「着てくださいよ〜」 カノンのニッコリ笑顔にくらくらするが、それ以前に理性が私を引き留める。 「絶対イヤ!!」 そんなミニスカートなんてはける足は持ち合わせておりません!!! Scene.17 覚醒。 「なんでですか?せっかくリプレさんが作ってくださったのに」 「だ、だだだ、だってそのスカート、丈が異様に短いんだもん!!」 「別に問題ないじゃないですか」 「大有りだよ!あいにく、ナツミやアヤみたいにキレイな足は持ち合わせていない!」 「でも、さん、ずっとズボンばっかりじゃないですか。たまには……」 「いい!別にいい!!」 「そんなこと言わずに……」 ズズイ、と顔を近づけられたので、思わず後ろに退く。そこへ畳み掛けるように、カノンが服を押し付ける。 ヤバイ。 こんな顔のカノンに勝てるわけがない。 はぁ……と私はため息を1つつくと。 「……バノッサには内緒ね」 と呟いて、服を受け取った。 そして、そのまま自分の部屋へ向かう。 カノンが、後ろで『待ってますからね〜』と言っていたのを、私は忘れない。 まったく…… グレイのプリーツスカートに、あきらかに前ボタンが閉まらない短い上着、インナーは黒のタンクトップ。 …………あぁ。 コスプレ以外の何者にも見えない(泣) 今まで、なんとか日本人スタイルを保ってきたというのに。 ……とうとう仲間入りか←ギザギザ軍団の 着方がわからなくてちょっと苦労したけど、なんとか着用完了。 鏡で見たけど……やっぱりコスプレ。 こーゆーのって、似合う人と似合わない人がいると思うのー……。 相当の覚悟を決めて、ドアを開ける。 と、目の前にはカノンが。 「…………わぁ!やっぱりよく似合います!」 「(ここで何してたんだ……?)そ、そう?」 「早速バノッサさんにも……」 「ちょっと待て」 きびすを返したカノンの肩をガッチリ掴む。 こんな格好(主にスカートにかかる)をバノッサに見られた日には……! 頭に浮かぶのは、意地の悪い笑み。 「バノッサはやめてバノッサはやめてバノッサはやめ……」 「……くすくす……バノッサさんは朝から出かけてますよ。忘れてたんですか?……あ、脱いじゃダメですよ?」 ニッコリ笑ってこちらを向いたカノンの笑顔が…………とっても怖かった。 「…………出かけてくるね?」 「くれぐれも、バノッサさんに見つからないようにしてくださいね?」 本気だか冗談だかわからないカノンの言葉を、頭の中で反芻させながら私は外へ出た。 …………だって、家に居たらいつ帰ってくるかわからないからね、あの美白帝王は。 ぷらぷらと町を歩く。 この格好で釣りに行くのもな……と、釣竿はおいてきた。 だから、持っているものは、少しのお金と、バノッサからのプレゼントのネックレス。 アシュタルの石はあんまり目立たないように(前回で学習)、ベルトにくくりつけた。 今日は人が多い。 思うように前に進めないほど、人が多かった。 人の間を掻き分けるようにして、前へ進む。なにをするわけでもないけど、ただ歩きたかった。 「最近、ダメだなぁ……」 ぽそりとつぶやいた言葉は、誰にも聞こえていないだろう。 ふと、立ち止まって周囲を見渡す。 いつもと変わらない町。店。人。 でも、どこか遠くに感じて。 この間から、ずっとこの感じが抜けない。 バノッサと誓約者たちを見てから。 私は、彼らとは違う―――『異分子』と認識してしまったあのときから。 これから起こることを知っている、未来を知る私。 言うなれば、これから1年後に起こることも知っているのだ。 反則の存在。 だから、考えるようになった。 …………私は、一体何のためにここに存在しているのだろうか。 ただの傍観者? ……違う。すでに、私は物語に影響を及ぼしている。 では、ズレてしまった物語を、修正させるために居るのだろうか。 ……いや、1度逸れた軌道は、私1人の力でどうにかなるものじゃない。 それに、私がいることでズレてしまった、という可能性も否定できない。 ならば、私は何のためにいるのか。 結局、最初に戻ってしまう。 はぁ、とため息をついた。 「あれ。……しまった。工場区まで来ちゃったか」 ぼんやりと歩くうちに、工場区まで来てしまったらしい。 くるり、と来た方向へ体を反転させる。 ―――時が、止まった。 次に私の細胞が活動し始めるのに、たっぷり3秒はかかったと思う。 「……オルドレイク…………!」 「……ふっ……やはり、貴様か」 「貴様って言うな!エラッソーに!(いや、実際偉いんだろうけどさ)」 「今日は、女らしい格好なのだな」 「うーるさぁい!!!こっちだって恥ずかしいんだ!!!」 あぁ、やっぱりスカートなんてはいてこなきゃよかった!! そして、無造作に突き出された腕。 「ガルマザリア!」 「うっぎゃぁ〜〜〜!!!ふざけんな、このクソ後退ハゲオヤジ!ツェリーヌはどうしたぁ〜〜〜!!!」 ピタリ、とオルドレイクの手に集まった気配が消える。 ……あら、もしかして、私言っちゃいけないこと言いました?(汗) 「……ツェリーヌの存在を、なぜお前が知っている」 3やったもん。私。 ……忘れられんよ『控えなさい、下等なるケダモノどもよ』は。 しかも、オープニングの注意でツェリーヌ『すみません、失礼な夫で』って言ってるからには、ツェリーヌの権力は相当強いと見た! 「ゆ、有名だもん!