いつ来るのだろう。

いつ会えるのだろう。

何度、そう思ったことだろう。

本来の主人公であるはずの誓約者たち。

そしてそのパートナーの召喚師たち。

―――誰が来るのだろう。



Scene.3  物語が始まる。



釣りっていうのは魚が掛かるまではただひたすら待つのみで。
その間に、私はいろんな考え事をしていた。
ぼんやりといろいろ考えては、時々釣り糸に意識を向ける。
それの繰り返し。

「あ〜ぁ…………あと半年先とかだったりして……」

1人つぶやいて、また釣り糸を眺めた。

まだ1匹も連れていない。
せめて、1匹位釣らせろよ〜、と河に向かって呟く。
いや、3匹つれないと、食卓に困るか。

「アルク川様、お恵みを3匹お願いします」

バノッサ様ってば、最近私のものまで取るようになってきたからね……。
思い出して、くすっと笑う。
テレビ越しにはバッチリ悪役だったバノッサが、実はそれほどでもなくて。
年下の私とも対等に話してくれるっていうのは、きっと誰もが知らない真実。

「よしっ、釣るぞぉ〜!一人2匹の目指せ6匹!」

力いっぱい叫ぶ。
と。

「うわぁ!?」

草葉の陰から声がした。
誰かいる!?
思わず振り返ると、そこには尻餅をついている少年が。

「!!!!!(ハヤトじゃん!!)」

叫びたいのを、やっぱり全身全霊で我慢して、めいっぱい心の中で叫ぶ。

「す、すいません!」

「いえいえ。なにしてるんですか?」

「キミの着ている服が……オレの故郷の服に似ていて……盗み見てました。ごめんなさい」

あぁ、と思う。
確かに私の服は、パーカーとズボン。めちゃめちゃポピュラーな日本の服だ。
バノッサのシャツとか着るときもあるけど(無断で、もしくはカノンの了承を得る)、やっぱりこれのほうが落ち着くからね。こまめに洗濯しながら着ているのだ。

「……あの…………変なこと聞きますけど」

「はいはい?」

「……日本って知りませんか?」

ためらいがちに、言ってくるハヤトに胸ドキュン(何)

「もちろん、知ってます!!!私、そこから召喚されてきたんです!」

ぱぁっとハヤトの顔が明るくなる。
それはもう、電球がついたくらいに(笑)

「オレもなんだ!……えっと、オレ、ハヤト。新堂勇人。勇気の勇に人でハヤトって読むんだ」

「私は、です」

そういって、地面に漢字を書く。
文字なんて書くの、久しぶりだ。

「えっと……敬語、なしにしよっか?呼び捨てでいーよ♪」

「うん、オレも。……で、はいつ?」

「えっと、二週間くらい前かな?突然なんだよね〜、部屋でゲームしてたら来てた(というか、あなたたちのゲームをしていたんだけど)」

「マジで?オレは、公園にいたらなんだけど…………昨日来たんだ」

「へぇ……お互い苦労してるね……」

「あぁ……は、2週間前にきたんだろ?どうしてんの?……はっ、まさか野宿!?もしかして、それで魚釣ってんの!?」

あわあわ言い出したハヤトをあわててなだめる。

「違う違う!!ちゃんと、お世話になってる家があるよ(敵だけど)。大丈夫。ハヤトは?」

「あ、オレたちもなんとか……」

ん?たち?
まだ、パートナーとは会ってないはずだよな……。
もしかして、もしかして……ドリーム小説お得意の……。

「あ、召喚されたの、オレだけじゃなくて、他に3人いるんだ」

ビンゴ!!!
全員召喚設定、キタ――――――!!!!
縦も横も斜めもそろったって感じだよ!!(汗)

「へ、へぇ〜……そ、それはなかなか心強いねぇ」

「あぁ……、さ。もしよかったら、オレたちのとこ、来ないか?」

オレたち……って、フラットですか!?
ガゼルとかレイドとかリプレとか(以下略)がいるフラットですか!?
お、おいしすぎる…………
それに加え、トウヤとかいるんでしょ!?
…………ますます、おいしい。
でも……。
せっかくオプテュスのメンバーと仲良くなれたからなぁ。
バノッサも何気にいいやつだし。
カノン可愛いし。
…………私は、今のままで十分幸せだ!!

「でも、そんなにいたら困ると思うし……私は、今の生活で大丈夫!」

「……そう?」

すごく残念そうなハヤト。
犬耳があったら、間違いなくたれてる!!
可愛いっっっ!!!
テイクアウトオーケーですか!?オーケーですか!?←ダメです。

「あ、あぁぁぁ、でも、遊びにいかせて!?ダメ!?」

「ううん!もちろんOKだよ!!」

「やったー!!!」

これで生ガゼル、リプレ、レイド(以下略)に会える!!!
なんとすばらしいことか!!

