃなぁい!!私には、っていう……って、ぎゃっ!

ゴンッ、と柱に頭をぶつける。
前を良く見てなかったからだ。……バノッサの所為で。

「…………前見て、歩かねェからだ、馬鹿」

「バノッサの所為じゃんか!!馬鹿はそっちだ、美白馬鹿〜〜〜!!」

「テメッ…………それじゃ俺が、美白を愛してるみてェじゃねェか!!」

「美白愛してんじゃん、やーい、美白馬鹿ー!!

「愛してねェ!!」

「バノッサさん、さん、ご飯冷めますよ?」

カノンの笑顔に、2人して固まる。

にこにこにこにこ。

「……はーい」

「……今行く」

そう。気づいたのだ。
この家の中で一番強いのは、カノンだ。
誰よりも(もちろん、バノッサよりも)強い
だって、笑顔なのに、体の周りにはあきらかに黒いオーラが……(汗)

「いっただっきま〜す!!」

「はい、どうぞ。今日は旬のお野菜がおいしいですよ」

それでも、可愛いことに変わりはないし、ご飯はめちゃくちゃおいしい。
黒い笑顔が発動しなければ、普通に……いや、普通以上に可愛い。

「ふふ………さんは、いつもおいしそうに食べてくれるから、作りがいがありますvv」

「……悪かったな、うまそうに食ってなくてよ」

に、バノッサさんのことなんて言ってませんよ?」

あぁ……笑顔が………笑顔が怖いよ、カノン……(涙)。
もくもく、と私はご飯を食べて、2人の動向を見守る。
にこにこ笑うカノンを見て、バノッサはチッと一つ舌打ちをして、ご飯を再び食べ始めた。

……カノンの勝利(笑)

なんかもう、微笑ましくて口元が緩む。
ついでに頭のネジも緩みそうだったけど、言おうと思っていたことを思い出して、あわててしめなおした。

「あ。そーだ。あのさ…………私、今日ちょっと釣り行って来るね。ご飯のおかずになるかもしれないし!」

「うわぁ、ありがとうございます!気をつけていってきてくださいね?」

「うん!!じゃ、今日のメインは魚でね!!」

「はっ、釣れるかどうか……」

「う、うるさいなぁ、バノッサ!!どーせ、日焼けしたくないから釣りにいかないんでしょ!?この美白馬鹿!!」

「んなわけあるか!!行くんならとっととメシ食って行きやがれ!!」

「えぇ、行きますとも!!ごちそうさま、カノン!!そんでもって……バノッサ!!(限定:笑)行ってきます!!」

「いってらっしゃい。晩御飯前には帰ってきてくださいね?暗くなると物騒ですから」

「は〜い!!あ、釣竿ある?」

「えぇ。たぶん物置にありますよ」

カノンの声を聞くや否や、飛び出していった。




『くれぐれも気をつけて』

心配性なカノンの声が頭の中でリフレインする。にやけそうになるのを抑えた。
カノンは優しい。誰も知り合いがいないこの世界で、私のことを心配してくれる人がいるというのは、すごくすごくありがたかった。

歩きながら、周りの景色を見てふと気づく。

「……アルク川ってこっちの道であってるっけ?」

ゲームでは操作だけで歩かなかったから(当たり前)方向はわかるけど、道はわからない。
しばらく立ち止まって考える。

…………。

……まずは、繁華街を越えよう!(考えるのに疲れた)

繁華街を超えれば、音とかを頼りにいけるかもしれない!
それにいざとなれば、繁華街で人に聞けばいいし!
釣竿を片手に、猛然と歩き始めた。


いろいろな道を行ったり来たりして、やっと繁華街へたどり着いたとき。
路地の片隅でタバコを吸っている、美白帝王を発見した。

「あっ、バノッサ!!」

さっきまでケンカしてたのも忘れて、思わず呼んでしまった。
バノッサは驚いてこっちを見る。

「な、なんでてめぇがここにいるんだよ」

「だって、アルク川行くには、ここ通らなきゃいけないじゃん」

「だからって、女が1人で通るな。しかもこんな裏路地……馬鹿か」

デコピンされて、思わず目を瞑ってしまった。
でも、今の言葉って……。

「ふっふっふ〜……心配してんの?」

「するわけねぇだろ、うぬぼれんな、ガキ」

「なっ!!!おのれバノッサ、どこまでもムカツク〜〜〜!!!」

「あぁ?なんか言ったか、居候」

ニヤニヤ笑って、煙を吐き出す。
思いっきり馬鹿にされている。
……ちくしょ〜〜〜。

「……………覚えてやがれ、美白馬鹿〜〜〜!!いつか……いつか嫁にしてくれる〜〜〜!!」

白無垢着せて、真っ白い肌をみんなに見せてやるからな〜〜〜!!!
そんなセリフが口から出ないで、心の中でしか叫べなかったのは、決してバノッサが怖かったからではない!!



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