……アシュタル!」 ブゥン、と音がして私の前に人型が形作られる。 「……お前は……もうちょっと早く呼び出せんのか」 「ごめん……でも、今回は倒れる前に呼び出したからさ」 二ッと笑って、アシュタルの背後から顔を覗かせる。 オルドレイクと、目が合った。 瞬間―――ビリッ、と体に衝撃が走る。 なにをされたわけでもない。 ただ目が合っただけなのに。 言いようのない感覚が体を包む。 そして、じわりじわりと……痛みが体を蝕み、激痛へと変化した。 「う…ぁ……あ…あ、あぁぁ!!!」 体をむしりとられていくような激痛。 痛くて痛くて、息も出来ない。 一体、なにが起こったんだ、私の体! 「!?」 突然崩れ落ちた私を、アシュタルが慌てて起こす。 「くく……やはりな……」 ギッとアシュタルが、オルドレイクを睨んだのが見えた。 「何をした、貴様!」 「私は何もしていない……ただ、自分の呼んだ召喚獣を少し強制的に従わせようとしただけだ」 「!?」 「…………もともと、魔王召喚の最高責任者に子供たちを選んだのは、もしものときのための保険だ。私自身が死んでは、次の世界は成り立たないからな……そして、もう1つの保険、それがお前だ」 「ほ……けん?」 引き裂かれるような激痛で、何度も意識を飛ばしそうになったが、どこかで気を失ってはいけない、と叫んでいる自分がいた。 「……魔王の依り代が正しく召喚されなかった時、召喚しても使い物にならなかったとき、召喚時に死んでいたとき…………処分するためには、それなりの強さの召喚獣が必要になる。召喚獣は召喚師の強さに比例するからな……あらゆる場合に備えて、私が自ら召喚したのが、お前だ」 「何を言っている、貴様……」 アシュタルの手が、震えているのが見えた。 「魔王の依り代は正しく召喚された。しかし、力は強大だが、私の思惑通りには動いては居ない。……もはや、奴らは無用だ。そう、最初からお前が依り代となればよかったのだ」 「な……にを……」 言っているのか、この男は。 「お前は魔王の依り代。……そして、いらぬ無用の物を、処分するために呼ばれた。……わかっているだろう、召喚獣は、召喚師に逆らうことは出来ない。……お前は、あの誓約者どもを殺すのだ!」 イヤだ。ハヤトたちを殺すなんて、できるわけがない。 でも、この抗えない激痛から解放されるには、それしか方法がない。 細胞が殺しに行け、と叫んでいる。 ―――心ができるわけないと、絶叫している。 「……手始めに……貴様の近くに居る、できそこない……我が息子を排除してもらおうか」 できそこない? 息子? それは…… 「バノッサの……ことか……!」 ほぅ、とオルドレイクが目を細めた。 「よくわかったな。……元々、計画のうちだ。お前には、無用のものを処分させる予定だった。そこに依り代というおまけがついただけの話だ」 それじゃぁ、私は…………。 「バノッサたちを……殺すために、召喚されたってこと……?」 ニヤリ、とオルドレイクが笑うのが見えた。 瞬間、頭が真っ白になる。 「さぁ、殺せ!殺して来い!!」 「う、が……ぁあ……!」 締め付けるような頭の痛み。 まるで自分の体じゃないかのように、自分の意志で体を動かす事が出来ない。 ギリ、と唇をかみ締めた。 血の味が口に広がる。 「冗談……やめてよ…………」 私が呼ばれた理由が。 そんなものだったなんて。 ……大切な人を、殺すためだったなんて。 「ふざけ……ないでよ……!」 激痛の中に何かが見える。 漆黒の闇の中に輝く遠くの星のように、小さく輝くもの。 ひどく懐かしくて、そして―――悲しみを含んでいる。 小さいが、確かな力を持った光。 『―――使え』 頭の片隅で声がした。 ゆらり、と立つ。 激痛が和らいでいた。 カァッと目の奥が熱くなる。 オルドレイクがナイフを出すのが見えた。 無意識に、その手に向かって力を放つ。 バチンッと音がしたと思うと、オルドレイクの手からナイフが零れ落ちた。 痛みはなくなっていた。 ただ、溢れてくる力を抑え切れなくて。 意識を、手放した。 意識を失ったを、アシュタルは抱きとめる。 オルドレイクが落としたナイフを拾った。 「く、くく…………」 「何がおかしい……!」 「ついに……ついに覚醒した。この強大な魔力!四つの世界のどこにも属していない、だが、他のどの世界よりも強大な力!覚醒して間もないというのに……く、くく……どうだ、アシュタルよ。得体も知れないモノ―――魔王に近しいモノに召喚されるというのは」 「…………素性がどうであれ、俺を召喚したのは、紛れもないコイツだ。なんであろうが……関係はない」 「つまり、今のが魔王級の力と認めるわけか」 「…………オルドレイクよ……」 片手でを支えて、アシュタルは右手を突き出した。 「……俺が魔力を解き放つ前にさっさと立ち去れ。容赦はせんぞ」 「沈黙は、肯定なり……か。……今、魔力を使わないのは、介抱のためか?」 「容赦はしないといった」 ポウ、と小さい―――だが、魔力を凝縮している高密度の光の玉が出現する。 「ふっ……まぁいい。今日のところは、ここで立ち去ろう。……だが、いずれはまた私のところへ帰ってくる。……それが、召喚獣の定めだ。たとえ、魔王であろうと、な」 ふわりと風がオルドレイクを包んで、その姿を消し去った。 NEXT |