呼んでいる。

呼ばれている。

呼んでいる主は…………。

アイツだ。




Scene.20  誓約の声。



あの出来事から、2日。
とうとう、来た。

まず、眠りの世界で、呼ばれた。

あまりの不快感に目が覚める。
痛みとともに、頭の中で、声が、する。

『来い…………来い』

と。

わかってはいるけど、従うのはイヤで。
その声を意図的に無視した。
すると、すぐに、激痛が襲ってきて。
息も出来なくなるほど、痛くて。
1度起きたのに、また、ベッドに倒れこんだ。

「……う……ぁっ………」

声をかみ殺して、手を握って。
痛みに耐えた。
けれど、いつまでたっても、それは取れなくて。
この前みたいに、あっさりと意識を失うことも出来ない。

何時間とも思えるほどの時間。

苦痛の時間の中に、切れ目を入れるかのように、ガチャリ、とドアが開いた。

「いつまで寝てやがる、さっさと…………居候!?」

ちょうど、バノッサが部屋に入ってきたところだった。
私の姿を見て、慌てて駆け寄ってくる。

「痛むのか!?」

その声に呼応するように、増幅される痛み。
まるで、私のそばにバノッサが来たのがわかって、面白がるように。

「うあぁぁぁぁっ!!」

転げまわることも、出来ない。
でも、じっとしているのなんて、できない。
矛盾する気持ちをどうにもできなくて、目じりに涙が浮かぶ。
それは、痛みよりも、なにか生理的なもので。

「居候!!」

その声を聞くころ、やっと私は意識を失うことが出来た。




ふと目を覚ませば、顔を覗き込んでいるバノッサがいた。

「………………起きたか?」

「…………ん。ごめん、騒いで」

「…………痛いところは」

「もう大丈夫。……結構時間過ぎちゃった?」

「いや、それほど経ってねェよ。……寝てるか?」

「ううん、ご飯食べる。大丈夫だよ、もう。気を失ったから、楽だった」

バノッサが、キレイな顔をゆがめる。

「…………気を失って、楽って言うくらいなんだから、そうとう痛ぇんだな」

「んー、そ、だね…………なんか、今日のは、強かった。…………呼ばれてたから」

「あ?」

「…………多分、あれは、森。森のほうへ、私を呼んでいた」

よっと体を起こして、すこし伸びをする。
うん、ちょっとだるいけど、あの激痛はもう感じない。

立ち上がって歩こうとしたら、バノッサが考え込んでいる事に気づいた。

「?バノッサ?」

「……居候、南へ行くぞ」

「え?南って…………フラット?」

「あぁ。さっさとメシ食って、行くぞ」

「うん?いーけど?また、バノッサが珍しい」

「………………行くぞ」

バノッサの顔は、いつになく真剣だった。




!」

「やっほー、リプレ」

「遊びに来てくれたの?」

ホウキを立てかけて、こちらに駆け寄ってくるリプレ。だが、すぐに後ろにバノッサを見つけて、不思議そうな顔になる。

「あら、バノッサも?珍しいわね」

「…………はぐれ野郎どもは、いるか?」

バノッサの声が、低い。
殺気もなにもないけれど、私にもなにか緊張感が走る。

「……えぇ、全員いるわよ。……お入んなさいな」

ただごとではない、とリプレはわかったのだろう。すぐに、家の中に招き入れてくれた。

「居候、大丈夫か?」

「………………バノッサが心配してくれるなんて、ブルーゼリーとか降ってこないよね?

「……テメェ…………」

「やーだなぁ、バノちゃん、本気で怒らないでよぉ……いだだだだだ!!!

バノッサが拳を頭にぐりぐりめり込ませてきた。
痛いんだよ、バカ〜〜〜!!!

「……………なにやってるんだ?」

「「あ?(あぁ?)」」

思わず、私とバノッサは拳ぐりぐりの状態で、振り返る。呆れたような、ガゼルの視線。

「………………まぁ、入れよ」

「あ、お、お邪魔します」

なんとなく気まずくなりながらも、フラットの中へ入る。

「やぁ、

入ったところで、キールに声をかけられる。
そして!!!
目の前には、たくさんのすばらしい面子が!!!

ギブソンさん、ミモザ姉さんを始め、イリアスにサイサリス、ローカス、ラムダたちアキュートメンバー!!!
あぁ……もう、こんなところにまで物語が進んでしまったのか。
私がぶっ倒れてる間に〜〜〜!!!くそぅ。

バラバラとみんなが集まってきて、私たち2人は大広間へと通された。
私は、ソファに座ったけど、バノッサは柱に寄りかかって立ったまま。……ま、バノッサがソファにちょこんと座ってたらそれはそれで、面白いけどね。

