気配なんかなかった。

なのに、なぜ。

なぜいるんだ。

1番会いたくなかったヤツが。



Scene.19  本当の強さ。




「夜に出歩くとは、貴様も愚かだな……」

声が喉に張り付いて出てこない。
……いや、かすかに声帯が震えている。
けれど、口から音が発せられることはなく。
とにかく、目を合わせないようにするのに精一杯だった。

「…………誰だ、コイツは」

でも、バノッサの一言で、ふっと力が抜けた。
…………あんた、前に1度会ってるだろ!!

「…………あぁ、あの後退ハゲか。暗くて気がつかなかった」

あんた、自分の父親を…………ってか、人を髪の毛の量で判断するなよ!!
なんでも、少し力が抜けて、余裕が出来た。

「…………レヴァティーン」

余裕をかましてる暇はないらしい(汗)

「走れッ!!!」

アシュタルの言葉に、私たちはとっさに横に走る。
その後、私たちがいた場所に、巨大な穴が開く。
驚いている間もなく、夜の闇をさらに深くする影。
上を見れば、巨大な竜が。

『ギャシャァァァァ!!!』

ギャシャァじゃねぇよ!!って突っ込みたい。
すっごく突っ込みたい!!!

「………………アシュタル、なんとか、できる!?」

「…………力的には、向こうのほうが上だな」

「んなこと、いってる場合じゃない〜〜〜!!!力、貸すからどんとやれ!!!!

もう、オルドレイクがどーの言ってる場合じゃない。
生きるか、死ぬかだ。
そして。

今、やらなきゃ、多分死ぬ!!(汗)

「…………、力、貰うぞ」

ついでに、バノッサのも持ってけ!!!

「勝手に決めんな、居候!」

「フッ……遠慮なく」

私たち2人の肩に手を置いて、アシュタルは、目を閉じた。

「………………行け」

七色の光が、凝縮され、レヴァティーンめがけて飛んでいく。
一瞬の後には、竜の姿は消えていた。

「………………死んじゃった?」

「まさか。今頃はサプレスで回復しているだろう」

「くっ…………くくく…………はははは」

「なにが、おかしいんだ、オルドレイク!」

「つくづく、私は幸せだ。こんな召喚獣が、いるのだからな」

「…………!!!うる、さいっ……」

バチン、と私の周りに光が。…………スーパーサイヤ人みたい(笑)

「…………あ?………れ?」

あまりのことに、言葉が途切れてしまった。
…………わーお、なんだか知らないけど、私、すごくない?

ためしに、掌に意識を集中してみれば、バチバチッと光の玉が出来た。

「…………っつーわけで…………なんかよくわかんないけど、行くよ?……オルドレイク、もう、魔力ないでしょ?」

「…………ふっ、覚えておけ。お前は、私のものだ」

そう言って、消えた。

「……気色悪い言い方しないでよ

心からの本音を呟いて。
私も、光の玉を消した。



「で?…………さっさと話せ。10秒以内に話せ今すぐ話せ

「…………やだなぁ、バノちゃん、顔こわーいvv顔しろーいvv」

「…………川に沈めてやろうか?

嘘です、ごめんなさい。もう言いません

バノッサは、はぁ〜……と大きなため息をつく。
う…………すごーい、嫌なため息。

さっさと、話せ」

「…………………………………はい

そう言って、私は息を吐いた。
冷静に、冷静に。
ゆっくりと、言葉をつむぎだす。

「………………どうも、さ…………私、あの、ハゲオヤジに召喚された、らしいんだ」

「………………あ?」

「……だから、私は、いざとなったら、あの人の誓約を守らなければならないんだ」

要領を得ない、という顔で、バノッサがアシュタルを見る。

「……召喚獣は、誓約した者に反する行動を行うと、その反動が来る。それを無意識に回避しようとするが故に、従いたくもないことに従うこととなる」

「……反動っていうのは」

「俺はその身で感じたことはない。だが……」

チラ、とアシュタルが私を見た。
私は私で、アシュタルの言葉に、あの激痛を思い出して、冷や汗をかいていた。

「……聞いた話では、全身を切り裂くような激痛が、まず襲うらしい。そして、術者が強ければ……最期には精神崩壊を起こして、術者の傀儡となる」

バノッサが、驚いたように私を見る。
私は、黙ってその視線から目をそらした。

「…………他に、言うことはないのか?まだ、隠してることは」

バノッサが、まっすぐ見つめてくる。
怖いほどに、まっすぐに。真剣に。
その視線から逃れたくて、へらり、と笑って見せた。

「…………私、さ……あいつの命令で…………バノッサや、カノン……ハヤトたちを…………」

言うのがつらかった。
口に出したら、それは、取り消せないとわかっていたから。

「…………殺すかもしれない、んだって」

唇をかみ締めた。
手をぎゅっと握り締めた。
それでも、何も変わることはなくて。
沈黙が、つらかった。

「………………そのせいで、倒れたりしてたのか?」

「え?」

「昨日、ずっと部屋で寝てたのも、そのせいなのか?」

「あ…………うん」

「気を失うまで、抵抗してたからな」

「あぅ……アシュタルさん……だって〜…………」

「………………居候」

「はい!?」

いきなり声をかけられたから、驚いて声が裏返ってしまった。

「…………オマエ、バカか?

「………………はい?」

イキナリ、バカとはなんですか?
アシュタルにもバカバカ言われるし。
今日は、バカ日和ですね!!!(怒)

「…………このオレ様が、オマエに殺されるわけねーだろ。……バカかオマエ。お前が、万が一にもオレ様を襲ってきたら、テメェの目が覚めるまで、戦ってやるよ」

……………………まいりました。
呆れながらも、バノッサのその一言で心が軽くなったのは確かで。
『殺す』でも『殺される』でもなく、ただ『戦ってやる』と。
その一言で。

「へへ…………ありがと」

笑うことが、できた。

「オラ、帰るぞ、さっさと」

「は〜い。………………アシュタル、戻っていいよ」

「あぁ…………また、だな?」

「え?」

「昨日みたいに、『さよなら』はなしだぞ?」

「…………うん。また、ね?」

満足そうに、アシュタルは消えていった。




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