「……あっ!!」

「ん〜?なんだい、ハヤト」

、ひいてる!!!魚!!」

「魚?………あっ!」

釣竿が動いている。

慌てて引っつかんだ。

ゲームでは連打だけだったのに、現実はつらい。
思いっきりひっぱって、ひっぱって、ひっぱった←ひっぱりすぎ
バシャン、と魚が地面に落ちる。ビチビチとはねるそれを慌ててつかむ。

「…………つ、釣れた…………」

「すごいじゃん!オレも今度釣り道具持ってこよ!」

「ふ、ふふふふ………………見たか、美白帝王………!!」

「(美白帝王?)そろそろ、戻るよ、オレ。、1人で大丈夫?」

「うん、平気。……じゃ、また、ね?」

ちょっと不安になったので、疑問符になってしまった。
……もしかしたら、次に会うときは敵かも知れないから。

「うん……また!」

ハヤトは笑って手を振ってくれた。
少し安心。


来た道をそっくりそのまま、なぞって帰ることにする。
本当は探索をしたかったのだけれど、時間が時間だ。
あまり遅くなったら怒られるんだもの(カノンにもバノッサにも)
ちょっと急ぎ足で歩いていたら、釣竿をひっかけるひっかける(苦笑)
おまけに、いつも買い物をしているお店の人から話しかけられて、りんごまでもらってしまった。
道行く人には、ここ数日で知り合いになった人もいて、挨拶を交わす。
そっちに気をとられていたものだから、また釣竿を誰かに引っ掛けてしまった。

「…………ってぇなぁ!なんだぁ?この釣竿」

「うぁ、すいません!」

謝っては見たものの、許してくれそうにない、目つきの悪い男。
案の定……

「謝ってすめば、騎士団なんていらねぇんだよ、なぁ?……治療費払えや、治療費」

騎士団……って、あんたたち、メチャメチャ毛嫌いしてそうじゃん。

「んなっ…………そりゃ、ぶつけたのは悪かったけど……そんな病院行くほどでもないじゃんか

ぽそりと小さな声でつぶやく。あくまでも小さな声で。

「あぁ!?なんか文句あんのかぁ!?」

「うぁ!聞こえてたんだ…………っても、私お金持ってないし……」

「金持ってねぇだぁ?……だったら、体売ってでも払え!!!……いや、そうだな、一晩で許してやるぜ?」

なんで話がそこまで飛ぶ!!
体売るって…………おいおいおい!!
そんなに女に飢えてるのか!?この男!!

「い、いやいやいや、そんなことできるわけないでしょう!?」

「やれっつってんだよ、こっちは!!!」

男の声に、思わず身をすくめてしまう。
声が大きいのもあるし、なによりガタイがいいので、殴られたら口を切るだけじゃすまないかもしれない。

「…………う〜…………(なんとかして逃げられないもんか……)」

「ほら、どーすんだよ。ここで客寄せでもするか?それとも……」

にやりと笑った男の手が伸びてくる。
思わず震えてしまった。それでもなんとか睨みつける。

「…………おい、なにやってんだよ」

聞こえた声に、一瞬で反応する。
手を振り払って、声のした方向へ走る。

「バノッサ!!!」

「バノッサ!?……あの、オプテュスのか!?」

「テメェ、コイツになんか用でもあんのかよ」

「…………チッ」

舌打ちを1つすると、男は人ごみに姿を消した。

「…………だから1人でくんなっつったろ」

バノッサの声に思わずつまる。
でも、あそこを通らなければ、釣りにいけないんだ!!

「う…………でも、結局バノッサが助けてくれたじゃん」

「たまたま居合わせただけだ。次は喰われちまってもしらねぇぞ」

「喰われ………っ!なんっつーことを言うのさ!!」

「あぁ?……喰われたかったのか?」

「んなわけないだろ、美白バカノッサ!!」

「変な名前つけんのヤメロ!喰うぞテメェ!」

「ぎゃあ!そっちこそ変なこと言うな!!」

はぁはぁ、と息を切らしながら言い返す。
怖い目にあった動揺と、救われた安心感からか、なんだか自分の感情の振り子が狂っていた。ほんのすこしだけど体が震えてるのが、わかる。

ふっと無言になったバノッサの視線が、私の手に移る。

「……釣れたのかよ?」

いつも通りのその声に、安心感が募ってようやく心が安定した。
息を整えてちょっと満足げに報告。

「バッチリ!!4匹釣れた!!」

「なんだ、1日いて4匹かよ」

「うっ………でも、一食分はね?」

「まぁな。さっさと帰ってメシ食うぞ」

「は〜いっっ」

カノンが待っている家へと帰る。
暖かい場所へ。


………夕食のとき、残りの一匹を賭けて、バノッサと私がケンカしたのはまた別の話。


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