「で?一体どうしたんだ。バノッサまで」

みんなを代表して、ハヤトが声をかけた。
…………どうしたんだ、といわれても。私は何もわからないままにバノッサに連れてこられたんで……。

「単刀直入に言う」

バノッサの声に、みんなが注目する。

「………………一時、休戦だ。手を貸せ」

もちろんその場にいた人間すべてが驚いて(私を含む)、その声の主を見た。……あ〜あ、ナツミにカシス、目が落ちそうだよ。
みんなの様子に、チッ、と不機嫌そうにバノッサが舌打ちをした。

「い、一体どういうことだ?説明してくれないと、こちらも協力することはできない」

いつもは冷静なキールでさえ、この慌てよう。
アカネなんかは、あわあわ言ってシオンさんの顔をちらちら見てる。

「…………戦ってる相手は、おそらく同じだ。オレ様に宝玉の話を持ちかけてきた奴ら。……その親玉が、コイツを召喚したヤツだ」

「!!!!!」

「…………今、コイツはそいつに逆らって行動している。それ以上は、テメェらなら、わかるだろうが?」

「…………そうなのか、?」

「…………うん……」

ちら、と私は言いながら、パートナーたちの顔を見る。
パートナーたちの顔は、暗い。……当たり前だよね、父親だってわかってるんだから。

「…………そういうことなら、俺たち、手を貸すよ」

「ハヤト…………」

のためだもんね、うん!」

「大丈夫ですか?

「ナツミ、アヤ……」

「ということだ、僕たちの意見はまとまったが……ソル、キール、カシス、クラレット。君たちは?」

「…………………僕たちは、君たちに従うよ」

キールの言葉を聞いて、ハヤトはにこ、と笑った。
そして、すぐにまじめな表情に戻る。

「…………それじゃあ、こっちの事情も説明しておくよ」

「あぁ。…………おかしいと思ってたぜ、こんなにメンバーが揃ってやがるなんてよ」

「…………俺たちは、エルゴの王になるために、今、試練を与えられてる」

ここの物語は変わってないのか。それに私たちっていうイレギュラーが加わるのね。
…………でも、ってことは……カザミネさんたちに会えるのかな?

「3つの場所に行かなきゃならない。時間短縮のために、別れていこうと思ってたんだけど…………一緒に来てくれるか?……正直、バノッサが加わってくれると、心強い」

「いいぜ。ただし…………コイツも連れていく」

と、私を目で指示する。私は、思わず、うん、と答えてしまった。
…………なぜ私も?

「で?オレ様はどこに行けばいいんだ?」

バノッサの言葉に、アヤがにっこり笑って答えた。
それによれば。

剣竜の峰には、高低差に強い、ガゼル、スタウトのおっちゃん。直接攻撃で、レイドにエドス、それにラムダさんが。そこには、ハヤト、キールが行く。

機械廃墟には、アカネ、シオンさん、イリアス、サイサリスのコンビに、ローカスさん。そこには、女の子たち4人(ナツミ、アヤ、カシスにクラレット)が行くことになった。

そして、鬼神の谷には、ジンガにギブミモ、それに私たち2人が行くことに。そこにはトウヤとソルが行くことになった。
ペルゴさんにセシルさんは、店があるので待機。モナティ&ガウムも、ここに残ることになった。

チャキ、とバノッサが剣を鳴らす。

「なら、さっさと行こうぜ、時間がねェんだろォが」

「待ってくれ。ここから、どの場所も往復で2日はかかる。野営の準備もいるんだ。出発は昼にしよう」

「昼?それだったら、明日の朝の方がいいんじゃねェのか?」

「事態は一刻をも争うんだ」

トウヤの声に、全員に緊張が走る。
そして、バノッサが口を開いた。

「…………オレ様たちも、1度戻らなきゃ、ならねェしな」

「そうだね、カノンにも言っとかなきゃだし」

、俺の時計、渡すから。12時になったら、また、フラットに来てくれないか?」

ハヤトが自分の時計をはずして、私に渡す。
二度目のハヤトの時計は、少し傷が増えていた。

「…………わかった。じゃ、また、後で」

「帰るぞ、居候」

頷いて、私はすでに歩き始めているバノッサの後ろにくっついた。
…………あ、ローカスさんたちに自己紹介するの忘れた。



「………………というわけで、ちょこっと留守にするけど…………」

「………………もう、決めちゃったんですね?」

「あぅ…………はい」

カノンの静かな声。
はぁ、とため息をつくと、仕方なさそうに笑った。

「しょうがないですね…………まったくもぅ。…………ケガしたら、承知しませんからね」

ケガをしないことなんて、無理だとわかっているのに。
カノンは優しい子だ(感涙)

「バノッサさん、ちゃんと、守ってあげてくださいよ?」

「……………………」

バノッサさん?(黒笑)

「………………………………あぁ

う〜わ〜…………カノン、怖さが倍増しだ。
さすがのバノッサもたじたじ。

「…………ご飯、用意して待ってますからね」

「うん!!デザートはお団子がいいな」

「わかりました。…………いってらっしゃい」

こうして、私たちは、鬼神の谷へと行くことになった。




NEXT