「いってきま〜す!」 のんきな声が聞こえてくる。 それを聞いて、少し経ったあと。 俺は愛用の剣2本を持って、外へ出た。 Scene.13 臨時協定。 いつもは北スラムから繁華街にかけてしか行動しないが、今日は別だ。 まっすぐ街の外へ向かって、繁華街を歩いていく。 胸元には、銀のチョーカー。 …………いつの間にか、自分に影響を及ぼしている少女がくれたモノ。 チャラリ、と指でそれを弄ぶ。 冷たいはずの金属が、なぜか暖かく感じた。 「………………チッ」 自分らしくない、と思って、指をはずす。 そこで、前方から見慣れた人物が歩いてくることに気づいた。 「「「「あ」」」」 「…………よぉ、はぐれ野郎ども」 気に食わない、奴ら。それが束になって4人で歩いていて。 武装しているところを見ると、どこかへ行くらしい。 「バノッサじゃん。どこ行くの〜?」 「あァ?テメェらには関係ねェ…………」 そこまで言ってから、気づく。 これから行おうとしていることは、戦える人数が多いほうが、効率がいい。 「…………おい、テメェら、暇か?」 「え?どうしたんだよ、バノッサ」 「……金、稼ぐ気ねェか?」 ポカン、とした4人。 バノッサは、ニヤリと笑って見せた。 「…………そこの平原で、はぐれ召喚獣が出る。どういうわけだか、奴らは金を溜め込んでやがるし、うまくいけば装備品や、 召喚石も手に入る。……オレ様1人で行こうと思っていたが、人数が多いに越したことはねぇ。金は山分けだ。……どうだ?」 「…………それは、人数分、ちゃんともらえるんだろうな?」 ニコニコとトウヤが笑いながら話しかける。 彼の脳内では、パチパチとそろばんが打たれているか、もしくは電卓が高速でたたかれているかのどちらかであろう。 「…………そいつぁ、出来高計算だな。お互い倒した分が取り分だ。どうだ?」 「…………いいお話ですわね。まいりませんか?」 「アヤ?」 「私たちが、フラットのみなさんにお返しをしたいと思っていたのはありますし、今日も、はぐれ召喚獣と戦って、お金を得てこようとしていたじゃないですか。それでしたら、バノッサさんが加わってくださったほうが、何倍も有利な気がしますが」 「…………うん!そうだね!じゃ、一緒にいこうっかな」 「ナツミ、アヤ…………おい、ハヤト?」 「俺も賛成。トウヤは?」 「反対すると思うか?」 「…………決定だな」 かくして、ここに一時、臨時協定が結ばれた(笑) ((((ば、バノッサって…………)))) 「「「「こんな強かったんだ…………」」」」 「あァ?」 剣についた変な液体を布でぬぐいながら、バノッサは振り返った。 ぽかーん、と自分を見つめる『誓約者』たちを尻目に、地面に散らばる石や金を拾い始める。 それを見て、他の4人も動き始めた。 「結局、バノッサが倒したのは、15体(しかも、ほとんど1撃)…………俺たち4人で倒したのが20体か…………」 拾った金を、そのようにわけて、袋に詰める。 結構な重さになった。 「…………なぁ、バノッサってさ、何に使うんだ?その金」 「…………生活費とかに決まってんだろ」 「ふ〜ん…………カツアゲとかじゃなかったんだ」 「したら、怒る奴がいやがるからな」 あぁ、と誓約者たちは頷いた。 笑顔で冷静に怒る少年と、感情を爆発させて怒る少女が容易に想像できたからだ。 「じゃあな。オレ様は帰る」 踵を返して、さっさと街へ向かう。 結局、ハヤトたちもバノッサについていくことにした。 「…………おい」 プルプルと体を震わせるバノッサ。 「……なんでテメェらが一緒にいるんだよ!!!」 「だって、バノッサが買い物してるんだもん。しかも、アクセサリー。…………何買うの?」 「テメェには関係ねェだろ!!…………おい、オヤジ。あっちのペンダントも見せてくれ」 「…………バノッサ?それ、女物だぞ?」 「…………わかってるんだよ、んなこたァ。…………その、指輪も」 いろいろと装飾品を見て回るバノッサに、4人が4人とも唖然とした。 そして、アヤがポン、と手をうつ。 「あぁ、へのプレゼントですね?」 ピクリ、とバノッサの指が動いたが、それ以上の動きはなし。 答えは、それで充分だった。 ナツミが、なぁんだ、そっかー、と嫌な笑いを浮かべた。 「そのお金を稼いでたんだ〜。…………バノッサも可愛いトコあんじゃん♪」 「うるせェ!!」 「あ、ねぇねぇ、あのペンダント、可愛くない?」 「あ?」 バノッサはナツミに言われた方向のペンダントを見る。 そんな2人を後ろから見ながら、トウヤはふと視線を感じてあたりをみた。 「…………あれ?」 人影の中に、こちらを伺うような目。 (じゃないか) 声をかけようと、そちらに方向転換をすると。 少しだけ。 少しだけ悲しそうな表情をしたに、トウヤは動けなくなった。 ゆっくりと。 ゆっくりと立ち去る。 いつも元気な少女の後姿が。 ……なぜか、小さく、透けて見えた。 「うるせェ!」 この声は…………。 聞きなれている怒鳴り声に、自然と足が速まる。 今日は大漁だったので、早めにアルク川を出た、そんな帰り道。 聞きなれた声に嬉しくなって、声の主を探す。 装飾品を売っている店の前に、白い頭を発見して、声を出そうとした。 「あのペンダントも可愛くない?」 聞こえた声に、ふと動きが止まった。 それに答えるように、動く白い頭。 よくよく見てみれば、見慣れた顔が4つ。白を囲むようにしている。 ドクン、と心臓が鳴った。 騒いでいる5人に、確かな壁を感じた。 自分が、ここにいないような―――そんな錯覚。 彼らとは違うんだ、と思った。 ―――異分子。 そう、自分は異分子なんだ、と思い知らされる。 未来を知るもの。 行く末を知る―――本来なら、存在し得ないもの。 彼らは、この世界に生きる『未来を作る』者で。 …………私は、それを『知っている』者で。 …………いてはいけない存在。 結局声をかけることはできず。 そっとその場を、立ち去るだけで精いっぱいだった。 ぼんやりと、繁華街を歩く。 魚の入った袋が、やけに重たく感じる。 (あ〜ぁ…………なんなんだろ) 先ほどから、何回ついてるかわからないため息を、ゆっくり吐いた。 思いがけずに、のしかかる負の感情。 思い知らされた。 自分の、立場を。 ―――私の居場所は、はたしてこの世界にあるのだろうか。 どうして呼ばれたのかすら、未だにわからない。 私が『知っている』ものだからかもしれないけれど。 彼ら5人(バノッサを含めて)と私との間に確かに壁を感じて。 ……バノッサの隣にいられない自分に、なぜだかすごくショックを受けた。 自分の居場所が、なくなったような感じ。 自分の存在が、酷く曖昧に思えた。 「…………なんだかなぁ」 「…………オマエ、オプテュスのメンバーか?」 「へ?」 振り返った先にいるのは、男。 「……居候だけど?」 瞬間。 腹に、鈍い痛みを感じて意識を飛ばした。 NEXT |